ロンダルキアへの洞窟1

アレンたちはマリアのリレミトで、
海底の洞窟から無事に船に戻って来ることが出来た。

船で待機していたミゲルは喜んで彼らを迎えようとして、
しかし、ぎょっと眉を顰めた。

アレンは右側に意識の無いカインと抱えていて、
そして左側には見慣れぬ怪しい像を抱えていた。

それはまるで悪の化身とでも言うような禍々しい像だった。
誰が嬉々としてこんなものを持ち帰るだろうか?

ミゲルは思わず聞かずにはいられなかった。

「うへえ・・・。なんだい?その不気味なのは。」

「不気味?カインが?失礼なこと言うな〜。」

「いやいやいや!違うってー。
 その左脇に抱えてるその禍々しいやつだよ!!」

ミゲルが指差したのは邪神の像だ。
やはり誰が見ても禍々しく見えるのだろう。

「ああ、これな。そう思うよな。
 俺も持ちたくねえよ。両手もふさがるし。
 でも、マリアも持ってくれねえし。」

アレンは、不満げにマリアを見て唇を尖らせた。

「その像じゃなくて、カインを支えるのを手伝うって言ったじゃない。」

「いや、それは良いってば。
 じゃなくて、こっちーー!」

別にマリアも嫌がらせで断っているわけではない。

リレミトはあまり得意な魔法ではないので、
どう考えても良い影響はなさそうな邪神の像など手にして
魔法の失敗などは避けたかったのだ。

と言うのは言い訳だろうか?

