宝物庫は先ほど行った牢獄より手前にある。
厳重に何重にも鍵をかけられている。
だが、金の鍵で開けられない扉はなかった。
そして、ここもアレンにとって初めて入室する場所であった。
ごくりと最後の扉を開けた。
「あ・・・。」
「これはこれは、麗しきマリア王女。
そしてしばらくぶりです。アレン王子。」
うやうやしく礼を取ったのは
探していたディアンその人であった。
ディアンは驚きもせず、まるでアレン達が
ここに来るのを分かっていたようだった。
「久しぶり・・・だが、お前こんな所で何をしている。」
「ふふふ。」
アレンの問いに対し、ディアンは不適に笑った。
「ローレシア城内のどこを歩いていようと私の勝手でしょう?
あなたなどはこの混乱の時代にローレシアを出て行き、
この国の事も顧みず、世界中を自由気ままに旅していたと言うじゃないか。」
「気まま・・?」
「国民がどれほどの不安を抱いているのかもしらずに・・。」
「・・・・・。」
マリアは先ほどであったときと違ったディアンの攻撃的な様子を不振に思った。
「あなたが勝手な行動をしている間に
私がどれほどこの国を案じていたのか想像も出来まい。」
「ほー。お前の国を案じる行動ってのは
牢獄の罪人を解放したことなのか。」
アレンは解放されていた牢獄のことを指摘した。
「・・・?・・・それをどこで?」
「お前が開放したその罪人が、今この国にどんな
混乱を生じさせているのか分からないのか!?」
ディアンは一瞬驚いたような表情をしたが、
問いかけには応えずに沈黙していた。
「ローレシアの兵が何人も傷ついているんだぞ。
変な化け物まで出てきて、城の中で暴れていた。
お前がこの国を大事に思っているのなら、
すぐにやめさせろよ!」
アレンはディアンの胸倉を掴んで、怒鳴った。
先ほどのディアンの国を案じると言う言葉と
正反対の行動が全く解せず、許せなかった。
「っ・・・離せ。
分からないようなら、教えてやる。
私が望むものはローレシアの再生、再建だ。」
「はぁ!?」
「心配はいらぬ。
奴らはローレシアの国民には手を出さないと言っていた。」
奴らとは解放した悪魔神官のことだろうか。
「マリア王女、先ほど私が言ったことを覚えているか。
私は本気で言っていたのだ。」
「え・・?」
ディアンはマリアのほうを向いて言った。
マリアは身を硬くした。先ほどの馬鹿馬鹿しい求婚の話は
カインが一蹴したが、未だ本気だと言う。
だが、今となってはこんな怪しい人物の求婚など
耳を傾けるのも愚かしい。
「冗談じゃないわ。お断りよ。」
マリアにとっても今ローレシアを襲っている混乱は人事ではなかった。
その発端にこの男がいるのかと思うと許せる話ではなかった。
「そういうことだよ。マリアはお前なんかに興味ないってよ。
そもそも何なんだよ。なんでローレシアの再生なんて・・
この国になんの不満があったって言うんだ。」
アレンがディアンの胸倉を離して、その体を投げ捨てて
言い放った。するとディアンは高らかに笑い出した。
「それはあなたが一番分かっているのではないか?
次期王位継承者であるアレン王子?」
「はあ?」
「魔法も使えない人間がロトの国の王になるなど
未だかつてなかったことだ。」
「・・・・・・。」
「だが、あなたが健在のうちは、最早ローレシアの将来は
決まったも同然。」
「・・・・・・お前の狙いは俺だって言うのか・・・?」
「明らかに優れた人間がいるのに、他のものが王になるなどとは
滑稽ではないか。」
アレンは握り締めた拳に力をこめた。
「お前がどれほどのもんだっていうんだ!?」
「それではお見せしましょうか。」
ディアンはゆらりと手をあげて、ぶつぶつと魔法の詠唱を始めた。
カインは首を傾げた。全く聞いたことの無い詠唱だ。
「これは今は喪われし古代の魔法・・。
ヒャド・・!!」
ディアンの指先から発せられた冷気が目の前にいるアレンに
襲い掛かった。
「!?」
アレンはとっさにその腕で防御したが、
見る間にその腕が凍りつく。
「ヒャド・・・!?ラダトームの書庫で見た古代魔法・・。」
カインはその使い手がいたことに驚いた。
「アレン、大丈夫!?」
「問題ねえ。」
そう言うとアレンは凍りついた腕を壁にたたきつけた。
氷が粉々に砕ける。多少凍傷になっているが、大したダメージではない。
「なるほど。面白いもの見せてもらった。
で、それで?」
「もちろんこんなものは余興に過ぎない。
私にはまだまだ魔法がある。」
「そりゃあすげえ。」
二人で決闘でも始めそうな雰囲気に、
マリアがアレンの袖を引いて一石を投じた。
「待って!アレン、ディアン!
