ロンダルキアへの洞窟3

『魔界に一番近い街』

・・・そもそもこの通り名の意味はなんなのか。

今までだって世界中、
たとえ草原であろうが、森の中であろうが、
場合によっては街の中にも魔物は巣食っていた。

今は最早どこも安全とはいえない世界なのである。

ではそうすると、
ここから先の世界は一体なんなのか?

今、それに対する答えは誰も持っていなかった。


***

「トラマナー」

カインは何度目かのトラマナを唱えた。

「最近その魔法大活躍だな。」

「ほんとに。
 でも、それだけ人の侵入を阻みたいってことだよね。」

アレンとカインはそんな話をしながら、
毒の沼地に足を踏み入れた。

旅の扉を抜けた先にあったのは、
少しの草原と毒の沼地だけがある狭い空間だった。

眼前には大きな岸壁が立ちはだかる。
これが話しに聞くロンダルキアの岩山だろう。

ここを普通に超えることは人間には無理だろう。
いや、きっと羽を持つ鳥でも無理だろう。
岩山の先端は黒い雲に隠れて見えないほどだ。

「でも入り口らしきものは何も無えぞ・・・?
 岩しかねえ。」

おもむろに邪神の像を取り出してみたアレンであったが、
これをどう使うのかよく分からない。

その時、それまで無言でついてきていたマリアが
おもむろに一歩前に出た。

「聞こえているかしら?ハーゴン。
 あなたの言う運命に逆らって私たちはここまで来たわ。」

アレンもカインもその言葉にぎょっとした。
いきなりマリアがハーゴンに向かって話しかけたからだ。

「マリア、お前・・何言って・・??」

アレンがマリアの肩をとがめるように掴んだ時、
ひゅっと風が舞い起きた。
砂埃が舞い起こり視界が曇る。

「か、風?」

カインもマリアの方を振り返った。
別にマリアがバギの風を起こしているわけでもない。

「サマルトリアの王子か・・・・。」

もちろんマリアがそう言った訳ではない。
どこからか聞こえるその声に、思わずカインはぎくっとした。

「な、何?この声・・・・。」

「どうやら本当に我が呪いは晴れたようだな。」

不穏な声だけが聞こえてくる。

自分だけに聞こえるのかと思ったが、
どうやらアレンも同じように唖然としているし、
マリアは毅然と声の聞こえる先を睨みつけている。

二人にも聞こえているのだろう。

それより、カインの呪いの事を『我が呪い』と呼ぶのは・・

「・・ハ・・ハーゴン・・?!」

思わずカインはそう声を上げると
武器を取り出した。

その名は言わずと知れたムーンブルクの仇、
自分達の最大の目的だ。
落ち着けと思っても、緊張せずにはいられない。

「カイン、奴はここにいないわ。
 どこからか話しかけてきているらしいの。」

だが一度経験しているマリアは油断なく仲間達にそう声を掛けた。
しかし、マリアは岸壁に向かって
いかづちの杖を掲げて言った。

「聞こえているわね?
 私達は3人揃ってあなたの元へ行くわ。」

マリアは毅然とそう言った。
そこまで話すと今まで状況を把握できていなかったアレンが
口を開いた。

「なるほど。てめえが悪の親玉だな。
 今まで仲間達が随っ分とかわいがって貰ったな。
 このお返しはみっちりやらせてもらうぜ!」

「ローレシアの王子か・・。
 そう言えばお前にはまだ何の呪いも掛けていない。」

それはその言葉の通りだった。
アレンだけは未だハーゴンの呪いは受けていない。

「おーー。そうだったな。
 ツレねえな。俺だけ仲間外れかよ。」

「馬鹿っ。何言って・・・!」

アレンの言葉に思わずカインがその袖を引いた。
余計な挑発をやめさせたかった。
あんな余計な苦しみに、アレンをあわせたくなかった。

平気だとなにやら目で抗議しようとするアレンだったが
それより先にハーゴンが言った。

「確かに、これ以上呪いを掛けた所で、
 それは無意味だろう。お前達はそれを解いたのだから。」

「お?そうだな。
 こっちはてめえの目論見2度も破ってんだからな。」

自分達はマリアの呪いも、カインの呪いも打ち破ってここまで来たのだから。
手をつくせばきっとどんな呪いも苦難も打ち破れると感じていた。

「そのとおりだ。最早小細工は不要。
