サマルトリア 7


「話だって・・・・・?・・僕と・・?」

カインは言われた言葉を確認しながらも
眉をひそめた。

「そうだ。言っただろう。 お前と話があると。」

バズズの答えに、ますますカインは怪訝な表情になった。
何を話すというのだ。
そもそも魔物と会話などしたこともない。

「何の用なんだ。
 僕は、早く仲間の元に戻らないといけないんだ。」

強気にそう言ったが、
バズズの機嫌を損ねて攻勢に出られたら、
今のカインに勝ち目はない。

「仲間の元・・・か。
 お前が今手にしているのは、かのロトの盾・・か。」

「・・・・・・。」

バズズの狙いは、この盾であろうかと推測した。

「なるほど。先ほどお前はロトの剣も持っていたな。
 お前がロトの血をひきし者だと言うのは間違いないようだな。
 だが、ロトの剣は今どこへ行ったのだ?」

ロトの剣はアレンに渡している。
盾だってアレンに渡すつもりだった。

「それが何か関係あるのか?」

「ない。幾分の興味があったから聞いてみただけだ。」

バズズは飄々と言ってのけた。
どうやら大してロトの装備そのものには興味がなく、
奪い取ろうと言った考えでやってきている訳ではないようだ。

「今は仲間が持っている。」

「ほう。その盾も仲間の元へ届けるつもりでいるのか。」

「・・・・・・・・・。」

さすがにカインは答えるのに躊躇した。
アレンに渡すといえば、バズズはアレンを狙うのであろうか?

バズズの意図が読めない。

「怖い顔をしているな。当たらずも遠からずか?
 いや、それならちょうど良い。」

「何が・・・。」

ロトの武器をカインではなく、他の誰かが装備することで
何がバズズにとって『ちょうど良い』なのか分からない。

「単刀直入に言ってやろう。
 お前を我々の仲間にしてやろうというのだ。」

「・・・・・は、はぁ!?何を言ってるんだ!!」

「我らの仲間に、ロトの武器や精霊ルビスの加護を受けた武具を
 手にしたものがいるのは多少やっかいだからな。
 ソレが、お前のものじゃないのだとすれば『ちょうど良い』という事だ。」

バズズの話は寝耳に水であった。
魔物たちの仲間になる?

