久しぶりに踏んだサマルトリアの土、
久しぶりに感じるサマルトリアの豊かな緑の匂い。
「帰ってきた・・。」
カインはローレシアを後にして、
一人ルーラでサマルトリアに帰ってきた。
もう時刻は夜である。
城下の街並みのまばらな家屋も静まり返っていた。
懐かしい街も城も落ち着き払っていて
パッと見た感じだと何も異常はなさそうだ。
「どうしようか。」
カインはきょろきょろと周りを見渡した。
特に異常はないようだが、これで帰れるほど
内情は見えてこない。
「一旦城に帰ってみるしかないか。」
父や母はどんな顔をするだろうか・・
急に出て行って急に帰ってきて怒られるんだろうなと思った。
そう頭によぎってから、その考えに苦笑した。
家出のように国を出て行ったと思ったら、
お忍びのようにこっそり帰ってきて、
本当にお騒がせな息子だ。
アレン達と旅をしていたら夢中になって忘れていたが、
自分はこの国に不満があって飛び出したわけではない。
皆が元気でいるのか気になってきた。
まずは、妹のマイを捕まえて
近況の報告などを交わそうかと思った。
そうは思っても、もう夜だ。
正門から入って騒ぎを起こしたくも無かったので、
カインは裏へと回り、直接妹の部屋に向かった。
コツン
妹の部屋の窓に向かって小石を投げた。
気づいてくれるかなーと期待しつつ、
反応を待つが、反応が無い。
部屋には淡く明かりが灯っているので
在室だと思うんだけどなあ・・と思いつつ。
コツン、コツン。
続けて小石を二つ。
シーン。
「あれえ、駄目かなあ。いると思うんだけど・・。」
よく妹に用があるとき、
こうやって声をかけてたのになぁと思いつつも仕方ない。
無難に正門に回るかと諦めたとき、
窓が開かれた。
そして怒鳴り声が上空から降りそそいだ。
「っもう!!
お兄ちゃんの真似するのやめてって言ったじゃない!」
カインは目を丸くして、声の主を見上げた。
相手も目を丸くして、カインを見下ろしていた。
「や、どうも・・。」
思わずこんな間の抜けた挨拶になってしまった。
頭上にいる妹、マイはまだ目を丸くしていたが、
口もあんぐりと開けた。
その顔にカインはぷっと笑った。
「ちょっとちょっとお姫さま、締まりが無いよー。」
「お、お兄ちゃん!?本当に!?」
「うん。ただいまー。」
カインは手を挙げて答えた。
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ブーツを脱ぎ捨て、部屋の窓からカインは妹の部屋に入室した。
きれいに整頓されている部屋だ。
「お兄ちゃん、いつ帰ってきたの?」
「今さっきだよ。」
「どこに行ってたの?」
「うーん。世界中・・色々と。」
「お兄ちゃん今までどうしていたのよ?」
妹は矢継ぎ早に色々聞いてきた。
色々気になっていたらしい。
カインはアレンと合流してからの旅の話をした。
無事にマリアを救出できたこと。
船を手に入れて、いろんな所へ旅をしたこと。
いろんな人と出会い、いろんな敵とも戦ってきたこと。
やんちゃだった妹はその冒険譚を目をキラキラさせながら
聞いていた。
「お兄ちゃん、なかなか・・やるわねえ。」
「・・・それはどうも。」
「マリアお姉さまが無事だったのは本当に良かった。
早くお元気な姿が見たいわ。」
カインはしみじみとそういうマイの姿をじーっと見つめた。
「何よ?じーっと見て。あ、分かった。
私が大人っぽくなったからびっくりしてるんでしょ?
そんなに変わったかしら?」
「は?大人っぽく?どこが?
全然変わってないよー」
笑ってそういう兄に妹は頬を膨らませた。
「ほら、変わってない。
そういうところ。」
カインはクスクス笑っている。
マイはますます頬を膨らませるのだが、カインはどこか
嬉しそうだ。
「あー。良かった。
元気そうで良かった。」
心底安心した様子の兄の姿に少し引っかかった。
「お兄ちゃん、アレン様はどうしたの?
どうして帰ってきたの・・?」
「どうしてって・・ルーラでね。
ルーラって便利な魔法なんだよねー。」
「そう。ルーラで・・って、そういう意味じゃないわ!
何故今一人でここに来たの?
旅が怖くなって帰ってきたの?
それとも何かこの国に用があるの?」
カインはその問いに本当のことが言えなかった。
この国に、目の前の妹に危機が迫っているのかもしれない・・
なんて言えなかった。言って心配をかけたくなかった。
そういえば元々アレン達とローレシアの次に
この国を訪れる予定だった。
それは、この国の至宝『ロトの盾』を譲り受けるためだ。
が、よく考えれば勢いそのまま飛び出してきたため
金の鍵はアレンが持っているままだ。
カインは思わず頭をかかえた。
「あー、思い出した。失敗したあ・・。
結局アレンが来るまで待ってなくちゃ駄目か・・。」
「?」
「あ、いやいや。ごめん、こっちのこと。」
とりあえず、妹は元気そうなのだ。
父や母も変わらず元気だろうか?