 来れるものなら来るがいい。私は『我が城』で待っていよう。」

「・・・お、おお。いってやらあ。」

若干その言葉にアレンは拍子抜けをしていた。

だが、その言葉と共に、邪神の像の瞳がカッと怪しく光りだした。

「!?」

邪神の像が光るのと同時に、
岩山が急に軋み始めるような異音を発し始めた。

そして地面が揺れ始めた。
激しい地震が起きたかのようだ。
岸壁が崩れ落ちていく。

「な、なんだ・・!?」

アレンは二人の前に立ち、
ロトの盾で身を守った。

地響きはしばらく続いたが、
徐々に3人は状況を理解してきた。

岩山が崩れ落ちるのではない。

開くのだ。
ロンダルキアの洞窟への、その入り口が。

「すげえ。」

アレンは思わず、ひゅうっと喉を鳴らした。
先は真っ暗だ。かなり奥深いダンジョンのようだ。

「なるほどね。向こうさんはお待ちかねって事だ。
 行こうぜ、カイン、マリア。」

遠慮なく足を踏み入れるアレンに
カインとマリアは遅れまいと着いて行った。



***

洞窟の中は思いのほか、冷やりとしていた。
そして内部は薄暗く、所々モヤがかかっていて
視界が悪かった。

「薄暗いのね・・。先が見えない・・。」

「いかにも魔物が出そうな雰囲気だな。」

灯かりらしい灯かりもない。
だが、しばらくも進まない内に階段が見えてきた。

「下り階段か・・・、とりあえず行ってみるか。」

アレンが下り階段に向かっていったが、
奇妙なことにすぐそばにも階段があった。
よく目を凝らしてみると、いくつも階段がある。

「アレン待って、あっちにも階段があるよ。
 行ってみるのは良いけど、マッピングしていこうよ。」

海底洞窟でも同じような状況を経験している。
ここはその経験を生かして、惑わされずに進みたい。

「おお。ダンジョンも俺達もう何個目だって感じだもんな。
 落ち着いて行こうぜ。」




進んだ地下はさらに薄暗く、さらに所々異臭がした。
その異臭の原因は・・・

「何これ・・人の・・・死体・・?」

ここは一体どういう場所なのだろうか?
アレンたちは周りを見渡した。

既に白骨化した骸骨や、
今だ部分的に生々しい皮膚が残っている遺体が
そこら中に朽ち果てている。

「なんなんだ?人の死体?
 この洞窟の入り口は邪神の像がないと入れないんだろう?
 どうして人間がこんなに大勢ここで死ぬって言うんだ?」

「ぼ、僕に聞かれても・・・。」

アレンたちだってここに踏み入れるには相当苦労した。
そうそう並の冒険家が間違って
足を踏み入れるようなダンジョンではないはずだが・・

思わず足を止めてしまった3人であったが、
その答えなど出ないままに、
力尽きているはずの死体が不気味に動き始めた。

「・・・!!なんっだ?この腐った死体は!!」

この魔物も、いわゆるムーンブルク城などと同じく
無念のままに死んでいった死者なのだろうか・・・・。

アレンは盾でその攻撃をこらえた。

「ベギラマ!!」

カインがその隙にベギラマの炎で迎撃をした。

ベギラマの炎が腐った死体を覆いこみ、
そして暗かったフロアを少し明るく照らす。
すると今まで見えなかった魔物たちの瞳がギラリと
光ったのを感じた。

その様子に、カインは思わず目を見開いた。

いち、にい、さん・・・数え切れないほどに。
魔物の数が尋常ではなかったのだ。

アレンたちは魔物の群れに囲まれていた。

「っ!!ア、アレ・・!」

カインがその事を仲間に忠告するよりも
一番早く動いたのは魔物の側だった。

背後から現れた骸骨のような剣士は
アレンが振り向くよりも早く、
その脇腹を斬り裂いた。

「つうっ・・・!!」

脇腹から飛び散る赤い血。
アレンは負傷を抑えてその場にしゃがみ込んだ。

「アレン!!アレンしっかりして!!」

「大丈夫だ!それより来るぞ二撃目!」

アレンの叫びに、カインがはっと顔をあげる。
目の前には先ほどの骸骨の二撃目。

「はやっ!!」

思わずはやぶさの剣でその攻撃を受け止めたが、
華奢そうに見えるその体格からは考えられないような
重い一撃だった。

細身のはやぶさの剣ではすぐに押し切られそうだった。

だが、押し切られるより先に
骸骨は崩れ落ちた。