考えただけで吐き気のする話だ。

「勝手な話をするな!!誰がお前らの仲間になんかなるものか!!」

「お前を認めてやったのだがな。
 お前が先ほど使った魔法は、中々高度な闇の魔法だ。」

その魔法とは、無意識に使ったザラキのことだろう。

「ハーゴン様も、その事実を知り、お認めになられた。
 お前を我が同胞として迎えても構わないというのだ。
 これは名誉なことではないのか?」

カインは『ハーゴン』という単語を聞いて拒絶した。
バズズの話がハーゴンの配下になるということであれば、検討する是非もない。

寸分の余地もなく、不可・・だ。

「ふ、ふざけるな!
 ハーゴンは僕らの・・マリアの一番の仇だ!
 間違ったって、仲間になんかなるものか!」

そしてカインはバズズを敵とみなして、
マリアから借りた魔導師の杖で火の玉をいくつか作った。

「い・・・っけえ!」

そして火の玉をバズズに向けると同時に槍で斬りかかった。

しかし、その槍は空を切った。

「・・・!?」

バズズの姿は目の前に見えているのに、
全く手ごたえがなかった。

「勇ましいこどだな。
 だが悪いが、この俺はここにはいない。」

「え・・!?」

「ここに見える姿は幻だ。俺を攻撃しようとしても無駄なことだ。」

どうやら目の前に見えるバズズの姿はまやかしのようだ。
そして魔法や武器を使った攻撃では倒せないようだ・・

そう分析しながらも、一方ではこの現状に納得も行った。

扉を閉め切った室内にルーラでやってくることはできないのだ。
宝物庫の中には他に気配はなかったはずで、
カインより先に来ていたとも考えられないのだ。

これは難しい奇術の類ではなく単純な事だ。

バズズは今ここにはいない。
どこか遠い場所にいる。


「空間のまやかしを作るのは我々の得意とするところ。」

バズズがそう言うと、急に辺りが真っ暗になった。

「・・・!?」

何が起こったのかと左右を見渡すと、
次にパッと辺りが明るくなった。

そして見えたのは病床に倒れている母の姿であった。
病に取り付かれ、面差しは青くやつれ、元気だったころの面影が見られない。

「よもや忘れたわけではないな。
 このサマルトリアを覆い尽くした闇を。例え、ノアを倒したところで
 この闇は晴れぬ。」

「・・・・。」

カインが息を飲むと、再び周辺は暗闇に捕らわれた。
次に見えたのはマイを守りながら魔法で戦うマリアだ。

「こちらにもいたな。重症の姫が。
 ノアが術を早めたため姫は倒れた。あと数日の命か。
 他の人間どもも、国中の覆っているまやかしも解けてみれば
 生きられて、あと数ヶ月か。」

「数ヶ月・・・?・・・救う方法は・・・・・・?」

戦ったところで、勝ったところで、
あと1年以内で皆死んでしまうとしたら、一体自分たちは
何を今必死に戦っているというのだろうか。

暗澹たる気持ちでそう尋ねたカインに対して
バズズは我が意を得たりと、にやりと笑った。

「なくはない。ハーゴン様の持つ力はノアを凌駕するからな。」

ハーゴンに助けを請えば、助けが得られるというのか。

サマルトリア国の重さと天秤にかけられるものではないが、
しかしそれだけはカインには出来ないことだった。

そして、首を横に振った。

「・・・・・ハーゴンの仲間になれば良いと言うのか・・・?
 それは、・・・・それだけはできない。」

「それは残念だ。交渉決裂か。」

そう言ってバズズは背を向けた。
カインは唇をかんだ。

本当に何も道はないのか。


・・・・・いや・・。


確かにハーゴンの仲間になんてなれない。
仲間たちを裏切ることなんてできない。

それでも、可能性が一つでもあるのなら・・・

方法があるのではないか?

「一つ確認させてくれ。
 悪魔神官を倒しても、この術が解けない訳はなんだ。
 普通、術師がいなくなれば、術は解けるだろう?」

その問いはバズズに対してしたものであった。

だが、その問いに対する答えは、
背を向けたままのバズズではなくさらに背後から聞こえた。

「聞きたいか?」

「・・・?」

その声は、若い男の声のようにも聞こえた。
明らかにバズズの声ではない、他の誰かだ。

「あの神官にこの力を貸し与えたのは私だ。」

「だ、誰だ!お前は!」

また新たなやつが現れた。カインは警戒した。

「吠えるな。いずれ分かる。
 ・・・・お前の質問に、答えてやっても良い。
 これは単純な魔法や呪文の類ではないのだ。
 言わば、『呪い』だ。
 一度発せられた呪いは、その目的を完遂するまでは消えはしない。」

