この洞窟は、今までとはどうやら規模が違うようだった。
進めども進めども、ゴールに辿りつかない。
むしろ、どれだけマッピングをしても全体像すら把握できない。
さらに落とし穴などのトラップの数も桁違いだった。
「くっそ・・・・。」
アレンは思わず舌打ちした。
どれくらい時間が過ぎたのかは
真っ暗な洞窟なので分かりづらいが、一日中歩いている気がする。
いい加減、空腹だって感じている。
出来ればどこかで腰を下ろして休憩したい。
そう思うのだが、次々に魔物が襲い掛かってくるのだ。
早く、この洞窟を抜けたい!
口に出したりはしないが、それが今の切実な願望だ。
だが、現実は過酷だ。
この暗がりでどうやって見分けているのかと思うが、
魔物は確実に自分達を見つけて襲い掛かってくるのだ。
激しい足音が聞こえる。
振り返った先にいたのはドラゴンの群れだ。
「ドラゴン・・・!」
ぎくりと差し迫った声でカインはそう言うと、
はやぶさの剣を持ち直した。
連戦につぐ連戦で、既に彼らの疲労はピークだった。
しかしだ、何も懇切丁寧に出てきた魔物全部と戦う必要などないのだ。
「カイン!マリア!!
走れ!!逃げるぞ!!」
アレンは二人に逃げるよう指示した。
それを聞くと、カインもマリアも間髪いれずに
アレンに続いて、逃げの一手に打って出た。
とにかく走って、走って、魔物から逃げるのだ。
どこをどう走っているのか分からないが、
アレンは二人を先導しながら、勢いそのままに走った。
「急げ!!」
が、既に体力の限界を迎えつつあったマリアは
走りながら、ふいに足の力が抜けるのを感じた。
前の二人に必死についていこうとするのだが、
最早足が言う事を聞かない。
「・・・あっ!」
がくっと、膝が落ちた。
その場にマリアは崩れ落ちた。
最初は小石か何かに躓いたんだろうと思った。
すぐに立ち上がって、追いかけようとするのだが、
足に力が入らない。
動けない・・・!
背後からはドドドドと地鳴りのような音が聞こえる。
すぐ後ろ、すぐそばにドラゴンが追いかけてきているのだ。
そしてその勢いは少しもおさまることなく
マリアが足を止めてる一瞬に、一気にその距離をつめて、
鋭い爪で襲い掛かってきた。
「!!」
しかし、逃げようにも足が動かないのだ。
マリアは思わずその激しい衝撃を覚悟して
目をつぶってその身を固めた。
「マリアッ・・・!!」
直後、どこからか声がして、
やや乱暴に誰かがマリアを抱え込んでその攻撃を避けた。
いや、厳密にはそれを避け切れてはいなかった。
マリアが目を開けると、
ドラゴンの一撃と共に血しぶきが飛んでいる。
でも・・その血は自分のものではない。
その場にうずくまって血を流しているのはカインだった。
「・・・っつ・・・・。」
「カイン!!」
どうやらカインはマリアが急に倒れこんだのを
いち早く気づいていたらしい。
「おい!!大丈夫か!!!」
先頭を走っていたアレンもさすがにその騒ぎに足を止めた。
思わずマリアはカインに駆け寄ろうとしたが、
魔物に背中を向けたのがいけなかった。
「マリア・・・まだだ・・・」
カインは、マリアのその手をぐいっと引いた。
次の瞬間、群れで襲い掛かってきているドラゴンは
激しい炎を吐き出した。
「カイン!!マリア!!」
アレンは二人を助けるため、ドラゴンの攻撃を止めるべく
あわてて猛ダッシュで走り、魔物の群れに反撃の一撃を与えた。
しかし、いかんせん敵の数が多い。
「くっ!!」
アレンの攻撃を受けたドラゴンは意識をこちらに向けたものの、
未だ別のドラゴンは雄たけびと共に炎を吐き続けている。
どんどん洞窟内の温度が上がっていくのを感じる。
それだけ猛烈な勢いの炎なのだ。
待て待て、あの炎の中心にはカインとマリアがいるんだぞ!?