アレンが立ち上がって、止めを刺したのだ。

「いつも言ってるだろうが、カイン。
 そんな軽い剣の持ち方してたら、
 すぐ吹っ飛ばされるぞって!お前そもそも軽いんだから!」

「ああ・・うん。
 いや、それよりアレン、大丈夫なの!?」

アレンの脇腹からはポトポトと血が滴り落ちている。
すぐさま回復を・・・と思ったが、
続けざまに次の魔物が襲い掛かってくる。

「へーきだ!それより、次が来てるぞ!」

腐った死体は仲間を呼べるのか、
血なまぐさい匂いが好物なのか、
アレンたちの方へ一直線に向かってくる。

「カインはアレンの回復を!
 ここは私が!!」

「マリア・・・・!」

敵の多いときにはマリアの魔法。
これも長い戦いを経て掴んだ自分達の戦い方だ。

「行くわよ・・・イオナズン・・・!!」

マリアはいかづちの杖を掲げて、
極大爆発魔法を唱えた。

大きな爆風が起きて、魔物たちは吹き飛ばされる。

「アレン今のうちだよ。ベホイミ・・・!」

カインはその隙にベホイミを唱えた。
傷は深かったようだが、淡い光と共に少しずつ回復していく。

アレンは傷の様子を確認しながら、
何気なく思いがけないことを呟いた。

「なあ、俺思ったんだけどさ。
 ここにロトの鎧・・・あるんじゃないか?」

「・・は・・・・???
 な、なんで?急にどうしたの?」

回りは魔物の群れ。宝箱なんて見えもしない。
急に何故アレンがそんな事を言い出すのか
分からなかった。

「お前ハーゴンって奴にどんな印象を持った?」

「え?」

「俺結構さ、人間くせえ感じだなって思った。
 今までムーンブルクの事とか呪いの事とかあったから
 どんだけおどろおどろしい化け物かと思ったんだが。」

「あ、ああ・・・。」

確かに話の通じないただの化け物という感じではなく
理路整然とした人間のような印象はあった。

「でも、とんでもない奴だよ!」

だからと言って全く懐柔されるような話にはならない。

「そんなの分かってる。
 だから・・・・・って、いや無駄話はこれくらいにするか。」

アレンは何かまだ話そうとしていたが、
それより先にイオナズンの爆風が晴れて来ていた。

アレンがドラゴンキラーを持ち直した。

「ほんと、とんでもねえ奴らだ。
 イオナズンでも死なねえのがこんだけいるんだから。」

マリアのイオナズンは今まで一撃必殺に近かった。
それだけの魔法力を惜しげなくこめた究極的な魔法だった。

それなのに、アレンたちを取り巻く魔物は
まだまだ何匹もその場に両の足で立っていた。

「くっ・・・!もう一撃、とどめを・・!」

マリアは再度いかづちの杖を天高くかかげようとした。
だが、それはアレンに遮られた。

「マリア待て!まだ先は長い。
 イオナズン連発なんてすんな。」

そう、ここはまだロンダルキアへの洞窟のほんの入り口。
まだまだ先は見えなかった。

「カインもだ。ベギラマばっかり打つなよ!
 とりあえず、俺達の次の目標はあそこの階段だ!」

アレンはそう言って先を指差した。
イオナズンのおかげで、やや視界が晴れて先が見通せる。
フロアの対角線上に階段が見えた。

マリアはいかづちの杖で軽い風を起こした。
敵の威嚇だ。

それを合図に3人は走り出した。
こんなやつらと一体ずつ丁寧に戦っている場合ではない。

「アレン、話の続き。あとで聞かせてよ!」

「暇が・・・出来たらなっ!」

アレンも先頭に立ち、
猛然と立ちはだかっている腐った死体をなぎ倒していく。

腐った死体はゆらりと立ち上がって緩慢に追いかけてくるが
そんなものはいちいち相手にはしなかった。

だが、この時点ではまだいつもと同じように、
ダンジョン攻略をする感覚だった。

無事に階段を上り詰めた3人であったが、
その場所は先ほど最初に踏み入れたのと同じフロアだった。


「なるほど・・・。確かに、簡単には行かせてもらえないようだな。」





- 続く-

2012/12/25

▲

     
    ようやく洞窟の中に入りました。
    まだまだ序盤という感じでしょうか。
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