ローレシア 5


「うわ・・っわわ!」

アレンは目の前にいる化け物とどう戦うべきか
頭の中を猛烈な勢いで回転させながらも
なす術もなく必死に逃げ回っていた。

先ほどの化け物の一撃は辛くも避けられたが、
この攻撃で何度、城壁がボロボロと崩れ落ちているだろうか。

「ぐおおおーーー!」

一つ目の鬼は雄たけびを上げながら、
破壊の限りを尽くしていた。

「冗談じゃねえ、ぐおおーじゃねえぞ。
 城を内から壊されたらたまんねえ。」

アレンも何度か反撃を試みているのだが、
アレンの攻撃ですら化け物に大きなダメージを与えられないのだ。

ロトの剣に自分の剣気をこめた渾身の一撃でも
わずかな傷をつけた程度なのだ。
化け物にとっては、かすり傷のようなものだろう。

「信じられねえ・・。こいつ竜王より硬いんじゃないか・・。」

この化け物がマリアが言っていた敵なのだろうか・・・。
ローレシア一帯に結界を張ってルカナンの魔法を
かけたのはこいつなのだろうか。

アレンはそう考え、もう一度この一つ目の化け物を見上げた。

しかし化け物は「ぐおおーー」と意味のない言葉を発して
破壊行動に走るだけだ。

「・・・??」

知性が感じられない。実際問題、アレンを視野にも入れていない。
単純に手を振り回しているだけだ。
こいつは違うんじゃないか・・という気がする。



「アレン様、危ない!」

離れた柱に隠れていたクレハの叫び声に
アレンは思わず顔を上げた。

「うわっ!!」

ぼうっと考え事をしていたら、
目前まで化け物が迫ってきていたのだ。

あわてて避けたが、
化け物の痛烈な一撃はアレンの左肩を掠めた。

「くっ・・・」

かすっただけの一撃なのに左腕を全部持っていかれたかのような衝撃だ。
ルカナンがかかっているとは言え、敵の攻撃力は尋常じゃない。



「ア、アレン様!!大丈夫ですか!?」

肩を抑えてしゃがみこんだアレンの元に
あわててクレハが走り寄ってきた。

「馬鹿!出てくるな!!」

近づいてホイミをかけようとするクレハに
アレンはすごい剣幕で戻るように指示した。

「だって・・だってアレン様、ひどい怪我ではないですか!?」

「まだ右腕が無事だ!問題ないから下がってろ!」

「え・・・・・・。問題ないって・・・」

問題ない訳がない、左腕は骨も折れているかもしれない。
これでは利き手が無事とは言え攻撃力が落ちてしまう。
それなら、ホイミで傷を癒したほうがいいのではないかとクレハは考えた。

「ホイミッ!」

クレハはアレンの制止を振り切って回復魔法を唱えた。

「馬鹿っ、良いって言っただろう!?」

「だって、アレン様・・」

「・・・・・」

出てきてしまったものは仕方がない。

しかし、アレンは冷静に考えてもこのままでは勝ち目が無いと考えていた。
せめてカインとマリアがいたら別の戦法が使えるのに・・
と、いない人間のことを考えても仕方がない。

左腕から痛みが消えた。手を振り回してもなんともない。
ホイミが利いたようだ。

「もういいよ。ありがとう。あとは下がっててくれ。
 あいつはがむしゃらに手を振り回してるだけだ。
 慎重に逃げてれば、あたりゃしない。」

「分かりました・・!」

そう言ってクレハが柱の影に隠れようとしたのと
同時に、化け物がさらに雄たけびをあげた。

「ぐ、ぐおああああ!!」

「な、なんだなんだ、今度はなんなんだよ。」

嫌な予感がして、振り返るとこの騒ぎを聞きつけて
ローレシア兵が5・6名集まってきて、
初歩の魔法やギラで化け物を攻撃したのであった。

もちろん大きなダメージは至らないが、
化け物は痛みに怒り狂っている。

「あ、アレン様!!ここは危険です!お逃げください!」

兵の一人がアレンにそう語りかける。

お逃げくださいって・・・この状況、逃げれる訳がないだろうと
思った。

「馬鹿野郎!逃げるのはお前らだ!死にたくなかったら逃げろ!」

「し、しかし我々はローレシアを守る使命が・・!」

「実力と相談してから言え!馬鹿!
 ちっとも利いちゃいねえだろう。お前らの攻撃なんて!」

そういう自分も、ろくにダメージを与えられていないのだが・・。

「アレン様を置いて逃げれるわけがありません!」

「−−−っ!!ああ、もう!
 そう思うならカインとマリア呼んで来いよ。」

って言うか、あいつらは何をしてるんだ?
こんなに大音響で破壊の限りを尽くしているんだから、
ローレシア城近辺にいたら、分かるだろうにと思う。
何故駆けつけてこないのだろうか。