そいつは淡々とそう述べた。

「・・・・・・・・。」

「分かるな?呪い自体は消えはしない。
 だが、お前の国を思う気持ちが真実のものか試すためにも・・・
 私は一つの道を授けてやらなくもない」

「・・・?どういうことだ。」

「呪いの対象を変えることは可能だ。その力は変わらぬがな。」

「え・・・・。なら、もしかして・・・!」

カインは男の声に顔を上げた。

「ほう、その顔は・・・
 ・・・良い覚悟ができているようだな。」




もし、カインの考えと、男の言う事が一致するのならば
サマルトリアは救う事ができる。

そう。

救う事が
・・・できるのだ。

カインの脳裏には、記憶の中にある
元気な母の姿や、走り回る妹の姿が浮かんだ。

次に浮かんだのは、共に戦ってきたアレンとマリアの事だ。

二人は怒るだろうか。

・・・・・怒るだろう。
呆れ果て、あるいは軽蔑し、口も聞いてくれなくなるかもしれない。


もし二人が自分を許せないなら、それは甘んじて全て受けよう。

「お前はハーゴンを倒すために旅に出たのではないか?
 ロトの・・・勇者の血を引くものとして。」

その言葉に、
カインは手に入れたばかりのロトの盾に目をやった。
アレンに渡すはずのものだ。

カインは、かつてムーンブルクの沼地で
アレンと拳をあわせて誓った日の事を思い出した。

アレンに連れて行ってくれと頼んだのは自分なのに・・・。

心の中で、カインはアレンに謝っていた。

そして、目をつぶって言った。

「ロトの血を引く勇者は・・・アレンだ。
 僕はこれをアレンに託す。アレンなら絶対やってくれる。」

アレンはきっとやってくれる。
そうすれば、マリアの願いも叶えられる。

だから、問題はない。


そう。 


例え、自分が、『途中まで』 しか 旅ができなくなったとしても。





カインは、その先を少し寂しく思いつつも、覚悟を決めたのだった。














++++







「ええい、何度も何度もっ。このやろ!」

アレンは剣を振り回しながら、
斬っては増え、斬っては増えるマドハンドと格闘を続けていた。

マリアは時折アレンの負傷を癒しながら、
時折死角に入る魔物を遠距離から魔法で追撃していた。

「カインは・・・どこまで行ったんだよ!?」

アレンはいらだちながら、先ほどから同じ質問を何度もしている。
最初のうちは「すぐ戻る」と言っていたカインの言葉を信じていたが、
こうまで遅いと心配になる。

何かあったんだろうか?

「分からないわ・・・。何かあったのなら教えてくれれば良いけれど・・・。」

そんな二人の会話に割り込んでくるやつがいる。

「お仲間の心配をしている場合ではないでしょう!?」

先ほどからアレンたちの戦いに蹴りがつかないのは、
この悪魔神官が要所要所で邪魔をし、
魔物を減らしたと思ったら、すぐさま増幅させてくるからだ。

だが、それでいてアレンたちに致命的な打撃を与えられない
理由も分かっている。
ローレシアでアレンたちを散々苦しめたイオナズンが
使えないためだ。

「お前が、実力者であるのは分かってるけど、
 決定的な決め手に欠けるぜ。魔法を封じられてるのは
 痛かったなあ。」

アレンはそう揶揄した。

その魔法封じをしたのはカインに間違いないのだが・・・
そのカインは本当にどこまで行ってしまったのか。

「ふん。これだけの永久増殖を行えるマドハンドと
 私の力さえあれば、いずれ時間の問題でお前たちは戦えなくなる。
 悲しいかな、お前たちは人間の体力しかないのだからな。」

確かに持久戦となれば、
魔法力にも体力にも限界のあるアレンたちの分が悪いのだ。

「しかも私の魔法封じはいずれ解けるからな!」

マホトーンが解ければ、悪魔神官は強力な魔法が
使えるようになってしまう。

どうしたものか・・・、そう一瞬アレンが動きを止めたとき、
背後から見慣れた槍が飛んでくるのが見えた。



「!?」



槍は悪魔神官の肩をかすめた。
傷跡から赤い血が飛び散る。

「ぐっ」

アレンは、その槍と飛んできた元を振り返った。
投げ手は、ようやく帰ってきたカインであった。

アレンはその姿に安堵して破顔し、そして怒鳴った。

「おせえ!お前、どこまで行ってたんだよ。」

「・・・ごめん。」

素直にカインは頭を下げて、アレンの元へと駆け寄ってきた。

「何を道草食ってたんだよ!?どこまで行ったのかと思ったぜ!?」

「うん。ごめん。」

アレンは妙に素直に謝るカインにやや不振に思ったが、
カインの次の言葉にかき消されてしまった。

「ほらっ、これ。盾だよ、ロトの盾。」

カインが差し出したものは、
ロトの紋章の輝くロトの盾だ。アレンが見るのはもちろん初めてだ。

「うおおお!これが・・・か!」

「はい、どうぞ。」

「触っていいのか!?って、いや、これお前の国のものだろう!?
 お前が使えば良いんじゃないのか!?」

人差し指で恐る恐る触ってみたアレンであったが、
サマルトリアの至宝をうかつに受け取るのは憚られたようだ。

「盾を装備したら、魔法の発動ができなくなるよ。
 僕は右手で武器をもって、左手は開けておきたいんだ。
 だから、これは、アレンが使ってよ。」

確かにカインは盾は使っていないのだ。
そういうことなら・・・とアレンは差し出されたその盾を受け取った。
左手に装着すると違和感なく、手の一部となったような感触だ。

