ムーンブルク 1

3人は今ルーラでムーンペタにやってきていた。

日が暮れかかっていたこともあり、
アレンたちは今夜一夜をムーンペタの宿で過ごして、
翌日朝からムーンブルク城へ向かう事とした。

そこでマリアは一人個室で休息を取り、アレンとカインは同室で休むこととなった。

「はぁ〜。つっかれたー。」

アレンは部屋のベッドにダイブした。

「お疲れ様。って何に疲れたのさ?ルーラしたのは僕じゃない。」

カインは同じようにベッドに腰掛けて苦笑した。

「いやぁ、まぁそうだけどさ。ここんところ強行軍だったからなあ。」

「確かにね。まだ先は長いんだから、疲れは残さないようにしないとね。
 あーでも忘れないうちに・・・」

そう言いながら、何か思い出したようにカインは部屋の窓際に向かった。

そしておもむろに備え付けの窓を開けると、
そばにいた鳩に何か細工を施していた。

「何??鳥と遊んでるのか?餌付け?」

アレンは頬杖をした状態で、軽く状態を起こすと、
カインが何をし始めたのか興味深そうに眺めた。

「うん。今回マイにもすっごい怒られたんだけどさ。
 手紙を書けって。」

「ああ・・・それがどうした?」

鳥と手紙の接点がアレンにはわからない。

「でも手紙を書くといっても僕たち世界中をウロウロしてるでしょ?
 場合によっては大海原の上にいるだろうし。」

「それは、そうだな。」

うんうんとアレンは頷いた。
そう都合よく手紙を運んでくれる運送屋がいる訳じゃないのだ。

納得しつつも、アレンは首を傾げる。

「何の話だよ、だから。」

「でね、先生が教えてくれたの。
 鳥と仲良くなって、鳥にルーラさせたら、どこでも伝書鳩の誕生ーって。」

「へーーー。そりゃあ面白いな。」

鳥が手紙を運んでくれるというのだ。アレンは興味津々だ。

「じゃあ、蛇でも豚でも何でも良いわけ?」

「えっ・・・・?い、良いだろうけど、伝書蛇とか豚とか・・聞かないよ・・・・。
 って言うか、豚とか海にいないし、駄目でしょう。」

「あーー。なるほどね。鳥ならどこにでもいるだろうって事か。」

アレンはポンッと手を打った。

「俺でも手紙書いたら届けてもらえるのか?」

「うん。良いよ、ローレシアにルーラだよね。できるできる。」

「じゃあ、書こうかな。」

アレンはむくっと体を起こした。どうやら、今手紙を書く気になったらしい。

「書けたら教えてね。僕も書いとくから一緒に送ろう。」

「ん。」

カインは便箋一枚に、無事にムーンペタに着いた事と、
そしてこれからは小まめに手紙を書くようにすると言う内容を書いた。
文章量としては便箋一枚にも満たない短さだ。
だが、まぁ手紙というものは、文章量の大小ではなく、
伝えたいことが伝われば良いのだ。

ひとしきり書いて、カインはペンを置いた。

「アレンも書けた?」

「いや、まだ。」

見るとアレンは便箋をにらみながら、うーんと悩んでいる。
文章を練っているのだろう。

「書けたら教えてね。」

「ん。」

少しすれば書きあがるだろうとカインは装備を外して、ベッドに寝転んだ。

明日はムーンブルク城へ向かうのだ。
マリアは今どんな心境で部屋にいるのだろうか。
別れる前は明るく食欲もあり、いつものマリアだったが、
あの変わり果てた故郷の姿を見たら、少なからずショックを受けるのは
間違いない。
できる限りのフォローをアレンと二人でしていきたい。

そんな思いをアレンとも確認しておこうと、ふと顔をあげたが
アレンはまだうんうん呻って便箋とにらめっこしていた。

「アレンまだ書いてるの?」

「んー。中々・・手紙というのは・・・何を書けば良いのか・・・。」

ごちゃごちゃ言いながら、アレンはペンをくるくると回転させていた。
どうも見える限りでは、あまり筆が進んでないようだ。
竹を割ったような性格のアレンが、手紙の文章にこんなに悩むとは意外だ。

