「それで・・・あなたはどこから現れたわけ?」
船室の中に設けられたテーブル席に腰をかけて
マリアはアレンに尋ねた。
カインは調理室にいるため、ここにいない。
「どこって、大灯台だよ。」
「そんな事は分かってるわ。
いきなり空から飛んで現れたけど、どこに行ってたの?って
聞いているの。」
大灯台でアレンはカインやマリアとはぐれてしまった。
しかし、はぐれたと思ったら、急に空を飛んで現れたのだ。
「ああ・・爺さん追いかけてたんだけど、
結局見失ってさー。そしたらまた人がいたんだよ。」
「人?魔物ではなくて?」
7階にいた老人が魔物だったのだ。
他にも魔物が化けていてもおかしくない。
「多分、こっちは本当に人間だと思うけど。」
「どうしてそう思うの?」
「怪我してたからな。」
「なるほど。」
巧妙に人間に化けたとしても、
傷までつけることはしないだろう。
「大灯台の最上階ってすげーー見晴らしが良いんだ。」
「?・・・そうなの?」
「ハーゴンがいるロンダルキアの山も見えたぜ。」
「本当に!?」
「ああ、すげーでっかい山に囲まれていた。
お前らも連れて行けば良かった。」
笑みを浮かべながらアレンは言った。
「そんで、山を見てたら下からどんぱち聞こえてきたんでな。
風のマントも付けてるし、飛び降りたって訳だ。」
「そういうことだったのね。分かったわ。
無茶するわねえ。下まで降りちゃったらどうしてたのよ。」
「ははは。
つーか、お前らってさ2人にしてると危なっかしいんだよなあ。」
「何よ。それ?」
「実際、やられてたじゃん。
まさかあんな状況と思わなかったから・・びっくりしたけど。」
「良いタイミングで来てくれたわよね。助けてくれて、ありがとう。」
颯爽と現れて、炎を切り裂いたアレンは格好良かった。
「いや・・別に。
でもさ、結局カインがとどめさしたんで、
俺って行かなくても良かったかもしれねえよな。」
アレンは自嘲気味に言った。
「それは・・・どうかしらねえ?
カインはアレンが来たから、ああやって戦えたのかなあって。」
「??どういう意味だ?」
実際アレンが来て3人になってから
カインは戦い方が変わった。
マリアはふと、カインの言葉を思い出した。
「カインがね、アレンは万能だって。すごいって言ってたわ。」
「はあ?俺が?」
「武器なんでも使えるって。」
「ああ・・・そういう意味・・・ね
別に・・俺は長年武器持ってローレシア兵達と揉まれてたからな。」
自分には武器しか取り柄が無いのだからと
アレンは手を振りながら言った。
「ロトの剣だってアレンが持ったほうが良いのに、
自分に渡したって。」
「・・・・・・・・」
今度は苦々しい表情になった。
アレンははぁっとため息をついて立ち上がった。
「アレン?」
「なーんでそうなるのかなーー。」
「?」
「それ言うなら・・・あいつだろ」
聞こえないくらいの小さい声でぼそっとアレンはぼやいた。
「え?」
「それより!俺も聞きたいことがあるんだ。」
アレンはテーブルを叩いて、話題を変えた。
「どうしたの?アレン。」
「ラダトームでさ、変な爺さんが言ってたろ?
