「サマルトリアに帰れって・・・・。」
カインが確認するように、アレンの台詞を繰り返した。
「アレン、何故そんな事を言うの!?」
マリアが批難するようにアレンに問うた。
その批難めいた視線に少したじろぎながらも
アレンは、カインの方を向いて答えた。
「そりゃあ・・・一番最初に死んだ俺が言う事じゃ
ねえかもしれねえけど。
俺は誰一人死なせるつもりなんてないんだ!」
「・・・・・・。」
「お前の父上、
・・ってかサマルトリアの王様にも約束してんだよ、俺。」
沈黙していたカインが、
その言葉に少し意外そうな顔をした。
「・・・父さまに約束?アレンが何を・・・?」
「俺達、誰1人欠けることなく帰ってくる!・・って。」
拳を握りながら、アレンはそう宣言した。
それに対して、マリアが再度問いかけた。
「だからアレンってば、
一番最初に倒れたのってあなたじゃない・・」
「いや・・まぁ、それはそうなんだけど、そうじゃなくって・・」
アレンは何と言えば良いものかと、言葉に詰まった。
それに対して、カインが静かに口を開いた。
「自分で命を捨てるような奴は、面倒見きれないから、
帰れって言う事・・だよね?
君が帰れって言うなら、・・・・分かったよ。」
その言葉に、言葉に詰まっていたアレンはハッとして、
歯軋りをしながら、どこか悔しそうに叫んだ。
「また・・またお前は、絶対絶命の状況になったら、
もう一回メガンテをするって言うのか・・!?」
「アレン?」
カインはその勢いに、否とも応とも答えなかった。
「俺の言いたい事は分かるよな・・・?
もう二度と、メガンテなんかするな!
マリアがザオリク出来るからって、絶対駄目だ!」
隣でマリアが頷いている。
このアレンの意見には賛成なのだろう。
カインは神妙な顔をしながらそれを聞いていた。
「〜〜〜っ!!」
しかし、アレンはカインのその様子に、
なお一層釈然としない表情になって、
髪の毛をガシガシ掻き毟った。
「一つ聞いていいか?カイン・・。
お前の旅の目標って、最終的にはどうなりたいんだ・・?
お前は何を考えてんだ?」
「僕?僕はアレンやマリアをサポートして・・・
マリアの本懐が遂げられるように・・少しでも、手助けしたい・・
したか・・った。」
過去形で言うその答えに、マリアは何も言えなかったが、
アレンは手を打った。
「そう言うことか・・・分かった。
今更だけど分かったぜ、問題の根源が・・・。」
「問題の・・・根源・・・・?」
いぶかしむカインに、アレンは確信的に告げた。
「お前はな、もっと、欲を持たなきゃいけねえ。
そうだな、ちょっとくらい欲張りになれば良いんだよ!」
「・・・ちょ・・何それ。どう言う事・・・?」
思わぬ答えに、鳩が豆鉄砲を食らったような顔になっているカインに
アレンが重ねて言った。
「ちっちゃいんだよ!あ、いや、マリアの事がじゃないぜ?
そうじゃないけど、もっとだもっと!
我慢すること無いんだ!
もっと願ったって、もっと欲を持ったって良いんだ!」
「・・・・・・?」
「俺の夢は、ハーゴンなんて軽く蹴散らして、
マリアに謝罪させて、それで世界中平和にして、
魔物の恐怖もなくなって、
皆が大喜びしてる様子を見るために
俺は、そんな世界をもっと旅するんだ・・!!」
一息にそう言ってアレンは少し恥ずかしそうにした。
簡単に夢といっても、これは簡単な夢ではない。
というより、現実的ではない。
「アレンは、ローレシアの王様になるでしょう・・?」
国の王になれば、今のような自由な身分ではなくなる。
旅など、当然ままならないだろう。
「うるせえ、それがどうした。
世界を救った英雄が、その救われた世界を見に行くのが
なんで悪い。」
アレンは子どものように、唇を尖らせた。
「つーか、俺の話はいいんだよ。
お前だよ、お前。なんなんだ最終目的が
『マリアの手助けが少しでもしたい』って。
小せえ、小せえんだよ!」
「わ、悪かったね・・・。」
「俺達まだ18歳だぜ。今ちょっと大変な旅路だけど、
もっとこれから先良い事がいっぱい待ってるんだよ。
それを楽しみにして何が悪いってんだ。
どうして、その『未来』を捨てるんだ。
お前も、もっとわがままになれよ!」
「アレン・・。」
「そんで、もっと先を見やがれ!
お前が1人で終わりを決めるな!!
俺達の踏み台になろうとすんな!!
そんで俺と同じとこまで、上がって来い!
