それは一瞬の出来事だった。
自分より前方でドラゴンと戦っていたはずのアレンが、
血相を変えた様子で自分を通り過ぎて、走り抜けていく。
「・・?アレン・・・??」
マリアの元へと走っていったと思ったアレンは、
何故かマリアに向かって、体当たりを食らわせた。
「え・・!?アレン、何をするの・・!?」
マリアは驚いて後ろに倒れ、その場に尻餅をついた。
アレンが急に何故そんな事をするのか分からなかった。
だが、勿論その行動に理由が無いわけではなかった。
暗くて見えないはずの暗闇からキラっと嫌な光がしたのだ。
それは大きな刃物の光。
「ま・・もの・・・?」
マリアはその場に座り込んだまま、
そしてその姿も確認するまでの間のほんの少しの時間。
その一瞬の間に、アレンは先ほどと同じように
きらめく刃をもった魔物に対して、
ドラゴンキラーで向かって行った。
そして・・
「アレン・・!いや・・!アレン、アレン!!」
マリアの悲鳴のような声が聞こえる。
暗くて何が起きてるんだがよく分からないが、
切迫したような様子にカインは慌てて立ち上がった。
立ち上がってみたところで、暗くてよく見えない。
駆け寄るよりも、こっちの方が早いと判断した。
「ベギラマ!!」
カインのベギラマの炎が魔物に襲い掛かる。
その火の光が少しだけ辺りを照らす。
どうやらマリアに襲い掛かったのは
不気味な殺人用の機械の様な魔物だった。
そしてアレンがその魔物の刃で傷を負ったようにも見えた。
ベギラマの炎が消えるより早くカインもその魔物に駆け寄った。
そして今度はアレンから『切羽詰らないとやらない』とは言われないよう、
剣にその炎をまとわせた。
「アレンから離れろ!」
殺人機械はカインの攻撃をその胴体に受けて標的を
二人からカインに変えたようだ。
ぐらっと倒れたアレンはマリアが抱きかかえた。
アレンの回復はマリアに任せておけば良い。
それより、問題はこの敵だ。
先ほどドラゴンにも通じたはずの魔法剣による攻撃が通じていない。
いや、通じているのかもしれないが、
どうやらこの魔物に痛点はないらしい。
ドラゴンのように痛そうに暴れるでもなく、
機能停止になるでもない。
それでも今はこれで戦うしかない。
しばらくしたらきっとアレンが助太刀してくれる。
そしたら、この魔物の弱点を見つけてくれるだろう。
「もう一撃・・!」
はやぶさの剣による2回攻撃をしようとしたが、
今度は殺人機械の攻撃の番であった。
どうやらこの魔物、右手にもつ大きな刃の剣と、
左手にもつボウガンとを両方使ってくるらしい。
しかも目にも止まらぬ早さで。
「うわ・・わ!!スクルト!!」
ダメージを避けられないと思いカインはスクルトを唱えた。
何とか魔法が間に合ったのか
大きな剣は左手に、ボウガンは右足を掠めるだけに留まった。
「は・・・早い・・・。」
その攻撃ははやぶさの剣よりも早いのではないか?
一難去ってすぐまた一難だ。
今度の敵なドラゴンより硬く、ドラゴンより早い。
ちらっとカインはアレンのほうを見た。
マリアのベホマを使えば、例えどんな重症でも
アレンはすぐに戦列に復帰するはず・・。
が、そこで見たのは思いがけない光景だった。
マリアはアレンを抱きかかえたまま魔法を唱えているようだ。
そしてマリアはベホマと何度も叫んでいた。
そう、何度も。
「・・・・・?」
あれ・・?
