サマルトリア 6


アレンは、ボロボロになりながら
涙を流しているカインを見て驚いた。

「なに・・何泣いてるんだよ。
 そんなに傷痛いのか?マリアに治してもらえよ。」

「え・・・泣いてる・・・?」

そう言われて、カインはハッと我に返り
目を腕でぬぐった。
自分が泣いてるとは思わなかったらしい。

「ご、ごめんびっくりさせて。
 大丈夫。・・・・もう大丈夫。」

カインは自分に言い聞かせるように言った。

「来てくれて、ありがとう。アレン。
 マリアも。」

そう言って笑った。

「何言ってるんだよ。絶対行くって言っただろう?
 お前本当に大丈夫か?」

どうやら、自分たちがいない間
カインは大変なことがあったようだ。

アレンの目の前には多くの魔物が息絶えている。
これだけの魔物をカインが一人で倒したというのだろうか・・・。

だが、カインは多くを語らず、頷くだけだった。

「マリア、マイの・・妹の様子はどう・・?」

マリアは先ほどから最高回復魔法のベホマを
懸命にかけている。

背中の傷から流れ出る血が止まり、傷もふさがり、
最初は確かな効果があるように見えた。
だが、マイが意識を取り戻すことはなかった。

「おかしいわ。傷は治ったはずなのに・・。」

マリアは首をかしげた。

「怪我が深すぎたんじゃないのか?
 もう一回魔法かけたらどうだ?」

アレンはそう提案する。
マリアもそれに従おうとしたが、それをカインが止めた。

「ありがとう。大丈夫だよ。
 傷さえ治れば。」

マイは悪魔神官の奇妙な魔術により
生命力が低下している。
それに対しては先ほどカインが何度ベホイミを施しても
意味がなかった。恐らく魔法の強弱の違いがあれど
ベホマでも意味がないのだろう。

だが、その事は二人に言わなかった。

「二人が来てくれたから、きっと・・・戦える。」

そう言いながら、カインは膝に手を押し当てて、
立ち上がろうとした。
だが出血が多いためか、一瞬ふらついた。

「カイン、大丈夫!?
 あなたもすごい出血じゃない。ちょっと待って。」

マリアはふらついたカインを支えながら、
再度回復魔法を施した。
頭部や腕の傷も癒されていった。

「ごめん、ありがとうマリア。もう大丈夫。」

「・・・ええ・・。」

笑顔で礼を言うカインであったが、
その笑顔に影が見えたことがマリアは気になった。



「仲間が来た・・・という事か。」

異形の魔物バズズと悪魔神官ノアは、
カインが回復されるのを見ながらも
それを阻害することもせずに見ていた。

「人間風情が何人来ても同じこと。」

ノアはそう言って息巻いた。
確かに悪魔神官ほどの力を持った魔物の前に
通常人間が2人増えたところで何ら影響はない。

「だが、あの3人にローレシアの野望は
 破られたのだがな。」

バズズは冷静にそう指摘した。
そんな冷静なバズズにノアは少々イラついた。

「そう言うのなら!
 何故あなたは何もしないのだ!?」

「・・・・そうだな、少し、
 ほかにやることを思いついた。」

バズズはそういうと視線をノアから離した。
その視線をカインたち3人に向けた。

「ほかにやること、だと!?どこへ行くのだ?」

「この場はお前に任せよう。」

言葉少なにそれだけ言うと
バズズはどこかへと飛んでいった。



「あ、あの猿飛んで行ったぞ!
 どこへ行ったんだ!?」

アレンは飛んでいったバズズを指差して言った。

カインもその方角を目で追った。
もしや、サマルトリア城のどこか別の場所へ、
母たちがいる場所へ向かったのかと思ったが
バズズの行き先は、ここではないどこか遠くであった。