絶体絶命な状況だって、負けずに跳ね返せば良いんだ!
俺達には・・・お前には、その力があるんだから!!!」
勢いでそこまで言い切るとアレンはぜいぜいと息をついた。
「さて、話を最初に戻すぜ。
俺が今言ったことが出来ないなら、
そんでまたメガンテするって言うなら、
やっぱりお前はサマルトリアに帰れ。
無事に帰すことが俺の責任だからな。」
「・・・・・・。」
ずっと目を丸くしながら話を聞いていたカインは
最後までアレンの言葉を聞いて、
正直目から鱗が落ちるような思いをしていた。
アレンや、マリアを助けるために・・・
カインは、そのためなら何でもしようと思っていた。
少しでも2人の力になれるなら、それが自分に出来る
最善だと思っていた。その覚悟も出来ていた。
それが全てでないとしたら、自分の本当の希望とはなんだ?
無事に世界を平和にすることが出来たなら、
その先があるとするなら・・・。
「アレン・・・急にわがままになれとか言われても
正直まだよく分からないけど・・・。」
「けど・・?」
「とりあえず、今サマルトリアに帰るのは嫌だなあ・・。
帰るときは、世界を救ったんだよって
誇らしい思いで・・・・帰りたい。」
とりあえず今思いついたことはそれくらいだ。
なんだか子供じみている気がするが・・。
「そっか・・・。分かった。」
アレンはそう答えると、ようやく笑った。
自分の横暴な指示は払いのけるくらいには
カインも自分の欲をもったらしい。
それで良い。
先のことは、また少しずつ考えれば良い。
ただ、カインには、自分を犠牲にして、
アレン達だけ先に進めればいいという考えを止めて欲しいのだ。
カインも、先へ進んで幸せになる権利はあるのだ。
「な、マリア、そう言う事だって。
良いか?」
「・・ええ。ええ、そうね・・・!」
2人の問答を見守っていたマリアは
嬉しそうに何度も頷いた。
「へへっ。
そう決まったら、いい加減こんな寒い所おさらばしようぜ。
あそこの祠まで行こう。」
アレンはそう言うと見えている祠を指差した。
今だ吹雪いているこの雪原で暖を取るには、
とりあえずあそこくらいしか思いつかなかった。
大体、息絶えているとはいえ、魔物たちの真ん中で
いつまでも談笑する訳にもいかない。
「行きましょう。」
マリアもそれを促した。
左手で雪を払ってカインは立ち上がると、
落ちていた隼の剣を鞘に戻した。
ところで、先ほどからずっと
カインの右手はその鼻筋を覆っていた。
そう言えば先ほどアレンに殴られた時に
鼻血を出していた。
アレンは、これだけ寒いと血も凍るんだろうか、などと
どうでもいい好奇心に駆られて、その手をどかせた。
すると思いのほか大量の血がどぼどぼと
その手から零れ落ちた。
「ぎゃーー!なんだ、なんだ!?」
「なんだ・・って・・。
どうも鼻血がさっきから止まらないんだよね。」
なんでもない平然とした様子で、カインがそう答えた。
よく見ると鼻が変な方向を向いている・・気がした。
「おま、おまえ・・これ鼻折れてねえ・・?」
「どうなんだろう?僕から鼻見えないし。」
何食わぬ表情のカインをアレンが軽く叩いた。
「いたっ」
「お前なー!俺の言ったこと聞いてたか!?
痛かったら痛いとか言えーー!!!」
「え、だってアレンが殴ったんじゃないか・・・。
痛いけど、しょうがないじゃない。
大体僕もう魔法力空っぽなんだよ。」
アレンの言い方にカインは若干不服そうな顔をした。
それに治そうにも治せないらしい。
「ちょっ・・!もう、馬鹿アレン!
鼻血出してる人を殴るなんて、何してるのよ!」
今度はマリアがアレンを叩いた。
「おお、マリア。悪い、思わず。
こいつにホイミしてくれよ。」
「ご、ごめんなさい・・・。
私も・・ザオリクで魔法力・・・ゼロ・・なのよ・・。」
「わーー、マジでか!!
やべー!ど、どうするか・・。や、薬草薬草!
