ルプガナ 2

宿でゆっくり休息を取った翌朝、俺達 は航海を取り仕切るという
長老の元を尋ねた。

「あの・・・はじめまして。ルプガナの長老様でしょうか?」

立派なお屋敷に鎮座しているのかと思いきや、
長老は港に隣接される仮設の小屋のようなところにいた。

「誰だ、お前らは。」

長老らしき人物はぎろりと3人をにらみつけた。

「アレフガルドへ行きたくて、船を求めてこのルプガナへと
 旅してきた者です。長老様が航海を取り仕切っていると聞いて
 こちらへと伺いました。」

カインが恐る恐る尋ねた。

「街のものに聞かなかったか。
 今アレフガルドへの船なんて出ていない。」

「聞きました。でもどうしても行かねばならないのです。
 危険な航海であることは承知しております。
 船を一隻貸して頂けないでしょうか?」

長老はうろんげにカインを見た。

「どこの馬の骨ともしれない連中に、貴重な船を
 貸せる訳が無いだろうが。
 あんたらも今や海にも魔物たちが巣食っているのは
 知っているだろう。無駄に命を落とすだけだ。」

「心配しなくていいよ。じいさん、俺達強いから。」

横からアレンが口を挟んだ。

まぁ普通だったら「危険だから船が出せない」は納得の理由だろうが、
俺達は危険だからこそ、平和を取り戻すために、今船を必要としているのだ。
危険は理由にならない。

「あんた方がどんなに強いか知らんが。
 そもそもそんな船に誰も乗組員は乗りやしない。」

・・・・

3人は顔を見合わせた。

当然自分達は航海術などあるわけではない。
熟練の船乗りでも同乗してもらえれば助かるが、駄目なら
自分達で船を操縦することもやむを得まいと思った。

「貴重なルプガナの乗組員の方々を危険にさらすつもりは
 ありません。せめてそれなら航海術を教えて頂けませんか?」

そういうと長老は笑い出した。

「はっはっは。お前達は航海の恐怖を何も分かっちゃいない。」

そういうと長老はさっさと手をふり、帰るよう言った。

「馬鹿馬鹿しい。とっとと帰りなさい。」




とりつくしまもなく、追い出されてしまった。

「はー。頑固じじい!」

アレンは悪態をついた。

「こまったねえ、ルプガナに来たら船に乗れるんだと思ってたよ。」
「そうね。ただ私達だけで船の操作をするのは、やはり無理があるわ。」

まぁ・・実際そうだろう。自分達だけの航海は無理がある。
船など一度も操縦したことないのだから。

「あーもう、泳いでいくか?アレフガルド。」

アレンははるか東の大陸を見つめながら言った。

「馬鹿ね、無理に決まってるじゃない。
 大体アレフガルドに着いたらそれで終わりって訳じゃないんだから。」




3人はどうしたものかと港からの道を引き返していた。
そこに昨夜宿屋で出会った大男が通りがかった。

「お、兄ちゃん達。また会ったな。船のほう首尾はどうだい?」

大男は知った顔だと気さくに話しかけてきた。

「ぜんっぜん駄目だった。頑固で聞いちゃくれない。」

「はっはっは、そうだろ。うちの頭ぁ、最近かたくなになってるからな。」

「頭?」

大男は自分が長老の出す船の乗組員であることを告げた。

「じゃあ、あんたが船出してくれたら、問題解決じゃないか。
 頼むよ。船一隻、あとで必ず返すから。
 うーんと・・・信頼ならないんだったらローレシアにつけておいてくれて良いから。」

アレンはとうとうローレシアの名前まで出して交渉を始めた。

「ローレシア?えらい遠方の国じゃないか。あんた達、皆ローレシアの人なのかい?」

「いえ、僕はサマルトリアです。彼女はムーンブルク出身です。」

そう答えると大男は心底驚いた様子だった。
自分達があの砂漠を超えて、陸路でこのルプガナに来たことに驚いたらしい。

「あんた方どっか良い所のぼっちゃんかと思ってたけど、
 意外と旅慣れてるんだな。」

「昨日も言いましたが、僕たちどうしてもアレフガルドに行かないと行けないんです。
 どうか船を出してもらえませんか?」

もう一押しとばかりに3人は頭を下げた。

「俺に言われても頭が船を出さないといえば、仕方ないさ。」

大男はお手上げとばかりに両手を広げた。

「どうして長老は航海を取りやめてしまったのですか?
 やはり魔物たちが海に出るようになってしまったからですか?」

「いや、それもあるが。長老の息子が航海の最中魔物たちに殺されてしまってね。
 航海術に長けた船長だったんだが、それ以来長老も火が消えたように
 落ち込んであの様子だ。」