こんな言い争いをしている間に
化け物はやや冷静さを取り戻したらしい。
取り戻したと言うか、今まで失っていた冷静さを身に着けたというか。

あてずっぽうに振り回していた腕を
的確に標的に向けてきたのだ。

「うわあ!」

成す術もなくやられていく兵達。
たった一撃で戦闘不能状態だ。言わんこっちゃ無い。



このままでは全滅してしまう。





こういう頑丈な肉体のやつは、狙い目は顔面だろう。
特にこいつの場合、むき出しのあの瞳が弱点に違いない。

アレンは意を決して、走り出した。
壁を蹴って、宙を飛ぶ。

「アレン様が、化け物の上空に・・・!?」

クレハはアレンの動きを瞬きもせず見守った。

アレンはロトの剣を大上段に構えて、天井を蹴って
思いっ切り、化け物の大きな瞳に剣を突きつけた。


「おりゃあああ!!」


「があああ!!」


ロトの剣は、化け物の瞳を確実に捕らえた。
瞳から不気味な緑の血液が流れ出る。


化け物は身をよじって苦しんでいる。

「ど、どうだ・・!?」



しかし化け物は異物を取り除こうと
両手でアレンを掴むと、忌々しげに
地面にたたきつけた。

「ぐはっ。」

背中からめきめきと嫌な音が聞こえる。激痛が走った。

「アレン様ぁ!!」

クレハが飛び出してくるのが見える。
アレンに向かって駆け寄ってくる。

しかしそれすらも阻まれた。
化け物が立ちはだかったのだ。

「おのれ・・おのれ、化け物め。」

クレハは憎憎しげに、化け物を睨み付けると
ギラの魔法で応戦した。

アレンは無理やり痛む体を起こしながら、
その様子を見ていた。

「あ・・いつ・・。無茶だ・・!」

クレハはさっきから、その程度の魔法が利かないことを
見てなかったのか。
いや、見ていたが恐らく他に手段がないのだろう。

やはりギラでは大きなダメージにはならない。
化け物はクレハという小さな敵を認識しただけだ。

「!!!」

化け物は大きく右手をクレハに向かって振りぬいた。


アレンは言うことを利かない体を叱咤激励し、あわてて地を蹴った。
クレハを抱きかかえたところで、化け物の攻撃を受ける形となった。
再び壁に叩き付けられた。

「っつう!!」

背骨が折れるんじゃないかと思う。
起き上がろうとしても、ずるずると崩れ落ち、体に力が入らなかった。

「アレン様!何故私などを助けたのですか!」

「な、何故って・・・お前が・・・あんなん・・・受けたら死ぬだろ。」

「私などより、アレン様の体のほうが大事に決まってるじゃないですか!」

「そんなもん・・きまって・・ね・・よ。
 はや・・く・・・・・逃げろ。」

クレハはちゃんと逃げるだろうか。

いや、しかし、これはかなり、やばい状況である。

ローレシアは絶体絶命ではないか?

そう考えつつ、アレンは自分の意識が薄れ行くのを感じた。






+++++




風が「ひゅう」っと吹き抜けていくのを感じた。

「・・・?」

カインはその気配に目を覚ますと、ぎしぎしと痛む体をゆっくり起こした。

「い・・た・・・」

左右を見渡した。周りには大爆発の跡が物々しく残っていた。
木々は倒れ、地面も荒々しく爆風に吹き飛ばされ、城壁にも傷跡が残る。

「なんだっけ・・・?イオナズン・・・?え、イオナズン!?」

記憶を掘り起こしながら、何が起こったのかを思い出す。
あの敵、悪魔神官が唱えた魔法はイオナズンと言った。
マリアの使う破壊魔法イオ系の最上級魔法だ。
見るのは初めてだった。

しかし、いくら周りを見渡しても悪魔神官の姿が無い。
先ほど風の吹き抜ける音がしたが、自分達が全滅したと思って
どこかへ行ってしまったのだろうか。

それならそれで、ひとまず危険が去って、
体制を整える時間が出来たと言うことだ。

アレンと合流しよう。

と思ったが、それより何よりまず、マリアはどこへ行ったのだ!?

