最後のほこら2

祠から外に出てみると、
身が凍れるほどにそこは寒かった。

おかげで、身体がその緊張感に目を覚ましたような気がする。

そこにいたのは、
巨体のギガンテスと、猿のように狡猾なデビルロードといった
ロンダルキア特有の魔物の群れであった。

まだ、こちらの姿には気づいていないだろう。
こちらに気づかれる前に・・・。

「マリア。先手必勝行こう!」

カインがそう言ってきた。
マリアはそれに頷いた。
元よりまともに勝負すると、どう考えてもこちらが分が悪いのだ。

「カイン。私がイオナズンを唱えるわ。
 でも、アレンがいないんだから・・・。」

深追いはしない方が良い。
敵を全滅させられなくても、最悪追っ払いさえ出来れば
それで十分だ。

「うん、分かってるよ。」

カインは頷くと、隼の剣を取り出した。
あの巨大なギガンテスに向けるには甚だ華奢すぎる剣だった。

まぁ、そう言っていても仕方が無い。
魔法力の残りを気にしなくても良いのが、今の戦いで有利な点だ。
そして、イオナズンならば、敵の大小に関わらずダメージを与えられるだろう。

「いくわよ。」

マリアがいかづちの杖を構えると、周囲の大気が急速にゆがむ。
爆発の予兆だ。

「 イオナズン !!」

大きな爆発が起きる。
爆発は確実に魔物の群れを捕らえていた。

ただし、これで全滅させられるような甘い敵ではない。

それが分かっているからか、
カインは剣を構えて、未だ爆風の中にいるギガンテスに向かって
走り出した。 

何かをぼそっと呟くと、剣を持つ両手から炎が巻き起こった。
そしてそれを吸い付くように剣に巻きつかせた。

洞窟で覚えたカインの剣と魔法のあわせ技だ。

「やぁぁぁぁ!!」

何とか懐に掻い潜って、その足元を狙ったカインの一撃は
ギガンテスまで届いた。
軽かった隼の剣の刃もその身を切り裂くことが出来た。
深い青のような紫のような血が飛び散った。

が、それでも、一撃が軽いのか、とどめを刺すには至らず
煙に紛れて敵の姿を確認できないらしいギガンテスは
不快そうに足を大きく蹴り出した。

「わっ!!」

あわてて剣でその攻撃を堪えようとしたが、
思った以上の圧力だったらしく、剣ごと吹き飛ばされた。

雪がクッションになり、何とか衝撃を和らげられたものの、
ギガンテスは自分の蹴りの手ごたえに、敵の存在を認識したらしい。
巨体を揺らしながら、カインに向かって歩き出した。

