ローレシア 4


「せーの・・!」

カインが一息の気合と共に繰り出した槍の一撃は
魔石の破壊に成功した。魔石は中心から真っ二つである。

「やった。できたよ、マリア。」

カインはぼろぼろになった魔石を拾い上げた。

「ええ。これであと4箇所ね。」

カインとマリアは城の屋上に設置されていた魔方陣の魔石を発見し
残る5つのうち早くもその内の1つの破壊に成功した。

「この調子なら、すぐに終わる・・かも?」

そう言いながら、マリアは城の屋上から、ローレシア国を見渡した。
フィールドに通じるのは城の南側のみだが、
城壁はさほど高くなく、ドラキー程度でも侵入は容易いだろう。

「単なる杞憂だったらいいんだけど。」

マリアのつぶやきはカインの耳に届いていた。

「え?」

「この国が危険な状態にあるかもしれない・・なんて。
 こんなに平和な国なのにね。
 アレンのお父様もお母様もとても素敵な人だったわ。
 良い国ね・・。」

「・・・・・・。」

マリアはムーンブルクの国を思い出しているのだろうか。

「マリア、なんか無理してない?」

そう聞いたカインを驚いたようにマリアは見上げた。



しかし答えたのは背後から聞こえた不躾な男の声であった。

「マリア王女、お疲れのところ、お初にお目にかかる。」

背後の声にカインとマリアは振り返った。
男は高貴な衣服を身にまとって豊かな髭を蓄えていた。
ローレシアの貴族だろうか。

「あの・・・どちら様でしょうか?」

アレンがいないのに、他国の人間がこんなところにいたのを
怪しまれてしまったのだろうか。

「おお、申し遅れました。私の名はディアン。
 アレン殿の親戚にあたり、ローレシア国ではアレン殿に続く
 王位継承権をもつものです。」

「は・・はぁ。はじめまして。」

高貴な人間なのかもしれないが、話す内容も唐突で不躾だなと思った。
アレンからこんな人間のことは聞いたことが無い。

「私達のことをご存知なのでしょうか?」

「先ほど王よりアレン殿が帰城し、
 ムーンブルクのマリア王女も無事な姿を見せたと
 聞いてな。私も嬉しくてご挨拶に伺った・・という訳だ。」

「そうでしたか。わざわざのご挨拶ありがとうございます。」

マリアはそういって軽く頭を下げた。
カインはその後ろでいぶかしんだ表情でそのディアンとか言う男を見ていた。

別に構わないが、男はカインのことは全く興味もないようで、
マリアにばかり眼を向けている。 少しばかり気にかかる。

「ディアン様、せっかくのご挨拶ですが、
 僕らあんまり時間が無いのです。失礼いたします。」

カインが適当なところで話を切り上げようとしたら、
ほがらかな笑みを浮かべていたディアンの表情が歪んだ。

「マリア王女をどこへ連れて行こうと言うのですか。」

「は・・はぁ?」

何故そんなことを初めて出会ったこの男に言われなければ
ならないのだ。

「マリア王女は類まれない魔法の才能をお持ちだという。」

「それがどうかしたのですか・・・」

「いや、なんてことは無い。
 悲しいかな、我がローレシアの現在の次期王といえる
 アレン殿には魔法の才能が全く無い。」

「・・・・・・それが、どうしたんですか・・・。」

いい加減、この不躾男の言うことを聞いているのが
嫌になってきた。今それが何の関係があるというのだ。

「私はこう見えてもローレシア国一の魔法の才を持つ。
 そこで、今は亡きとは言え由緒正しいムーンブルクの
 才能あふれる王女と結ばれることになれば
 ローレシアの将来も安泰だろう。
 あんな剣にしか能の無い男が王になるのは私は不安なんだよ。」