「マリア?マリア!?どこ!?」

あのイオナズンが放たれた一瞬、マリアは自分をかばうように
前に出たのだ。自分よりダメージが大きい可能性がある。

あわててカインが立ち上がって探すと、
倒れる木々の脇に力なく倒れているマリアの姿を見つけた。

「マ、マリア・・!!マリア!しっかりして!!」

マリアはカインをかばって、大きく吹き飛ばされたのだろう。
抱き起こして、声をかけても、身じろぎ一つしない。

「やだよ!マリア目を開けてよ!!」

カインは急いで、左手に魔法力をこめて
べホイミの魔法を唱えた。

顔や手足の傷はべホイミで癒されていくが、
それでもマリアが目を開ける様子はない。

その様子に背筋の凍るような嫌な感触を覚えたが
カインは首を振って、もう一度べホイミを唱えた。

「い、一度で利かなかったら二度でも、三度でも、何回だって
 治るまでべホイミすれば良いんだ。」

本当はベホマが使えれば、どんな重症でもたちどころに治るだろうが
出来ないものは出来ないので、仕方が無い。

二度目のべホイミも効果が薄く、
続けてすぐさま三度目のべホイミを唱えたとき、マリアの指先がピクリと動き、
うっすらと目を空けた。

「う・・・カ、カイン?」

「あ、マリア気がついた!?大丈夫!??」

「え・・ええ。平気よ。助けてくれたのね。ありがとう。」

「良かったー。」

ようやくカインは胸をなでおろした。
マリアはゆっくり体を起こしながら辺りを見渡した。

「どうなったのかしら?悪魔神官は・・どこへ・・?」

マリアも悪魔神官がいなくなったことを不思議に思った。

「多分、僕達を倒したと思って、どこかに行ったんだと思う。」

「そう・・・凄まじい威力だったわね。イオナズン・・。」

「うん・・・。ねぇ、アレンと合流しようよ。」

この爆発を受け、生きているのが奇跡的だとすら思う。
マリアはカインが何度も回復魔法をかけてくれたおかげで
何とか命をつなぎとめたのだと感じた。

「ちょっと、待って。カイン、あなた怪我だらけじゃない。
 回復魔法自分にかけてないの?」

「え?」

そう言えば、マリアに何度もべホイミするのに夢中で
自分になど魔法をかける余裕など無かった。

「え?・・じゃないでしょ。」

そういうとマリアは手をかざしてベホマを唱えた。

「あなた自分を後回しにするのは悪い癖よ。」

「うん。ありがと。」



カインもベホマにより完全に傷が治った。
マリアとカインは立ち上がった。

「アレンも心配ね。すぐに向かいましょう。」

「あ、じゃあさ、試してみようか。改良版ルーラ。」

人を座標軸にするというカインの改良版ルーラのことだ。

「じゃあ、つかまってね。いくよー。ルーラ!!」





++++++

カインたちがたどり着いた先は、どうやらローレシアの城内だ。

「な、何これ・・?」

城内は荒れ果て、何本か柱がもぎ取られるように倒されている。
壁と言わず、天井すら傷がついている。

まるで巨人が暴れたかのような跡だ。

そして何人かの兵達も、うずくまり倒れている。

「あの悪魔神官がここにも現れたのね・・!」

マリアはそう思った。これはきっとまた悪魔神官のイオナズンの仕業なのだと。

そう思ったとき、背後から泣き声が聞こえてきた。
アレンを抱きかかえたまま、泣いているクレハだった。

「クレハさん・・?どうしたの!?アレンは・・!?」

二人の姿を見て、クレハは顔を上げた。
泣きじゃくった瞳は赤く腫れていた。

「ああ!!カイン様!マリア様!!ご無事だったのですね!」

「アレンはどうしたの!?」

カインとマリアは側に駈け寄った。アレンは血みどろの大怪我をしている。

「申し訳ありません・・・アレン様は、私をかばって・・。
 もう、な、何度もホイミをしているのですが、目を開けてくれなくて・・・。」

カインは、さっき自分がマリアに何度もべホイミをしたのを思い出して
クレハの必死の気持ちを思いやった。

「大丈夫よ。落ち着いてクレハさん。アレンは生きているわ。
 ベホマ・・・!!」
 
マリアの最上級回復魔法はアレンの傷を癒して行った。

