「ちょっと、待ってよ!カイン!」
何か不穏な空気でも感じたのか、
急に走り出したカインをマリアは慌てて追いかけた。
でも別に爆発音が起きたわけでもないし、
戦闘が繰り広げられている様子も無い。
マリアには訳が分からなかった。
アレンは宝箱を調べに少し離れただけであった。
見える距離にいると言っていた通り、すぐそばにいた。
アレンは何故かその場でしゃがみこんでいた。
もしかして何か罠にでもあったのだろうか?
走って駆け寄ってきたカインは、
一気に距離を詰めた。
が。
「アレン!アレン!!大丈夫!?
わっ!」
カインは石を引っ掛けて、前のめりに足を取られて
アレンに覆いかぶさった形になった。
「は・・・・・カイっ?・・・って、どわあ!!」
「ちょっ!!アレン!カイン!」
勢い余って激しくぶつかった二人に、マリアは思わず目を覆った。
「ぎゃーー!!おま、何すん・・!!
って、あっっち!!!!あちぃーーーって!!!!」
ぶつかってきたカインの勢いで思わずアレンは
バランスを崩して溶岩の海に体を投げ出す形になった。
「うわーーー!!!アレン!!ト、トラマナアアア!!」
あわててトラマナをかけたが、
溶岩とカインの間にサンドイッチにされたアレンからジュウ〜と
やな音がした。
「・・・・・・・・・・・。」
おそるおそるカインがホイミをしながら、アレンの肩をつついた。
「あの・・アレン・・。ごめん・・。ほんとごめん。
あの・・だ、だいじょぶ・・?」
憮然とした表情でアレンがむくりと体を起こした。
ホイミもトラマナも効いていて、特に火傷は残っていないようだ。
しかし、何とも言えない表情でカインに問うた。
「お前ね。俺に何の恨みがあんだよ?
俺を殺す気か?」
「ええっ?違うよ!」
真剣に首を横に振って否定するカインに
アレンはため息をついた。
「って、そんな真面目に否定しなくても分かってるけど。
いや、びっくりした。なんかあったのか?」
「え?」
「そうよ、カイン。急に走り出して私もびっくりしたわ。
何かあったんじゃないの?」
マリアも不思議そうにカインに尋ねた。
カインはうーん・・と唸って、首を傾げた。
「いや、勘違いだったみたい。
アレンが座ってたから・・ほら、また罠でもあったのかな・・って。」
「宝箱の中身がちっこいから、座って探してただけだ。
あの程度の罠くらいでどうにかなる俺じゃないけど。」
「あ。そ、そうだねー・・・。」
焦ったように頬を搔いてカインがごまかすように笑った。
「百歩譲って罠だったとして!
それでなんで俺が溶岩の海に突き落とされるんか
わかんねーけど?」
「いや・・・・・。本当ごめんって。」
カインは何度もアレンに謝っていた。
真剣に謝っているので、アレンも怒る気もなくなったようだ。
「まぁ、いいや。
ところで宝箱はさ、これ。
祈りの指輪。お前持ってろよ。」
アレンはカインに祈りの指輪を渡した。
魔法力が回復するアイテムだ。
アレンにはもちろん使えない。
以前手に入れた祈りの指輪は二度ほど使うと
すぐに壊れてしまった。
運次第で壊れてしまうので、普段使いには出来ず、
いざと言う時にしか使えないアイテムなんだろう。
「あ。ありがとう。
でもこれすぐ壊れちゃうんだよね。
マリア持っとく?」
カインはマリアに尋ねた。
「私はまだ魔法力は大丈夫よ。
とりあえずカインが持っていてよ。
トラマナ使いぱなしで消費、激しいでしょ?」
「まだ、もうちょっと大丈夫だけど・・。
分かったよ。」
そう答えるカインはもう普通の様子だった。
そんなカインの様子をマリアは平常心を装って観察していた。
先ほどの色を失うほどの焦った様子は何だったんだろうか?
