暗闇の中で2種類の声が響いた。
「ムーンブルクの王女が生きていたと言うのは誤算ではあるが、
ロトの血族といっても何ほどのこともなさそうだな。」
「ムーンブルク同様、組織的に動けば壊滅は時間の問題でしょう。」
「組織的?そんな必要はあるのか?
既にローレシアで一番の実力者である王子が手も足も出せず
兵もろとも打ちのめしたのだろう?」
「確かに・・・まだレベル的に、ローレシアの王子があのアトラスに
かなうはずもなく、また実際完膚無きほどの実力差を
見せ付けました。が・・・。」
「が?」
「あのアトラスに傷をつけたと言うのも事実。」
「ほう。」
「また生き残ったムーンブルクの王女がいち早く結界の罠に気づき
既にいくつかの結界の破壊に成功している。」
「ほほう。それでお前としては、侮らず、組織的に・・と言うわけだな。」
「御意。しかしご心配なさらずとも我々の力を使わずとも
ローレシアは内から崩れるかもしれません。」
「どういうことだ?」
「ちょっとした仕掛けを仕込みまして。」
「・・・・・良いだろう。『ここ』は全てお前に任せよう。
結果を楽しみにしている。」
「お心のままに・・・・ハーゴン様。」
そして2つの声は暗闇の中へと消えていった。
+++++
「まさか・・・こんなところにも・・・か。」
アレンは17年間この国で暮らしてきて、
自分が今まで一度も踏み入れたことの無い場所で
4つ目の魔方陣の魔石を発見することとなった。
「下の方、下の方と思って階段を降りてきたら、
こんなところがあったんだね。」
「地下牢・・」
4つ目の魔石があったのはローレシア中でも普段は決して入ることのない
地下牢であった。
「アレン様!ここは罪人のいる地下牢です。
アレン様のような方がいらっしゃるような場所ではありません!」
牢獄の門番兵は王子がこんなところに現れたのを驚いて
すぐさま立ち去るよう伝えた。
「ああ。用が終わったらすぐに出るよ。
出るからさ、そこの牢開けてくれよ。」
アレンはあろう事か門番兵に牢を開けるよう要求した。
「何をおっしゃいますか!牢を開けろなどと!」
もちろん門番兵は驚いてそれを拒否する。
「いや、何も罪人のいる牢を開けろって言ってるんじゃねえよ。
そこの・・・奥の・・空っぽの牢だ。」
アレンの指差した先は牢獄の中でも一番奥にある牢だった。
カインとマリアもそこにいた。何やら、この二人は牢の中を覗き込んでいる。
兵にそう伝えて、アレンは前を歩くマリアに合流した。
「あれなんだな?」
「そうね。間違いないわ。でも何故牢の中にあるのかしら?」
空っぽになった牢には見たことのある黒い石が転がっている。
これが4つ目の魔石に違いない。
「なあ、この空っぽの牢の中にいたのは誰なんだ?
何故空っぽになってるんだ?」
「そのようなこと、アレン様が知る必要のないことです。
さぁお立ち去り下さい。」
「必要ないことあるもんかよ。今何が起こっているのか、
お前もローレシアの兵なら教えてやるよ。」
頑なな様子の門番兵にアレンは、今ローレシアで起こっていることを伝えた。
最初はポーカーフェイスであった門番兵だが、目を見開いて驚いた様子だ。
「そ、そのローレシアを覆う結界の魔石・・とやらがあれだと言うのですか!?
