ロンダルキアへの洞窟6

カインは緊張して息を呑んだ。
ごくんと飲み込んだその音ばかりが自分の耳につく。

あたり一面、しーんとして物音一つしない。

さっきまで魔物たちがあんなに騒いでいたのに、
何もいないと、これだけ静かな洞窟だったらしい。

聞こえるのは、自分の心臓の鼓動の音ばかりだ。
違う、聞きたいのはそうじゃなくって・・・。
目の前のアレンの・・・。

そう思っていた時間は一瞬だったのかもしれない。
でも祈るようにザオリクの成功を祈っていたカインとマリアには、
それは耐え難く長い時間にも感じられた。

そして、静寂を破ったのは・・

「・・・・あれ?なんだ、俺・・寝てたんだっけ・・?」

顔をこすりながら、起き上がったアレンの声だった。

「っ!!」

思わずマリアが、カインの腕をぎゅっと掴んだ。

「ア、アレン・・・」

そしてカインは、しばらく目を瞠っていたが、しゃがんだまま、
震えるような手でアレンの体をぎゅっと抱きしめた。

「お、おい・・・!?どうしたんだよ!」

「アレン、良かったあああ。」

「良かったって・・何が?」

あまりの勢いにアレンの方が戸惑っていた。
ラリホーから目が覚めたにしては二人が尋常ではない。
なんだ、この喜びっぷりは。

自分が覚えてない間に、何があったんだろうか?
いや、その覚えていない間・・・自分はどうしてたんだろうか・・。

「俺・・・どうしたん・・だ?」

「ア、アレ・・、アレン・・・アレンは・・・・。」

カインは何故だか言葉につまってうまく話せないようだ。

「何を、アレンアレン言ってんだよ。」

アレンは思わずそんなカインに笑ってしまったが、
マリアにそれを咎められた。
そしてはっきりとマリアは答えた。

「あなた、さっき息してなかったわよ。」

「・・・・は?え、そんでベホマしてくれてたんか?」

「ベホマなんて効きもしないわよ。」

「・・?」

よく見るとマリアの目も赤くなっている。
ええ・・マリアまで、な、泣いてる・・・??
なんでだ?

いくらなんでもラリホーや怪我による気絶でこんな風にはならない。
アレンはようやく事の重大さを何となく感じてきた。

「アレンの・・・・心臓は止まってたわよ。」

「え、俺・・しん・・・・?」

思わず自分の左胸を押さえてみるが、
バクバクと煩いくらいだ。

「カインに感謝することね。」

マリアの言葉にアレンはカインの方を見てみたが、
カインはふるふる首を横に振った。

「アレンは全然覚えてないの?」

カインはゆっくり立ち上がって、アレンにそう尋ねた。
アレンの幻は自分の手を取ってくれたように見えたのに、
それは自分の勘違いだったのだろうか?