でも大体重さの点では、アレンの腕力ではなんら問題は無い。
それにカインは自分で肩を貸すと言うから、
だったら二つとも持てば良いじゃないかと思ったのだ。

「大丈夫よ、アレンの力なら問題ないでしょう。」

「でもさ〜、これからずっとこれ持ち運ぶのか。
 なんか呪われそうでやだなあ。」

アレンがそんな文句を言いながら邪神の像と睨んでいると、
身じろぎもしなかったカインが、少し頭を動かした。

「う・・・・ん・・・・。アレン・・・?」

気を失っていたカインが、意識を取り戻したらしい。

「お、カイン。無事かー?」

アレンはカインから手を離して顔を覗き込むと、
いたずらっぽい笑みで邪神の像をカインの眼前にひけらかした。

「うわ!!何これ!!」

「あっはは。目が覚めたか。目覚めにはインパクトあるよな。
 邪神の像だよ。」

遠めで何となくしか見えなかったので、
邪神の像を間近に見るのは初めてだった。

「あ・・ああ、これが。無事に手に入ったんだね。
 それで皆無事で船に戻ってきたんだね。
 そっか・・・。良かった・・・・。」

「つーか、お前が一番無事じゃなかったよ。」

「回復魔法はしたんだけど、効いているかしら?」

胸を撫で下ろしたカインにアレンとマリアが
口々に話しかけてきた。
カインも軽く身体の調子を確認し、
謝りながら、答えた。

「うん。ありがとう、大丈夫だよ。
 また・・足を引っ張ってごめん。」

「今更だろ、そんな事言うな!」

アレンはいつものようにカインの頭にデコピンして反論した。

「はは・・。本当に今更だね。
 でも・・・・。」

カインはアレン顔をじーっと見上げて、
そしてにっこり笑った。

「?」

「無事で良かったよ。アレン。」

その言葉を聞いて、
マリアが思わずアレンを肘でつついた。
カインの怪我はアレンを庇って負ったものだ。

「・・・・・・・〜っ」

先ほどあんなふうに言っておいて少し後悔した。
今更アレンは何と言うべきかと少し詰まった。

だが何かを話そうとする前にカインが話題を変えた。

「でも、邪神の像を手に入れたのは良いけど、
 次はどこへ行けば良いんだろうね?」

「おおー。船はいってもらえれば
 どこでも出すぜー。」

ミゲルも口を挟んできて、そして世界地図を広げてきた。

「こいつを、魔界の入り口に持っていけば良いんだぜ。
 ・・とか言われてもなあ。
 う〜〜〜ん。お前ら心当たりあるか?」

アレンは伸びをしながら、地図を少し斜め見した。
ダンジョン攻略を終えたばかりだ。
次の事まで頭が回っていなかった。

カインも何とも答えようが無かった。
また行った事のない怪しげな場所に
行くしかないかなと思った程度だ。

意外にも、はっきり行き先を告げたのはマリアだ。

「きっと・・・ベラヌールよ。」

アレンはカインと顔を見合わせた。
ベラヌールは一度行ったことがある。
カインの呪いが解けた印象深い街だ。

あながち心当たりが無いともいえない。

『魔界に一番近い街』
そんな言う通り名も、聞いたことがある。

「ベラヌールか?魔界に近いとか何とか言われてたけど
 別になんも無かったじゃねえか。」

アレンは怪訝そうに首を傾げた。
あの街はそれなりに見てまわった覚えがある。

思わしげな雰囲気はあったが、
だが実際には特に何もなかった。
長年住んでいる住民達も何もないと言っていた。

「でも・・・きっとそうよ。」

「その理由は?」

「・・・・・そ、そうね。女の勘かしら?」

マリアの口から出た理由は理由になっていないものだった。
アレンは思わず噴出した。

「ぶはっ。ここに来て、勘って!!
 しかも女の勘って。おもしれーこと言うなあ。」

「信じなくても良いわよ。でも他にあてはないんでしょう?」

噴出したアレンに怒るわけでもなく
マリアは平静を装っていた。

「まぁ良いか。たまにはそう言うのも。
 何も無かったら、また別の所を探すか。」

アレンはマリアの意見に頷くことにした。

「とにかく一歩でも先に歩んでみること。
 これって結構大事なことだしなー。」

「じゃあ、兄ちゃん達次の行き先はベラヌールで
 良いんですかい?」

世界地図をひらひらさせながら、
ミゲルがアレンに最終確認をしてきた。

「おう。行き先はベラヌールだ。」



***

「飯まで、少し休んでくるな。」

アレンが部屋に戻っていった。

ベラヌール到着は数日かかるだろう。
どこに行くにしても、
どっち道少しの時間の猶予がある。

「アレンって、あの像結局持ち歩くんだね。」

「そうね道具袋に入れてたわ。結構アレンって律儀なのよ。」

普通のアイテムと比べるとやや大きいその像は
道具袋の縁から頭だけ覗かせていた。
背後から見ても、なかなか異様な光景だった。

「・・・・・・・・あの銅像に、どんな作用があるっていうんだろう。」

「さぁ名前からして、禍々しいわね。
 変な呪いとか発動しなきゃ良いけど。」

