ローレシア 8


アレン達とディアンを含めた4人は王の間へと走った。
一番安全と思っていた場所だが、今は大きな危険をはらんでいる。

あれから見かけていない悪魔神官が何をたくらんでいるのか、
それは明らかではないが、
最後の結界を破壊されたら黙ってはいないだろう。
次の危険が迫る前にさっさと破壊しておきたい。

アレンは強引に王の間の扉を開けた。

扉を開けた先には見慣れた父や母の顔があった。
クレハもいた。
皆何事も無く、急に開けられた扉にただ驚いたように
視線をこちらに向けている。

「アレン・・?どうしたんだ?何があったんだ!?」

父王が驚いて王座から立ち上がった。

「ああ・・いや、驚かせてすまない。」

アレンは息を整えながら、無事な様子をみて安堵した。

「アレン様!皆様!よくご無事で!!」

クレハは目を潤ませて感激していた。クレハは自分だけが避難したが、
アレンの無事を心から祈っていた。
無事な姿を見られたことで、ようやく胸をなでおろした。

「ああ、アレン、城内を襲う混乱については聞いていますよ。
 今どういう状況なのですか?何故ここへ??」

王妃は冷静にアレンに聞いた。
確かに状況だけかいつまんで聞いていたら不安になるばかりだっただろう。

そしてすぐ後ろにいたディアンに目配せをした。
魔石を早く破壊したかったのだ。
ディアンもその意図をすぐに把握した。

「王よ、先ほど私が預けた石をお返し願えますか?」

「石?ああ、これか。これがどうした?」

どうやらディアンは王に魔石を預けていたらしい。
王は懐にしまいこんでいた石を取り出した。

「父上が持っていたのか。それを一刻も早く
 破壊しなければならないんだ。渡してくれ!」

「なんだと?どういうことだ?
 これはローレシアを守る礎となる結界の
 楔となる石だと聞いていたのだが・・?」

どうやらディアンと同様に王も誤解しているようだ。

「違うんだ。それのせいで国中にルカナンの結界が
 張られているんだ。魔物たちも襲ってきている。
 今兵たちが戦っているが、結界は一刻も早く
 破壊しなければならない!!」