なんかカインに変なこと。
使うだの使わないだの。」
「あ、ああ・・・あったわね。」
老人がカインが何かを見つけてきたのだと言い
それをあわててカインは使わないと明言していたが
あの時の様子はちょっと普通ではなかった。
「あれは何だ。何の話だ。」
「・・・・。」
「カインはラダトーム城の書庫では何も魔法を
身につけられなかったって言ってたけど、
本当なのか?」
「・・・・・。」
沈黙するばかりのマリアにアレンも痺れを切らした。
「なんか、言えよ。」
「ごめんなさい。私もはっきりと分からないの。」
「そうなのか?一緒に書庫に行ってたじゃないか。」
「・・・・でも、そうね・・・。
私も書庫にいたときからおかしいと思ったの。
カインは何かに苦しんだ様子だった。」
「何に。」
「ごめんなさい。はっきりと分からないの。
また行くことがあれば、私も調べてみるわ。
ただ・・・あのとき・・・・・・。」
マリアが記憶を遡って思い出していたとき、
急に背後にガタっと音がして人の気配を感じた。
あわてて振り向くと、料理を持って現れたカインであった。
「何?喧嘩してるの?2人で・・。」
カインは笑っていた。先ほどの話は聞かれてなかったかと
2人は息をついた。
「あ・・・、おお。飯か。」
「ありがとう、カイン。」
そういえばカインはずっと昼ごはんを作ってくるといって
調理室に引っ込んでいたのだ。
「僕さー思うんだよね。結局・・さあ・・。」
目線を伏せながら話すカインに2人はギクリとした。
「何・・がだ・・?」
そんな2人にカインが話したことは、全く考えても話だった。
「結局のところ、小麦粉積み込みすぎなんだよ。この船。」
「は??え・・・?・・・こむ・・?え・・・・?」
「どうしたの?カイン?小麦粉・・?」
唐突な話に全く意味が分からない2人。
「そう!そうなんだ。使えども使えども小麦粉まだまだいーっぱいあるんだ。。
だから、もう飽きたかもしれないけど、ホワイトソース大量に作ったんで、
今日はグラタンー。」
カインはテーブルに熱々のグラタン皿を並べていった。
「・・・・・・・」
「。。。。。」
沈黙している2人を見て、カインはあわてた。
「あれ・・!?やっぱり嫌だった!?
昨日もドリアだったし、飽きた!?」
本気で心配そうな顔をするカインにアレンは呆れて笑った。
「いーよ。何でも食うよ。」
マリアも笑っていた。
「ええ、いつも本当にありがとう。何でも喜んで頂くわ。」
2人のその言葉にカインはほっと安心した。
「良かったー。ごめんねー。ありがとう。
じゃあ夜もまだ小麦粉余ってるし、シチューにしていい?」
「おーーー。この俺に二言はねえよ。何でも食う。
ってそれはお前が食いたいだけじゃね?」
「あはは。そうかもねえ。」
そう言って3人は笑いあった。
お皿を3人に配り、あと一つあまっている。
航海士ミゲルの分だ。
「ミゲルどこだろ?」
「甲板じゃね?」
「じゃあ、僕見てくる。」
探しに行こうとしたところ、
カインが外に出るよりも先に、勢いよくバン!!と扉が開かれた。
「わ!」
「あ、スイマセン!」
慌てて頭を下げたミゲルは興奮気味に叫んだ。
「兄ちゃん達!!知ってますよね!ルプガナの沈んだ海の財宝のこと!!!」
3人は顔を見合わせた。ルプガナには少し滞在しただけなので
聞いたことは無かった。
「いや、わりー。何の話?」
「知らねーんすか!?
ルプガナの豪商が、船に積み込んだ金銀財宝が
ある嵐の夜に転覆し、海の底に沈んだって話だ。」
「へーー。そんで豪商は死んだのか?」
「いや、豪商はボートに乗り換えて無事だったんだ。」
「あ・・・そう。それで、それがどうしたんだ?」
アレン達には話が見えない。
「んもう!鈍いなあ、兄ちゃんは。」
「あ?」
なんで、鈍いとか言われなきゃならんのだ・・とアレンは思いつつ
続きを促した。
「見つけたんだ!!その財宝がこの付近に沈んでいる!!!」
+++
甲板から海を覗き込みながら、
背後にアレンは3人の期待の眼差しを感じた。
「アレンー頑張ってねー。」
「気をつけてね。アレン。」
「兄ちゃん頑張れ!!」
口々に3人はアレンを応援する。
「ちょっと、待て。なんで俺だけ?」
ミゲルの言うとおり、
沈んだ船のようなものが見えた
アレンはとりあえず潜ってみようかと
上着を脱ぎ捨てたのだが、誰もそれに続かないのだ。
「僕、泳ぐのは苦手なんだ。」
困ったように笑うカイン。そんな話は初めて聞いたが・・。
「人前で泳ぐにはちょっとね・・。」
確かに姫であるマリアにここで脱いで海に飛び込めと言うのはひどい話だ。
「船の操縦誤って兄ちゃんを引いちまったら悪いからな。」
それは困る。
「分かったよ。俺が行って来る。
何か異常があれば頼んだからな。」
「オッケー。気をつけて!アレン!」
アレンは上半身裸になると、思い切り良く海に飛び込んだ。
ローレシアの兵学では水練もそれなりに重視されているので
アレンは泳ぎも達者であった。
一気に素潜りして泳いでいくと
沈んだ船が見えてきた。
宝箱もいくつかあった。
アレンが無理やりこじ開けてみると
中には金銀のネックレスなど貴金属などがあった。
あわてて水面に浮上してアレンは船の仲間に叫んだ。
「あったぞーー!!
