サマルトリア 2


翌朝。

カインは父サマルトリア王の前に来ていた。

どうやら昨夜のうちに、カインの帰城については
父の耳には入っていたようだ。

「サマルトリアのカイン、戻りました。」

久々の再会に、膝をついて礼をした。
だが、頭上から聞こえてきた父の声は再会を喜ぶ声ではなかった。

「勝手に出て行っておいて、
 今頃・・・何用で帰ってきた。」

笑顔満面で出迎えてもらえるとは思っていなかったが
やはり父は渋い顔をしていた。
怒っているようだ。

「ご心配をおかけして、申し訳ありません。
 この通り無事に・・。」

「そんな事聞いておらん。
 お前は勝手にこの城を捨てて出て行っただろう。
 今更何をしに、どの面下げて帰ってきたのだと聞いている。」

話を途中で切られ、取り付く島も無いとはこの事か。

「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」

うなだれるカインになおも父は厳しい声を浴びせる。 

「ローレシアのアレン殿のことは聞いているが、
 比べて貧弱なお前ごときが何を出来るとも思わんがな。」

「そ、それはそうかもしれませんが・・・。」

「それでも出て行くというなら
 ワシの機嫌など伺わず、さっさとどこなと消えるが良い。
 元よりお前などいなくとも、一向にこの国に影響は無い。」
 
・・・・・。

思った以上に父は怒っているようだ。
この国を出て行ったのは、ムーンブルクが襲われ
マリアの救出のためだ。
あのタイミングだったのは、アレンと合流したかったからだ。

などと説明しても今の父には響かないだろう。

「どの道無駄な時間だ。ワシは忙しい。」

王は立ち上がり、どこかへ出て行こうとした。
本当にカインの話に耳を傾ける気はないらしい。


「父様!勝手なことだとは承知していますが、
 二つだけ・・話を聞いてください!!」

「・・・。なんだ。」

背を向けたままの父にカインは言った。
伝書鳩はローレシアの1件を伝えていたはずだ。

「この国にも魔物たちが襲ってくる可能性があります。
 それに対して、昨夜少し対策はしましたが、
 間もなくやってくるアレン王子、マリア王女とともに
 この地で戦う事をお認めください。」

「・・・・ローレシアの件は聞いておる。
 この国には彼の国ほどの兵力も無い。
 そのような事が国民に漏れでもしたら、
 混乱は避けられん。」

「分かっております。だから・・僕は帰ってきたんです。」

カインは無表情で背中のマントに隠していた一本の剣を
抜いて見せた。

もちろん父もその剣を見るのは初めてだが、
剣に刻まれた紋章は忘れようとしても忘れられない。

ロトの剣だ。

「それを・・・お前どこで・・。」

「父様もご存知ですよね。
 かつてロトやアレフが手にした剣です。
 今は・・・アレンのものです。」

なるほど、ローレシアでも1の剣技を誇るアレン王子であれば、
サマルトリアを含めたロト3国の中でも
一番持ち主にふさわしいだろうと王は考えた。
残念ながらサマルトリアは剣の実力においては
ローレシアに劣るという自覚がある。

「なるほどな。
 しかし、アレン殿のものをどうしてお前が持っている。」

「彼が来るまでは僕がこの剣を使ってこの国を守ります。」

それだけ言うとカインは剣を鞘にしまった。

アレンの剣だと言うが、カインもその剣さばきに不自然さはない。
どうやら口にしていることも本気らしい。

父は少しだけ息子のことを驚いて見直した。

この国にいたのはほんの数ヶ月前。
ロトの末裔とは言え、いくら修行をさせども
剣も使えず、ろくに魔法すら使えるようにならなかった。
息子はいつの間にか成長していたようだ。