そんなまさか!!」
「まさかって・・お前。・・・・マリア間違いないんだよな?」
アレンはマリアに尋ねた。元々地下のほうが怪しいと言い出したのはマリアだ。
「そうね・・手に取ったわけではないけど、発せられる不穏な気配からも
間違いないと思うわ。
私達は牢の中に入らなくても良いわ。
あの石を破壊さえできればいいの。開けてくださいませんか?」
「し・・・・しかし・・・・。」
門番兵は今ひとつ状況が理解しきれないようだ。
そこにカインが口を挟んだ。
「でも、変だね。ローレシアの結界が完成したのはつい先ほどなのに。
門兵さん、この牢は元々空っぽだったんですか?」
「いいえ・・・違います。」
「誰か、ここにいたのですね。それじゃあ、ここ数時間のうちに
誰か怪しい第三者が牢の中に立ち入るようなことはありましたか?」
「ああ・・・それは・・・・いや、しかし・・・・。」
門番兵は口ごもった。
「何かあったのか?」
「数時間と言うわけではないのですが、もう昨日のことですが・・。
ここにいた罪人は罪を許されたとのことで釈放されたのです。」
「マジでか!本当かよ!」
やはりこの牢の中で何事かがあったようだ。
「ええ、間違いありません。」
「それで、中の罪人はどこへ行った?」
「昨日のことです。
唐突にディアン様がやってきて、中にいた神官の罪は許され、
連れられていったのです。」
+++++
「んじゃ、あと2つだけだな。」
アレンは砕けた魔石の欠片を強く握り締めた。
すると石はボロボロと砕けた。
それほど、この石は頑丈でもないらしい。
そんな事を考えつつ、アレンはふと後ろを振り返った。
地下牢の階段を地上へと上がっていっていたのだが、
後ろの二人がどうにも憮然とした表情をしている。
「何?お前らどうしたんだよ。」
「ねぇ、アレン。ディアン・・様ってどんな人?」
アレンはカインのその質問に、うーんと首をかしげた。
「え?ああ・・・そうだなあ。ここの有力貴族って言うか
一応王位継承権もある俺の親戚らしいけど。」
「そうなんだ。アレンもお世話になってる人?」
「えー。世話に?なってねーよ。
あいつ昔からいけ好かない奴で俺何度もひどい目にあってるんだ。
氷の張った池にぶち込まれたりとか!まぁ父上には言ってないけどさ。」
カインとマリアはそれを聞いて、先ほど会った人物だと確信した。
そして先ほどの出来事をアレンに言うべきか、
意思を確認した。
「アレン・・・さっきさ、僕達その人に会ったんだ。」
「え?そうなのか?なんかされたのか?」
「うん・・・・それでさ。」
カインは先ほど自分達がディアンと出会ったこと、
そしてマリアに告げられたことをアレンに報告した。
「は・・!?なんだそりゃ・・!あいつ何のつもりだそれ!!
マリアと結婚しようって言うのか!?」
「そ、そんな不躾な言い方じゃあなかったけど・・・。
でも不躾だったよね。」
「そういう事よね。結局。」
マリアはあきれながらもそれを認めた。
「昔からおかしな奴だったけど、いよいよ変だな!
それであれか。さっきの牢獄の罪人を解放したことといい・・
ちょっとあの野郎を捕まえて聞いてみる必要があるかもしれないな。」
アレンはそう言って両の拳を握り締めた。
城内にいるであろうディアンの行方を捜そうとしたところ、
城下のほうから、必死の形相で走ってくる兵達の姿が見えた。
「アレン様ー!!アレン様!どこですかー!?」
兵達はどうやらアレンを探していたようだ。
アレンは両手をあげてそれに応えた。
「ここだー!何か用か!?」
「ア、アレン様!!」
兵はアレンの側に駆け寄って、荒い息を整える間もなく
話し出した。
「大変です!!」
「何が大変だ?何かあったのか?」
「ま、魔物たちの大群が、襲い掛かってきました!!」
「大群!?さっきのドラキーとかじゃなくてか!?」
「は、はい!巨大な大猿のような魔物や、
鎌を持った死神のような輩が・・!」
「・・・・・・・」
その報告を聞いて3人は顔を見合わせた。
「ローレシア周辺には出ない魔物だな。」
「ムーンブルク周辺に出る魔物たちと同レベルのようね。」
「・・・そうだね。」
「ああ、もう次から次へと何だよ、もう!!
何だってんだ!」
未だ国中に広まるルカナンの結界も解けていないし、
巨神やら悪魔神官やら、恐るべき強敵も完全に退けてはいない。
アレンは頭をかきむしる様にして、苦々しそうな顔でうめいた。
そんな苦悩するアレンに対してマリアとカインは冷静に
声をかけた。
「アレン大丈夫よ。
ムーンブルク周辺の魔物よ。倒せない相手ではないわ。」
「そうだよ。それにきっと・・この混乱の大本は
さっき聞いた釈放された悪魔神官だよ。
もしかして、黒幕は別かもしれないけど・・。」
一度はそのムーンブルク周辺の魔物により
国を滅ぼされているマリアだが、
冷静沈着に現在の自分達の戦力と状況を読み解いた。
カインも絶望はしていないようだ。
「アレン様!!どうしますか!?」
兵は若干冷静さを失ってるようだ。
「よし。んじゃあ、ひとまず俺達が加勢に行こう。
カインはついたら兵達にスクルトを頼む。」
アレンはカインにそう頼んだ。
「スクルト・・・そうだね。・・・了解!」
「出来れば、魔物の群れは、一気呵成に片をつけて
結界の方を始末つけたい。マリアも頼んだぜ。」
「ええ、分かったわ。任せて!」
「そんで、ディアンの奴を見つけて、締め上げる!