引き上げるから、網かなんか投げろーー!!」
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「分かった〜。」
カインは用意しておいた網を海へ投げ捨てた。
アレンはその中に宝箱をいくつか、くくり付けた。
網を引き上げて確認すると
確かに宝箱にはルプガナのものらしく印が刻まれている。
「すげーー!!これマジだ!マジで沈んだ財宝だ。」
ミゲルは興奮して宝物を眺めている。
「兄ちゃーん!!これでオッケーだ!!上がってきてくれ!」
ミゲルはまだ海にいるアレンに叫んで上がるように告げた。
アレンはどうしようかと思ったが、
沈んだ船にはまだ宝があるかもしれない。
せっかくなのでちゃんと調べてみようと思った。
「もうちょっと見てくる!」
それだけ言うとアレンはまたもぐってしまった。
「ア、アレン!?もう良いよーー!」
カインがそう叫んでも、潜っていったアレンには聞こえていないようだった。
アレンが上がってくるだろうと思い、
マリアは奥からタオルを何枚か持ってきた。
だが、アレンの様子はまだ見えなかった。
「あら?アレンは?」
「まだ調べてくるって。」
「え・・?」
トヘロスをしているとは言えこの海は安全な海ではない。
魔物も出る。
トヘロスをした上で魔物が出るとしたら
その魔物はかなりレベルが高いと言える。
マリアは嫌な気配を感じた。
沈む船を探索するアレンであったが、意外にも奥に行くほど
何も宝がなくなっていった。
偶然なのか、それとも奥には何かあるのか・・
アレンは慎重に、神経を研ぎ澄まして泳いで行った。
しかし・・・今のアレンは丸腰である。
もし魔物が潜んでいたとしたら、余りにも危険である。
宝物は少なからず引き上げられたのだ。
引き返そうか・・とアレンが思ったときのことだった。
ぬうっと怪しい白い触手が伸びてきた。
『え・・・!!何だこれ!!?』
あわてて避けようとしたアレンであったが、水中では素早い動きができない。
足を捕らえられた。
力づくでそれを外そうとしたが、触手の締め付ける力が強い。
『なんなんだよ、こいつ!!』
あわてて左右を見渡すと、触手は一本ではなかった。
『な・・・なんだ・・・!?1・2・3・・・4・・・5・・・・』
視界に入る触手だけで5本あった。
そして、目の前にその触手の目があった。
『こ、これ・・・やばいぞ・・・!!』
その姿は・・・完全に想像を上回る巨体であった。
「アレン・・・上がってこないよ・・・」
先ほどはすぐに水面に上がってきたのに、
今度はいくら待っても上がってこない。
船で待つ3人にも、さすがにおかしいと思い始めた。
「何かあったのかしら・・」
「アレンーー!!もう良いよ!上がってきてよ!!」
いくら叫べどもアレンの返事がなかった。
さーっと蒼白になるとカインはあわてて上着を脱ぎ始めた。
「ぼ、僕、探してくる!!」
「ちょっと待って、カイン!」
「どうして止めるの!?アレン魔物に会ったのかもしれない。
アレン武器も持ってないんだよ!?」
「あなたが海に飛び込んでも、魔物と戦えるの!?
水中に魔物が出たとしたら、まずそれを水面におびき寄せなきゃ
戦えないわ。」
確かにマリアの言うとおりだ。
泳ぎの苦手な自分が水中戦を挑んだ所で勝ち目は薄い。
「じゃあ・・どうするのさ?」
「こうよ!!」
マリアは水面に向かってバギを唱えた。
バギの生み出すかまいたちは水中にも及んだ。
沈んだ船の破片が飛び散り、
そして巨大な魔物がその姿を現した。
「な、なんなんだ・・!?あれ!!!」
巨大な魔物は白い身体をして、
長い足が8本あった。
「あ・・・あれは大王イカじゃねえか!!」
ミゲルは叫んだ。船乗り達の天敵、大王イカ。
その魔物に魅入られると、船はその長い触手に巻きつかれて
水中にひきづられて遭難すると言われる。
どうやらルプガナの豪商の船も運悪くこの大王イカに
気に入られてしまい、遭難したようだ。
そして・・・触手の先には捕らえられたアレンの姿が見えた。
- 続く -
2010/12/01
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