「・・・・どこへ行ったんだろう。」

心当たりはさっぱりなかった。



「まぁ良いだろ。
 敵が減ったんなら、ちょうど良いんじゃね?」

アレンはそう言うと武器を手に構えた。

そう、武器を・・・。

カインは見慣れないそのアレンの武器と構えに
目を見張った。

「え、ちょっとちょっとアレン何それ。」

「あ?これか。
 お前がロトの剣も鉄のやりも持っていくから仕方なくこれだよ。」

そういえば、カインが武器を二つとも持ってきてしまったのだった。
それで仕方なく、アレンはマリアから武器を借りたらしい。

魔導師の杖を、だ。

「ア・・アレンに杖って似合わない〜〜。」

思わずカインは笑ってしまった。

「だから!お前が武器二つとも持っていくからだろう!?」

「ご、ごめん。それじゃあさっき魔導師の杖で炎を
 起こしたのもアレンなんだね。」

「そうだよ。」

「変だと思ったんだ。魔導師の杖で『紅蓮の炎よ・・』とか
 マリア言わないもんね。」

「うるせえ、うるせえ!一回言ってみたかったんだよ!」

アレンはむきになって言い返した。
言い返すと余計カインは笑った。
そんな二人にマリアは呆れた。

「ちょっと、あなた達・・・今大変な局面じゃなかったの。」

マリアは緊張感をなくした二人に釘を刺した。

「ごめん。」

「悪い。」

だが、カインは笑ったことで肩の力が抜けた。
そしてもう一度、大丈夫だと自分に言い聞かせた。

見るとマリアは魔導師の杖の代わりに
見慣れない杖を手にしていた。

「マリア、それは?」

その杖は魔導師の杖よりも何か神々しい輝きすら秘めている。
カインはその杖を初めて見た。

「いかづちの杖よ。ローレシアの悪魔神官が持っていたの。」

「へぇ・・。」

何か特別な力を秘めていそうな杖であった。


アレンたちがそんな会話をしている間、
悪魔神官は攻撃をしかけることはしなかったが、
再びマドハンドら魔物の増殖を行っていた。

「げっ、お前ら喋ってる場合じゃないぞ。
 なんか魔物がわらわら増えてきた。」

アレンのその声にカインとマリアもはっと目を向けた。

「アレン、武器はそれで良いの!?」

「ええっと、使って良いなら剣を貸してくれよ!」

そう言われてカインはアレンにロトの剣を貸した。

アレンがロトの剣を手にしたとき、
ロトの紋章がふといつもより明るく光ったような気がした。

そしてアレンは剣を持って魔物に向かって駆け出した。

ロトの剣は一層輝きを取り戻したような切れ味であった。

「ロトの剣・・・・・・・・・・・ロトの・・・・・。」

カインはその様子を見ながら、
大事なことを思い出した。

「そうだ!アレン、金の鍵は持ってる!?」

「えー!?何、何だって!?聞こえねー!」

「鍵だよ!金の鍵ー!!」

だが、魔物と斬り合っているアレンには聞こえなかったようだ。
カインはもどかしかった。

「カイン、どうしたの?急に。鍵なんて・・。」

マリアはカインの意図を確かめるように聞いた。

「マリア、金の鍵はアレンが持っているんだよね?」

「え、ええ・・。そうよ、私ではないわ。」

「忘れてた?この国にはロトの盾があるんだよ。
 金の鍵さえあれば・・・・・・僕が取ってくるよ!」

マリアもそれを思い出して、目を見開いた。

「ロトの盾!そうね、それがあれば・・・。」

ロトの剣にロトの盾がそろえばきっと心強い味方となるだろう。
ロトの剣自体も、盾がそろう事を待っている気がした。

鉄のやりを持ち直し、カインはアレンの元へ走ろうとしたが、
少し悩んで、魔導師の杖も手にした。

「マリア、これ僕も借りていい?」

「え?・・・ええ。良いわよ。」

「ありがとう!」

そう言ってカインは杖を腰に刺して、
アレンの元へ走って行った。

そして加勢をしながらも、
アレンに金の鍵とロトの盾の話を出来たようだ。

だがマリアは解せなかった。
杖を貸すのは全く構わないのだが、
魔導師の杖の炎より、カインのベギラマの方が強力なのに
何故いまさら杖を持とうとするのか・・。

アレンはロトの盾の話を聞き、目を輝かせて
金の鍵をカインに託したようだ。

カインはそれを手にして、マリアの元に戻ってきた。

「あったよ。鍵。少し待ってて、すぐ戻るから。」

そう言って出て行こうとするカインの手をマリアが引いた。

「待って。あなた魔法力残ってないんじゃないの?!
 魔導師の杖を使おうとするなんて。」

マリアのその質問に、カインは情けなさそうに肩をすくめて頷いた。

「うん。そうなんだ。
 だから何かあればこれが使えるかなあって。」