「本当か・・・!?」

アレンの真剣な様子に眉をひそめて真実を悟った王は
素直にその魔石をディアンに返した。

「王よ、申し訳ありませんでした。
 だがこれで危機は去るでしょう。」

ディアンはすぐさま魔法の詠唱を始めた。
爆発系魔法の詠唱のようだった。
一気に石を破壊するつもりのようだ。

これで危機は脱した・・

確かにディアンは多彩な魔法が使えるようだな・・
とアレンが思ったときだった。

まぶしい光が眼前に広がった。
あまりのまぶしさに一瞬目が開けていられなくなった。

「!?なんだ・・・!?」

そして、目を開けた次の瞬間
ディアンの体が怪しい黒い光に包まれた。

「え・・・・?」

最初ディアンの唱えた魔法の効力なのかと思った。

だが、その手のひらの石は砕けてもいないし、
第一、術者だったはずのディアンは苦悶の表情を浮かべていた。

「どうした?魔法の失敗か!?」

魔法が暴走したのかと思ったが、
そういうわけでもないようだった。

マリアはいち早く気づいて、
背後を振り返って、魔導師の杖を構えた。

「そこね!?悪魔神官!!出てきなさい!」

マリアの叫びにあわせて、悪魔神官がその姿を
あらわしたのだ。



「ふふふ。ディアンよ。
 ここまで良くやったと褒めてやろう。
 お前はロトの印を手に入れ、ロトの血族を今ここに終結させた。」

悪魔神官は上機嫌に笑っていた。

確かに今ロトの印はディアンが持っているし、
今この部屋にはロトの血族が期せずして集結していた。
ここを一網打尽にすればロトの血脈の多くが喪われることになる。

アレンは初めて見る悪魔神官に嫌悪感を抱いていた。
こいつが今ローレシアを混沌に陥れているのかと思うと
今すぐ一刀の元に倒したかった。

「お前が悪魔神官だな。覚悟しろよ。
 お前を切り捨てて、俺はこの国を守るんだ。」

アレンはロトの剣を抜き去り構えた。

「アレン王子よ。忘れているようだな。
 我々の脅威を。」

悪魔神官は不適に笑った。

「・・・・?」

「アトラスよ。出でよ・・・・!」

その一言で、
今まで何もいなかった空間に巨大な一つ目の化け物が現れた。
紛れも無く、先ほどアレンが戦って完敗した化け物だ。

「・・・・あ・・・」

「な、なんて巨大なの・・。」

「馬鹿な・・・。」

カインとマリアもあまりの巨体に、呆然とした。
そもそもルカナンは解けていないこの状況は絶対的に不利だ。
それに、今この部屋には父や母やクレハがいる。

「く・・・・。ディアン早くその石を砕け!!」

アレンはそうディアンに叫んだ。
しかし、ディアンは苦しげに身じろぎするだけで、自由に身動きが取れないようだ。

その様子を見てすかさずマリアが
杖を構えて魔石に向かって魔法を唱えた。

「ディアンさん、申し訳ありません!
 多少のダメージは我慢してください!!
 イオ!!」

だが、イオの爆発はディアンを取り巻く光の周辺に爆風を巻き起こしただけで
その光の内部には何の変化ももたらさなかった。

「そんな・・・!」

「なら、この槍で!」

次はカインが鉄の槍で魔石めがけて突きを繰り広げた。

だが、やはり槍の一撃は光の内部に損傷をもたらすことは出来なかった。

「無駄だよ。マリア王女にカイン王子。
 その光の結界はあらゆる魔法や物理的攻撃を無効化する。
 中の人間も動くことは出来ない。私の意図以外にはな。」

なんと厄介な魔法だろうか。
これでは外部からは手も足も出せない。
魔石にも手を出せず、ルカナンも解除できないと言うことだ。



「皆!こっちを見て!」

カインは状況を悟って、この部屋にいる皆に
すかさずスクルトの魔法をかけた。アレンとマリアにはスクルトは
2重の効果になっているだろう。

「カイン・・・!」

確かにこの状況では、落とされた守備力の補強をするには
スクルトしかないだろう。

「ふふふ。考えたな。
 だが焼け石に水とはまさにこの事だ。
 アトラスの強大な一撃を前にしてはスクルトなどは
 一枚の布切れに等しい。」

そういうと今までまるで眠っているかのようだったアトラスが
素早く動き出した。アトラスの振りかぶった腕がカインを襲った。

「わ・・・あぁ・・・・!」

巨体に似合わぬ素早さの一撃にカインは避ける間もなく
吹っ飛ばされた。
壁に叩き付けられたカインはずるずると倒れ落ちた。

「カイン!」

慌ててマリアが駆け寄っていった。

「カイン!しっかりして・・!」

「だ、大丈夫・・。ス・・クルトした・・から・・」

気丈にそう応えるカインであったが、こんな攻撃を二度もくらったら
命はないだろう。怪我は即座にマリアのべホイミの回復魔法で癒されていくが
暗澹とした気持ちであった。

「あ、ありがとう。」

「ええ・・でも・・・。」

そして、先ほどからの魔法の掛け通しでマリアの魔法力も
いよいよ限界が見えてきていた。
魔法の使えないマリアは、残る攻撃手段は魔導師の杖を使った攻撃
くらいしかできない。それではあの強敵にはダメージは与えられないだろう。