今は国の中で戦っている場合じゃないでしょう!?
今この国は大変な危機といえるのよ!?」
確かにその通りだ。
今も魔物たちがこの国を襲い、あの巨大な化け物だって
どこに潜んでいるか分からない。
「心配はいらんさ、マリア王女。
神官殿は国民に手を出さないと言っていた。」
余裕を浮かべた表情でそういうディアンを
マリアは睨み返した。
「何を馬鹿なことを!!
我がムーンブルクは悪魔神官の率いる軍勢によって
滅ぼされたのよ!あいつの言うことを信じるなんて
愚の骨頂よ!」
マリアに続いて、カインがその口を開いて、今の惨状を伝えた。
「そうだ。それにさっきだって、多くの魔物の軍勢がこの国を襲っていた。
そして既にローレシアの兵には何人もの
怪我人が出ているんだ。死者が出てもおかしくない。」
実際に彼らが兵達の負傷を治療したのはつい先ほどだ。
「それは本当か・・・?」
「本当だ。嘘だと思うなら見て来いよ。」
その言葉にディアンは眉を顰めて怪訝な表情を浮かべた。
「おかしい・・・。
神官殿はアレン王子のみを狙うと言ってたのに。」
ディアン自身もそれは腑に落ちなかったようだ。
「ああ?俺のみを狙う?
おお。狙われたよ!俺は訳の分からない化け物に襲われた。
これでお前の狙い通りか!?」
「襲われて何故生きている!?」
「ふん。簡単に死んでたまるかよ。
それに悪魔神官はマリアだって半殺しにしてるぞ。
それでもお前は神官の言うことを信じる気なのか?」
「そんな馬鹿な・・。
くそう、神官殿の言ったことは何もかもでたらめか!?」
ディアンは床を蹴り上げた。土ぼこりが舞い起こる。
その様子から推察すると、
ディアンには本当にこの混乱を知らされていなかったようだ。
「お前はそもそも悪魔神官と何を約束したんだ。」
「神官殿はアレン王子の抹殺を。」
「なんて愚かな・・!」
マリアは両手で顔を覆った。
「そして私がロトの印を持ち出すことによって
私を正当なるロトの継承者とすることだ。」
「ロトの印!!」
ディアンは隠し持っていたロトのシンボルマークが刻まれた紋章を取り出した。
それは片手に収まるほどの小さなエンブレムであった。
「なんて馬鹿な約束を!」
カインはロトの印を初めて見たが、
伝説のロトから始まり、そしてその後何百年と護られてきた
尊い紋章が、今魔物との取引に使われることが
許せなかった。
元々マリアとのこともあり、カインはこの男が心底嫌いであった。
「その紋章は、僕らの旅に必要なものなんだ。
お前が持ち出すなんて許さない!」
カインが鉄の槍を取り出して、そう言った。
「ふん。ロトの印は代々のローレシアの宝だ。
サマルトリアの御方にとやかく言われる筋合いなど無い。」
「何を・・・!」
「待て!」
今にも襲い掛かろうとするカインを制止したのは
アレンだった。
「話は分かった。
お前の目的はそもそも俺を亡き者にして、
お前がこの国の王となることか。」
「・・・・・そう言うことだ。」
「分かった。かまわねえぜ。」
「アレン!?」
アレンが何を言い出すのかとカインは意味が分からなかった。
悪魔神官の餌食となることを良しとするのか。
「確かにお前は昔から類まれな魔法の才能があったようだしな。
俺が一人いるだけで、お前が王にはなれないと言うのが
不満だって事だよな。」
まさにディアンの言いたいことであった。
「ふ。ふふ。
分かったようだな。自分の限界が。」
「何を言い出すんだアレン!!?