大体、宝箱の罠にかかったアレンの心配といったが・・・・
カインは、アレンを見ていなかったはずだった。
そんなマリアの様子を不審に思ってアレンが声を掛けてきた。
「マリアどうしたんだよ。難しい顔をして。
お前の分の指輪ないから怒ってるのか?
しょーがねーだろ。一個しかないんだから。」
「え〜そうなの?マリア、やっぱりこれ持っててよ!」
「ちょっと。違うわよ。そんなんじゃないわよ。」
なんだか変な勘違いをされていた。
この件については、後で直接カインに聞いてみようと思った。
「先へ進みましょう。長居は無用よ。」
「ま、そうだな。」
***
「階段だらけ・・このフロアも階段だらけだーー。」
先頭に立っているアレンが頭を抱えている。
進めども進めども、見えるのは階段と溶岩の海であり、
進んでるのかどうかも怪しい。
少々途方に暮れていると、
カインはあまり見通しの良くないフロアの影から
魔物が現れるのを見つけた。
「アレン!魔物!」
「お、おお!」
アレンはカインのその声で魔物に身構えた。
出てきたのは、あまり見たことのない魔物だ。
「なんだ、あれ機械みたいだけど、魔物か?」
ギギギと錆付いたような音がしていたが、
魔物はゆっくりとこちらを伺っていた。
その動きは緩慢としたものだった。
「はは、錆びついてねえか?おっそ。」
だが、魔物はアレンを敵と認めると
急に加速して襲い掛かってきた。
「ええーー!?錆はどこいった!!」
「し、知らないよ!」
機械じかけのその魔物は、
目にも止まらぬ早さで剣を振るってきた。
「わっと。」
アレンはそれを盾で防御したが、
反撃するよりも敵の追撃が早い。
「なんだ、こいつ!?
機械仕掛けの癖に、なんでこんなに早いんだ!?」
防戦一方になったアレンに対して、
カインがはやぶさの剣を構えた。
はやぶさの剣の早さなら負ける気はしなかった。
「アレン、伏せていて!」
カインは思いっきり地を蹴って、
攻撃を仕掛けた。
キィン!
その攻撃は確かに機械仕掛けの魔物に
確かに二度クリーンヒットした。
「・・・・ギギ・・・?」
だが、魔物は全く意に介さないようで
今度はカインを敵と認めて、襲い掛かってきた。
「わわ!」
あわてて飛びのいて攻撃を避けた。
「あれー??全然効いてない?」
「お前、だから攻撃軽すぎだって!」
アレンは呆れたようにカインに言った。
はやぶさの剣は軽くて目にも止まらぬ早さで
振ることが出来るが、頑強な魔物には
まともにダメージが与えられないようだ。
アレンは深くドラゴンキラーを構えると
機械仕掛けの魔物の背中に一撃を喰らわせた。
ドラゴンキラーが背中の装甲に突き刺さった状態のままで
魔物は動作が不能になるわけでもなく、
苦痛も見せる様子も無く、直後に反撃をしてきた。
「!・・いって〜」
アレンのロトの盾を構える左肩がだらんと垂れ下がった。
だが、その負傷を回復させる間もなく、再度追撃が襲い掛かる。
「アレン、危ない!!」
カインは今度は意図的にアレンに体当たりをした。
そして魔物の前に立ってアレンを庇うように両手を広げた。
「おい!カイン、何をしてる!」
ロトの盾や兜などの強力な防具を装備していないカインは
勿論アレンより防御力が劣る。
武器を持った強力な魔物の攻撃にはひとたまりも無いのだ。
あわててアレンが膝立ちになると、
カインと魔物の間に遮るように激しい風が舞い起きた。
「・・!?」
一瞬何が起きたのか分からなかったが、
意図的に起きたその風には覚えがある。
「マリア・・!」
そしてはじけるようにカインが叫んだ。
「逃げよう!!アレン!!」
マリアがいかづちの杖を天にかかげていた。
そして、再度風を起こして目くらませをした。
「え・・あ・・逃げ?いや、お前それより今の・・!」
