「死ぬ・・って誰が?アレン?」
マリアは、再度聞き返さずにはいられなかった。
カインは怒られた子供のようにハッと視線をそらした。
「・・・・・・・・・。」
再び口を閉ざそうとするカインを
マリアはため息をついて、もう一度問い重ねた。
「カインってば!
隠し事は良くないって、ついさっき、
今さっき私達言ったところよね!?」
カインは困ったように聞き返した。
「さっきの独り言聞こえてた?」
「聞こえてるわよ。」
「そうだよねー・・・。」
カインは観念したように、マリアに向き合った。
緊張して次の言葉を待つマリアに
カインの言葉は力が抜けるものだった。
「出来ればさ、そんな怖い顔しないで、
笑ってほしいんだけど。」
「・・・・カイン・・・言いたいことはそんな事じゃないでしょ??」
恐らくよほど強張った顔をしてしまったのだろう。
「大丈夫。全部話すから。
でも真面目な話ね、
そんな真面目に聞いてもらう話でもない。」
「ちょっと、一体何なの??」
とうとうマリアは、ふふっと噴出してしまった。
なんだかカインと向き合っていると入っている力も抜けてしまう。
一体彼は何を言わんとしているのだろうか?
カインが言う馬鹿馬鹿しい話とは
不思議な話だった。
「いつからだったかな。
不思議なものが見えるようになったんだけど・・。
えーっと最初は・・テパ?」
「テパ?」
マリアは当時の事を思い出そうとした。
「雨なんて振ってないのに、誰もそこにはいないのに、
なのに、僕には雨の中で走り回る子供が見えたんだ。」
マリアはハッとした。
テパのあるお店で、カインが外を見ながら
確かにそのような事を言っていた。
見間違いだ、勘違いだと言って、
その後は何もその話題は出なかったので忘れていた。
「その子・・・亡くなっていた・・みたいだね。」
「っ!!」
マリアはすっと背筋が寒くなるのを感じた。
そして思い出した。
テパを出るとき、少しカインが塞ぎこんでいた。
「それから、次は・・・・。」
続いて口を開こうとしたカインだったが、
今度は言いたくなさそうに唇を噛んだ。
「カイン?」
「・・・サマルトリアに戻った時だ。」
「え・・?どう言う事?」
サマルトリアには一度戻っていた。
カインの母の体調が悪いと連絡が入り・・・。
「はは。でも、この辺から・・・もう怪しいんだよね。」
どこか悔しそうに、どこか馬鹿馬鹿しそうに
少し大人びた表情で口元がゆがんだ。
「だって、母さま・・まだ・・生きてるし・・・。」
「!」
言いづらそうに言うカインの言葉は
マリアにも少なからずショックだった。
そして言葉少なだったが、カインが言いたいことは分かった。
カインは振り切るように首を振って、
そして話し続けた。
「それで、それでね。
この前の海底洞窟だよ。」
「え、ええ・・。」
「ちっさいアレンがこっちを見てた。」
「小さい・・アレン??」
カインは笑いながら、手を前に差し出しながら言った。
「可愛かったよ。これくらい。
昔・・・、そうだな、初めて会ったときくらいの
小さいアレン。」
ああ、だからカインはアレンを心配したのだろうと分かった。
が、でもアレンは今もさっきもとても元気だ。
「はは、マリア変な顔してるね。
ほら、だから何だって話でしょ?
真面目に聞く話じゃないよ。ただの変な話だ。
予言とかって訳じゃない。だって、外れてるんだし。」
「・・・・・・・・。」
故郷で待つ病床の母がまだ命を紡いでいる内は・・
そう言いたいのだろうか。
「テパでのことだって、本当かどうか分からない。
それに、アレンは強いし、全然元気だし。」
カインは手をひらひらと振った。
気にするなといってるらしい。
マリアはそのカインの言葉に頷いて見せた。
「カイン、話してくれてありがとう。
そうね、アレンは大丈夫だと思うけど、
でもこれからまたダンジョンに入るんだものね。
気を引き締めねばって気持ちにはなったわ。」
「うん。そうだね。」
話はそこで終わった。
カインはアレンがお腹空いてるだろうからと
船室へと向かっていった。
内心やはり気にしてるんだろう。
マリアは先ほどの話を、心の中で再度復唱して
整理してみた。
死者の幻・・が見えるようになったかもしれないという話。
いつからと言えばテパでだと言う。
今まではカインからそんな話は全く聞いたことも無い。
大体、そんな馬鹿げた話があるんだろうか?
