アレンの手には、普段カインが持つ銅の剣があった。
と言うことは、カインは今何も装備していない。
「アレン、何か作戦があるんでしょ?」
まさか、破れかぶれで、
アレンが銅の剣で斬りかかり、
カインが素手で殴りかかり、
マリアの効きもしない魔法を唱えて、
それで竜王を倒せるわけもない。
しかもカインとマリアの魔法力もあとわずかである。
「これで、竜王を斬れるわけがねえよな。」
アレンは使い古された銅の剣の刃先を見ながら言った。
「うん。斬れるわけないよ。悪いけど。」
「だよな。俺がこれで斬るのは竜じゃねえ。良いか。
お前らチャンスは一度こっきり。失敗したら全滅すると思え。
作戦はこうだ。」
アレンは2人に作戦を述べた。
「え、ええ!?それ、本気で!?やるの!?」
驚嘆の声をあげたのはカインだ。
「ああ、やる。やれる。やったことあるだろ。」
「ちょっと現実離れしてるんじゃないの?」
人間離れしているこの作戦にマリアも驚きを隠せない。
「だから、俺たちやったことあるから。できるって!」
アレンは確信を持っていった。
「でも、それって僕が失敗したら・・・。」
「そう。死ぬぜ皆。だから、頼むぜ、カイン。」
「・・・・・・・・え・・・・えええ!?」
カインは困惑していた。
アレンと共に戦うようになって、
最初は足手まといなばっかりで、
ようやく隣で戦うことを許されて、
いつも自分を引っ張って行ってくれるアレンが
自分に「頼む」と言っている。
それは嬉しいことのはずなのだが・・
「でも、でも・・・そんなの。失敗したら・・・」
・・・・皆が死んでしまう。
「や、やだよ。皆・・・・死んじゃうなんて。」
「何言ってんだ。死なないって。失敗しなかったら良いんだ。」
アレンは完全にカインがびびってしまっていると感じた。
アレンにはできないとは思わないのだが、
カインは自信が持てないようだ。
「自信持てよ。」
「だ、だって・・。」
煮え切らない態度のカインにアレンが吠えた。
「じゃあ、どうするんだよ!このまま死ぬのか!
お前さっきやれること全部やるって言っただろ。」
「う・・」
「お前にできないんだったら、マリアにやってもらうしか
ないんだが?」
アレンはマリアの方を見た。このまま死んでしまうくらいならば・・。
「そう・・・ね・・・。なら、私が。」
悲壮な覚悟を決めようとするマリアを見て
カインは毅然と首を振った。
「駄目、そんなの駄目!絶対!危ない!」
「じゃあ、やるんだろ?」
「う・・・うん。分かった、やるよ。」
カインはようやく覚悟を決めた様子だった。
でも、それは危険な役目をマリアにさせたくない、
それならば、自分がやるべき、という犠牲的な気持ちからであった。
マリアはカインに声をかけた。
「ねえ、カイン。私も絶対大丈夫だと思う。
自信を持って。あなたは・・・強いんだから。」
マリアのその言葉にカインは目を見開いた。
「え・・・?」
呆けている様子のカインを見て、アレンはその背を思い切り叩いた。
「いったー。何するのアレン!」
「気合注入だよ!行くぞ。お前ら!」
ようやく3人は覚悟を決めた。
その様子を見ていた竜王。
自分が弱いと罵ったロトの子孫。
ひねり潰し、今のうちにその芽を摘んでしまうことは
容易く思われた。
しかし、今目の前で自分を見上げるその姿は
まだ何かをやりそうな表情をしている。
これだけの実力差を見せても、まだ気持ちが死んでいない。
なるほど、さすがにロトの子孫と言ったところか。
「だが、最早どうすることもできないだろう?」
「そう思うなら、打って来いよ。早いとことどめを刺さないと、
何するか分からないぜ?」
アレンが竜王を挑発して、一歩前に出る。
「やはり、勝負をするのはお前だな。」