チラッと見るとカインはマリアを抱きかかえたまま、
反撃も出来ずに、それどころか身動きすら取れないようだ。
「・・・・あ・・の馬鹿っ!!」
アレンは焦ったように、目の前のドラゴンの顔面に
ドラゴンキラーを突き刺した。
ドラゴンの弱点は顔面だ。いい加減それくらいは分かっている。
「くっそ!!どけよ、てめえら!!!」
しかし、そのアレンの奮戦はマリアの耳には届いていない。
猛烈な炎が幾度となく二人を襲いかかる。
その間、カインはずっとマリアを守るように
身を覆い被せていた。
ちょっと待って・・このままじゃ・・・
マリアは焦っていた。
炎を受けているのはカインだ。そのカインが動かない。
大丈夫なのか?
どうしたら良いのか・・・。
とにかく・・・・とにかく今は、この場から去りたい!
マリアはその願いと共に、
慣れない『ある魔法』を唱えていた。
「うらああ!!」
アレンは裂帛の気合と共にドラゴンの身体をドラゴンキラーで貫いた。
ぜいぜいと肩で息をしながら、前方の様子を確認した。
ドラゴンがずっと炎を吐き続けている。
あれは無尽蔵の仕組みなのか?
息でも吐くように、繰り返し炎が吐き出される。
しかし、その仕組みなどは全くどうでも良かった。
カインもマリアもさっきから反撃している様子が無い。
ちょっと待てよ。あそこで何が起きているんだ?
もしかして・・・二人とも・・倒されてしまったのか・・・?
待て待て、あの二人に限ってそんな事はない・・はず・・。
そう思いつつ、先ほど自分達の身に起きたことはなんだ?
人は驚くほどあっさり死ぬのだ。
なんだこの発想は。
「んな・・そんな訳あるか・・!ちっくしょう!!」
ドラゴンはずっと二人に襲い掛かっている。
アレンの方は見もしない。
そんな隙だらけの魔物、いくら皮膚が硬かろうが、強かろうが、
絶対仕留めてやる!!
アレンの会心の一撃は、ドラゴンの巨大な体をも吹き飛ばした。
さすがに、この攻撃でドラゴンもアレンを敵と認めた。
しかし再度吐き出された炎をアレンは斬り捨てながら、
捨て身で一気にその顔面に刃を突き立てた。
その傷跡から激しく血しぶきが飛び上がる。
あまりの苦痛にドラゴンも暴れていたが、次第にそれも弱まり・・
バタンとその場に横倒れになった。
「はぁっ・・はぁっ・・・。」
何とか無事にドラゴンを倒したアレンは
二人がやられていた場所へと向かっていって・・・
そして、驚いてバッと回りを見回した。
「・・・え・・・!?・・どういう・・ことだ・・・?」
アレンは何が起こっているのか分からなかった。
いない。いないのだ。
カインもマリアもその場にいなかった。
***
ぜえ・・ぜえ・・・。
マリアは自分の息が荒いのを感じていた。
それでも、炎の熱さは消えていた。
魔物の騒々しさも今は感じない。
「・・・・・?」
今私は何をしたのか・・?
思わず無我夢中で魔法を唱えた気がしたのだが・・。
「う・・・・。」
そんなマリアの足元で、小さなうめき声が聞こえた。
カインが激しい火傷をおったまま倒れていた。
「カイン?カイン、大丈夫!?」
マリアが声をかけると、幸い意識があったようで
カインは小さな声ながら返事をした。
「だ・・だい・・じょう・・げほっ。」
「待って、回復魔法を。」
「いい・・自分で・・やる・・。」
マリアがすぐさまベホマを唱えようとしたが、
それより一早くカインは自分でベホイミを唱えた。
ふわっとした緑色の光がカインを包み込んだ。
そして少しずつ火傷の負傷が治っていく。
「はぁ・・。」
大きく息をつくと、カインはゆっくり起き上がって
その場に座った。
「カイン、大丈夫なの?
ベホマしなくても平気?」
「あ・・・うん。なんとか・・ね。
マリアも魔法力あんまり残ってないんじゃない?