「ベ、ベホマ!?すごい・・!」

クレハは目の前で、この高等魔法を見るのは初めてだった。
自分よりも年若いこの少女が使うのは少なからず衝撃だった。



「い・・・てて。」

しばらくしてアレンは無事目を覚ました。
アレンの目の前にはマリアとクレハがいた。

「あ、マリア!やっと来てくれたんだな。」

カインはその頃、回りに倒れていた兵達の治療を行っていた。

「ええ・・・大変だったようね。こちらも。」

「こちらも?お前らんとこにもあの化け物でやがったか?」

「そうよ、あの悪魔神官が!!」

「あの一つ目の化け物がよ!!」

二人はきょとんとして、目を見合わせた。

「何だって?悪魔神官?そんな利口そうなやつじゃなかったぞ。」

「一つ目の化け物って何よ?」

と言いつつもマリアは悪魔神官の言っていた事を
思い出した。悪魔神官は言っていた。
巨神アトラスを城内に放ったと。

「巨神・・アトラスね!?アレンが出会ったのは・・・!」

「いや・・・名前なんか知らねえよ。
 あの化け物ひたすら破壊の限りをつくしてやがったんだ。
 って言うか、あの化け物どこへ行ったんだ?」

アレンは消え行く意識の中で、とどめをさされるんだと思って
覚悟を決めたのに、その後何も衝撃は起きた様子は無かった。

「ええ、アレン様。あの魔物は、あの後どこかへすうっと消えてしまいましたよ。」

そう答えたのはクレハだ。

「そうなのか。どっか行っちまったんだ。つうか、お前何泣いてるんだ。」

そう言われてクレハは顔を真っ赤にした。

「ア、アレン様が目を覚まさないから・・・!!」

「クレハさんは何度もあなたにホイミをかけてくれていたそうよ。感謝しなさいよ。
 私たちが来たときは、本当に悲壮な様子だったんだから。」

「マ、マリア様そこまで言わなくても。」

「悪かったな。色々助かったよ。ありがとう。」

「ア、アレン様・・。」

クレハはさらに泣きそうになったが、ぐっとこらえた。



そしてちょうどカインも兵たちの治療を終えて、アレン達の元へやってきた。

「あ、アレン目覚ました?」

「おー。」

「アレン、今はあの敵たちどこかへ行ってしまってるけど、
 まだ出てくると思うわ。」

「だろうなー。」

「ルカナンの結界もあと三つ残ってるんだよ。」

「マジかよー。」

「もう、アレンちゃんと聞いてるの?」

生返事を繰り返すアレンをマリアは咎めるように言った。
今のローレシアは相当危険な状況と言えるだろう。

「聞いてるし、超考えてるし。」

アレンは3人のほうを向いた。

「とりあえず俺達離れ離れになるのはやばいと思った。
 3人一緒に動いて、まずは結界の破壊をとっとと終わらす。
 その前に、あの化け物が出てくるかも知れねえけど、
 そんときはそん時だ。やるっきゃねえ。」

「分かったわ。」

マリアもカインも頷いた。それが妥当だろう。

「そんで、クレハは王の間にでも戻っててくれ。
 一応あそこは城内でも一番堅固だからな。」

「私も!アレン様と戦います!」

クレハは自分だけが戦力外で、戦いから蚊帳の外に出されるのを
不満に思った。

「気持ちだけもらっとくよ。何回も魔法となえたから魔法力もないだろ?」

「そ、それはマリア様もそうなのでは・・?」

「あいつらならまだ大丈夫だよ。」

「そうなのですか・・?」

疑わしそうに見るクレハの視線に、
マリアは自分を見ているのかと、少し困ったように頷いた。

「分かりました。どうか・・ご無事で。」

「ああ」

そう言ってアレンは立ち上がった。

クレハは3人の後姿を見送り、その無事を祈ったのであった。



- 続く -

2011/03/02
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いやあ・・、長い割には
また書きたいところまで入ってないのですけど、
大丈夫でしょうかね。
一応予定では8あたりで終わる予定です。

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