竜王はアレンを睨みすえる。睨み返してアレンは叫んだ。
「悪いけど、俺じゃなくて、俺たちだよ!」
「マリア、魔法だ!カインは俺の真後ろ行っとけ!」
アレンはすかさず2人に指示を出す。
マリアは杖を天にかざして、魔法の構えだ。
魔法を使えるのは、これ一回きりだろう。
「ええ・・・・行くわよ。マヌーサ!」
ありったけの魔法力をこめてマリアはマヌーサを唱えた。
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「またそれか!」
しかし、マリアの出した幻惑の幻は再び竜王を包み込むことに
成功した。
「よし、マリアお前天才だ。もう下がってろ。」
「ええ。」
マリアを下がらせて、もう一歩前にでるアレン。
今、竜王にはいくつもの幻が見えている。
幻に苛まれている竜王の攻撃は空を切る。
いくら強力な攻撃でも、当たらなければ意味が無い。
「ほら、そんなんじゃ、俺に当たらねえぞ。」
アレンは打撃攻撃を流しながら、竜王をさらに挑発する。
「こしゃくなこと。それならば、まとめて貴様ら焼き尽くしてくれよう。」
竜王は大きく口を開くと、激しい炎をアレンに向かって噴出した。
これならば、いくつ幻が見えていたとしても
全てを焼き尽くせば済むこと。
だが、
それは思惑通りだったのだ。
「それを待ってたんだ!」
アレンは竜王の炎を目の前に見据えて、
銅の剣を下段に構えた。
「これなら、この剣でも・・・、ドラゴンは切れなくても、
炎ならぶった切ってやる!!」
ルプガナの街でのカインとの戦いでつかんだコツ。
あのとき、ギラの炎を剣で切り裂くことができた。。
炎の規模は違うが、
今の自分は絶対にできると確信していた。
後ろにカインとマリアがいるのだ。
「いっけえええーーーー!!」
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アレンの剣の切っ先が斜め上に一文字に
斬りあげられた。
そして、その剣の動きとあわせるように、
竜王の発する炎は斜め一文字に斬り開かれた。
「・・やった!できたぞ!」
「炎を真一文字に斬り裂いただと・・・・・・!??」
実際斬り裂かれた炎は真っ二つに広がり、背後を焼き尽くしている。
だが、アレンの後ろにいたカインとマリアには
ダメージはなかった。
「行って来い、カイン!」
その言葉を合図に力強く頷いて、カインが駆け出した。
カインがアレンの横を走りぬけ、
未だ吐き出した炎がくすぶる竜王の眼前に飛び出した。
ぎろりとこちらを睨みつける瞳は
今まで見てきたどんなモンスターのものより
恐ろしい。
思わずその眼光にひるんでしまいそうになる。
でも今まで何度もアレンは竜王だけではなく、
全ての魔物に対して、至近距離まで近づいて、
この恐ろしい眼光を受けながらも魔物を倒してきたのだろう。
そう思うと、自分はどれだけアレンの背中に
守られてきたのかと言う事に気づく。
カインも残り少なくなってきている魔法力の全てを
ここに賭けるつもりであった。魔法の詠唱を始め、
両手に魔法の炎が宿る。
普通に撃ったら効かなかったベギラマだが、
さすがに『口の中』だったら、そうはいかないだろう。
これもルプガナでグレムリン相手に使った手であった。
「大口開けてたら、・・・・火傷するよ!!」
両手を竜王の口に突っ込んで、
全力で唱えた。
【 挿絵を見る 】
「ベギラマーーーー!!!」
大きな炎がその口の中で爆発した。
「ぐああああああーーーーーーー!!」
竜王が戦いを始めてから、初めて身をよじるようにして、暴れ、苦しんでいる。
「やった・・・・・。効いた。」
魔法の成功を実感したカインであったが、
魔法力を使い切ったことで、ふと身体の重さを感じた。