マリアはマホトーンでもされたのだったか?と思った。
それほどアレンは微動だにしなかった。
だが、マリアはマホトーンなどされていなかった。
その証拠にベホマを唱える度に、赤い魔法の光が
アレンを包み込んでいくのだ。
「マリア、落ち着いて・・。」
思わずカインはそう声をかけた。
だって、ベホマが使えているんだから
アレンの傷はとっくに治っているはずなのだ。
だからアレンはすっくと立ち上がって、
すぐこっちに向かって駆け寄ってくれるはずなのだ。
なのに、なのに、どう言う事なんだろうか。
アレンは立ち上がるどころか、
ずるずると支えられているマリアの腕から崩れ落ちていく。
「・・・!?アレン・・、どうしたの!??」
カインは思わず叫んだ。
すぐにもそばに駆け寄りたかった。
だが、対峙している殺人機械がそれを許さなかった。
余所見をしているカインに襲い掛かる追撃が
カインの首筋を掠めていく。
あと少し逸れていたら確実に急所だっただろう。
何とか意識を魔物に戻して、
はやぶさの剣を振るう。
だが心技が整わない攻撃で倒せるような相手ではない。
ぎぎ・・と魔物はボーガンの矢をカインに向けた。
避けようにも下手に避けても、後ろにはアレンたちがいるのだ。
避けることは・・・できない。
思わずカインが覚悟を決めようとした時、
マリアの半狂乱な叫び声が聞こえた。
「カイン、カイン・・・!お願い!こっちへ来て!!!」
そう言うと、アレンから先ほど禁じられた
マリアの極大魔法を唱えた。
「・・・イオナズン!!」
大きな爆発が目の前で起きる。
さすがの魔物もイオナズンが相手では、ノーダメージとはいかないようだ。
吹き飛んだ殺人機械に向かって、
カインも思い切ってベギラマを唱えた。
魔物は連続する魔法攻撃で何とか倒せたようだ。
それよりマリアの様子が尋常ではなかった。
のんびり魔物の相手をしている場合ではない様子だ。
「マリア・・ど、どうした・・の?」
ようやく二人の元に駆け寄ったカインであったが、
マリアに聞くまでも無く、息を呑んだ。
「アレンが、アレンが目を覚まさない・・。」
マリアはそんな言い方をした。
実際目をつぶったアレンは一箇所を除いて
さほど大きな外傷がある訳でもないのだ。
だが、その一箇所が問題だった。
既に血は止まっている。
しかしその箇所は左の胸、心臓の位置。
魔物の一撃はアレンの心臓を貫いていた。
「う・・そ・・・・・でしょう・・・・・?」
カインは頭が真っ白になるのを感じた。
あんなに強いアレンなのだ。
脇腹を斬られたって、ちっとも勢いが衰えず戦っていたアレンなのだ。
たった一撃で倒れて、動かなくなるなんて・・
そんな事信じられなかった。
「嘘・・・・・嘘でしょう!?
アレン・・・!アレン、しっかりしてよ!!」
カインは思わずアレンを大きく揺さぶった。
これくらい揺さぶればいかに深い眠りであっても目は覚めるはずなんだ。
いつだってそうなんだ。
それでもアレンは目を覚まさない。
次にカインは震える手でベホイミを唱えた。
その緑色の光色はアレンに届いたがふっと消えた。
「カイン・・・・。」
マリアが、それは無駄だと言うようにカインの手を引いた。
それはそうだろう。
だって、マリアはさっき何度もベホマを唱えていたのだから。
「アレン・・・なんで・・・?
だって・・だって、ロトの鎧だって・・あるんでしょ?
あるってアレンが言ってたじゃない。もうすぐ出会えるって喜んでたじゃない!
探しに行こうよ、一緒に探しに行こうよ・・・!」
ずっとアレンの戦い方を不安に思っていた。
強力な鎧も身につけずに、
あんなに敵に接近して戦うと言う事は、
・・・・大変な危険を孕んでいるのだ。
カインはどうしたらいいのか分からなくなり、
心が激しくかき乱されるのを感じた。
動揺しているのか、悲しいのか、悔しいのか、
もうよく分からないが、心が落ち着かず涙が流れてきた。
「カイン、落ち着いて。」
マリアは声を荒げるカインに冷静に声を掛けた。
冷静ではあるが、マリアも目に涙をためていた。
「な・・・に・・・・?」
「あなた・・・分かってたんじゃないの・・?