祈りの指輪もすぐに壊れてしまったようだった。

「じゃあ、私が盾を探してくるわ!一人で行くのは危険よ!」

そう言われて少し驚いた顔をしたカインであったが
今度は首を横に振った。

「魔力がないから、僕にはアレンのフォローもできない。
 妹のことも診てやれない。
 だから・・・マリアにここに居て欲しい。お願いだよ。」

「カイン・・。」

心配そうなマリアにカインは笑って見せた。

「大丈夫だよ。すぐに戻るから。」

そう言うとカインは宝物庫に向かって走っていってしまった。





悪魔神官の調合室を離れて、宝物庫は王宮の方角で場所的には近い。
走って戻れば同じ城内である。5分もかからない距離だ。
本当にすぐに戻れる。

気がかりがありとすれば、
勝手に宝物庫に入って大丈夫か・・と言うことだ。
成人していないカインは宝物庫に入室したことはない。

きっと王の耳に入ればまた激怒される。
だが、父王には散々怒られているし、
怒られネタが今更一つ増えたくらいもう構わない。

そんなことを考えながら走っていると、見慣れた人物の姿が見えてきた。

「あ、オリーブ先生〜。」

相手はカインを探していたようだった。

「カイン様、どこにいらっしゃったのですか!?
 先ほどローレシアのアレン王子とあのムーンブルクの王女が
 いらっしゃり、カイン様のことを探して・・」

どうやらオリーブは先にアレンたちに会っていたようだ。

「ああ、うん。会えたよ!ありがとう!」

「せっかくいらっしゃったのなら是非王が二人の顔を見たいと−。」

「分かりました。後で行きます。今急いでるんだ。
 ちょっと待っててって父さまに伝えてくれますか?」

そう言ってカインはまた去ろうとした。
あわててオリーブが呼び止める。

「カイン様どこへ行くのですか!?」

「あ、伝えてついでに、これも伝言お願いします。」

「?」

「宝物庫にある盾、拝借しますって!」

「!?カイン様!!?
 今・・なんと!?」

宝物庫にある盾と言えば、一部の人のみが知るロトの盾だ。
何故カインがそんな事を知っているのか?
何故宝物庫の堅固な鍵を開けられるのか?
オリーブには分からないことばかりだ。

だが、問いただそうとしたときにはカインはもう走り去った後だった。





城内を数分走ると、宝物庫にたどり着いた。
カインは息を整えて、金の鍵を取り出した。

「こ・・ここだ・・・。」

宝物庫からは心なしか神聖な空気が漂っていた。

ごくりと息を飲んで、カインは金の鍵を使って、
その宝物庫の鍵を開けた。

ギィ・・・と扉のきしむ音がして、宝物庫の扉が開いた。

慎重に、しかし足早にカインはその先へと歩を進めた。

宝物庫の中には、いろいろな国宝が眠っていた。

だが、カインはそれらに惑うことも、迷うこともなく、
導かれるようにただ一つの宝に向かって歩いた。

そして、それは確かにそこにあった。
それは、長くここで眠っていたらしく、少しくすんだ色をしていたが
中央にはロトの印が刻まれていた。

「あった・・・。これが、ロトの盾・・・。」

カインはそれを恐る恐る手に取った。
ロトの盾の重みは、普段あまり盾を使用しないカインには
少し重過ぎるものであった。

これはきっとアレンが持つのに良いだろう。

早く、アレンにこれを渡したい。
アレンがロトの剣と盾とを装備している姿を見たい。


急いで引き返そうとしたとき、
俄かに宝物庫に入るときに感じた神聖な空気が
一変する気配を感じた。

不穏な空気が立ち込めた。


ここに入ったときに鍵は再び閉めたはず。
金の鍵がなければ開けられない堅固な鍵である。

だから、誰も入れないはず・・・

しかしその期待はもろくも崩れた。


ふいに背後から声が聞こえたのだ。

「また会ったな。」


その声にカインは背筋の冷える思いをしながら、
恐る恐る振り返った。


「サマルトリアの王子よ。少しお前と話がしたい。」


振り返った先にいたのは、
先ほどどこかへ飛んで去ったはずのバズズであった。



- 続く -

2011/06/21
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泣いたり笑ったり走ったり恐怖したり
いろいろ忙しいカインですが、
魔力もないときにバズズと遭遇しました。
危うし!みたいな感じです。


それでもドンパチは次回で終わる予定です。

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