なるほど・・身内が魔物に殺されてしまっては、気落ちもするだろう。

「あんた方もどんな理由でアレフガルドへ行くのか知らないが、
 死んじまうのがオチさ。あきらめな。今やこの世界は魔物だらけだ。
 俺達海の男達は商売あがったり。飲まなきゃやってられないぜ。」

やはり船は出せないという結論であった。



最早当てもなく街の中をさ迷っていた。

「いやいや。『船は出せん』と結論付けられても困るんだけどな。」

「なんとか長老様に僕達のこと認めてもらえないかな。」

あんまりやりたくなかったが、自分達が一国の王子であると
身分をあかすしかないだろうかと思った。
一国の王子が国を代表して船を依頼してると告げてみては
どうだろうか。

「でもアレン・・・僕達、そもそも国に『アレフガルドへ旅をします』
 なんて伝えてないよ。」

あ。

・・・・・そういえばそうだった。
マリアを助けてそのまま旅立ったが、
その旅の許しはローレシア・サマルトリア両国の王に許可を
もらったものではなかった。

「今更そんな事言っても、来ちまってるんだからしょうがないだろ。
 国許には後から連絡を入れるしかないだろう。」

「・・・そうだね・・・・。」

「よし。んじゃ、その作戦で行くしかないか。」

やや気の進まない作戦ではあるが、もう一度港へと向かうことにした。



その時、ふと空気の乱れを感じた。
遠方から悲鳴が聞こえる。

「え・・?今何か聞こえなかった?」

「悲鳴だわ!!誰か街の人が襲われてるのかもしれない!」

3人は悲鳴の聞こえる方角へと走った。

「何だ?この街は、街中にも魔物が出るのか!?」


駆けつけた先では、一人の女性が襲われていた。
その相手は二匹。だが人間の子供のような大きさであった。

「な、なんだ!?あいつ!?あれは魔物か?」

子供のようなサイズではあるが、体の色は不気味な紫色で
羽が生えていた。

「グレムリンだ!」

カインはギラを唱えて、グレムリンは敵襲に驚いて飛びのいた。
敵が飛びのいたのを見て、マリアは襲われていた娘の元に駆けつけた。

「大丈夫ですか!?」

マリアは女性にべホイミを施した。襲われていた傷は癒された。

「あなた方は・・?」

そう尋ねる女性に、マリアは「正義の味方よ。」とだけ答えた。


「なんだ、ちっこい魔物じゃないか。楽勝じゃないか?」

アレンは隣のカインに尋ねた。

「あいつらは子供のような大きさだけど火を吐くというよ。
 油断しないで。」

「なるほど。」

アレンは油断なく剣を構えると、一匹に斬りかかった。
狙いはピョンピョン飛び跳ねて小賢しいその羽。

ザシュ!