あ、でもさっきの化け物もどこにいるか分からんから油断はするなよ。」
「うん。」
「分かったわ。」
そう言うとアレンはロトの剣を抜いて走り出した。
すぐさまカイン達もそれに続いた。
魔物たちは城下の街には未だ侵入はしていないようだ。
ローレシアの兵達もこの有事に、よく堪えていた。
負傷をしているものはいるが、死人は出ていない。
中にはアレンが稽古をつけたスコアもいた。
アレンはよく頑張ってくれていると胸をなでおろした。
「よおーし!お前達、一旦下がれ!」
アレンの登場に喜んだ兵達であるが、いくらなんでも
王子であるアレンを最前線に残して避難することなど出来ない。
「しかし!危険です!それは出来ません!」
指示にすぐに従おうとしない兵に若干いらっとしたとき、
遅れて着いてきていたカインが追いついた。
「アレン、足早っ・・・。っと、ローレシアの皆さん無事で良かった。」
ふーっと息を吐くと、カインはスクルトの魔法の詠唱を行おうと思ったのだが・・
兵達は襲いくる敵たちと向かい合う形で、カインのほうを向く余裕も無い。
スクルトは、術者が目の前やすぐ側にいる人物に対して
魔法をかけることが多い。だが今兵達は広範囲にあちこちに分散しており、
これでは全員にスクルトをかけるには、何度も魔法を唱えなければならない。
「範囲が広いので、意識してもらわないと、全員にスクルトの効力が
行き渡らないかも・・・。」
「どうすれば良いんだ?」
「出来れば皆に一所に集まって欲しいんだけど・・。」
「では先に、今目の前にいる魔物たちを殲滅させましょう。」
そう言ったのはマリアだ。すでに魔導師の杖を手にしている。
「それが早いか。」
アレンはにやりと笑った。
そして魔物たちの群れの中に突撃していった。
ロトの剣でローレシア兵が苦戦しているマンドリルのに斬りかかった。
返す刀で、背後にいる魔物も斬り捨てる。
ルカナンの効力は消えていないので敵の攻撃には注意を払う必要があるが
格下の相手の攻撃などは受ける気は無い。
素早く動きアレンは敵の攻撃をかわしつつ、
的確なダメージを相手に与えていった。
マリアは少し後方からバギの魔法で、死神の群れを殲滅する。
カインも鉄の槍を右手に、魔物を切り捨て、
効果的に炎の魔法を操り威嚇して、敵が近づくことを許さない。
「す・・・すごい・・・!!」
スコアは自分達が苦戦を強いられていた魔物を、
次々と倒していくアレン達の戦う様子に目を見張っていた。
日々鍛錬を続ける自分達より圧倒的に違う強さを見せ付けられた。
「これがロトの子孫の強さ・・・!」
唖然としながらその戦いを見守っていた。
一方でアレンは自分の無力さを感じながら剣を振るっていた。
ローレシアに帰城して、父王と謁見したとき自分はなんと言ったか。
敵を、ハーゴンを必ず討つのだと、そう宣言したのだ。
その言葉の裏には多くの敵との戦いを経て、
自分達が強くなったのだと言う確信があった。
だが今この故郷の未曾有の危機に対して、
そして先ほど出会った強大な化け物のような敵に対して、
まだまだ自分達の力が小さいものなのだと感じずにはいられなかった。
竜王と戦ったとき、こてんぱんに完敗し
これ以上強い敵など世の中にはいないのかのような気がしていた。
だが、それは誤りだった。
世の中上には上がいる。
自分などより上はいっぱいいるのだ。
なんと自分は無力なことか。
アレンは手にしたロトの剣に力をこめた。
「いっけーー!」
アレンの振るった剣は、その激しい剣気を威力に変えて
目の前にいる魔物のみならず、離れた敵にもダメージを与えていた。
「すごい!アレン様・・・なんて闘気だ・・・」
スコアはアレンが直接触れてもいない敵を倒したのを見て驚愕した。
マンドリルもリザードフライもアレンの一撃で息絶えている。
その言葉には答えずアレンはふーっと息を整えてから、
再度剣を構え、残る魔物を見据え、神経を集中した。
「うわあ、アレン、すごい!!」
そんな中、場の雰囲気に似つかない素っ頓狂な声が聞こえた。
少し離れたところで同様に戦っているカインだ。
アレンが倒したマンドリル等の側に駆け寄っていっていた。
てっきり検死でもしているのかと思い、無視していたが、どうも違うようだ。
「アレンってばーー!」
