目の前に広がる光景にアレン達は一瞬身動きが取れなかった。
間違って、別の場所に迷い込んだのかと思ったのだ。
しかし、間違っても何も、
どこからどう見ても紛れも無く
ここは雪原で、そして見渡す限りの雪景色で・・・
「寒い。」
アレンがぽつりとそう口にした。
そうなのだ、今までいた洞窟の熱気とは違い、
吹雪が吹き荒れていた。
「確かに寒い・・ね。」
「え、ええ・・。」
カインもマリアも、
何となくそんな程度の事しか口に出来なかった。
アレンが真後ろを見返した。
そしてガバっと前を向いた。
「洞窟、抜けたんだな!
抜けた先ってことで良いんだよな!?」
「そうだよね。僕らやったんだよね?」
「じゃあ、ここに・・ハーゴンが・・?」
何となく、洞窟を抜ければそこにハーゴンがいると思っていたが、
見渡す限りはとりあえず雪しか見えない。
「そうか、ここに・・って言うか、ここどこなんだよ!?」
「ロンダルキアに入れたって事じゃないの?
普通とは隔離された世界だって言ってたし、
こう言う感じだったんだね。」
アレンの疑問にカインが答えた。
「この寒さは何とかならないのかしら・・?」
「この平地で暖を取るよりは・・
何か休める所探した方が良いかも。
廃屋でも何でも良いから。」
この場所は良い意味でも悪い意味でも
見通しが良すぎた。
進み始めたアレン達には、
すぐに困難が待ち受けていた。
こちらは吹き荒れる吹雪のせいで
視覚や聴覚すらも鈍っていたのに
魔物たちは簡単に自分達の姿を見つけた。
ゆらりと大岩が動いたのかと思った。
しかし、それは巨大な魔物であった。
巨大な魔物は太い腕で先頭のアレンに殴りかかってきた。
「うわっ!?」
何とかそれをかわしたアレンであったが、
反撃しようとした所思わず雪に足を取られた。
バランスを崩したアレンに魔物が持っていた
棍棒で思い切り殴りつけた。
「・・アレン!!」
カインが隼の剣で切りかかってみたが、
その巨体はまるで岩のように堅かった。
「くっ!」
「カイン、下がって!行くわよ!!」
マリアが、躊躇せずに一歩前に踏み込んできた。
「イオナズン!!」
残り少ない魔法力で、
マリアは極大爆発魔法を唱えた。
その爆発にさすがの巨体も吹き飛んだ。
「見たことのない魔物だ・・。」
「確かギガンテスって魔物よ。
伝説上の魔物って言われてたはずだけど、
そんな魔物がここにはいるのね・・・。」
爆風が次第にやんでいく。
しかし、それが止むよりも早く、
ギガンテスは雄たけびを上げて再び襲い掛かってきた。
「・・・そんな!」
「マリア!!」
怒り狂うギガンテスの強烈な一撃に
2人は吹き飛ばされた。
「・・・・・・つっ・・・。」
カインは何とか半身を起こそうとしたが、
ふと見るとマリアは身動き一つしていない。
「マリア・・!」
見ると頭から血を流している。
すぐに回復を、と思うが、
ギガンテスがそんな暇を与えてくれそうに無かった。
ドシドシと巨体は音を鳴らしながら
襲い掛かってくる。
「待てっ!!」
せめて、マリアの前に立って、
カインは炎を剣に纏わせた。
しかし吹雪の前では、今の炎など
今にも掻き消えそうな儚さだった。
それでも、ここから退くなんて出来なかった。
加速して襲い掛かるギガンテスを前にした
カインに思わぬところから声が掛かった。
「カイン!怯むな!」
「!」
アレンの声だ。
アレンは背後から飛び上がると
ギガンテスが武器を持っている左腕を目がけて斬りかかった。
「うおおおっ!!」
アレンの一撃でギガンテスの左腕は
ものの見事に切断された。
そしてそのまま着地して叫んだ。
「止まるなって!カイン!」
「あ・・・、うん!!」
アレンの声に突き動かされるように
カインはギガンテスの足元に斬りつけた。
ギガンテスはその一撃にバランスを崩した。
「よおーし!!」
その隙にアレンは再度天高く飛び上がった。
「くらえええ!!」
そしてその脳天を稲妻の剣で貫いた。
ギガンテスは、息耐えたようにぐらりと後ろに倒れていった。
ズーン!!と大きな音を立てて倒れると、
今度はギガンテスは動かなかった。
「倒した!!!アレン、すごい!