「いや・・・よく・・わかんねえ。
 死んだとか・・・え・・マジでか・・?俺全然実感無いんだけど。」

「残念ながら、そこはホントなんだ。」

「お前ら・・てか、カインが何か大声で叫んでるなあってか
 そんな夢見てた・・気がするんだけど。」

「ああ・・・。そうなんだ。」

アレンは夢のような感覚で捉えてるらしいが、
あれはあながち完全な自分な勘違いでも無いようだ。

「いや、カイン。そうなんだ・・・じゃ、ねえよ。」

「?」

アレンはぐいっとカインの手を引っ張った。

「よくわからねえが、お前が・・・俺を・・・
 生き返・・らせたっていうんだな・・。」

アレンはいつになく真剣な表情だった。
それでカインも思わず真顔で頷いた。

「ザオリクって言うんだ。
 難しい魔法・・だけど、成功して・・良かったよ。ね?」

その言葉にアレンがぐっと拳を握り締めた。
そして突然に深く頭を下げた。

「ど、どうしたの?なんか床に落ちてる?」

思わずカインも真似して、下をじーっと見つめた。

「違うよ!俺を生き返らせてくれたんだろ!?
 よく分からん・・その魔法で!
 お前、俺の命の恩人って訳だな・・!?
 だから!礼を言いたいんだ!」

なんか妙に偉そうな礼の言い方だ・・。
が、妙にそれもアレンらしい。
でもそのアレンらしさが嬉しかった。

「ありがとう!助けてくれて。」

カインは笑って首を振った。

「いや・・礼には・・・及ばないです。
 アレンは何度も僕を助けてくれてるし、
 さっきもマリアを助けてくれたんだし。」

「つーか!!
 なんだよ、お前生き返らせるって!
 すげーじゃねえか!なんだよ、それ!!」

アレンは満面の笑みだった。無邪気に喜んでいた。

「そ、そう・・?
 でも少し・・この魔法があれば旅が心強く感じる・・かな。」

「そうだな!俺の仲間マジすげえ!!」

アレンは嬉しそうだった。
マリアは少し離れたところから、
少し何かを考え込んだ様子で、二人の様子を見守っていた。


3人はいつまでもとどまっていても良くないと
先へ進み始めた。

進み始めるとすぐに階段が見えた。

その階段を下りた先は、
狭い空間の中に一つ宝物があるだけだった。

「・・見つけた・・・!」

アレンは思わずその宝箱に駆け寄った。
その様子にカインもマリアも、
急いで宝箱に駆け寄ってみた。

それが罠かどうか・・など警戒する様子も無く
アレンは思い切りよく、その宝箱を開け放った。

カインもそれを覗き込んだ。
それは、美しいブルーメタルの輝きを秘めた・・鎧であった。

「見つけた、ロトの鎧。やっと見つけた!!」

「アレンが言うとおりだったね。
 本当にここにあった。」

アレンは嬉しそうにロトの鎧を取り上げた。

「マリア、ほら見つかったぜ!
 お前の国の鎧!!」

そして元々ムーンブルクで代々守られてきたその鎧を
主であるマリアにも見せた。

「私も見るのは初めてよ。
 でも良かったわ。破壊されたりしてなかったのね。
 きっとお父様も喜ぶわ。アレン身に付けてみたら?」

マリアもさすがに嬉しそうだった。
ムーンブルクの財産が失われなかったことが嬉しい。

「良いのか?俺で。
 カイン鎧とか装備しないか?」

「え?アレンが装備してよ。僕にはちょっと重そう。
 きっと、アレンに似合うよ。
 それに!僕もうさっきみたいにアレンの心臓一突きとか、もう嫌だし!!」

「あ・・ああ・・・。それは・・悪かった。
 じゃあ・・これからも前線で戦うために・・俺が使わせてもらうな。」

カインもマリアも頷いた。異存などは無かった。

これで、全てのロトの装備が揃ったことになる。
残念ながら、ロトの剣は折れてしまっているが、
きっと今のアレンの姿は往年の勇者ロトの姿にも
酷似しているだろう。

「あー。きっと勇者ロトも大体こんな感じだったんだよ!
 旅をしてきて、アレンのこんな立派な姿が見れるなんて。
 良かったなあ〜。」

「確かに。最後の鎧が見つかって・・・。
 ロトの装備が全部揃ったんだもの。感慨深いものがあるわ。
 きっとお父様だけじゃなく、ご先祖様も喜んでいるわ。」

アレンの姿を観察しながら、しみじみカインとマリアがそう言った。

「お前ら、どこのじーさんばーさんだよ。何をしみじみ言ってんだよ。
 大体ロトの剣折れてるし、勇者ロトの再現とはいかないだろ。」

アレンは折れたロトの剣も取り出して残念そうに言った。
ロトの剣の輝きは消えてはいないが・・それでも、折れてしまったものは直らない。
二度とこれは実戦で使うことは無いだろう。

しかしだ。
ここでロトの剣が折れていなかったとしてもだ。

ロトの装備が全て揃ったこんな喜ばしい時に
考えることじゃないかもしれないが、
ロトの剣は、本当に史上最強の武器だったんだろうか?