だが、父は国を捨てたようなカインのしてきた事を
認めるわけにはいかなかった。

「そして出来るなら、その後またアレン達と旅をすることを
 許してください。」

「ふん。」

可とも否とも王は言わなかった。
そんな父の様子と後姿を残念そうに見ながら、
カインはこれについては、もう言うまいと思った。

「あ、あと母様がご病気だと聞いたのですが
 どんな様子なのでしょうか?」

「・・・・・・・・」

「父様・・・?」

何気なく聞いた質問に対し、
父はしばらく沈黙したあと口を開いた。

「北の2階の寝室で休んでいるだろう。」

それだけを言うと父はどこかへ行ってしまった。
母の体調については教えてくれなかった。

カインは立ち上がると、ふぅっと息を吐いた。
アレンがローレシア王にしたようには
やっぱりいかなかった。
結局の所、父は自分を認めてはくれなかった。

今それを考えても仕方が無い。
時間が無い。
母の所へ行ってみよう。




王の間を出ると、
そこには妹のマイが壁に背中を預けて立っていた。

「マイ、どうかしたの?」

「仲直りは出来た?お父様に怒られて、
 お兄ちゃん泣いてるんじゃないかって思って。」

「な、何だよそれ。喧嘩なんてしてないよ。」

「そう?」

カインは北の離れへと向かった。
離れの2階に母がいると聞いたためだ。

後ろを振り返ると、マイがついて来ていた。

「何で着いて来るの?マイ今日は休みなの?」

「お兄ちゃんがお母様とも喧嘩して
 泣かされたら可哀想だからね。」

「泣かないよ!」

「ふふ、そりゃそうだよね。冗談よ。」

「???」

何が言いたいんだろうこの妹は・・と思いつつ、
2人は母の寝室へと辿り着いた。



扉をノックしようとしたら、奥から咳き込む声が聞こえてきた。
今日はあまり体調が良くないのだろうか・・。

面会は改めた方が良いのかと思ったが、
マイが、ちょっとここで待ってて合図すると
「入るねー」と遠慮なく入って行ってしまった。

「お母様、おはようございます。
 今日は具合どうかしら?」

そう声をかけながら、マイは慣れた手つきで水を変え、
カーテンを開けた。

奥のベッドで横たわる人が身を起こしたのが見える。
見覚えのある母の姿だった。

だが、その表情は青白く、
面差しはやつれ、腕もまるで骨ばかりに痩せている。

「か、母さま!」

思わずマイが待ってろと言ったのも忘れて
カインは部屋に入ってきてしまった。

「カ、カイン・・?帰ってきたのね?元気だった?
 怪我はしてない?」

母は驚いて顔を上げて、顔をほころばせた。

「昨日帰ってきたんだ。心配かけてごめんなさい。
 怪我なんてしてないよ。
 それより母様いつから・・こんな?」

「元気そうで、良かったわ。
 せっかく帰ってきてくれたなら
 無事を祝ってパーティーを開きましょう。」

「パーティー・・?」

カインは何気なく触れた母の手が
燃えるような熱さを持っていることに気づいた。

「母様、熱があるんじゃないの!?横になっていてよ。」

母は素直に横になったが、顔は嬉しそうに
パーティーはいつが良いだろうか?と
マイに聞いたりしている。

どう見てもカインには母がパーティーに出るような
体調には見えない。

「そうねえ、いつが良いかなお兄ちゃん。
 そういえばマリアお姉さまもご無事だったのよね。
 アレン様もマリアお姉さまも皆一緒にパーティーに参加してもらうのはどうかしら!?」

「え?」

「まぁ、マリア王女が・・?
 なんて素敵なこと。」

手を叩いて嬉しそうだ。

「お兄ちゃん、アレン様とマリアお姉様は一緒に
 いらっしゃるのかしら?」

「そ、そうだけど。」

「じゃあアレン様たちがいらっしゃったら、その夜にパーティー!
 決定ね!用意は私に任せて。」

本気だろうか?本気で言ってるんだろうか?
普通に考えてもせめて熱が下がってからの方が
良いんじゃないか?