「アレンも無事の報告でしょ?現在地と現状を報告すれば良いんじゃないの?
 誰に出すの?王様?」

「あ。父上?それは忘れてた。」

「違うんだ。じゃあ王妃様。」

「あー。それも出さなきゃなあ。」

・・・・・・・。
ローレシアにアレンが手紙を出すのに、父宛てでも母宛てでもないらしい。

「もしかしてクレハさん?」

「え、あ、まぁ。そういう感じだ。」

こちらを見ようともせず、アレンは難しい顔のままそう答えた。

「そうなんだー。何だか意外だなあ。って言うか、アレンはクレハさんには
 妙に優しいよねー。」

物珍しさにカインが驚いてみせると、アレンは噛み付く勢いで首を振った。

「べ、別にそういうんじゃねえよ!
 あいつも絶対手紙を書け書けって煩いんだよ。」

「あー。わかるよ、マイも散々そう言ってたから。」

笑って頷きながらも、カインは意地悪そうに、さらに聞いてみた。

「アレンってクレハさんのこと、とっても大切なんだね?」

「はぁぁぁ!?」

アレンは思わず持っていたペンをカインに投げつけた。

「あいたっ。」

そのペンはカインの額に当たった。

「別にそういうんじゃねえよ!
 お前が妹に手紙を出すのと同じようなもんだ!!
 あーもう、これで良いや。これで送れ!」

アレンは乱暴に便箋を何度か折り曲げた。
カインは軽く赤く腫れている額をすりすりとさすりながら、
反対の手でアレンの書いた手紙を預かった。

「分かったよ。これで良いんだね。じゃあ送るよ。」

カインは、二匹の鳩に手紙をくくり付けると、
何かの魔法をつぶやいた。ルーラだろう。
鳩は光に包まれて、飛んでいった。

「おー。本当に飛んで行った。じゃあ、これから手紙書いたらお前に言うな。」

アレンは鳩の飛んでいった先を見つめながら言った。

「僕がいなくっても手紙は出せるよ?例えば、キメラの翼を使ったり・・とか。」

「そうなのか。って、別にそれは良いよ、キメラの翼買ってたら金が勿体無いし。
 なんかあればお前に言うし。」

普段余計な買い物をするなと口うるさいのはカインだ。
勝手な買い物をしたら怒られる。

「あ、でも万一の事があるじゃない?」

「万一?」

「僕がいない・・とか。あ、えっと病気で倒れるとか。」

「えーねえだろ。今までそんなことなかったじゃん。」

「あ、万一だよ?万に一つの可能性でさ。
 一応、そういうこともあるかもって。最悪の場合は、サマルトリアに連絡をさ・・。」

「馬ー鹿。縁起でもねえこと言ってんじゃねえよ。」

アレンは馬鹿馬鹿しいと言い捨てて、向こうを向いてしまった。
確かに、あんまり縁起の良い話ではない。カインは話題を変えようと思った。

「ごめん、縁起悪いこと言って。
 じゃあさ、話は変わってマリアのことなんだけど。」

話題を変えるとアレンはこちらを向いてくれた。

「マリアのことって?」

「明日は朝からムーンブルクに行くでしょう?
 でもきっと前みたいに魔物たちが巣食う城になってると思うんだ。」

「俺もそう思うぜ。」

あれから劇的に状況が良くなる訳はない。むしろ腐敗は進んで
さらに恐ろしい場所になっているだろう。

「前に行ったときはムーンブルク王のお心に触れることが出来たけど、
 あんな奇跡みたいなことは起こるとは思えないし・・・。」

「そうだな・・・。」

「マリアにとっては辛い思い出ばかりになるかもしれない。
 出来る限り僕らで支えられるようにしないとって・・・。
 何かいつもと違う様子だったりしたら気をつけよう。
 それで何か気づいたことがあったら、僕にも教えてよ。」

「・・・・・・・・・・。」

アレンはその言葉を聞いて、眉を潜めるような表情になった。

「なんか僕変なこと言った?」

「お前もさ・・・大概、マリアのこと好きだよなあ。」

「は・・はぁ!?僕なんか変なこと言った!?」

至って普通の、心に思ったことを自然に伝えただけだったのに、
何か変な事を口走っただろうか?とカインは慌てて
同じ質問を2度した。

「はは。いや、お前の言ってることは俺も思ってるよ。
 だけどお前って、いつもマリアマリアって気にしてるだろう。」

「そりゃあ、仲間だもの。あんな大変な思いをしながら、
 一緒に戦う仲間なんだもの。僕に出来ること・・なんてあまりないけど、
 できることなら何でもしてあげたいじゃない。」

「まぁな。そうだよな。ただ、ハーゴンを倒したって、あいつの戦いは続くからな。
 ムーンブルクの復興は1年や2年じゃ終わらねえ、それこそ。10年や20年はかかるだろう。」

「10年や20年・・・・。」

まだたった17歳のアレンたちには20年なんて年月は
自分の今までの人生以上の長さだ。果てなく長く感じる。

「お前は髭の生えた爺さんになってもマリアマリアって言ってそうだよな。」

アレンはそう言って笑った。

「俺は結構思うんだ。お前らとはこの戦いが終わっても、この腐れ縁が切れなきゃ良いなって。
 お前もそう思わないか?お前なんかは年取ってもそのまんまだろうなあ。」

俺はその頃どんな風になってるかなあ、とアレンは続けた。
カインは、なんと返答すべきか、頭の中を整理しようとしたが、
うまく言葉で出てこなかった。

「・・・・・・そんな先のこと・・分からないよ。」

「そうか?結構先のことを考えるのも面白くないか?」

「・・・・僕は・・・明日のことを考えるので精一杯だよ。」

そう言うとカインはごろりとベッドに転がった。 

「何だよ、俺変なこと言ったか?」

カインを怒らせるような言葉を言ったのかどうか、アレンには分からなかった。

「違うよ。違う、アレン。
 僕は・・・・・・・・・・。」

「何だ?」

「ごめん、眠くなっちゃった。もう寝よう。明日は頑張ろうね。」

「え?あ、ああ。寝るのかよ。」

そして、言うが早いがカインは手元のランプを消してしまった。

「おやすみ、アレン。」






++++


翌朝、アレンたちはまだ日が昇るかどうかの時間に目を覚ました。
隣室にいたマリアも部屋から出てくると、「おはよう。」といつものように声をかけてくれた。

その後3人で朝食を食べたが、マリアは特段物静かに沈む様子もなく、
ムーンブルク城への行程を3人は確認しあった。

外に出てみるとはまるで薄く霧が張ったような天候であった。

「微妙な・・天気だな。」

「雨が降りそう・・いや、降ってたのかな。」

「そうね。足元が悪そうね。気をつけましょう。」

昨夜ムーンペタ周辺では雨でも降っていたのであろうか?
土がぬかるんでいた。城周辺でも同じ天候であったなら、
さらに足元は不安定だろう。

マリアはその辺も考慮しており、冷静そうに見えた。


そして一行は一路ムーンブルク城へと向かったのであった。

- 続く -

2011/07/15
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 ムーンブルク編なのに、1話はアレンとカインが中心でした。
 なんだか喋ってばかり、中学生みたいな二人です。

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