「これが・・・ロトの盾・・・!」

「似合ってるよ。アレン。」

カインはそういって笑って見せた。アレンも思わず笑みがこぼれた。
そんな二人にマリアが離れたところから、叫んだ。

「カイン!ふたりとも、来て!」

「どうしたの!?」

マリアに呼ばれて、かけつけるとマリアも笑っていた。

「見て、今ベホマの効果が届いたみたいなの。
 マイさんの顔色が良くなってきたわ。」

「おお・・・そっか!よっし、ツキがこっちに回ってきたんじゃねえか!?」

マリアの言葉を聞き、アレンはカインの背中を平手で叩いた。

「本当?」

カインは、疑い深そうに、まだ眠ったままの妹の顔を覗き込んだ。
確かに、土気色だった顔色は赤みを帯びている。
呼吸も落ち着いている。

「本当に・・・・解けたんだ・・・・。」

カインは、言葉少なであったが、大きく息をついて、安堵していた。
この国の呪いは、本当に解けたのだ。

「え?何て?」

マリアはその呟きを聞いて、カインに聞きなおした。
カインは、ハッと顔をあげて何でもないと首を振った。

「よかった。変な術で魔法の効果が遅くなってたんだよ。」

「そうなの?何か・・・今『解けた』って言わなかった?」

マリアはするどく再び聞いてきたが、
あの悪魔たちとのやりとりは、カインは話すつもりはなかった。

「何でもないよ、マリア。
 それよりアレン。マドハンドの増殖に馬鹿丁寧に付き合ってたら
 何年経っても終わらないよ。」

「分かってるよ!よおし、姫も元気になった見たいだし、
 一気にいくぜえ!」

最初から、狙うべきは悪魔神官ただ一人で良かったのだ。

「うん、やろうアレン。」

「マリア、イオラで一旦あいつらの勢いをかき消してくれ。」

「分かったわ。」

「で、カインはその杖の炎であいつを惑わす。
 そんで、俺がとどめ。」

「それで、問題ないよ。」

いつものアレンの戦力のとおりだった。

まずはマリアが大きな魔法をぶち放った。

「イオラ!!!」

爆風がマドハンドの進撃を食い止め、その息の根を止める。
次に増殖させる前に、悪魔神官を倒せば良い。

カインは炎を投じながらも、投げた槍を取りに走った。
槍を拾い上げたとき、悪魔神官がやや呆然とした様子で口を開いた。

「姫の呪いが解けた・・・だと・・・・?
 そんな事が起きるわけがない!!」

カインは真実は何も答えず、皮肉げにただ言った。

「ノア、お前が死んでも残る呪いだっていうのなら、
 生きてても消えちゃう事もあるんじゃない?
 お前の存在とは無関係ないんだから・・・さ。」

「しかし、そんなことは・・・!!」

悪魔神官はまだ話を止めようとしなかったが
カインは、その顔面にいくつもの炎を投げかけた。

「悪いけど、おしゃべりはそのくらいにしてくれる?」

「くっ、小賢しい!」

一つ一つの炎は大した威力ではない。
だが一瞬悪魔神官を惑わせるには十分だろう。
これで狙い通りだった。

アレンは悪魔神官に向かって駆け出した。

「こんな炎程度で私を倒せるものか!!」

悪魔神官は受けた炎を跳ね返そうとしたが
跳ね返された炎はアレンの盾によって防がれた。

「おおー。さすがロトの盾。熱さなんてちっともかんじねえ。
 これなら炎をぶった斬るまでもなく・・・・!!」


ズシャ・・・!


「俺は敵だけを見据えて斬れば良いってことだ。」



本来であれば、炎で迎撃してくる敵に対して
アレンは特攻しつつも炎を斬るという一動作が入る。

ロトの盾を身につけている事で、それすらも不要であった。


「ぐ・・・ふっ・・・・・!」


アレンのロトの剣は、一太刀で確実に悪魔神官の体を貫いていた。



- 続く -

2011/06/28
▲

・・・と言うわけで、とりあえず次で終わりましょうね。

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