さすがにマリアもこの男の不躾さに眼を丸くした。
いきなり何を言い出すのか。

これは求婚の誘いか何かか。

「のう、マリア王女よ。あなたも長旅で疲れているであろう。
 我が部屋に来て、ゆるりと休まれよ。」

ディアンはそう言ってマリアの手を取ろうとした。
嫌悪感を感じて、後ろに一歩下がったマリアをディアンは
さらに追いすがった。

が、そのディアンの手を取ったのは
横から手を伸ばしたカインであった。

「な・・・!?」

ディアンが驚いた表情を向けたと同時に、
カインはその手を掴んだまま、ディアンの足を払った。

「いっ」

ディアンはそのまま尻餅をついた。

突然何をするのだ!と顔を上げて抗議しようとした所に
首元に槍の刃が突きつけられた。
カインの持つ鉄の槍の刃だ。

「・・・!ぶ、ぶれい」

「無礼者はどっちだ。マリアとアレンに対して
 あんたの無礼は許されるものじゃない。」

ディアンを冷ややかに見下ろしながら
カインは言い捨てた。

「マリア、もう行こう。」

こんな冷たい眼をするカインをマリアは初めて見た。
いつもどんな初見の人ともカインは穏やかに接するのに。

「っく・・!私はただローレシアの将来を心配して・・・!
 あんな魔法もできず、知能も劣る男が王になっても何もできやしない。
 私の方がよほど・・!」

恐らくアレンのことを言ってるんだろう。
しかしこの男、どれほど自分に自信を持っているのだろうか。

「あなたなんかより、アレンのほうがよっぽど人間が出来ていると
 僕は思いますけど。」

「なっ!」

はっきり言ってやると、ディアンは屈辱に顔をゆがめた。

しかしカインも少し血が頭に上っているようだ。
マリアはカインの肩に手を載せ落ち着くように目配せした。
そしてマリアもディアンに向かっていった。

「申し訳ないですけれど、私の旅には目的があります。
 今ここで羽を休めるわけにはいかないのです。
 では・・失礼します。」

尻餅をついたままのディアンをよそにマリアとカインは
背を向けて走り出した。

「ま、待てっ!!」

後ろから声が聞こえてくるが無視した。



次はどこへ向かうべきかとマリアは意識を研ぎ澄ませた。

「あっ」

次なる魔方陣の気配をマリアは感じた。
この屋上から見て、ちょうどその下の草むらの中に気配を感じる。

「下だわ。」

「下・・・・。」

マリアとカインは屋上から下を覗き込んだ。
ここは5階くらいだったか・・。かなりの高さだ。飛び降りられる高さではない。
そう思ったところ、尻餅をついていたディアンが立ち上がって
こちらへやってきていた。

正直・・鬱陶しい。

「カイン、早く階段から降りましょう。」

「ああ・・。いや、降りちゃおう。」

カインはそういうと外壁に足をかけた。
そのまま飛び降りようと言うつもりらしい。

「ほら、マリア。」

手を伸ばして、マリアの手を取ろうとした。

「え・・?この高さから飛び降りるの・・!?」

「うん。大丈夫だよ。飛ぶから。」

「飛ぶ?」

「ほら、さっきのあの不躾男がこっち向かってくるよ。
 相手するのも面倒でしょ。」

「面倒って・・・。」

どうやらカインはディアンのことがよっぽど気に入らなかったらしい。

「マリア王女ーー!」

ディアンがこちらに向かってきた。

「さぁ、行くよ。」

「ちょっ・・・待って!」

しかしカインはマリアの手を引いて、
そして次の瞬間、躊躇無く壁を蹴った。

青い空が広がり、下には緑あふれる地表が見える。
凄まじいスピードでカインとマリアは急転直下、落ちていく。

「っ・・・!」

あまりの速さにマリアは息も出来ない。目も開けていられない。
目をつぶろうとし、ふと横のカインを見ると、ぶつぶつと魔法の詠唱を行っている。


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もし、詠唱が間に合わずそのまま地面に叩きつけられたらどうなるのかと
妙に冷静な考えがマリアの頭をよぎった。

しかし次の瞬間、カインが何かを口にして、ふわりと体が浮き上がるのを感じた。
そして目を開けたときには、カインとマリアは地面に着陸していた。

「せいこーう!」

嬉しそうにカインは今落ちてきた城の屋上を見上げた。

「カイン、今のは?」

「ルーラの改良版。」

「改良版って・・・?」

「遠いところをイメージするんじゃなくて、
 眼に見えていた地表をイメージしてルーラしたんだ。」

「カインはそんなことができたの?」

「あー、初めて出来たんだ。言いわすれてたね。
 失敗してたらごめん・・ってごめんで済まないよね。あはは。」

「・・・・・。」

マリアは真剣な表情でカインを見ていた。
カインはマリアを怒らせたのかと思って慌てて再度謝った。

「ご、ごめん!ごめん、びっくりさせて。」

「ああ・・ううん。違うの・・・。大丈夫よ。」

マリアは何も言えず、しかし心底驚いていた。

カインの魔法はあまり強力なものではないかもしれない。
回復魔法もマリアの方が一段上のものが使える。
だがたまにこうやってマリアには思いもつかない魔法の使い方をする。
しかも実践するのも初めてだと言う。