悪魔神官に国を売るような奴と、アレンとじゃあ
比べるべくもないじゃないか!!」
「お前は下がってろ。」
アレンは後ろ手に再びカインを制した。
「この危機を乗り切ったなら、国中の皆が見てる前で
俺はお前とサシで戦ってやる。
皆が、お前を認めるなら、俺は別に王位なんてものに固執しない。
お前に譲ってやっても構わない。」
「本気か!」
「アレン!?」
「アレン・・・!なんて事を。」
カインもマリアもアレンの言い出すことが信じられなかった。
「だけどな、その前にこの危機を乗り切らなきゃあならない。
お前は、その自慢の魔法でこの国を守れ。
全力で、守れ。
さもなければ、誰もお前のことなど認めやしない。」
「・・・・・・」
「それまではロトの印はお前に預けとく。」
「アレン、良いの!?」
「ああ。
王なんてものは皆が認めたものがなれば良い。
あいつの方が良いって皆が言うのなら、俺は構わない。」
「そんな・・。」
「本気だぜ。皆があいつを王と認めて、
その上で王位継承順位なんてものが邪魔だってなら、
俺はこの国を出て行く。」
「出て行くってそんな・・!!」
カインは驚いているが、
アレンにとって王位とは固執するべきものではないようだ。
「だけどな、俺はこの国で生まれて育って、この国が大好きだよ。
だから、絶対この国を守る。お前がそれを邪魔するんなら
絶対に許さない。
ついでに言うと、俺はお前に負ける気もしないけど・・」
「・・・・・・。」
「お前の目的は俺であって、
この国を混乱に導くことじゃないんだろう?
お前だって、この国のことは好きなんだろう?
その気持ちに嘘偽りはないな!?」
「・・・・・・・。」
「どうなんだ?ディアン!」
アレンはディアンに詰め寄った。
返答如何によって斬り捨てることも考えた。
しばらくうつむいて考えていたディアンであったが
顔を上げていった。
「そうだ・・・。私とてこの国は護るべきものだと感じている。
そこは間違いない。
良いだろう。私はお前の言うことを信じよう。」
「よし。
ああ、だけどお前がマリアに働いた無礼に関しては
問題が別だからな。後で覚悟しとけよ。」
よしというが、アレンは自分がディアンの策略により
殺されかけていたのだ。
しかしアレンはもうその表情に笑みすら浮かべている。
どれほどの心の広さがあれば許すことが出来るのか、
カインは信じられないものを見る気持ちだった。
「ところでこの宝物庫には魔石はないんだな。」
アレンは宝箱を物色しながらカインに話しかけた。
宝箱からは薬草やキメラの翼が見つかった。
どうやらロトの紋章以外は大したものはないようだったが、
使うかもしれないので、ありがたくもらっておくことにしいた。
カインとマリアは左右見渡したが、そういう気配はないようだった。
「魔石とはなんだ?」
ディアンは聞きなれない言葉に聞き返した。
「ああ、お前が開けた牢獄にもあったよな。
黒い魔力のかかった石。お前なら魔力もあるし、分かるだろう?」
「あれか。あれは国に結界を張るものだろう。見つけてどうするんだ?」
知ったように言うが、その内容をディアンは知っているんだろうか。
「結界ってお前・・・ルカナンの結界だぞ!?
今も兵達は魔物と戦っているんだ。
一刻も早く破壊しないと!!
あと一つなんだ!!どこにあるか知っているか!?」
「なんだと!?」
やはり知らなかったようである。
「あれなら神官殿が、この国の一番安全なところに
隠しておくように言っていたから隠しておいた。」
「はぁ!?どこに!?一番安全なところってどこだよ!」
「なんてことだ。王の間だ・・・・!」
- 続く -
2011/04/01
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