アレンは何故かそんな事を不意に思った。

単純な攻撃力なら、今手にあるドラゴンキラーの方が上じゃないか。

「・・・・・・・・・。」

急に沈黙してしまったアレンを心配そうにカインが覗き込んだ。

「アレン?どうしたの・・?
 今更だけど・・ロトの剣折ったこと・・・怒ってる・・・?」

そんな事を言うカインをアレンは「マジで今更だな。」と笑い飛ばした。
別に怒るとかそんな心境になった事は無いのだ。
もう過ぎたこと、仕方の無いことだ。

ロトの鎧を見つけられたのは嬉しく思うのだが、
ロトの剣に固執するつもりは無く、それは何となく矛盾する感情だった。

アレン達がそんな風に喜び合っている所に、
なにやら急な視線を感じた。

「あなたたち、油断はしないで。
 ここは魔物の巣窟よ。」

「ああ・・・。暗がりに・・腐った死体が見える。
 この宝箱の番でもやってたのか?」

「魔物ね。遠慮は要らないわ。
 倒して、先へ進みましょう。」

3人は装備を取り出して構えた。
先制をしたのは、マリアの杖より舞い起こった
かまいたちの風であった。

不意をつかれた腐った死体は体勢を崩している。

「カイン、行くぞ!」

「あ・・うん!」

カインは一瞬遅れて、アレンに続いて走った。
走りながらいつものように、魔法で警戒をと考えたが・・。

「・・・ あ ・・。」

先ほどまで苦も無く出せていた炎が
搾り出すような小さい火しか出せない。

あれ?なんでだ?と思ったが、
思い当たる節は一つしかない。

「カイン!前!」

見上げると、目の前に腐った死体が立ちはだかっていた。
そしてその爛れた腕で殴りかかってきた。
こいつら腐った死体は緩慢な動きのように見せて、
妙に素早い動きの時がある。