自分とて魔法使いとして、それなりに経験はつんできたが
もちろんそんな経験も話も聞いたことも無い。
だけど・・・
そう言えば確か満月の塔で、少し突発的なハプニングがあった。
マリアは直接見たわけではない。
あの時、カインが異なる二つの魔法を使ったといって、
何らかのダメージを負ったようにしゃがみこんでいた。
目がちかちかするとか言っていた。
「・・・・・・・・。」
もしかするとあの時から何か新しい能力が目覚めたとか?
魔法についての知識が深いマリアも
はっきりとした答えは何も思いつかなかった。
大体魔法を二つ使うとか、
そんなケース自体タブーだし、
成功もしないはずの話なのだ・・・。
いや、そう言い切るのは間違いだ。
既にそれが成功している時点で
カインは自分とは違うことが出来ているし、
魔法使いの常識が通用しないと言う事だ。
自分の方が攻撃魔法の威力が強い、
自分の方が魔法力が高いなどと
一概に考えるのは間違っている。
大体この話・・・王妃の事もあり、
当たっているとは考えたくは無いし、
カイン自身は絶対そう考えようとしないだろう。
それでも、何も無いとも思えなかった。
マリアは不安になった。
なんだかこの先に進む事をはじめて怖く感じた。
三人で乗り切ってきた今までの旅とは違う何かが
待っているような気がした。
今なら彼らを引き止めることが出来るかもしれない。
でも、マリアはそれでも止まることはできなかった。
それこそ今まで培ってきた戦うための力と
三人の絆を信じるしかなかった。
それに・・・・
自分にはベホマと言う完全回復魔法の存在がある。
これがある限り、そして私がいる限り、誰も失うつもりなどなかった。
****
ベラヌールへの航路は
比較的平和に、特に問題もなく予定通り到着した。
「船着いたみたいだよー。アレン。」
「んーー。」
アレンは話半分に返事をすると
なにやらごそごそと荷物を探っていた。
「何か、探し物?」
「いや、準備してるだけ。
この邪神の像がでっかくて荷物入らねー。」
邪神の像は持ち運ぶには中々の大きさである。
「余計なものは置いていきたいんだが・・・。」
「そうだね。でも武器防具はしっかり持っていかないと。」
カインは当然とばかりにそう言った。
「そうなんだけどさあ。
あのさぁ今、金っていくらある?」
「え?お金?ええっと・・・・3000・・くらい。」
「大してねえなあ。
まぁ、ベラヌールの武器屋は俺前に覗いたけど
あんまり大したこと無かったし・・。」
アレンがぶつぶつと荷物を前に独り言を言っている。
「どうかしたの?装備に欠陥でも?」
「いや、俺ちゃんと手入れしてるし。そう言う不備とかはねえよ。」
ま、良いかとばかりにアレンは荷物を持ち上げた。
そしてちらっと振り返ると、部屋の隅に立て掛けてある
とある武器を見つけた。
「あのさカイン、あれ持って行くか。」
アレンが指差したそれとは、
破損したロトの剣だった。
刀身が破損してからは、実戦で使うことも無く、
かといって捨てるわけでもなく、船室に置かれたままであった。
「ロトの剣?だって折れてるよ?」
「そうだけど・・なんか・・・一応さ。」
「ええ?
さっき、荷物がいっぱいだって言ってたじゃない!?」
「わーかってるって。あーでも、俺が持って行くといったら持ってく。
お前が持つんじゃないから良いだろう?」
アレンは刀身が真っ二つなロトの剣を手にした。
「どうしたの?って・・・え、槍も持っていくの??」
よく見るとアレンの荷物の中に、
以前よく使っていた鉄のやりもあった。
「アレン?そんなに色々持っていくから荷物が多いんじゃないの?」
「ま、何とか収まった。」
荷物をポンポンと叩いている。
「そんなのより薬草とか毒消し草とか!