悪いカイン、俺力入れすぎた!!」
「大丈夫だよー。少し休んだら、魔法力戻るからさ。
僕が悪いんだから、アレンは気にしないで。」
回復魔法も使えず申し訳なさそうに言うマリアと、
思わず勢い余って仲間を骨折させてしまったアレンであったが、
さほど痛そうにもせず、むしろどこか清々しそうな表情でカインは笑っていた。
やっぱり、こいつはこう言う奴なんだと
アレンは少し頭を抱えた。
その後、3人は無事に、そしてようやく、
ロンダルキアの最後の祠にたどり着いたのであった。
***
祠の中は、吹雪いている外とは違って
静かで暖かな空間であった。
かつてそこに人が住んでいたような形跡もあった。
不思議な空間だった。
暖炉のようなものまで、備えられていた。
魔導師の杖を使って火をつけると
冷え切った体をようやく暖めることが出来た。
「わあ、暖炉がついたね。」
「おおーーー。生き返るなあ。」
「ようやく一休み出来るわね。」
3人は口々に安堵の声を漏らした。
思えば、過酷だったロンダルキアの洞窟から今まで
一刻も心休まる時が無かった。
それどころか、長かった旅の中でも、
一番苦しい道中だったと言えるだろう。
色んなことがあった。文字通り命を燃やすような戦いをしてきた。
今ここに3人揃っていられるのは奇跡かもしれない。
体がほんのり暖まるのを感じると
何だか急に眠気も感じ出した。
が、さすがにここはロンダルキアのど真ん中。
完全に安全とは言い切れない。
「おい、魔法使うやつから寝ろよ。
俺が見張っとくから。」
アレンは、カインとマリアにそう言った。
魔法力を回復させるためだ。
大体アレンはカインの鼻が気になって
寝ようにも寝れそうになかった。
「順番に休んでいこうぜ。」
そう言うと、アレンは最後の気力を振り絞って
見張りを勝手出た。
2人はアレンに礼を言うと、
軽く仮眠を取ることにした。
アレンは外を眺めながら、
いつ魔物が襲ってきても良いように
気を研ぎ澄ましていた。
周辺の魔物が、カインのメガンテで
全滅したとは言え、
ロンダルキアにいる魔物は恐らくまだまだいるだろう。
そいつらがいつ襲ってくるか分からないのだ。
が、どうやら本当にこの祠は安全らしく
魔物が襲いかかってくる様子は無かった。
襲い掛かってこないと、緊張していた体も緩んでくる。
アレンも相当疲れが溜まっているようだ。
普段なら見張りなら見張りで、その責を果たすくらい
慣れたものなのだが、どうにも眠くて仕方が無い。
どれくらいそうしていただろうか。
背後からコツンと音がした。
アレンがびくっとして振り返ると、そこにはカインがいた。
どこから持って来たのかカップを持っていた。
「アレン、お疲れ様。大丈夫?」
「え・・・あ・・もう朝か?」
寝ぼけた様子でそう聞くアレンにカインは笑って答えた。
「まだ夜だよ。でもとりあえずホイミする魔法力は回復したんでね。
鼻はもう治ったよ。」
「お、おおー。そうか。良かった。」
「どうもこの祠昔人が住んでたみたいだね。
なんか食器とかもあったよ。
体冷えてるでしょう?あったかいお茶飲む?」
「おー。飲む飲む。」
アレンはカップを受け取ると、ぐいっと飲んだ。
「うまい。暖まる。」
「アレン、見張りなら変わるよ。」
「お前もう大丈夫なのか?
さっきまで死んでたんだぞ。」
その言い方にカインが笑った。
「安心してよ。
ザオリクって体力は結構回復しちゃうみたいで。
結構僕元気なんだよねー。」
「・・・・・・・。
そっか?じゃあ・・・俺は寝る・・か・・。」
そう言うとよっぽど眠かったらしいアレンはこてんと横になった。
見るともう寝息を立てている。
「アレン・・・ありがとうね。」
眠ったアレンにカインは礼を言って、見張りに立った。
翌朝。
なんと本当に一度も魔物の襲来もなかった。
マリアは、一晩ずっと眠っていたらしい。
なんだか久々にゆっくり休んだ気がすると思いつつ、
体を起こした。
「あ、マリアおはよう。」
マリアが起きたのを見て、カインは嬉しそうに声を掛けた。
アレンはどうやらまだ深く眠っているようだ。
「おはようカイン。鼻、鼻は大丈夫なの?
私魔法力はすっかり回復したわよ。」
起きるなり、自分を心配してくれるマリアに、
カインは驚きつつ、礼を言った。
「ありがとう。大丈夫だよー。さっき自分で治したから。」
「そう・・?なら、良かったけど。」
マリアも元気そうなカインに安堵した。
「魔物も襲ってこないしさ、軽く何か食べる?
ここ人が住んでたみたいだよ?」
「へえ・・・でもそれはアレンが起きてからで良いわよ。」
きっとアレンが起きたらお腹が空いたと騒ぐだろう。
先に食べたといったら怒るかもしれない。
「それもそうだね。
じゃあ・・・・それまで、ちょっと2人でしゃべろっか。」
「え?」
何気ない様子でカップを差し出すと、
カインはマリアにそう言った。
- 続く-
2013/04/07
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