カインもマリアのその様子を悟った。

「マリア・・・。少し、下がっていて。」

かく言うカインも最早あまり魔法力が残っていない。
あと1つか2つしか魔法は使えそうに無い。
ここで無為にベギラマを撃ったところで状況は変わらないだろう。


アレンも二人の仲間の状況を把握していた。
先ほどから彼らは何度も何度も回復魔法を唱え続けているのだ。
いくらなんでも魔法力は無尽蔵ではない。

そう思うと、剣を構えた状況から動けないでいた。
敵は2人いる。
仲間も2人いるが、守るべき人も後ろに3人もいる。
攻勢にも出られない。
アレンは唇を噛んだ。


「絶体絶命のようだな」

悪魔神官は悠然と魔法の詠唱を始めた。

「あれは・・・イオナズン・・・!」

先ほどカインとマリアの二人を一撃にして戦闘不能にした魔法だ。
マリアは聞き覚えのある詠唱に戦慄した。

アレンも両手を広げて、背後の両親やクレハを守ろうとしたが
衝撃は避けきれないだろう。覚悟を決めようとした。


その時。

思いもよらなず、背後から爆風が吹いた。
その衝撃のあとに、体に覆いかぶさっていた嫌な『重み』が消えるのを感じた。


「!?
 なんだ?」

アレンが慌てて振り返った先にあったのは倒れこんだディアンの姿だった。

「ディアン・・!?」

アレンはうずくまるディアンに駆け寄った。
ディアンの手には粉々になった魔石があった。

「石が・・崩れた!?最後の結界が・・・解けたのか!!!」

「なんだと!?」

訳が分からないが、とうとう最後の魔石が破壊されたのだ。

「ディアン!?何があったんだ!?大丈夫か!?」

「成功・・・したようだな・・・・・。
 ふふ・・。魔法の詠唱なら終わっていた。外から破壊できないのなら
 中から爆発を起こせば良いだけ。」

ディアンは自爆を覚悟の上で先ほどの爆発魔法イオを唱えたのだろう。
体中に裂傷を負っているが、そのおかげで魔石が破壊できたのだ。

「無事ですか!?」

マリアとカインも駆け寄ってきた。

ディアンは体中に爆破のダメージを受けている。

回復をしなければ・・と思ったが、
アレンは魔法を唱えようとするマリアを制止した。
残り少ない魔法力は温存しなければならない。

代わりに懐から先ほど宝物庫で手に入れた薬草を取り出して
ディアンの口にぶち込んだ。

「もがっ!?」

「よくやってくれたな。ディアン。
 あとは任せろ。父上たちのところへ下がっていろ。」


ディアンは不服げ目で抗議しているが、
ふらりと立ち上がると素直に後退した。

アレンの表情は殊の外穏やかだ。
何か吹っ切れたような表情をしている。



「カイン。ちょっと耳かせ。」

アレンはそういうとカインにぼそっと何かを耳打ちした。

「え・・??良いの?」

「ああ、頼む。大急ぎでな。」

それからマリアのほうを向いて言った。

「マリア、悪いけど、なんかあったらフォロー頼んだぜ。」

「え・・ええ。」

仲間二人に対して何かを頼んだアレンは
ゆっくり立ち上がった。

そしてカインはアレンに対して背中合わせの状態になった。

「よし。じゃあ、行くぞ・・・!!」

その言葉を合図にアレンとカインは対角線上に
走り出した。





アレンは剣をもったまま悪魔神官に向かって走っていた。

悪魔神官はその姿を認めるとイオラの魔法で
アレンの進撃をとどめようとした。
その構えに気づいたアレンであったが、構わず突入した。

「やるなら、やれば良い!」

「馬鹿者め!
 イオラ!!」

イオラの魔法はアレンを包み込んだ。
そしてその爆風は部屋中に広がり、
そのため視界が閉ざされた。

反対方向に駆け出していたカインであったが
その爆発に思わず振り返った。

「アレン!?」

カインの声が耳に届いたアレンは
その場で叫び返した。

「大丈夫だ!!お前は走れ!」

「・・・・・っ、分かった!」

再び走り出したカインが向かったのは
部屋の後ろに避難していた王や王妃達の元。
先ほど最後の魔石を破壊したディアンもいた。

「王様、王妃様ご無礼をお許しください。
 どうか手を!クレハさんも!」

「え・・え・・・??」

王は急な事で何を言われてるのか
分からなかった。

「一体何をするつもりだね!?」

「避難します!」

カインは王の問いの即答した。
皆を連れてルーラするつもりだ。

「馬鹿な!今この状況で国を捨てて逃げよと!?」

王はカインのその提案を拒否した。
だが、ここにいては危険なのだ。

「いいえ違います。少し避難していただくだけです。」

「だが・・・・」

「お分かりではありませんか!?
 あなた方がここにいては、アレンが気になって
 いつものように戦えないのです!!」

「!!」

王は爆風に包まれた自分の息子に視線を向けた。
爆風は次第に落ち着いてきて、その姿が見えてきた。
アレンがいる場所は、敵と自分達の対角線上だ。
何かあればすぐに自分達をかばえる位置にいるのだろう。

確かに自分達がここで見ていても
応援するだけしかできない。
ならば、アレンの勝利を信じて避難した方が
アレンも戦いやすいだろう。

「わ、分かった・・・。カイン王子。」

王はカインに手を伸ばした。王妃もそれに従い、
クレハは王妃の手を取った。

「あなたも。僕の背に触っていて。」

カインはディアンにも避難させようとした。

「私もか!?」

「そうです。早く!」

ディアンは有無を言わせぬその剣幕に、しぶしぶ従った。

「皆さん、ありがとうございます!!では・・行きますね!
 ルーラ!」

カインが唱えたルーラの光は王や王妃を包み込み
空の彼方へと消えていった。





「よし。無事飛んで行ったな。」

アレンは背後は振り返らずに、
気配だけを悟って、安心したようにいった。
マリアはその突っ張った様子にふふっと笑った。

「これで安心して戦える?」

「そうだな。ま、ギャラリーが減っただけで
 別に、結果は何も変わらないかもしれねえけど。」

それでも、アレンは前だけを集中することができる。

アレンとマリアは、今大きな敵を前に
最後の戦いへと集中力を高めていった。



- 続く -

2011/04/08
▲

さぁ、終わらすぞー!あと一話で・・・・・。。
・・・スイマセン長くなって。

なんかカイン飛んでいっちゃってますが、
ラストはこの3人で締めたいと思います。

更新の活力。楽しんで頂けましたら是非ポチを。→