その場で声をあげてもちっとも反応しないので、
カインは何かを手にして、駆け寄ってきた。
「アーレーン」
さすがに集中力を乱されたアレンは、噛み付くようにカインに吠えた。
「あんだよ!うるさいな!まだ敵いるだろ!休んでる暇ねえぞ!」
カインはきょとんとした表情をしている。
「いや、それは分かってるけど。
アレンこれ、狙ってやったんじゃないの?」
「はぁ!?何がだよ・・!」
そういうアレンに、カインは拾ってきた砕け散った黒い石を見せた。
今日何度か見ている見覚えのある石。結界の魔石だ。
「あれ!?これ、・・5つ目の魔石か・・・!?」
「やっぱり狙ってたんじゃないんだ。そうだよー。
これで残るはあと一つ。アレン、ついてるね!」
「そっか・・・!」
思わず笑みをこぼすアレン。
が、そもそも国中に結界を張られて、魔物の群れに襲われている今の状況の
どこがついてるんだ。不幸のどん底じゃないかと思うと、笑みがすぐに消えた。
「ぷっ・・。」
が、そんな真剣なアレンを前にカインが噴出した。
先ほどから何なんだこいつは。緊張感の無い。
「何がおかしいんだよ。」
「アレンさっきから、一人ですごい100面相だよ〜。
変なこと考えてるんじゃない?何考えてるの?」
「何って・・ついてるどころか・・・」
不幸じゃないかと、アレンがそう呟やこうとしたとき、
ドォーンと地響きがした。
はっと振り返ると、魔導師の天にかかげたマリアのイオラが炸裂したようだ。
マリアは先ほどから表情が変わることはない。
今何を考えているだろうか。
恐らく一体でも多くの魔物を倒すことしか今は考えていないだろう。
「マリアの前で言うようなことじゃねえな。」
「え?何?マリアのこと考えてるの?」
カインが若干気色ばむように聞いてきた。その様子に苦笑した。
「なんでもねえよ。ほら、マリアの魔法で、大体魔物ども片ついたぜ。
スクルトするの今のうちがチャンスじゃねえか?」
確かに襲撃してきていた魔物たちは、どうやら一掃できたようだ。
体制を整えるなら今がチャンスだ。
「あ・・そうだね!」
カインは頷いて、戦いを終えて一息つく兵達の元へと駆け寄った。
マリアも負傷する兵の元へ回復魔法を唱えるためと向かっていった。
「じゃあ、皆さんー。目をお借りします。
アレンとマリアもこっちを見てねー。」
カインは、十数人いる兵達の視線が自分を向いているのを確認すると
スクルトを詠唱を行った。
術者であるカインから、光が広がってゆく。
光は視線を向けていた兵達を一人残らず飲み込んで行き、
そして消えた。
カインは息をつくと、手を下ろした。
「成功か?」
アレンが声をかけた。カインが頷く。
「うん。大丈夫だと思うよ。」
「よし。これでもう少しまともに戦えるだろう。」
そう言って魔物の群れがやってきた方角を見つめた。
一旦敵は倒れたが、またすぐにやってくる可能性もあるだろう。
「アレン様、ひとまずここは大丈夫です。」
そう言って立ち上がったのはローレシア兵のスコアだ。
負傷はマリアに治療されたようで治っていた。
「アレン様には他にやらねばならないことがあるのでしょう。
どうぞ、ここは我々に任せてお行きください!」
お行きくださいと言われても、
結界はあと一つだし、ディアンを捕まえたいとも考えているが
行く場所が決まっているわけではない。
「なぁ、ちょっと聞きたいんだが、
ディアンを見かけなかったか?探しているんだ。」
「ディアン様ですか?誰か見たものはいるか?」
スコアは兵達に声をかけた。
すると、手をあげた者がいた。
「先ほどアレン様を探しに城内に入ったとき、
ディアン様は、宝物庫の方へ向かっていましたよ。
聞いてみると、魔物の襲撃に備えて、宝物を護りに行くのだとか。」
「宝物庫!?」
宝物庫などは、不振な人間に入って欲しくない場所NO1であろう。
それに、宝物庫と言えば、王に言われていたが、
ロトの印の眠っている場所だ。
ディアンが良からぬ事を考えている可能性がある。
「アレン・・」
カインもマリアもそれに思い至ったのだろう。
「分かった。急ごう。宝物庫へ行くぞ!」
- 続く -
2011/03/25
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