アレンなんだか本物の勇者様みたいだった!」
「何言ってんだ、カイン。
それよりなんなんだこいつ、めっちゃ強いな。」
しかし倒したアレンも血だらけだった。
ギガンテスが動かないのを見るとしゃがみこんだ。
「ギガンテスとか言う伝説上の魔物らしいよ。」
「はぁー。おっそろしい魔物そろえてやがんな。」
「それを倒したアレンもすごいよ。」
「はぁ?」
アレンは何言ってんだ?と言う顔でカインを見上げた。
カインはアレンの傷をベホイミで癒した。
「マリアは?大丈夫なのか?」
ちらっと倒れたままのマリアを案じるように
アレンがそう言った。
「ってか、座ってる場合じゃねえぞ!
カインまた魔物だ!」
すぐにマリアの回復も・・と思ったカインは
顔を上げると思わずその表情を豹変させた。
ギガンテスの巨体に隠れて気が付かなかったのか
周りをブリザードに囲まれていた。
「またあの氷の魔物だ・・・!」
「あいつだったら、炎に弱いだろ。」
アレンはそうカインに合図すると
カインはブリザードに向かってベギラマを唱えた。
しかしそのベギラマは同じベギラマによってかき消された。
「!?」
どうやらブリザードだけではなく、また別の見知らぬ魔物もいたようだ。
そいつが唱えたベギラマらしい。
「なんだ、なんだ!?
次から次へと。キリが無いぞ!!」
「アレン、一旦逃げよう!!」
カインはアレンにそう提案した。
マリアに回復魔法を唱えて、体勢を整えなおしたかったのだ。
「分かった!」
アレンはその提案に従うとマリアを背負った。
そして今度はカインが魔物に向かってではなくて、
退路を作るためにベギラマを唱えた。
「行くぞー!!」
一瞬の隙にアレンは走り出した。
カインもそれに続いた。
魔物の群れを抜けると、
しばらく先の、吹雪の向こう側に
祠のようなものが見える。
「アレン、祠だ!祠が見える!あそこまで行こう!」
「ああ!!」
アレンとカインは雪の中を必死に駆け抜けた。
きっとこれで大丈夫だ、そう思っていた。
しかし現実は、まだその甘い夢を現実のものにはさせてくれなかった。
アレン達が走っている行く先に
三叉の鉾(ほこ)が、突き刺さっていた。
「・・・なん・・だ?あれ・・!?」
最初は単なる飾りかと思ったその三叉の鉾がゆらりと動いた。
それを手にするのは、アークデーモンと言う
巨体に羽の生えた牛のような魔物だった。
「!?」
巨体な魔物はその武器でアレンたちを足止めしてきた。
「なんなんだよ!」
思わずアレンは足を止めた。
しかしアークデーモンの狙いは足止めどころじゃなかったらしい。
次に鉾でアレンを滅多刺しにしてきたのだ。
「うわっ!くっ!」
ロトの盾で何とか堪えているといった状況だった。
防戦一方となったアレンは、
背負っていたマリアを一度降ろして、
2人から離れるように位置を変えていった。
「アレン!」
アレンに助太刀したいが、
そうも出来ない状況が迫り来ていた。
カインたちには、激しい冷気が襲い掛かってきた。
「さっきの・・・ブリザード!!!」
どうやら逃げ切れていなかったようだ。
アレンがあんな強い魔物と戦っているんだから、
せめて自分はこのブリザードくらいは倒したかった。
ベギラマを・・・と思ったとき、
横たわっているはずのマリアがふいに起き上がった。
『炎の精霊よ。わが命に従い、敵を焼き払え!
ギラ!!』
そして、丁寧なギラの魔法の詠唱を唱えていた。
「・・マリ・・・ア・・・?」
マリアが今更こんな魔法に詠唱をするなんて
なんだか違和感を感じた。必要ないはずではないか?