そういう道具を持っていこうよ!」
「え?そんなのは、お前らがいるから要らないだろ?」
アレンは当然だろと言う顔をしている。
確かに最近は薬草などは出番の無いことも多い。
それでも、カインはなんだかアレンの様子が変だと思った。
「アレン!」
カインは唐突にアレンの手を引いた。
「どうかしたの?アレン何か気になることでもあるんじゃないの?」
アレンは少し驚いたような顔をしていたが、
頭をぽりぽりと搔きながら応えた。
「別になんもねえけどさ、強いて言えば、
武器が・・・・
あ、いや、武器っていっぱいあった方がいいんじゃねえかと。
まあドラゴンキラー破壊力が高いのはよく分かってんだけど。」
「そ、そうなの?」
もしかしてアレンは今使っているドラゴンキラーではなくて
違う武器を求めているのかもしれない。
「あ、じゃあアレン、僕のはやぶさの剣を使う!?」
カインがそう確認してみると、
アレンは少し目を丸くしていたがすぐにケラケラと笑った。
「えーー?俺、それはいらねー。
もう、行こうぜ。」
アレンはもう取り合わない様子で
甲板へと出て行った。
「どうしたの?遅かったわね。」
マリアが既に旅支度を整えて待っていた。
「おーー。悪いな。」
「じゃあ俺はここでいつも通り待ってますぜ。」
ミゲルは、いつも通りの明るい豪快な笑顔で
3人を見送った。
「ああ。また戻ってきた時は船出してくれな。」
「どこへでも!」
アレンもいつも通り見送るミゲルに手を振った。
***
ベラヌールの街は以前と変わらず落ち着いた様子だった。
以前カインが世話になった元ローレシアの兵隊長にも挨拶にいった。
兵隊長は3人の無事を喜んでくれていた。
挨拶もそこそこにマリアは二人を率いて、
街の北の教会へと向かった。
「こんな所に何があるんだ?」
迷わず一直線で向かうマリアの顔に迷いは無かった。
「この・・・奥・・・。」
カインも先を教会のはるか遠くを見つめながら
怪訝な顔をしている。
「カインも気づいた?
この街は確かに平和な街だけど、
ここだけが明らかに異質。」
「ああ!なんか、前に来たときも、そう言う事言ってたな。
結局あれどうしたんだっけ?」
アレンが以前の記憶を辿っていた。
結局以前来たときは、それ以上の探索はしなかったのだ。
「とりあえず、行けば分かるわよ。」
「あ、お前一人で先に行ったんだな!?
お前なんで黙ってた!?」
ベラヌールでマリアが一人、しばらく帰ってこないことがあった。
あの時の事だろうと思い至った。
「あの時は・・もう。途中で引き返したんだから、良いじゃない。」
マリアは、アレンの話を遮り教会の扉を開いた。
中には礼拝中の神父がいた。
胡乱げに訪問者であるマリアたちを振り返ると
ふいに何かにおびえるような表情をした。
「通らせてもらうわよ。」
マリアは神父には目もくれずに、
先へと進んでいく。
アレンもカインもマリアの様子に驚いたが、それに従うしかない。
勝手に通っていいものか神父の様子を伺ったが
何故かびくっと恐れおののいている。
「マリア、あいつ何やったんだ?」
「さぁ・・僕が聞きたいよ・・。」
アレンはカインとそんな事を話しながら、
さらに奥へと進んでいった。
そこにはバリア床が敷き詰められていた。
明らかに行く手を阻むような妨害。
「あっやしい!見るからに怪しい。
なんだよ、これ!」
「この先よ。」
「ちょっと待って、進むんならトラマナをしようよ。」
カインがそう言うなりトラマナを唱えた。
これでバリア床のダメージを受けることは無い。
なおも先頭を行こうとするマリアは
このバリア床を通過した経験があるようだった。
だが、マリアはトラマナは使えないはずだった。
すたすたと歩いていくマリアにカインが尋ねた。
「マリア、来たことあるんだね。
どうやってここを進んだの?」
「どうやって?歩いて通ったわ。」
「じゃなくて、ここ歩くだけで相当きついはずだよ。」
「そんなの回復魔法をかけてたら、倒れることはないわ。」
しれっとそんな事を言うが、
つまり強行突破をしたと言う事だ。
「もう!そんな無茶しないでよ。」
「心配しないで。過去の事だし。
それに、私は様子を見て帰ってきただけだわ。」
バリア床を抜けた先には、
旅の扉が待っていた。
「この先に・・・。」
カインは旅の扉を覗き見るとごくりと息を呑んだ。
なおも先頭にいるマリアを、今度はアレンが手を引いた。
「アレン?」
「マリア待てって。
いくら、勘のにぶい俺でも、さすがに分かるぜ。
この先は危険だって。
だから、先頭は俺が行く。」
「アレン・・・。」
ふいにカインとマリアが二人揃って不安そうな
咎めるような顔をしているのに気づいて、
アレンは思わず笑った。
「なんだよ、その顔。
いつも通りだろ。俺が先頭、次がカインで、最後にマリア。
いつも通り、いつも通り。」
「でもアレン・・・。」
「でももクソもあるかよ。
こんな狭いとこ3人一気には、通れねーだろ。」
それは確かにそうだし、ここで止まっていても仕方が無い。
「じゃ、行こうぜー。」
そして、アレンは意を決して旅の扉に飛び込んで行った。
- 続く-
2012/12/10
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