アレンの一撃はグレムリンに確実なダメージを与えた。

「よし、どうだ!」

確実な手ごたえを感じたアレンが敵に向き直ると
グレムリンはホイミを唱えた。グレムリンの傷は回復した。

「げ。回復呪文も使うのか。」

意外と曲者のようだ。だが、アレンの表情は変わらなかった。
あの砂漠を越えてきた自分達のチームワークが、
こんな魔物に負けるとは思わなかった。

「よし。お前ら、本気で行くぜ!」

その号令の元に、マリアがバギを唱えた。
上空を飛ぶグレムリン2匹に確実なダメージを与える。
だが、グレムリンも即座にホイミで回復した。

続いてカインはギラを唱えた。
ギラはグループ呪文ではないため、一匹にダメージを与えるにとどまった。
しかも、バギとギラを受けてもまだ敵は倒れていなかった。

「・・・・・くそっ・・」

カインは悔しそうにつぶやいた。
その隣でアレンは叫んだ。

「手を止めてる場合じゃないぞ!」

グレムリンが大きく口を開いて、炎を吐きだした。

巨大な炎は3人全員に襲い掛かった。
アレンとカインはとっさに直撃を避けた。
しかし女性をかばうように立っていたマリアは逃げることが出来なかった。

「!」

マリアは女性をかばうように覆いかぶさった。

「!・・・マリア!!しっかりして!」

カインは思わずマリアの元へ駆け寄った。
マリアはうずくまっている。深い火傷をおっているようだった。

「・・大丈夫よ。」

気丈にマリアはそう答えた。どうやらかばった女性も無事のようだ。
すかさずホイミをしようとするカインをさえぎってマリアは言った。

「回復なら自分で出来るわ。それより敵を倒さないと!」

見るとアレンは再度斬りかかって、グレムリンのうち一匹をしとめていた。
カインは今度は剣を手にして、グレムリンに斬りかかった。
その一撃はグレムリンの胴体に深々と突き刺さった。

だが、死に切れないグレムリンは再度口を大きく開けた。

「カイン!また炎だ!避けろ!」

アレンがとっさに叫んだ。
でも・・・避けたらまた全員に炎が降りかかる。

そう思ったカインは、自分の左手を
火の玉が生まれつつあるグレムリンの口の中に突っ込んだ。

その直後、激しい炎の爆発が起きた。

もくもくと辺りを煙が立ち込めた。

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「え!!・・・・お、おいカイン!」

一瞬何が起こったのかわからなかった。
だが、煙は徐々に引いていき、倒れていたのはグレムリンだった。

「無事か!カイン!!」

爆発の影響か、所々火傷していたが、どうやら無事のようだった。

「お前何やったんだ?」

アレンは今の一瞬に何があったのか分からず尋ねた。

「グレムリンの炎は全体攻撃だから、マリアやそちらの娘さんが
 危ないと思って、とっさに口の中に手をつっこんで魔法を唱えたんだ。
 どうやら僕の方が一瞬早かったみたいで、良かったよ。」

少しタイミングが遅れていれば黒焦げになって倒れていたのは
カインの方だろう。

「お前、無茶するなあ。」

アレンはあきれた風に言った。

「ごめん。アレンみたいに一撃で倒せたら良かったのに・・・。」

「まぁ、無事で良かったさ。」

アレンはカインの肩を叩いていった。
マリアもべホイミを唱えて立ち上がっていた。

どうやら街の娘も無事のようである。

「助けて頂いて、ありがとうございました。
 あなた方お強いんですね。」

娘は深々と頭をさげた。

「いや、それほどでもないけど。。無事で良かったよ。」

アレンが笑って応えた。

「どうか、お礼をさせてください。」

「お礼?」

「この魔物たちがこの街に生息しだしてから、私達は
 いつも危険にさらされていました。
 その魔物を成敗してくださったんだもの。
 是非お礼をさせてください。」

欲しいものと言ったら、あれしかない。
船だ。

でもこのような街の娘に頼んでも仕方がないだろう・・と思ったが。

「航海する船をお探しなのですね!
 私の祖父が、航海を取り仕切る長老なのです。
 きっと希望を聞いてもらえるよう、祖父に伝えてみますわ。」

3人は顔を見合わせた。

助けた娘は何と長老の孫娘であった。
こういうことがあるというのは、運命の導きであろうか。

一行は再度港の長老の元へと向かったのであった。






+++




「お待たせいたしました。お入りください。」 

話をする間、しばらく外で待つようにと言われていた彼らに
声がかかったのは、かれこれ1時間後。

やはりかなり交渉は難航したのだろうか・・・
と思いつつ、長老の元へと進んだ。

相変わらず長老はしぶーい顔で椅子にかけたままだ。

「あ・・あの・・・・?」

恐る恐る話しかけると、長老は重い口を開いた。

「話は聞いた。
 孫娘を助けてもらったことは礼を言おう。」

「いえ・・」

しかし重い口から告げられた言葉は絶望的なものであった。

「お前達の希望も、娘の嘆願も聞いた。
 だがしかし船は出せん。」


!!  なんって石頭じじいだ  !