でも、一度、マリアのギラの詠唱は聞いたことがある。
ずっと前のことだ・・。
『マリア王女すごい!!』
『え?でも駄目だわ。まだまだ魔物がいっぱいいるもの。』
はるか昔、ラダトーム城を襲ったキメラを
まだ12歳だったマリアが打ち払ったのだ。
カインはその時初めてマリアの魔法を見たのだ。
「・・・なんで、今・・・こんな事思い出すの・・・?」
カインは不意に激しい嫌悪感を感じた。
そうこうする間もブリザードは仲間を増やしたのか
数が増えていた。魔物の群れに囲まれていた。
そしてブリザードは、忌まわしきあの魔法を唱える。
だが、カインとその魔法の間を、人影が遮った。
「・・・・・・やめて・・やめて、マリア!!!」
ブリザードはザラキを唱えていた。
***
アレンはアークデーモンの強い臂力に中々反撃が出来なかった。
でかい癖にものすごく動きが早いのだ。
こちらが一度反撃する間にも、二度襲い掛かってくる。
「この野郎・・・強い・・!!」
悔しいが、アレンが1人で倒せる相手ではないようだった。
仲間達と力を合わせて倒すしかないだろう。
が、どうやらその仲間も、違う魔物たちに襲われているらしい。
ブリザードの群れが自分達を覆い囲うように
立ちはだかっていた。
こいつら全部の相手をする体力は、とてもじゃないが
今のアレン達には無いだろう。
とにかく一度体勢を整えなおしたいのだ。
しかし逃げようにも、退路も防がれている。
さっきのカインの魔法でやったように、
一度逃げ道を作って一旦あの祠まで逃げるしかない。
アレンはアークデーモンの素早い攻撃を
何とかかいくぐって、一旦カインの元に戻ることにした。
だが、そこで待っていたのはアレンの想定以上の絶望だった。
カインがマリアを抱きかかえていた。
「・・・?どう、どうしたんだ・・!?」
マリアは先ほどと変わらない様子で目をつぶっている。
だが、カインの表情が蒼白になっていた。
そしてアレンの質問に答える様子も無い。
「どうしたんだってば!!」
アレンがカインの前に回って今度は確実に聞こえるような
大声でもう一度問い重ねた。
それでもカインは反応を示さずに、
ゆらりと顔を上げると、憎しみに満ちた顔で魔物を睨みつけていた。
そして、カインの体の回りに何らかの力が収束しているのを感じた。
「あい・・あいつ・・・ゆる・・さない・・・ゆるさない!」
その表情に思わずアレンの方がぞくっとした。
いつも穏やかな表情をしているカインが
こんなに憎しみを全面に押し出すのを、アレンは見たことが無かった。
このまま放っておいて、感情のまま爆発させると、
とんでもないことになると感じた。
「おい、おいって!!」
埒もあかない様子に、アレンは思いっきりカインの胸倉を掴んだ。
ぐいっと法衣を引っ張るとさすがにカインは意識をこっちに向けたらしい。
「ア・・アレン・・・。」
ようやくカインがこっちを見た。少し驚いた表情をしていた。
「どうしたんだよ。何があった!?」
「・・・ザラキ・・・で・・・・。」
「ザラキ・・・?
って、そんなの効いたためしないじゃねえか。」
アレンは一瞬ぎくりとしたが、
それを、何とかごまかしながら、その場にしゃがんだ。
そして、カインが大事そうに抱いているマリアの手を取った。
冷たくひんやりとした手は、ここが雪原であるからだけではなく・・・
少しの脈も感じることは出来なかった。
「ーーー っ!!」
さすがにアレンは二の句が告げられなかった。
ザラキは何度か自分もされたことがあるが、
それで死んだことなど無かった・・・が、それは偶然に過ぎなかったのだ。
「あいつ・・・・許さないから!」
カインがマリアを横とわらせるとゆらりと立ち上がった。
アレンはそれを慌てて押しとどめた。
「待て!待てって、お前何する気だ!!」
「あいつを倒すんだ。」
さっきも感じたが、カインの様子は普通じゃなかった。
「落ち着けって馬鹿!魔物の数見ろよ。
それよりお前が真っ先にやることあるだろ!!
魔物なんて俺が倒してやるから!」
「アレンが・・倒す?」
「お前、ザオリクってやつ覚えたんだろ!?
お前しか出来ないんだろ!?」
自分を生き返らせたというその奇跡の力を、
アレン自身は見たわけではないが・・・。
「ザオ・・リク・・・。そっか・・そうだね・・・。」
「だろ!?そうだろ!?お前、忘れんなよ!!