「おい、何やってんだ。早くさがれ!」
その場を動かないカインにアレンが声をかけた。
その声が届くのが先か、竜王が動いたのが先だったのか、
その差は刹那ほどもなく・・・
竜王はその牙をカインに向けた。
開いていた口を閉じ、むき出しにした牙をそのままに
カインの両腕を噛みしめたのだ。
その顔が激しい苦痛にゆがむ。
「っーーーー!!う、うわ、ああ!!あああ!!!」
竜王の口から血が滴り落ちる。
竜王は怒りのままに、カインの両腕を噛み斬ろうとする。
「カイン!!」
「ば、馬鹿!!何やってんだ!!」
下で見ていたアレンとマリアも色をなくして叫んだ。
このままでは両腕を噛み切られてしまうだろう。
アレンは思わず飛び出した。
「離せ!離しやがれ!!」
銅の剣で思わず竜王の身体に斬りかかってしまったが、
やはり傷一つ付けられない。
「離せって言ってるんだ!!!!」
渾身の力で斬りかかった。が、しかし、折れてしまったのは
銅の剣の方であった。
「あ・・・っ・・・・。」
「アレン!」
折れてしまった。最後に残った剣を折ってしまった。
「アレン、落ち着いて!竜王を斬るのは無理よ。」
冷静さに欠くアレンにマリアが声をかけた。
「カインを助けましょう。」
「ああ・・・・。でもマリアお前、さっきので魔法力が尽きたって・・」
「まだ私はやれるわ!あなたにもらった魔道師の杖があるから!」
それだけの台詞でアレンはマリアの考えを理解した。
マリアはそういうと、魔道師の杖を使い火の玉を作り出した。
その小さな火の玉で狙ったのは、竜王の瞳であった。
竜王がまばたきを起こす程度の小さな炎。
でもそれで、十分だった。
少しの隙が出来たその間にアレンは駆け出し、
カインを抱え、何とか助けることが出来た。
「おい、大丈夫か。カイン。」
「うん・・・。い、痛い・・けど・・・・ごめん。失敗しちゃったかな・・・・。」
その両腕は噛み千切られてはいなかったが、血みどろであり、自由が利かない。
すぐさま回復をしたくとも、もうそれだけの魔法力がなかった。
魔法力どころか、剣も折れ、もう戦う術がなかった。
竜王は自分達をあざ笑い、そして殺してしまうのだろう。
カインに声をかけた。
「そんなことない。大成功だった。俺たちはやれること全部やったんだ。」
「アレン・・・。」
だから・・・・・・これで、自分たちの完敗だ。
アレンは覚悟を決めた。きっと竜王は自分達を殺すのだろうと。
だが、竜王はその後何も攻撃してこなかった。
「な、なんだよ。殺すんなら、とっととやれば良いじゃないか。」
覚悟を決めたアレンの目の前で竜王は笑い出した。
「ふはははは!!!!
いつ我がお前らを殺したいなどと言ったのだ。」
「・・・・・・・・・・は?」
言わなかったっけか?長年の因縁を晴らすとかなんとか。
「なるほど。ロトの血とは侮れないものだ。
だが未熟なお前達だ。このままではハーゴンは倒せまい。」
「え・・・はあ・・・・?」
思わず呆けてしまうアレン。
死の覚悟を決めた割りに、竜王からは殺気が消えている。
「殺すつもりないの・・?僕達?」
「ふふふ。3人ともまだ未熟。だが、3人揃えば我に手傷すら
負わせることができると言うことだ。」
「?・・・何が言いたいのかしら?」
カインもマリアも先が見えていない。
「良いだろう。」
竜王は深々と何かに納得したらしい。だが、こちらは何が何やら
さっぱりである。
「何が・・・良いだろう・・・・だよ。」
首をかしげるアレン。
そして、竜王は高らかに宣言したのだ。
「ロトの剣をお前達に返そう。そしてハーゴンを倒して参るが良い!!」
- 続く -
2010/10/24
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