「どけよ、てめえ!!」

だが、それよりもアレンの一撃の方が早かった。
腐った死体のすぐ後ろからアレンが斬りかかっていた。

「イオ!」

そして続いてマリアの魔法が炸裂した。
小さな爆発であったが、目くらましには十分使えた。

その間にアレンはカインの手を引いて、体勢を整えなおした。

「おい。大丈夫か?どうした?」

「あの・・魔法力の方が結構・・・やばいかも・・。」

「え。」

アレンが覚えてる限り、最近はカインも魔法力が増えてきて
ベギラマなら10回やそこらで魔法力が尽きることはなくなってきていた。

「ザオリクの影響はやっぱり軽くは無いのね。」

マリアはそう言った。
難しい魔法だと言われるだけあって、魔法力の消費は
並ではないのだろう。

「んー。分かった。そう言うことだな。」

アレンは事情を理解すると、別にカインでも攻める様子でもなく
少し考えてまたカインに向き合った。

「なあ、ちょっとそれ貸してくれよ。」

「え?それって・・これ・・?」

アレンが指差してるのはカインが持っている隼の剣だ。

「そう。・・いいから、貸してみ。」

「う、うん。」

以前に、カインがアレンに隼の剣を使うかと聞いても
鼻で笑うようにいらねえといわれていた。

珍しい心境の変化だなと思いつつ、カインはそれを手渡した。

「ちょっと借りるな。」

アレンはドラゴンキラーをカインに渡すと、
魔物に向かって駆け出した。

そして走りながら、まずは一閃。
アレンの振るった剣先から舞い起こる剣気が
腐った死体に突き刺さる。

「うひゃー。マジ、この剣かっるーー!」

腐った死体はアレンの存在を認めたが、
その反撃を受けるよりも早く、
アレンは勢いそのまま壁を蹴って、
天高く舞い上がった。

そして、空中姿勢のまま・・・

「いっけーーー!!!」

アレンの放った二撃目によって、腐った死体はがくりと倒れた。


カインたちが割ってはいる隙もなく、腐った死体は
アレンが一人で倒してしまった。

「・・・つ・・つよい〜〜。アレン、すごい!」

アレンは身軽に着地を決めると、
血糊を払って、こっちに戻ってきた。

「カイン、返すな。サンキュー。」

そう言って、アレンは隼の剣をカインに返した。

「・・いや。アレン何だかすごい生き生きしてたよ。
 それに、どうしたの?急に剣を貸してだなんて。」

アレンはやっぱりすごい。
初めてであっても、どんな武器をもすぐに使いこなせるようだ。

今のなんて、自分よりよっぽど
隼の剣の特性を生かしていたような気がする。

「あーー。なんとなく、お前に命助けられて、
 俺がだな、素直になってみるとだな・・。」

「素直・・?」

「俺やっぱり剣が好きみたいだ!」

そう言ってアレンが少年のような表情で笑った。
いや、そんな事を言われても、隼の剣を使ってるのもカインだし
ロトの剣を折ったのもカインだ。

「え・・・っと・・それは・・・・。」

若干変な汗を流しながら、カインは言いよどんでしまった。

「ペルポイだったっけ?光の剣とかあったじゃん。
 あれとか強そうだったよな。
 俺さ、やっぱ、剣が好きだーって思った。」

「あの・・アレンさん、すいません。
 光の剣を買うなけなしのお金で隼の剣を買ったのを
 根に持ってますか・・・?」

テパで急に見惚れて高額な隼の剣を買いたがったのは
カインであった。

「は?ああ、別にそう言うつもりじゃないけど。
 お前が武器をほしがるなんて珍しかったし、
 それは良いんだよ。」

「でも僕より君の方が、隼の剣には向いてるよ。
 アレンが使えば良いんじゃない・・?」

「じゃあ、お前は何を使うんだよ。それこそ鼻で笑うわ。」

実際、アレンは笑いながら首を振った。
若干むっとしながらもカインは何も言えない。

「カイン気を悪くすんなよ。そう言うつもりじゃない。
 なんだよ、俺の素直な気持ち言っただけじゃないか。
 俺、武器は何でも使えるけど、やっぱり俺は剣が一番好きだ。」

「だから!アレンが、隼の剣使えば良いじゃないか。」

・・・。

何故目の前の二人は言い争いを始めてるんだろう。
マリアは不思議に思った。

「ちょっと落ち着いてよ。
 アレン、あなたの言いたいことは分かったけど。
 どうするの?お金をためてペルポイに行こうって言う事?」

「いーや。
 とりあえずドラゴンキラーがあるんだし、大丈夫だよ。
 先に進んで、どっかでまた新たな剣にでも出会えたら良いなって話だ。」

「そう言う事ね。分かったわ。
 それから、カイン。」

「な、何・・・。」

話の矛先を自分に向けられて、
カインはびっくりした。

「先に進むなら、あなたの魔法力無しでは話にならないわ。
 祈りの指輪持っているでしょう。
 それを使って。」

「え・・でもこれ、使ったらすぐ壊れちゃうかもしれないよ。」

以前使った時祈りの指輪は一度で壊れたことがあった。

「勿体無くて使わないアイテムなんて意味が無いわ。
 それに、祈りを指輪を使わないんなら先になんて進めないわよ。
 そしたら私がリレミトを唱えるわ。二つに一つね。」

マリアはきっぱり二人にそう言った。
ここが一度アレンが命を失うほどの危険なダンジョンであることに
変わりは無い。体制を万全に整えなければ
前進など出来ないだろう。

「分かったよ。アレン・・・このままで良いんだね?
 もし君がいうならお金を貯めて、ペルポイに行っても良いよ。」

カインはそうアレンに確認するように尋ねた。

「ああ。俺別にペルポイに行きたい訳じゃない。
 それより、この洞窟まだまだ何かある気がするんだ。
 底が見えないと言うか・・。先へ行こうぜ。」

どうやらアレンは元来た場所に戻るよりも
先に進みたいらしい。

それなら・・・進もう。

カインは二人に後押しされて、
祈りの指輪を使うことにした。





- 続く-

2013/01/25
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    アレンふっかーつ!
    そしてうだうだと会話の多い話でした。もう少しかなあ。
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