「カイン!!」

マリアはカインのその様子を見ていられなかった。
いつも最前線で戦うのはアレンの戦い方だ。
それは強力な防具を持ち、並外れた腕力を持つアレンだから
出来ることだ。

同じ事をカインがやろうとしても出来るはずが無い。

「マヌーサ!!」

マリアはギガンテスに向かってマヌーサを唱えた。
マヌーサは成功したようで、
ギガンテスに幻に向かって、大きく棍棒を振り下ろしたりしている。

その隙にカインは立ち上がって、体勢を整えた。

マリアがその様子にホッと息をつこうとした・・
だがそんな一瞬の隙すら許されなかった。

次なる脅威が襲い掛かってきていた。
マリアの持ついかづちの杖が何者かに巻き上げられた。

いつの間にか気配を消して襲い掛かってきていた
デビルロードであった。

デビルロードは長い尾で武器を取り上げると、
またこれも長い手足でマリアの身体を締め付けるように
絡み付いてきた。

「っ!!!」

取り立てて激しい痛みがある訳ではないが、
マリアの力では、魔物を振り払うことが出来なかった。

デビルロードは何か魔法を唱えようとしているらしい。
魔法力の収縮を感じた。

「や、やめ・・・!」

何を唱えるつもりなのか分からないが、
超至近距離からの魔法だ。

思わず身を固めて、衝撃に備えようとしたマリアであったが
次の瞬間感じたのは、首筋にひゅっと何かが飛んでくる風であった。

「!」

飛んできたものは、カインの隼の剣であった。
どうやらマリアの背後に絡み付いているデビルロードを狙ったようだ。

「ぐああ!」

その剣はどうやらデビルロードの目に突き刺さったらしい。
急に襲ってきた傷みに、デビルロードはマリアを手放した。

「マリア!!離れて!!」

そう言いながら、カインはギガンテスの懐を掻い潜りながら
こちらへと駆け寄ってきた。

だが、それを遮るようにデビルロードは攻撃してきたカインに向かって、
ベギラマを唱えた。

「炎・・・!カイン避けて!!」

剣も何も持たずに、こちらに向かってくるカインに対して、
マリアはそう叫ぶしか出来なかった。

が、カインは避けることもせずに、一直線に向かってきた。

そして、マリアは目を疑った。
ベギラマの炎がカインを襲ったはずだったのだが、
炎がカインに触れるかどうかのところで、ふっと消えたのだ。

そして、カインが再度炎の魔法を唱えた。

「ベ・・ギ・・ラマーーー!!」

「えっ・・・?」

その炎は、先ほどのデビルロードのベギラマよりも
更に言えばいつも見たどのベギラマよりも大きな炎の塊であった。

その巨大なベギラマを受けたデビルロードは
成すすべもなく直撃を受けた。

マリアはその様子をすぐ近くで見て、
デビルロードの絶命を確認した。

が、なにやらカインは大慌てて、
マリアの手を引いて、その場を離れさせた。

「マリア!!こっちへ!」

「ちょ、ちょっと・・・!?」

敵を倒したのに、何をそんなに慌てているのだ?
少し離れると、今度こそようやく一息だけつく間が出来た。

「マリア、何ともなかった!?」

「わ、私は大丈夫よ。少しびっくりしたけど・・・。」

そう言って、首筋を押さえた。
隼の剣が少しだけ掠っていただろうか。

「あ・・・剣で・・!?
 ごめん。びっくりしたよね。」

「でも大丈夫よ。大して血も出てないわ。
 少しずれてたら、頚動脈をざっくりだったかもしれないけど。」

その言葉にあわててホイミを唱えて、
自分の行いを後悔したカインであったが、
それでも、防ぎたい事があったのだ。
 
「ごめん・・。
 でも、気をつけて、今のデビルロードの魔法は・・
 メガンテだよ?」

「えっ・・・ええっ!?」

その言葉にマリアは絶句して、そしてぞっとした。
自分の命と引き換えに、相手の命を奪う魔法だ。
その魔法を唱えてカインが命を失ったのは記憶に新しいところだ。

メガンテは唱えられたら最後、
どんな防具でも、回避することは出来ないだろう。
唱えられる前に何とか食い止めるしかない。

それが分かっているから、カインは武器を投げ捨ててでも、
何とかそれを制止したのだろう。

少しずれていたら、マリアに刺さっていただろうが。

「あ・・ありがとう・・気をつけるわ。」


マリアがそう言ったとき、
残されたギガンテスが大声で咆哮した。

どうやらマヌーサの効果が切れたらしい。

「ギガンテスは僕の剣だとほとんど通じないから・・
 魔法の方が良いかも。」

「そう言えば、さっきあなたデビルロードのベギラマを
 どうやって回避したの?」

デビルロードのベギラマが一瞬消えたように見えたが。

「え・・?あ、それはー。
 あーー話すと長くなるから、後で。
 でも今、僕炎の魔法、絶好調みたいだよ。」

「・・??」

カインは今では手に吸い付くように炎を扱えるようになっていた。

少し前から自分の唱えた炎ならば、
対象にぶつかる直前に消す事だって出来ていた。
なら、自分以外が唱えた炎はどうだ?

