サマルトリア 8


あの激しい戦いから、一夜明けて翌日
サマルトリアは穏やかながらも、賑やかな朝を迎えていた。





アレンは昨日戦いを終えて、
サマルトリア王に挨拶に向かい、そのまま旅に出るつもりであった。

が、マイから唐突に歓迎のパーティを開くのだと聞かされて
是非出てくれといわれたのだった。

しかし仮にも国を挙げてのパーティ。
他国の王子と王女が参加するというのに、
マリアは何も服装を持っていなかった。

そこでマイが服を貸そうということになったのだ。

マイはすっかり元気になり、
何事もなかったかのように城の中を上から下に走り回っていた。


「マリアお姉さまなら、きっとこれとか似合うと思うの。」

マイはどこからか一着の服を取り出した。
サマルトリアの明るい国柄が表れている明るいオレンジ色のドレスだった。

「こ、こんな素敵なドレスを着ても良いのかしら?」

「ええ、お姉さまなら何を着ても似合うと思うけれど、
 よかったら着て下さい。私の服だとお姉さまには合わないもの。」

そういうマイはふわふわとした可愛らしいドレスに着替えていた。


「や、やっぱり申し訳ないわ。
 せっかくカインが帰ってきたので歓迎のパーティは分かるけれども
 私なんかが参加したら、おかしいもの。」

マリアには、
いきなり他所から現れて、ドレスを借りてまで、
パーティに出ようとするのはおこがましい事だと思われた。

「そんなことないです!
 お兄ちゃんだって、アレン様とマリア様が喜ぶようにって
 いっぱいメニュー考えたんだから。」

「そうなの?そういえば、そのカインはどこへ行ったのかしら?」

マイは目を覚ましたとき、兄が目を真っ赤にさせながら
抱きしめてくれたことを思い出した。
中々感激屋の兄だな、と思ったが、今朝はその姿を見ていない。



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そして、アレンも同様に着せ替え人形のように
侍従たちにあれやこれやと衣装換えをさせられていた。

「もう、勘弁してくれよー。何でも良いからさあ。」

筋肉質のアレンに似合う服装がないのか、
何度も着せ掛けさせられていた。

げっそりしながら文句を言うと、侍従は慌てて
「機嫌を損ねては大変」と思ってしまったのか、
服は着ていた物に決まってしまった。

結局、何かボンボンのついた、いかにも柔な王子様が着てそうな
服になった。百歩譲って正装だったとしても、アレンには似合わない。

「うー・・・・これサマルトリアの正装なんだろうか。
 勘弁してくれって言ったけど、これで良いんだろうか・・。」

あまり人のいない所へ行こうとして、
裏庭に回ったとき、芝生に仰向けに転がっている見慣れた姿を見つけた。

「何やってんだよ、こんなところで・・・カイン」

話しかけられたカインは眠っていたのか
驚いたように顔を向けて体を起こした。

そして数瞬後に、腹をかかえて笑い出した。

「ア、アレン・・・・っ。
 君はなんで現れるたびに僕を笑わせるの?」

「え?なんだよ?何も笑わせてねえよ。」

いきなり笑われて失敬な・・・と思ったアレンだったが、
どうやらおかしいのは服装らしい。

「そんな儀式のときの七五三みたいな正装、誰に借りたのさ?」

「だ、誰が好き好んで、こんなの着るかよ。着せ替えさせられまくって
 これになったんだよ。」

「そっかぁ。」

きっと侍従たちも、どんな衣装がアレンに似合うか悩みに悩んで
中途半端なところで着替えが終わってしまったというところだろう。

「お前はこんなところで何してるんだよ。
 妹姫はなんか走り回って忙しそうだったぜ。」

「ああ・・・うん。」

カインは何かを探すように左右を見渡した。
そしてふぅっと息をついた。

「平和になったんだね・・・良かったなあって、思ってたの。」

良かったといいつつ、どこか表情が明るくないカインを
アレンは不思議に思った。

「お前1日寝まくってたけど疲れ取れてないんじゃないの?」

アレンもそうであったが、国を賭けての戦いは心身ともに
消耗するものだ。
カインに何があったのかすべては聞いていないが、
合流したときの様子を見ても大変だったのは見て取れた。