あ、でも・・そういや、魔法力足りるのか・・?」
ザオリクの発動には相当の魔法力がいるらしい。
それを洞窟でカインは言っていた。
「アレン、ありがとう。
大丈夫だよ。祈りの指輪があるから。」
カインは洞窟内で一度使った祈りの指輪を取り出した。
「そっか・・・!良かった!!」
まだ壊れていなくて良かった。アレンは胸を撫で下ろした。
「そしたら・・アレンは敵の足止めをしていてくれる?」
「分かった!!任せろ。」
アレンはカインの言葉に疑うことなくこくりと頷いた。
そして、稲妻の剣を手にして、
魔物が2人に近づけないようその間に立った。
カインは、ふーっと息を吐いた。
アレンがいてくれて良かった。その事に少し感謝した。
おかげで頭が冷やすことが出来た。
今はアレンに使った時と違って、
ザオリクが失敗する気はしなかった。
祈りの指輪を取り出してはいたが、
魔法力も、何とかなる気がした。
取り出していた祈りの指輪は・・・、
マリアが使えば良い。
カインは倒れているマリアのその左手を取ると
その指に祈りの指輪をはめた。
「こんな時で・・・・ごめんね、マリア。」
アレンはどうやら巨大な魔物に好かれる傾向でもあるらしい。
どこかからか、さっき倒したギガンテスもやってきていた。
このロンダルキアの雪原はどうやら、洞窟よりも魔物が強いらしい。
「信じられねえな、あそこのが最強だと思ったんだが・・・。」
先ほどそのギガンテスの一撃を受けて、
アレンの左手はだらんと力なく垂れていた。
「盾くらい使わなくても、何とかなる時は何とかなるが、
これはちょっとまずくないか・・?」
何がまずいのかと言うと、一匹も魔物を倒せてないのだ。
最初に雪原に来たとき、マリアのイオナズンも使って
3人がかりでようやくギガンテスを倒せた。
だから、倒せない相手ではないと分かっているのだが、
3人がかりで攻撃に集中できる状態を作れもしないし、
残念ながら、アレン1人ではどうにもならないようだ。
「今は・・逃げるしか・・ないじゃ・・ねえか?」
情けないが、そんな結論に至る。
背後から、カインのザオリクの魔法を唱える声が聞こえた。
きっとこれでマリアも生き返る。
そうしたら一気に逃げるんだ。
あの祠まで。
「カイン!成功したのか!?」
アレンは二人の元に一度駆け寄った。
カインはアレンを見ると、いつも通りの笑顔で笑った。
「大丈夫だよ。意識は戻ってないけど、
成功したみたい。」
アレンが先ほどと同じくマリアの脈を取ってみると、
確かに力強く脈打っていた。
「そっか!良かった、本当良かった!」
そう言うとアレンはマリアを背中に背負った。
「アレン?」
「カイン、逃げるぞ!このまま戦い続けてもジリ貧だ!」
アレンはそう言うと、先に見えている祠を指差した。
「でも俺、退路を作るために
マリアに一回イオナズンでも唱えてもらおうと思ったんだが。」
「マリアはまだ眠っているし、その役割は僕が引き受けるよ。」
そう言うとカインは立ち上がって、雪を払った。
「そうか?・・大丈夫なのか?」
「任せてよ。その代わりアレンは思いっきり走ってよ。
途中でつかまるとか、無しだよ。」
カインはそう言って笑った。その様子にアレンも笑った。
「そんなの、お前に言いたいわ。
お前こそヘマしてつかまるなよ!何かあれば・・大声出せ?
戻ってくるから!」
「うん。でも、マリアも背負ってるんだから気をつけてね。
じゃあアレン、先に走って。」
カインが一度炎の魔法を唱えると、それを合図にアレンは走り始めた。
アレンが走っていくのを、カインはじっとその場で見つめていた。
そしてアレンに聞こえるように、もう一度叫んだ。
「アレンーーー!!走って!」
そして今度は聞こえないような小さい声で呟いた。
「アレン、どうか・・・どうか先へ進んで。走って。
僕から見えなくなるまで・・・・。」
そして名残惜しそうに、カインはアレンから目を離した。
もう残り魔法力はほとんど残っていなかった。
- 続く-
2013/03/02
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