「多分ね、うまく使えば人を座標にしてルーラも出来ると思うんだ。」

「どういうこと?」

「アレンと合流するのに役立つと思うよ。
 まぁ・・・やったことないので、失敗するかもしれないけど。」

また自信なさげにいうが、
それが成功したら、ダンジョンで離れ離れになったときなどに
非常に役立つだろう。

「それは・・すごいわね・・・。」

「本当?使えそうなら頑張るよ。
 さて、魔方陣3つめはこれだね。」

うっかり忘れていたが、地表には3つめの魔方陣の魔石が埋め込まれていた。

「そうね・・。破壊しましょう!」






++++

一方アレンは兵達のいる駐屯場に戻っていた。
先ほどマリアが言っていたローレシアを覆う危険性について
説明していたのだ。

「どうりで・・・魔物の攻撃が重いと感じたわけだ。」

まさか国中にルカナンの魔法がかかっているとは。

「まぁルカナンは時間の問題でカインたちが何とかすると思うが、
 それまでの間、特に防具を抜かりなく装備しておくように。」

「分かりました。」

「よし。
 ああ、それから、お前達の中にはスクルトが出来るやつはいないのか?」

アレンは落ちた防御力を逆にあげる戦略としてスクルトを考えた。
守備力が減ったルカナンの分とあわせて、プラスマイナス0になればいいと思ったのだ。
しかしそう聞いたものの、誰も手を上げない。

「なんだ、誰もいないのか。スクルト使えるやつ・・。」

よくカインが使っていて、重宝する魔法なのに、ここでは誰も使えないようだ。

まぁ、かく言う自分は何も魔法が使えないのだが。
ローレシア兵には自分はとにかく剣の指導ばかりしていたし、文句も言えない。

「しょうがねえ。じゃあ、カインと合流したらスクルトやってもらうか。」

仕方なくそうアレンが言った。

「ア、アレン様が魔法の指示を出すなんて・・。」

ローレシア兵はアレンが魔法について指示を出したことに驚いていた。
アレンは以前からローレシア兵の調練を行うときも剣一本でいかに戦うかを
重視していた。

魔法を使ってきた敵に対しての戦い方を考えることがあったが、
自らが魔法を使って対抗することなんて、決して口にしなかった。

それはアレンが魔法を使えないということもあったが、
魔法に頼るのを良しとしないアレンの考え方からだ。

「あ?俺が魔法のことを言うのがそんなに変か?」

「だって、以前はあんなに・・。剣での戦い方のみを追求されていたのに。」

アレンはふと昔のことを思い出した。
確かにそうだった。
魔法を使うなんて、負け犬だとすら思っていた。
カインたちと出会って変わったのだろうかと思った・・・。

いや、厳密に言うとやっぱりアレンにとっては剣が一番だと思う。

それでも、一人でも犠牲者を減らしたいと思うから、
手段を選んでなどいられないのだ。
そのためには魔法でもアイテムでも何でも使う必要があるだろう。

そしてカインたちと旅を続けたことで、魔法のすごさをアレンは実感していた。
それがそのまま自然に考えに浮かんだのだろう。

「別に・・・そんなに変わっちゃいねえよ。
 俺が剣しか使えないのは変わってないんだから。
 ただ、こんだけ大勢の・・・・ローレシア国民全部守るためには考えうる手は全て
 尽くすべきと思っただけだ。」

そうアレンは感じたままを語った。

「じゃあ、兵達は防御を固めたら随時、東西南北に兵を分けて
 警備に当たること。何かあれば必ず合図をして知らせろ。良いな!?」

「はっ!」

アレンの指示に兵は敬礼した。
兵は神速を尊ぶ。
すぐさま現・兵隊長は兵を分散させ、警備に向かせた。



その様子を見届けるとアレンは次に王の間へと向かった。

王の間には、アレンの帰城を喜び合っているのか王妃もやってきていた。
アレンは一連の不吉な報告を行った。
王はアレンの報告を耳にして驚いていたが、さすがに王もロトの血を引く者であった。
豪胆であった。