「・・・・そうなのかも。」

「何日か休んでから旅に出るか?別に急がないし。」

アレンも戦い尽くしだったので、しばらく休んでも良いと思っていた。
が、カインはあわてたように首を振った。

「え・・?いや、駄目だよ!すぐ出ないと!!」

「なんで?」

「なんでって・・・時間がいくらでもあると思ったら、それは違うから。
 って・・いや・・・・ほら、こうしてる今だって魔物たちが、
 どこかの国を襲ってるかもしれないんだよ。」

「そりゃそうだろうけどー。変に生真面目だな。」

しかし芝生で寝てるやつに言われたくないなあとアレンはぼやいていた。

カインはまさか自分に残された時間が少ないかもしれない・・
などとは言えなかった。


「みっつけたー!お兄ちゃん見つけた〜〜!」

背後から元気な声が聞こえてきた。

「よぉ。皆お前を探してたみたいだな。」

振り返った先にいたのはドレス姿のマイとマリアだ。

「おおー。マリア珍しくドレス姿じゃねえか。」

「うわあ、マリア、すっごい綺麗だよ〜。マリアは何でも似合うけど、
 やっぱりそうしていると王女様だね。」

口々に言われ、少し照れくさそうにマリアは首をすくめた。

「二人とも、そうしていると王子様みたいよ。
 でもアレンのは何だか・・・・。」

「七五三みたいでしょ?」

「うるせって!」

アレンはカインの頭を叩いた。
叩かれたカインは笑っている。マリアも笑っていた。

そんな3人にマイは首を傾げた。

「不思議ー。お兄ちゃんたち、正真正銘の王子様と王女様だよ。
 どんな旅をしてたのか気になるなあ。」

「そりゃあ王族なんて肩書きは何の飯の足しにもならねえ
 過酷な旅だぜ、お姫さん。」

「そんな旅お兄ちゃんついていけてるの?心配だなあ。
 ねえっ、私もついて行こうかな!?」

兄が心配と言いつつも、その心はキラキラと輝かしい冒険へと
向いているマイであった。
しかしそんな妹の願いを、あっさりきっぱりカインは断ち切った。

「だーめ。駄目だってば。何言ってるの、絶対駄目。」

「けち!って言うか、お兄ちゃん旅に出たら、出たっきりで、
 手紙の一つもよこさないもの。
 生きてるんだか、死んでるんだかわかりゃしないわ。」

「それはー・・・悪かったよ。反省してるって。これからは手紙も出すから。」

妹のおねだりを兄の威厳で断ったのだと思ったら、
今度は手厳しく指摘されて、頭を下げている。
よく分からない兄妹関係であった。

そんな二人の様子を見ながら、マリアがアレンの方を向いた。

「何?」

「アレンもそうよね。
 一度も手紙出さなかったから、クレハさん心配してたじゃない。」

「今それ関係ないだろ!」

急に何を言うのかと思い、アレンは慌てた。

「良いわね、二人とも。帰る国も待ってる人もいて・・・。」

マリアのそのつぶやきに、アレンもカインもハッと顔を見合わせた。

「ああ、ごめんなさいね。変なことを言って。
 でも・・・・、許されるなら、私も一度帰ってみたいわ。」

「え・・・ム、ムーンブルクへ?」

アレンとカインはその国が滅びていた様を確かにその目で確認していた。
帰ったところで、あそこはマリアにとって地獄だろう。

「ごめんなさい。わがままな事だと思うわ。
 行ったところで、何も見つかりもしないと分かってるわ。
 ただ、私はまだあの日以降、国に戻っていない・・・。
 あなた方の様子を見て、少し自分の故郷へ帰ってみたくなったの。」