「・・・・・・嫌なこと言わないでよ〜。」

心配そうに言うので、アレンの後でも追うのかと思ったが、
カインはアレンがいなくなるのを見計らって、マリアの方に向き合った。

「ねえ、マリア。」

「どうしたの?」

「何か隠し事でもしてる?」

「は?」

思わぬ言葉にマリアは一瞬目が点になった。
それを聞こうとしてたのは自分だ。
海底の洞窟でのカインの様子について聞こうと思っていた。

「どうしてそう思うの?」

「だって、女の勘でベラヌールに行こうなんて・・・。
 マリアなんか変だよ。」

ああ・・・、そこが気になったのかと思いつつ、
話に乗ってみることにした。

「そうかしら?」

「僕は・・そりゃベラヌールでのことはあんまり覚えてないけど、
 僕が・・いや、アレンも知らない所で何かあったの?」

「・・・・・ええ・・・そうね。」

正直言えば、『あった』としか言い様もない。

はっきりと覚えている。
ベラヌールの街の教会の先に・・・
違う世界が広がっていた。

そこでハーゴンの声すら聞いたのだ。

とは言っても、聞いただけだし、
それ以上、先にも進めなかった。
そこは毒の沼地と岸壁が辺りを覆いつくした行き止まりだった。

だが、その先に何かがあるのは疑いようが無かった。

魔界への入り口がどこかと言われれば、
今の自分に思い当たるのは、あの場所しかない。

マリアは、その考えをそのまま述べた。
今となっては隠す意味も無い。

いや、別に隠すつもりがあった訳でもなく、
言う機会もなかったし、あれが何を意味するかも
分からなかったのだ。

だが、聞いているカインはそうではなかったらしい。
慌てた様子で問い詰めてきた。

「そ・・・、そんなこと!!そんなことがあったの!?
 どうして何も言ってくれなかったの!?」

「だから、違うのよ。隠すつもりがあったとかじゃなくて。
 正直あの時は、それ以上に、
 あなたの事で頭がいっぱいだったのよ!」

「え・・?あ・・・・・。あー・・。」

若干顔を赤らめたカインは返答の歯切れが悪い。

それはそうだ。
勿論自分が世話をかけた事なのだから、
責められる訳も無く何とも言いようがないのだろう。

カインが生きるか死ぬかの瀬戸際だったのは本当だ。
マリアにとって、ハーゴンの声を聞いたことよりも、
世界樹の情報を手に入れたことの方が
あの時は一等大事だった。

「それにあの時の事は、何がなんだか分からなかったし、
 邪神の像を手に入れて初めて一つに繋がった気がする。
 でも、それでも・・気がするだけよ?」

「だ・・だったら、そう言ってくれたら良いじゃない。
 女の勘だなんて言い方で隠さなくて良いじゃない。」

「そうね、今となっては、確かに親切じゃなかったと思うわ。
 仲間内で、隠し事ってやっぱり良くないわよね。」

「うん。」

真面目な顔でカインが頷いている。
本気でそう思ってるんだろうか。
マリアは、それならば・・と、気になっていたことを尋ねた。

「ところで、カイン。
 今度は私の番よ。聞かせてもらってないわよ。
 海底の洞窟でアレンに何かあったの?
 心配そうに追いかけてたじゃない。」

急に変わった話題にカインが思わず顔を上げた。

「・・・それは、だから・・
 アレンが、宝箱の」

「罠にかかっていたってのは嘘よ。
 あなたはアレンの姿を見ていなかったもの。」

カインの返答をまたず、マリアが口を割った。
そしてその視線は矢を射るように鋭かった。
その勢いには、カインの方がたじろいだ。

「あれも勘だって言うのなら、別に良いわよ。
 ただ、嘘はつかないで教えてくれるわね?」

マリアの言葉には真実を見極めようとする鋭さがあった。

「マリア・・・・。ごめん。
 それこそ、勘だと言えば勘としか言いようが無いんだけど・・・。」

小さな声で答えたカインの答えは期待したものではなった。

「そう。分かったわ。」

マリアは少しその返答が気に入らず、背を向けた。
やっぱりカインは話してくれないのかと思って落胆もしていた。

そう言えばマイも言っていた。
カインは大事なことを何も喋ってくれないと。

結局、自分もその程度のものなのかと思ったのだ。

そのまま背を向けて立ち去ろうとした時
背後から、これまたカインの小さな声が聞こえてきた。

少し苛立っていたマリアは、
自分の足音の方が大きくて、
その言葉を聞き漏らす所だった。


「僕が間違ってるんだよ。
 だってアレンが死んじゃうなんて、考えられる訳ないでしょう?」

「・・え・・?」


漏れ聞こえたその言葉の衝撃に
マリアは思わず足を止めた。








- 続く-

2012/11/15

▲

     
    いよいよロンダルキアの洞窟ですねー。
    って、全然何にも洞窟ってないよ!!(そんな単語ない)
    そして平和に見えて、不穏な第一話でした。 
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