「お兄ちゃん、黙ってないでさ、
 お母様に今までの旅の話でもお話したらどう?」

「あ・・・そうだね。」

確かにあんまり心配そうな顔ばかりしていても
良いことは無いだろう。

カインは城を出てからの話や、
アレンとマリアがどんな人物なのかを話して聞かせた。
2人は楽しげにその話を聞いてくれた。

「アレン様ってそんなに強いんだー。ロトの勇者様の再来ね。
 すごいなあ。アレン様の剣技を見てみたいわ。」

「マリア王女も、お心の強い方ね。早くお会いしたいものだわ。」

2人はまだ見ぬアレンとマリアに想像を膨らませていた。

「そうだね。キメラの翼で来るって言ってたから
 もうすぐ来ると思うよ。」

「お兄ちゃん、そんな2人と一緒にいたら
 さぞかし足を引っ張ってるんだろうなあー。」

「そ・・・そんなことー・・」

「でも図星なんでしょー??お兄ちゃん剣も魔法も
 からっきし駄目なんだから。」

「ぐ・・。」

そ、そりゃあアレンに剣で、
マリアに魔法で挑んだりしたら
2戦2敗で確実に負けるだろうとは思うが。

「そんな事無いわよね。
 私には分かるわよ。数ヶ月見ないうちにカインが
 どれだけ成長したのかが・・。
 よくマリア王女をお助けしたわね。」

「母様・・・へへ。ありがとう。」

父は自分の顔も見てくれなかったが、
母は自分を認めてくれた。
それだけで、帰ってきたのが報われた気持ちだった。

「マイだってこの数ヶ月すごく頑張ってたものね。」

「そうよ。私だってすごく成長してるんだから。」

「そうなの?」

「そうよ!後で見せてあげる。びっくりするわよ。」

微笑ましくそのやり取りを見守っていた母は
俄かに咳き込み始めた。

「母様?大丈夫?」

「ええ・・けほ、げほっ。何でもないわ。こほっ。」

何でもないとは思えないほど
その表情は苦しげだ。

「これ、お母様お薬です。」

マイは母の背中を支えて、薬を飲ませた。
咳は徐々に静まっていく。その間もマイは
背中をさすり続けていた。

「お母様、少しお休みください。また昼過ぎに来ますわ。」

「ええ・・・そうね。」

マイは笑ってそう言って
母から離れると、食べ残しのお盆を持って、カインにも行こうと促した。

「カインも、ごめんね。せっかく来てくれたのに。」

「ううん。母様無理しないで休んでいてね。」

カインも何とか笑顔でそれだけ伝えた。





部屋から出て、マイはお盆を調理室へ戻そうと
すたすたと歩いていこうとした。
カインはそれを追いかけて問い詰めた。

「マイ!待って、ちょっと待って!!」

「何?」

「母様の病状についてちゃんと教えてよ。
 良くないんじゃないの?
 それなのにパーティーなんて・・。」

振り向いたマイの瞳は赤く充血していた。
今にも泣き出しそうだ。

「分かってるじゃない。」

「え?」

「良くないのよ。お医者様にもあと数ヶ月って
 言われているわ。」

一瞬頭が真っ白になる。
何があと数ヶ月だと言うのだ?

「え・・・う、嘘でしょ?」

「嘘だったらどれだけ良いか。」

マイは吐き捨てるように言った。

「い、いつから・・?」

カインがサマルトリアから出て行ったときには、
母は病気なんかじゃなかった。

「言わなかったっけ?
 お兄ちゃんが出て行ってからよ。」

「・・・・・・・・っ」

自分が出て行ったせいだろうか。
それほどの心配をかけて、心労のあまり
母は病気になってしまったのだろうか。

「お母様ずっとお兄ちゃんが帰ってきたら
 楽しいパーティーをしたいって言ってたのよ。
 その希望を叶えたいって言うのは
 そんなにおかしいことかしら?」

カインは首を振った。

先ほどからマイがしっかりと母の看護をしている姿を見て
少なからず妹がどんな日々を送っていたのかが
伝わってきた。

マイがそばにいてくれなければ、
自分はもっと動揺していただろう。

そういう事情ならば
ささやかな母の願いは是が非でも叶えてやりたい。

「そうだね。やろっか。」

そういうとようやくマイも笑顔になった。

「そうと決まったら準備しなきゃね。
 アレン様とマリア姉さまの好物ってどんなものかしら?」

「アレンはねー、肉とか魚が好きだよ。
 船だとあんまりお肉って食べられないし、
 食べたがってると思うよ。
 すっごいいっぱい食べるから覚悟して。」

「そうなんだ。そりゃ、いっぱい作らないと駄目ね。」

マイは腕をならして気合を入れている。

「僕も手伝うよ。」

「ほんと?じゃあ、久しぶりに2人でケーキ作ろっか?」

そんな談笑しながら、中庭までやってきたときだった。

白いローブに身を包んだ老人が前より歩いてきた。

老人からは穏やかな表情に似つかず、強力な魔法力を感じる。
いや、強力なだけではない。

これって・・・まるで・・・・

「・・・え・・これって・・・?」

横を見ると、マイがペコリと頭をさげている。
見知らぬ人間ではないようだ。

「誰?」

こそっと妹に聞いたつもりだったが、それが相手に伝わって
しまったようだ。
老人は、歩みを止めてこちらをぎろりと振り向いた。

「これは、お初にお目にかかります。
 お帰りをお待ちしておりました。
 ・・・サマルトリアの第一王子カイン殿・・・。」



- 続く -

2011/05/19
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またまたお久しぶりの更新です。
ちゃかちゃかと話を進めていきたいです。
どうなることやら。

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