「・・・・・・・」

「駄目かしら?」

順当に考えれば、次の行き先は、
ローレシアでロトのしるしを手に入れたので、
聖なるほこらで「ロトのかぶと」を手に入れることだろう。

でも・・・・

「駄目なわけ・・ないよ。
 じゃあ次はムーンペタを経由して、ムーンブルクへ、だね。」

誰もそのマリアのささやかな願いに反対できるはずがなかった。






その後、アレンとマリアは、開かれたパーティで
サマルトリア国の心からの歓迎を受けた。

病身の王妃も、体力こそ戻ってはいなかったが
ここ最近にはなかったほどの体調の良さで、
会場に顔を見せて、アレンとマリアを歓迎した。

あれだけ、カインを怒鳴りつけていた父王も
顔をほころばせてアレンたちを歓迎した。

王は、パーティーの料理を頬張っている
アレンに近づいて話しかけた。

「料理はお口にあいますかな?」

「あ、はい!どれも美味しいです!」

口いっぱいに食べ物を詰め込んでいたアレンは
あわててそれらを飲み込んだ。

「しかし、アレン殿はお強いのだな。
 先ほど私もあの魔物どもの残骸を見てきたが・・
 あれほどの数を倒してしまうのだから。」

「え?違います。俺が全部倒したんじゃないです。
 俺が来たときには大半がカインによって倒されていた。」

「あの子がそんな事できるはずない・・と思ってしまうのだが。
 魔法も剣も使えない子なのに。」

王のその言葉にアレンは笑った。
笑われて、王はやや憮然とした顔になった。

「あ、いや、笑ったりして失礼しました。
 王様、それは・・いつの話ですか?
 カインは今は魔法も剣も十分使えますよ。」

「私は・・あれには、旅に出ず、ここに留まってほしいと思っていた。」

「・・・・・・・・・。」

「旅に出たところで・・無駄に命を落とすと思っていた。」

「・・・・・そんなこと・・・」

「一方で私はあの子の覚悟も認めてやらねばならないと思っていた。
 葛藤の日々だったよ。」

アレンはポリポリと頬をかいた。
心配をかけているのはどこの国でも一緒らしい。

「うちの父上も同じようなことを言っていましたが、
 俺は死ぬつもりもないし、負けるつもりもありません。
 でもそれにはカインの力が必要です。
 俺たちは3人いないと駄目なんです。
 誰一人欠けずにまた帰ってきます。だから・・・。」