僕はさっき祈りの指輪使ってるし。」
祈りの指輪はカインが使っても幸いに壊れることはなかった。
完全回復とはいかないが、カインは幾分魔法力が回復していた。
「・・・・それより、あれ・・・?」
カインは左右を見渡して、不思議に思った。
「ここはどこ?アレンは?魔物はどうなったの?」
「わ、分からない。私夢中で・・・。
脱出したいって・・」
「脱出・・って?」
詳しい場所は良く分からないが、
しかしここは相変わらず薄暗い。
洞窟の外に出たわけではない。
しかもよく見ると周りには人骨が転がっている。
「・・・・・・・・・。」
この様子見覚えがある。
洞窟に入ってすぐ入ったフロアだ。
マリアは未だ何が起こったのか良く分かって無い様子だが、
カインは合点がいった。
「ああ、マリア。『ルーラ』したんだね?」
***
アレンは早足で歩きながら、激しく焦っていた。
ドラゴンは無事倒した。
倒したから、また3人で先に進もうとしていたのに、
仲間二人がいなくなっていたのだ。
最初、もしかして二人ともドラゴンの炎で焼き尽くされて、
その身は最早灰と散ってしまったのだろうか・・・と
そんな考えが頭をよぎった。
だが、冷静に考えれば、いくら強力な炎でも
あんな一瞬でそんな事ある訳が無い。
絶対二人は生きてる。
きっとカインかマリアのどっちかが、何かしたんだ。
およそ脱出的な魔法をだ・・。
つまり・・・・・。
つまりだ・・・・・・。
もしかして、リレミトでもしたのか・・?
二人で?
「ちょっと・・待てよ。それは無いよな・・・?」
いや、最悪リレミトで洞窟を脱出するのは構わない。
全滅するよりはその方がよっぽど良い。
だからと言って、
俺を残していくか・・?
「うっそだろう・・?」
言い換えると、冗談だろう?と言う意味だ。
いや、そんな事を言い換えている場合ではない。
少しアレンは笑えて来た。
いや、待て待て。ポシティブに考えてみよう。
二人は死んでいないのだ。
死んでないなら、また会える。
「よし・・・なら・・・行くか。」
なんだか最早正常な判断をしているのか、よく分からないが・・
アレンは先に進んだ。
一人で進むなんて、いかにもスリリングな体験だ。
さっきまで3人でもピンチだったのに。
アレンは歩いていると、ふいに地面が消えた。
「・・・!?」
この感覚は何度目かだ。
落とし穴のトラップに嵌ったようだ。
落ちながら・・・
ますます訳分からんとこに行ってしまうじゃないか!
どうやって合流すればいいんだーーー!?
とアレンは頭を抱えた。
落ちた先は、さほど広くなさそうな
暗い空間だった。
ここは来たことがあるのか?
マッピングの地図すら、持っているのはカインだ。
「はっは・・。
えーい、もうちっともわかんねーよ!」
ええい、なるようになれ!とアレンは歩き続けた。
本当は、この場に止まっていても良かったのかもしれない。
だが、何となくアレンは先に進んでみたく感じたのだ。
しかし、無常にも、一人の時でもやはり魔物が出る。
現れたのは機械仕掛けの殺人機械、
一度アレン自身の命を葬り去った曰くつきの魔物だ。
「・・・・でた・・な・・!」
アレンはドラゴンキラーを構えた。
殺人機械、人呼んでキラーマシーンと呼ばれるその魔物は
アレンの姿を見つけると、襲い掛かってきた。
「くっ!!」
その一撃をロトの盾でこらえた。
そうだ、落ち着け。今はロトの防具が揃っている。
そう容易く俺を殺すことは出来ないぞ・・。
アレンはそう考えながら、キラーマシーンに応戦した。
アレンの一撃はキラーマシーンの装甲を傷つけた。
しかし魔物の反撃は素早い。
「うわっ!」
アレンが一度攻撃する間に、魔物は二度襲い掛かってくる。
「ああ・・・・カインの隼の剣と同じ原理だな・・。」
などと冷静に頭をよぎる。
落ち着け。
一撃ずつ落ち着いて捌くんだ。
そして、確実に反撃をしろ・・!