やっぱり頼む相手がまずかったのか、諦めるしかないのかと
アレンは絶望的な気持ちであった。

「やはり、どうしても船を出しては頂けないのですか?」

ダメ押しのようにカインは長老に尋ねた。

「あんた方の気持ちは分かった。それにその実力も孫から十分聞いた。
 魔物相手にどれほど戦えるのかをな。」

「だったら・・!」

抗議の言葉をさえぎるように長老は続けた。

「しかし海は危険すぎるのじゃ。ベテランの航海士がいても
 海の荒波と魔物とを同時に相手にすることはできんじゃろう・・。
 ましてあんた方は航海術の経験がない。とても無理だ。」

ベテランの航海士、そう、長老の息子が海で遭難したように・・。
そう言いたかったのだろう。

ため息をついた3人の後ろからふいに声がかかった。

「もう、良いじゃないか頭。」

あの例の大男であった。

「お前か、何を昼まっから酒ばかり飲んでふらふらしている。」

長老は酒瓶片手に現れた大男をとがめた。

「船には俺が乗ってやるよ。」

男は自分を指差して言った。

「本当か!?あんた俺達の船の航海士になってくれるのか!?」

アレンは驚いて男に再度確認した。

「いいだろ?お頭。」

長老は不機嫌そうに聞いた。

「何故だ?何故見ず知らずにこいつらに肩入れする?」

「あんたの自慢の息子ほどじゃあないけどな。
 俺も最近は近海の漁業ばかりで飽き飽きしてたんだ。
 遠くへ航海してみたくってな。
 それにな・・
 さっきの戦いっぷり見てたよ!あんた達強いじゃないか!」

大男は大声で笑ってアレンの肩を叩いた。

「どうも・・・。」

「魔物たちは、あんた達がやっつけて、
 荒れた海は俺が戦う。これで良いんじゃないか?」

大男はそう提案した。
アレンはもう一度長老の顔を見た。
相変わらずの渋い顔だったが・・・

「仕方ないな。船の航海を許可しよう。」

「やった!!」

とうとう長老が折れて許可を出してくれた。

「よし。じゃあ、よろしくな。おれの名はミゲルって言うんだ。」

「ああ、よろしく頼む。俺の名はアレン。」
「カインです。」
「マリアと申します。」

そして4人は手を取って船旅の協力を誓い合ったのだった。





+++




ようやく無事に船出の用意が整い、
アレンは晴れがましい気持ちで宿へと向かった。

今日1日は戦いもあったため、宿で休息を取り、
明日航海に出ようということになった。

「よかったわね。無事に出航できそうで。」

マリアは二人に声をかけた。

「ああ、どうなることかと思ったぜー」

「明日は船出の準備もしないとね。武器防具も揃えたいわ。」

「そうだな。」

アレンとマリアは明日からの船出のことで
頭がいっぱいであった。



「ねぇ・・・。」

そんなアレンにカインが声をかけた。

「アレン、ちょっと良いかな?」

「ん?」

「この間も言ったけど・・落ち着いたらお願いしたいことがあるって。」

「ああ。」

ドラゴンの角で言ってたあれか。

「何だったっけ?剣が刃こぼれしたんだっけ?」

アレンは自分が昨日想像した質問が当たっているかと思って聞いた。

「刃こぼれ・・?何それ?」

どうやら違ったようだ。

「あれ、違ったか。じゃあ何だ。」



カインはアレンの前に立って言った。

「僕と・・・」

「?」



カインの口から告げられたのはあまりにも意外な言葉だった。




「僕と・・・・本気で・・・・真剣勝負をして欲しい。」




- 続く -

2010/10/09
▲

へいへい、まだ引っ張りますよ。長いですよ、今回。
長老が頑固じじいすぎてアレンのみならず、私も泣けてきました(**;)

そしてカインが運命の告白を!まさかの反抗期か!?
うん、ここまで入れたかったから、今回話が長くなったのです。


 
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