アレンが・・死ぬって・・・。」
マリアは努めて冷静に、何とか努力して
心を落ち着けて、そう言葉を振り絞った。
このロンダルキアへの洞窟へ入る前に
カインは実際にそう言っていたのだ。
「あ・・・あんなの・・・。」
だが、カインがそれを信じていないのも本当だった。
何も決め手になる事実が無かったのだから。
実際今のこの取り乱す様子を見ても、
それは本当にそうなのだろう。
カインはぎりっと歯軋りした。
だけど、そうだ・・・・自分はそれを予想できたはずなのだ。
なのに、何も出来なかった。
「そうだね・・僕のせいだ。防げたかもしれない。」
カインは血を吐くように苦しげにそう言った。
本気でそれを信じて、皆に打ち明けて、
取るべき全ての対策を取っていたのかと言われれば
・・・NOだった。
アレンの死は自分のせいだ。
「ごめん・・。ごめん・・・。」
涙を流しながら、カインはマリアに謝罪した。
だが、マリアはそんな事をカインに言わせたい訳ではなかった。
思わずマリアはカインの手を引くと、その頬を引っ叩いた。
「!?」
「違うわ、違うのよカイン!しっかりして・・!」
「違うって・・何が?」
カインが目を赤くしながら、マリアに尋ねた。
「あなたの話を聞いて、私が感じたことは違うわ。」
「?」
「あなたに新しい力が目覚めていると思ったの。
人の生死すら触れることが出来るような力!」
「・・・??」
マリアがいきなり何を言い出すのかと思った。
カインは何がなにやら分からなかった。
「お願い!出来るわ、だから・・きっと・・・・!」
マリアも何をどう言っていいのやら若干混乱している様子だが
カインの手を引きながらそう言った。
「マリア・・ねえ、何の話・・・?」
「カイン、あなたの国は聖職者の国。
あなたにはきっとその力があるはずよ。
人を生き返らせる魔法・・!」
「人を生き返らせる魔法・・・。
ザオリク?」
もちろん知らないわけではない。
ラダトーム城の書庫でもその魔法について学んだ。
カインは既に相手の生を奪う魔法ザラキを身につけている。
次に本に載っていたのが、人に生を与える魔法ザオリクだった。
あの時マリアは禁忌の魔法だと言っていたのに、
今はそれを懇願している。
ふいにそれを思い出した。
しかし、サマルトリアで父が言っていたことは何だったか。
「・・・父さまが言っていたよ。
寿命で死んでいくものは・・・たとえザオリクを唱えても無駄だって・・。」
「あなたはこれがアレンの寿命だと・・思うの?」
そう言われて、カインは不謹慎だが笑ってしまった。
思わないのだ。ちっともそう思わない。
アレンがここで終わる男だなんて、
それを一番信じられないのはカインだ。
「思わないよ。全然思わない。」
不思議と、そう自然に感じられた。
カインはそう言うと、アレンについてひざまづいた。
そしてちらっと後ろのマリアに声をかけた。
「マリア・・・失敗したらごめんね。」
「大丈夫よ。」
カインを安心させるように、そして自分を安心させるように
マリアも薄く微笑んだ。
だけど『失敗したら・・』と、そういうカインは失敗しないのだ、いつも。
「ねえ、アレン・・・。」
静かに話しかけるが、やはりアレンは何の反応を示さない。
人の生死に触れるとはどう言う事なんだろうか?
今まで見てきた何度かのあの幻が、本当の事だったとすると・・。
あれはやはり、人の魂に近い何かだったんだろう。
それを信じるとすると・・。
テパではどうか?
小さな子供の魂はこちらの事など意にも介さず
嬉しそうに走り回っていた。
きっとあの子は、自分とは遠い所にいた。
サマルトリアでは、母の魂はカインの事を見つけてくれた。
そしてカインも手を伸ばしたが、
『それ』は結局手に触れることも無く消えてしまった。
もう、消えては困るのだ。
海底洞窟で見つけた小さなアレンは
不機嫌そうに去って行ってしまった。
今度は、絶対捕まえる。
「アレン・・アレン・・・・・一緒に行こう。ね・・。」
カインがぎゅっと目をつぶって、そして再び目を空けると
そこには呆れたように、そして少し悲しそうな顔をしたアレンの姿があった。
「・・・・!」
見つけた。来てくれた。
手放したくない。絶対手放したくない。
カインは大喜びでそのアレンに向かって手を伸ばした。
そしてふいに、少しだけそれをためらった。
つい先ほどもこんなことがあったのを思い出したからだ。
落とし穴から落ちた時、
カインはルーラを使って怒られた。
『今度さっきみたいな魔法しようとしても
俺は手をつかまねえぞ。』
アレンはそう言っていた。
無駄な魔法を使うなと怒っていた。
「違うよ、違う。アレン、無駄な魔法じゃない。
これは絶対・・無駄な魔法じゃない!
だから許して!そしてさっきみたいに僕の手を掴んでよ!」
カインはアレンの幻に向かって話しかけていた。
アレンがこっちに手を伸ばしてくれないと、双方が手を伸ばさないと
この魔法は出来ないと感じていた。
「ずっと一緒に・・ハーゴンを倒しに行くって・・・
一緒に行こうって約束したじゃないか!」
アレンが何も言わずにこちらに手を差し出してくるのが見えた。
「・・・アレン!」
その手を掴め。
絶対離すな。
そして、その魂が消える前に、この魔法を唱えなければならないのだ。
「ザオリク!!」
- 続く-
2013/01/06
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