きっと自分勝手な自分のことを怒っているだろう。
「用・・・用ならあるよ。
勝手なことばっかりして悪かったと思ってるんだ。
父さまと母さまにもちゃんと話をしたい。」
アレンだってきちんと父王と向き合って認めてもらっていた。
自分もそうなりたい。
アレン達と3人での旅を認めてもらいたい。
「お父様は怒っているわよ。もうカンカンにね。」
「・・・やっぱりそうだよね。」
「笑い事じゃないわよ。
お母様は心労のあまり、ご病気で最近は体調が優れないの。」
「え・・・それは本当・・・?」
思いがけない言葉にカインの表情が曇った。
「うそを言ってどうなるの?
せっかく帰ってきたなら、顔を出して行きなさいよ。
と言っても、もう今頃はお休みになってるわ。」
「どんな具合なの?」
「食欲もあまりなくて、横になっている時間が増えてるみたいだわ。
あまり笑顔を見せることも無くなって、私もとても心配しているの。」
「そう・・・なんだ。分かったよ。
教えてくれてありがとう。」
カインはそう言うと立ち上がった。
どこかへ行こうとしているようだ。
「どこに行くの?
こんな時間にはお父様もお母様も会えないわよ。」
「うん。分かってるよ。
マイも夜遅くに、騒がせて悪かったね。
ちょっと今のうちに、やっておきたいことがあるんだ。」
「何するの?」
「お子様には言えないこと。」
人差し指を立てて、秘密話をするようにカインは言った。
「何それっ!!」
その妹の反応にくすくす笑っている。
「じゃあね、おやすみ。
あ、でも何かあったら僕を呼んでよ。」
「もう・・子ども扱いして。
出てけ!早く!」
「はいはい。」
カインは部屋を出て行ってしまった。
マイは兄の元気そうな様子が嬉しくはあったものの
何か普通じゃない様子が、気にかかった。
「まぁ・・良いか。
明日にでも聞けば。」
ふああーと欠伸をした。喋っていたらもうすっかり良い時間だ。
マイはベッドに横になった。
カインは静かで見慣れたサマルトリア城の廊下を
歩いていた。こんな夜だと人気もなかった。
母の病気のことは初耳で心配だったが、
マイはとりあえず元気そうだし、
国も今のところ何事も無さそうでよかった。
それにしても、小石を窓に当てたとき、
『お兄ちゃんの真似をするのを辞めて』とか言われたが、
あんな真似をして窓から入ってくる不埒な輩がいるんだろうか。
兄として、そこは少し気になった。
まぁそれだけ、妹も少しは大人になったのかもしれない。
なんて事を考えつつ、カインはある部屋の前にやってきた。
夜に訪れるなんていうのは不躾であることは十分分かっていたが
今のうちに会っておきたかったのだ。
コンコン
「誰だ。こんな時間に。」
ドアをノックするのと同時に、中から部屋の主の声が聞こえてきた。
どうやら、足音から気配を悟っていたらしい。
「お久しぶりです。僕です。カインです。」
「カイン王子!?まさか!!」
部屋の主は慌てて扉を開けた。
主は驚いたような顔をしている。
苦労を重ねたのだろうか、少し白髪が増えた気もする。
ここは、カインの魔法の師とも言える先生の部屋だった。
「オリーブ先生。ご心配おかけしました。」
「いつ、いつ戻ったのです!?」
思わずカインは笑った。
真剣な顔をして妹と同じようなことを聞かれたことが
面白かったのだ。
「先ほどですよ。
少し・・・お話したいことがあるのですが良いですか?」
部屋の中は、書物を読むためのランプの光が薄暗く灯っていた。
カインは椅子にかけ、差し出された飲み物を一飲みすると
かつての師に一通りの内容を報告した。
どうやらローレシアで起こった騒ぎについては
ローレシアからの報せがサマルトリア城にも届いていたらしい。
おかげでマリアが生存していたことも、
王を始め一部の人間には伝わっていたようだ。
「なるほど・・・ローレシアの1件は伝書鳩が知らせてくれている。
噂には聞いていたが、ひとまずは良かった。」
「ええ、アレンの力が大きかったです。でも兵達や城、城壁にも
被害が大きくって、今は2人はまだローレシアにいます。」
「カイン様が帰ってきたのは、それに備えて・・と言うことですね。
分かりました。朝一にでも触れを出そう。」
「いいえ。待って下さい。あまり混乱は起こしたくない。
それについては僕に考えがあります。
それを先生に相談に来たのです。」
「何をですかな?」
カインは自分の考えを師に相談した。
オリーブは最初、長い旅を経て、
王子はなんと頼もしく成長したのかと
しみじみ嬉しく思った。
が、カインのその考えを聞くと、正直な所、
真顔でこの王子は何を言い出すのだろうかと思った。
「そ、そんなこと・・・。」
「子供じみていますか?でも僕は本気です。
実際可能だと思うし、この国で戦うなら絶対必要だと思うんです。」
「・・・・・・・・・・・・。」
しばらく会わないうちに、こんな表情をするようになったのかと
オリーブは驚いていた。
だが、その発言の突拍子の無いのは、子供の頃の王子と変わらない。
「夜のうちにやってしまいたいんです。
スイマセンが、手伝いをお願いできますか?」
「ふふふ。」
師は笑い出してしまった。
「昔から変わりませんな。その突拍子の無いのは。」
「だ、駄目ですか?」
「いいえ、王子が本気なら・・・何なりとやらせてもらいましょう。」
静かなサマルトリアの夜に
師オリーブはゆっくり椅子から立ち上がった。
- 続く -
2011/04/29
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