「うむ・・・では城下の国民にも触れを出そう。
 なんなら城内に避難してもらっても構わない。
 貯蓄は数週間は大丈夫だろう。
 アレンも誘導を手伝ってくれるか。」

「ああ、分かった。」

王と言葉少なに意思を確認しあうと、
アレンは王の間の兵士にくれぐれも警備を頼むと
言い残して去っていった。

「アレン・・・。」

王妃はその後姿を心配そうに見送った。






王の間を出たところで
銅の剣を装備したクレハに出会った。

「アレン様!」

「なんだ、クレハ。剣なんて持ち出して。」

「兵から聞きました!敵が迫っていると。
 私も戦います!!」

何を聞いたのか知らないが、彼女はやる気満々らしい。
しかし銅の剣と薄手の布の服だけの装備では心もとない。

と言うか、彼女を戦わせる気はない。

「いや、お前も王の間に下がってろよ。
 そんな程度の武装じゃあ、武装と言えねえし。」

「そ・・そんな・・・。」

クレハはシューンと落ち込んでいる。
アレンはその様子を見て、はぁとため息をつきながら伝えた。

「俺は今から城下の人間の誘導をしに行くんだが、
 その手伝いをしてもらえるなら・・・助かるが?」

ぱぁっと明るい顔になり、クレハは何度も頷いて「是非!!」と言った。

「速やかに城下の人を城壁の中に避難させよう。」

「了解しました!」

まぁ、敵と直接戦うのではなく、
避難誘導くらいなら危険は無いだろうと・・思ったのだ。



しかし、二人で城から城下へと向かっていたとき、
背後にズゥーンという大きな音が聞こえた。

「!?」

アレンは背後を振り返った。
自分達が歩いてきた方向だ。もちろん怪しい奴など誰もいなかった。

誰もいないはずなのに・・

それなのに、今背後から聞こえたのは足音だ。


「誰だ!?」


現れたのはアレンですら今まで一度も見たことが無い魔物であった。
巨大な一つ目の鬼の姿をした、まさに魔人。

「なんだ!?なんなんだ・・・・!?」

巨体の姿に唖然としながらも、アレンは背中のロトの剣を手に構え、
クレハに後ろに下がるように合図した。
 
「ど、どこに隠れていたんだ!?お前は誰だ!?」

しかし魔人はその質問には答えることなく、巨大な腕を振り回し
襲い掛かってきたのだ。


「!!」






どぉぉぉぉ・・・・・・・・・・・・ん!!



大きな音が城内に響き渡った。











+++++


「ちょっと・・・何今の音・・・」

地表で3つ目の魔石の破壊に成功したカインたちは、
城の中から大きな破壊音が耳に聞こえてきた。

「城の中で何かあったのかもしれない!」

「アレンが危ない!」

「行きましょう」

ひとまずアレンの下に合流しようとしたカインたちの前に
小ぶりの魔物が立ちはだかった。

「なんだ?魔術師!?」

その魔物は魔術師のような格好をしながらも
手には物騒な棍棒を持っていた。


「ひょーひょっひょ。」


魔物は不愉快な声で高らかに笑った。

マリアはその声に覚えがあった。
ムーンブルクの最後のあの日に聞いた忘れようとしても忘れられない声・・。

「お、お前は・・・・悪魔神官・・・・!!」

「これはこれは、今は亡きムーンブルクの王女殿下ではないか。
 ご機嫌麗しく。とっくに王と王妃の下へと行ったものと思ったら、
 こんな所で出会えるとは・・・・・嬉しいですよ。」

カインはマリアがいっそう厳しい表情になったのを見て事情を察した。
ムーンブルク滅亡の日指揮を取っていた魔物だろう。

そしてそいつがローレシアに来ているということは、
まさに危惧していたとおりのことが起きようとしていると言うことだ。

カインもマリアも武器を構えなおした。

「私と一戦交えようと言うことですかな。
 だが、私は忙しい。」

悪魔神官は首を振った。

「い、忙しい?」

「貴様らが私の張った結界を破壊して回るからだ。
 小利口にも下手な知恵だけは回るようだな。」

「・・・・・お、お前がこの結界を・・・!?」

「そうだ。ムーンブルクを滅亡させたあの日と同じようにな。」

「なんですって・・・・!?」

マリアの魔導師の杖を持つ手が震える。
その様子を見てカインが一歩前に出た。

「じゃあ、お前を倒せば危機は去ると言うわけだな。」

「それはどうかな。
 既に先ほど復活した巨神アトラスを城内に放っておいたからな。
 2・3時間もあればこの国は滅亡するだろう。」

「な、なんだって・・!?」

先ほど城内から聞こえてきた巨大な破壊音は
その巨神アトラスの仕業だろうか。

「そもそもお前達が私を倒そうと言うのが浅はかだな。」

そう言うと悪魔神官は手に持つ杖を天にかざして、
魔法の詠唱を始めた。

その詠唱を聞いたマリアははじけるように顔をあげて叫んだ。

「危ない!!カイン、下がって・・・!!」


「え・・・・?」



「遅い!」


悪魔神官の表情が醜く笑みを浮かべたように見えた。



「 イオナズン !! 」



激しい爆発が起こり、爆風が辺り一面を包み込んだのであった。



- 続く -

2011/02/19
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やっとドンパチ始まりましたね。
えっと原作(ゲーム)と全然違いますが。
敵が若干やばすぎる気もしますが、
勝てるよう応援してやってください(無責任な)。

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