いつかアレンが言っていた。

『じゃあ炎の魔物はなんで炎がきかねえんだ?』

これは、実際には炎を受けてもダメージにならないのではない。
その魔物なりに炎を解釈し、消化しているのだ。

おそらく、炎型の魔物は、
それがまるで息を吸うかのように自然に出来るんだろう。
もちろん人間であるカインは同じようには出来ない。

それでも同じ精霊の力を使って、
自分と同じやり方で唱えられているベギラマの炎であれば・・
そう思って、自分なりに解釈してみたのだ。

だから、消すことが出来た。

今なら・・両手でだって、ベギラマが唱えられそうだった。

ちょうど今なら両手が空いている。

ギガンテスに向かって、試してみようか・・・

そう思ったカインであったが、実際には魔法を唱える機会は
訪れなかった。

「うおおおおお!!!!」

激しい裂帛の気合とともに、
巨大な棍棒を持つギガンテスの右腕が斬り落とされたのだ。

「・・・・・・!」

天高く飛び上がって、ギガンテスの腕を斬り捨てるような荒業は、
カインには出来ない。それが、出来る人間はただ1人だ。

「アレン・・・・?」

身体をくるくると器用に回転させて、
アレンはカインたちのそばに着地した。

「アレン!アレン頭痛はどうしたの・・!?」

「はぁ・・!?
 こんな傍でドンパチやられて、寝てれるわけないだろうが!!
 大体お前ら、なんで俺に声掛けないんだ!」

アレンは相当いらついているようだった。
また勝手に2人で戦って・・などと思っているのだろうか。

まぁ、怒られるのは戦闘が終わってからだ。

「さ、先にとどめを刺さなきゃ!」

「あ?とどめ?これ以上か?」

アレンが親指で後ろを指し示すのと、
ギガンテスが物言わずそのまま背後に倒れるのが同時だった。

先ほどのアレンの一撃が致命打となっていたようだ。

「す・・すごい・・。」

なんか、やっぱりアレンのような戦い方は出来ないなと
悟ることになったカインであったが、
問題はそれよりアレンの機嫌の悪さだった。

「アレン、あなたが体調悪そうにしてるから、
 私達が敵を追い払うことにしたのよ。
 あなたに怒られる謂れは無いわよ?」

どうやらアレンの不機嫌を感じ取ったらしいマリアが
そう釘を刺した。

「そんな気遣いいらねえよ。
 1つ言っとく。魔物が出たら全部俺にも知らせろ!
 お前らだけ行かすつもりなんて無いから。」

「アレン?」

なんかアレンがらしくない。
これは、自信満々で魔物は全部倒すんだと言ってるわけではない。
何か焦っているような感じがする。

「アレン、勝手に戦い始めたのは心配かけたかもしれないけど、
 僕らのことも少しは信頼してよ。」

「しん・・らい・・?」

カインの言葉に、アレンは盛大に眉を顰めた。

「出来るかよ・・・・。出来るかよ!
 お前は、また勝手に俺の知らないところで、
 死んだりしてるかもしれねえじゃねえか・・・!!」

「ア、アレン・・・。」

アレンを不安に思わせてるのは、自分だ。
今もまた、カインが知らぬ間にメガンテでも唱えているんじゃないかと
心配をかけたのだろう。

・・・・・そうだ、ちゃんとアレンと約束していなかった。

「アレン、大丈夫だよ。約束するよ。
 僕はもうメガンテしないから。決めたから。」

「ほ、本当か・・?絶対か・・?」

アレンは顔をあげた。
夜中一晩中ずっとアレンを悩ませてたのだろう。

「うん。だから、また少しは僕を信頼して欲しい・・な。
 僕はアレンのことを目いっぱい信頼してるから。」

カインは申し訳なさそうにそう言った。
アレンは、その言葉を聞けてようやく安堵出来た。

何故なら、こいつの性格から言って、
生き返っても同じように絶体絶命のピンチになったら
またメガンテをやりかねないと思っていたのだ。

「それは・・・どうかな・・。
 お前は結局、お前だろうし。」

「アレン?なんでさ。僕だって考えて・・」

「聞けよ。俺一晩中考えたんだ。
 お前が命を捨てなきゃいけないような、
 そんな状況になるのがいけねえんだ。」

そんな絶体絶命のピンチになってるようじゃ駄目なんだ。
もっともっと強くなる。魔物は全部自分が倒せるくらいに。
そして、自分がこいつらを強く引っ張って行けば良い。

「だから、俺は今まで以上に強くなる。
 すっげえ強くなる!!
 んで、お前らくらい俺が守ってやる。」

だから・・・カインに、メガンテなんて絶対させない・・・。

アレンがそう決意を語った所、
何故か神妙に聞いていたはずのマリアが、ぷっと笑い出した。

「な、なに笑ってんだよ、マリア!俺は真面目に・・!」

「ごめんなさい。でもあなた達って本当・・・・。」

カインもメガンテを唱えなくて済むくらい強くなりたいと言っていた。
そして、アレンもメガンテを唱えさせなくて済むくらい強くなりたいらしい。

そっくりではないか。

カインは、マリアが何故笑っているのか分かったようで、
少し恥ずかしそうに笑った。

「おい!お前らなあ、俺真面目に言ってんだぞ。
 何笑ってんだ!」

「ご、ごめん。ごめん。」

思わず謝ったが、笑われたことが不快だったようで、
アレンはさらにむーっと機嫌を悪くした。

「カインーー!!!
 大体お前も弱いのがいかんのだぞ!
 もう今からだ!今から俺と修行するぞ!!」

「ふ・・ふふっ。
 アレン、それは喜んで。」

「待ってよ、二人ばっかり強くなろうとしないで。
 私だって強くなりたいわ。」

いつだって、この2人ばかり強くなりたいと口にしているが、
それはマリアも同じことだった。
剣で同じように戦うことは出来ないだろうが・・。

「よーし、三人でやるか!
 まずは・・・。まずは・・うーん・・。
 腹ごしらえからだーー!」

「ちょっと、あなたね〜。今この流れでそれ!?」

「はは。アレンらしいね・・。」

そのアレンの言葉に、拍子抜けした二人であったが、
良く考えると朝ご飯も食べていなかった。

まずは腹ごしらえをして、修行はそれからだ。

ロンダルキアの敵は、今までとは桁違いに強い。
油断すると簡単に殺されそうになる。

まともに戦えるようになるまで、
しばらくの間この祠を拠点に、三人はレベルアップを目指すことにした。




- 続く-

2013/04/29
▲

     
    しばらく修行するそうですよ。ロンダルキアの敵って強いですもんね〜。
    書きたいところまで入らなかったんですが、「最後のほこら」は今回で終了です。
    次の章で最終決戦・・かな?
 
      ★1P漫画化しました
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