少しずつアレンの攻撃は、確実にキラーマシーンを傷つけていく。
だが、反面キラーマシーンの攻撃はアレンを傷つける。
「いってえな、くそ!!」
何とかアレンの一撃がキラーマシーンの急所に決まったらしい。
ガシャンとキラーマシーンが倒れた。
「はぁ・・・はぁっ・・!倒したぞ、くそったれ!!」
無事に魔物を倒したが、
アレンも相応のダメージを負っていた。
「ホイミ・・も出来ねーんだよ!こちとら!」
誰にともなくそんな事を言うと、
アレンは手持ちの薬草を煎じもせずに飲み込んだ。
アレンは引きずるように何とか足を進めた。
進むに連れて魔物も出る。
それに対してアレンは馬鹿丁寧に戦う。
逃げようにも、もうそんなに早く走れそうも無い。
次に襲い掛かってきたのは骸骨のような剣士だ。
骸骨剣士の一撃はアレンの体を肩から斜めに切り捨てた。
「ぐっ・・・・うああ!!」
ロトの鎧がなければ、刃は心臓に届いていたかもしれない。
しかし、まだその腕は動く。まだ体も動かせる。
アレンは反撃に出た。
「ぜえ・・ぜえ・・・・。
やっべえ量の血だな・・こりゃ・・・。」
いつもこんな時は、カインかマリアがすぐに治してくれるのだ。
でもいない今は、治すこともできない。
再度薬草をアレンは使った。
こんなもん大して効きもしない。
このまま俺・・・血を流し続けたら死ぬんじゃないか・・?
ああ・・・でも死んでも大丈夫なんだ。
カインが生き返れらせてくれるようになったんだ。
ふとそんな弱気な思いにかられた。
ちょっと待て。
俺、ついさっき死んでたんだぞ。
なのに、また死ぬ気か?
で、また生き返らせてもらえるから良いか・・って?
「冗談・・・じゃねえ・・・!」
いつの間に、そんなふざけた思考をするようになったんだ?
あいつらだって無事でいるかはわからねえ。
今頃魔物と戦って、やられているかもしれない。
ここで、俺があっさりまた死んだりしてみろ。
もう、どんな顔してカインに顔を合わせたらいいのか分からない。
アレンは首を大きく横に振った。
「だーーー!!くっそ、気合入れろ、俺!!
絶対生き抜くんだ!」
アレンの気合の攻撃に押されたように
骸骨剣士は倒れた。
そして、ずるずるとアレンは足を進めた。
「・・・・このまま死ぬとか、
いくらなんでも・・・ルビス様も・・・そんな事させない・・だろ・・?」
まぁ、世の中捨てる神あれば、拾う神ありだ。
だから、大丈夫だろ・・・とか、よく分からないが頭をよぎった。
さらに容赦なく魔物は現れる。
世の中には、神もルビス様もいないのかもしれない・・・。
アレンは落胆した。
現れた魔物はフレイムだ。炎の化身なような奴だ。
「炎なんて・・今は見たくもねえんだよ!!」
カインもマリアも炎のせいでいなくなったじゃないか!
アレンはふらつく体を叱咤して、
ドラゴンキラーを振るった。
その攻撃は、フレイムの体をかすった。
そしてその身の炎が吹き上がる。
「うっわ・・!」
バランスを崩してアレンは尻餅を着いた。
そしてフレイムは炎を吹き出そうと身構えている。
思わず、ずりずりと二三歩後ずさったアレンは、
何かの塊とぶつかった。
「・・・・・え・・・・?」
その塊に手を触れると、アレンは思わずそれを拾い上げた。
「こ・・・これっ・・・?」
アレンがその感触を確かめている間に、
フレイムは炎は吹き出した。
アレンはその炎をちらっと見ながら、
ふっと笑った。
「へへ・・・・っ・・。なんだ・・・・。
やっぱり世の中、捨てたもんじゃねえ。」
拾う神ありだ・・とブツブツ呟きながら、
アレンはそれを振るいながら、炎を一閃斬り裂いた。
その剣戟はフレイムにも届いていた。
「いける・・!」
返す剣で、フレイムを再度で斬り捨てた。
フレイムは倒れた。
「はは・・・・。やった・・・・やった!!
これ・・・すげえ・・剣・・じゃん。」
がくっと膝をつくと、
アレンは消えゆく意識の中で、
この奇跡的出会いに感謝していた。
アレンは、稲妻の剣を手に入れた。
- 続く-
2013/02/09
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