アレンの言葉を、王はみなまで言うなと手でさえぎった。

「あの子もいつまでも子供ではないということか。
 ありがとう。よろしく頼むよアレン殿。」





カインは少し離れたところから、
アレンと父が話をしているのを見つけて
二人が何を喋っているのか気になってしょうがなかった。

大方自分の話をしてるんだろうと予測ができたが。

「カイン。」

背後から、カインを呼ぶ声がした。
振り返るとそこにはドレス姿のマリアがいた。
王宮でドレス姿のマリアは普段と違って
一段と清楚な美しさであった。

「マリア、・・・驚いた。すっごく綺麗。」

「いやだわ。さっきも見たじゃない。」

「さっきは外で見たからかな。
 また雰囲気が違う気がするよ。」

穏やかに笑うカインに、マリアは恥ずかしそうに
下を向いた。

「そのドレスは私の若い頃のものだわ。」

そう言って、会話に参加してきたのは王妃だ。

「母さま。」

「王妃様、そうなのですか?私何も知らずに
 お借りしてしまって・・・・。」

「良いのよ。とてもよく似合っていて嬉しいわ。」
 
カインに良く似た瞳で王妃はマリアに笑いかけた。

「あ、そうか。どこかで見た服だなあって思ったら
 母さまのドレスだったんだ。」

「ありがとうございます。こんな歓迎をして頂いて
 ドレスまでお借りしてしまって。」

恐縮してお辞儀をするマリアであったが
王妃は優しく首を振った。

「とんでもないわ。私が好きでやったことよ。
 ずっと夢を見ていたのよ。皆で賑やかに・・って。」

そう言えばパーティー自体は母の希望であった。
病床にありながら、ささやかな夢であったのだろう。

「王妃様、ずっと伏せていらっしゃったと聞きました。
 お体の具合はよろしいのでしょうか?」

王妃の体を案じるマリアであったが、
それに対して王妃は明るく答えた。

「ええ!自分でも驚くほど体調が良いのよ。
 きっとあなた方が来てくれたおかげね。
 本当に嬉しいわ。」

心から嬉しそうに笑う母の姿を見て、
カインも嬉しくなって目を細めた。



「ねぇ、マリア。」

「なあに?」

「良かったら、一曲僕とおどっていただけませんか?」

「え・・・?」

そう言ってカインはマリアに手を差し伸べた。
珍しく少し紳士的な態度で、マリアは少し戸惑ったが、
その手を取った。

「ええ、喜んで。」

マリアもそのカインの手を取った。
ダンスなんて、何年ぶりだろうか。
二人とも冒険の日々ばかりで、優雅な王宮の
生活などすっかり忘れていた。

それでもさすがに小さい頃から身に着けていたものは
体の中に染み込んでいたらしい。

最初はぎこちなかったが、曲に合わせて、自然と体が動いた。

「マリア王女。」

どうも一国の王子と王女に戻ってしまったかのようで
カインはマリアをそう呼んだ。

「やだ・・・なあに、どうしたの?」

「本当に、綺麗だなあって思って。」

「ありがとう。カイン王子もかっこいいわよ。」

マリアも、カインの口調にならってそう答えた。
言われて、ぼっとカインは顔を赤くした。

「やあね。耳まで真っ赤よ。同じ事を言ったつもりなのに。」

「あ、ありがとう。」

「どういたしまして。」

マリアはくすくすと笑った。

カインにはマリアが笑う姿も、踊る姿も全て愛おしかった。

カインにとっても、城でこうやってマリアと手をつないで
ダンスを踊るなんていうことは夢のようだった。

いや、実際夢だろう。

夢が覚めれば、また死に面した日々に帰る。

カインには自分にあとどのくらいの日々が
残されているのか分からない。
まだ体はいつもどおりに動ける。
でもいつか動けなくなる日が来るかもしれない。

今日みたいな日は二度と来ない。

だからこそ、一分一秒を大事に過ごしたかった。


カインたちがダンスを終えたときに、
ふと見るとアレンとマイが賑やかに踊っていた。

「アレンとマイさんが踊っているわね。」

「踊っているというか、追いかけっこをしているというか
 あわただしい踊りだね。」

「そうねえ。」

それでも、アレンもマイもテンポは速いが
本人たちは楽しそうだった。
彼らもつかの間の時間を楽しんでいるのだろう。

踊りを終えると、アレンはこちらを見つけ、手をあげて、
カインとマリアの方へやってきた。
マイもそれについてやってきた。

「アレンとマイがダンスするなんて、不思議な光景だったよー。」

「お前らがなんか踊ってるから、妹姫に引っ張られたんだよ。」

「憧れのアレンお兄様と手をとって、踊ってもらえるなんて
 夢みたいだったわ!」

「マイ、良かったね。」

マイも楽しい時間を過ごせていたようだ。

「今度は是非剣のほうで、一度ご指南頂きたいわ!」

「はぁ!?」」

すると次は人懐っこい顔で、アレンにとんでもないことを
お願いしていた。

「何言ってるの!?」

「えへへ。いつかローレシアでいっちばん強い人が
 どれくらい強いのか、見てみたいと思っていたの。
 せっかくサマルトリアに来て戦ってくださったのに、
 私って寝てばっかりだったもの。」

なんともやんちゃな妹であった。

「はぁー。危なっかしい姫君だなあ。さすがカインの妹だよなー。」

「どういう意味さ?」

しかしアレンもまんざらでもなく嬉しそうだった。

一つ一つの会話も楽しく愛おしかった。

こんな時間が過ごせるのも、アレンとマリアが助けに来てくれたからだ。
自分を助けてくれたからだ。

「アレンも、マリアも、サマルトリアに来てくれてありがとう。
 今日はゆっくり楽しんでいってね!」



嬉しくも懐かしい夜は、賑やかに更けていった。



- 次章へ続く -

2011/07/03
▲

サマルトリア編終わりました。

最後は平和に。
穏やかな平和に満ちた日を・・・と思って
またニュアンスで物を書いてみました。

次はムーンブルクに行ってみることになりましたよ。

 
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