「アレン早く逃げないと・・・!」
マリアの攻撃は反撃の狼煙とはならず、
アレンはすぐに状況を理解した。
「げえっ。キラータイガーまで来たのか!!」
戦いと血の匂いを嗅ぎつけたのか、
キラータイガーがやってきたのだ。
しかも群れをなしてやってきた。
いまだ機械仕掛けの魔物も倒していないのに、
さらに魔物が増えては確かに手に追えない。
「分かった!!逃げるぞ!!あっちだ!!」
アレンはすぐに逃げることを決断した。
そしてどんどん魔物の視野から隠れられるよう
薄暗い方へと掛けていった。
どこをどう走ったのか良く覚えていないが、
階段もいくつか駆け下りた。
途中魔物の姿も見えたが、
いずれも戦うことなくアレンたちは先へ進んだ。
正直、あまり余力が残っていなかった。
カインは相変わらず立て続けにトラマナを唱え続けているし、
マリアも大魔法を唱えるには、魔法力に不安があった。
何度目かの階段を下りると、
アレンたちは空気が変化したのを感じた。
「・・・?」
相変わらず溶岩は噴出しているし、
ひどい暑さなのも同じなのだが、
どこか禍々しい空気を感じた。
「ここって・・なんなのかしら?」
マリアはそういいつつ、
このフロアに、傷ついた兵が言っていた
礼拝堂があるのではないかと感じていた。
それは他の二人も同じのようだった。
魔物たちが徘徊している様子は無い。
しかし、奥に進むにつれて、
静かなはずの洞窟の中に声が聞こえてきた。
腹の底に響くような低く一定のリズムで刻まれる文言が聞こえる。
耳を澄まして聞いてみても
アレンたちには言葉の意味が分からない。
だが、まるで呪いを紡ぐようなその言葉は
身の毛がよだつようで、ぞっとした。
きっとこれが邪神を崇拝する礼拝堂に間違いない。
では、その奥には魔物たち、強いてはあのハーゴンが
崇拝すると言うその邪神の姿の片鱗が見られるのであろう。
そもそも、ここで祝詞を唱えているのは
誰なのだろうか?
ただそれだけをまず確認しようと思って
アレンが奥の様子を覗き込んだ時、
祝詞以外の意図ある言葉が聞こえてきた。
「礼拝堂に足を踏み入れる
不届き者め・・・!!」
ハッと顔を上げるとそこには邪教の法衣に身をまとった
神官たちが群がっていた。
「どっかで見たような・・・魔物どもか。」
アレンは神官の敵意を感じて、
武器を構えなおした。
だが戦いを開始する前に確認することがあった。
「ここがお前達の邪神とやらを崇拝する礼拝堂か。」
「いかにも。」
アレンのその問いに神官は冷静に答えた。
意外と話が通じる相手なのかもしれない。
その様子に一歩足を踏み出したのはマリアだ。
「私達はロンダルキアの麓にあると言う
お城を訪ねたいと思っています。」
「ハーゴン様のお城か?」
「そうです。高い山々に囲まれているロンダルキアに向かう
その手段がここで得ることが出来ると聞きました。」
マリアはあえて自分の立場を明らかにせずに
情報だけを得ようとしているようだ。
アレンもカインもその問答に緊張しながらも、
何が起きても対応できるよう身構えていた。
「容易いこと。」
「それは本当ですか?私どもにもその方法をお伝えください。」
「魔界への入り口で礼拝堂にある邪神の像の力を使えば
ロンダルキアへの道は開かれる。」
「邪神の・・・・・像・・・・。」
神官たちがあがめている奥にあるモノの事だろう。
禍々しい空気はそこから産み出されている。
「だが、それはすなわちお前達人間が我らと同門になり、
我らの教えの元に下るということだな?」
「それは・・・・。」
勿論そんなつもりは毛頭ない話だ。
言葉をつぐんだマリアの肩をぽんとアレンが叩いた。
「そんなつもりはねーし。
情報を教えてもらえて助かったぜ。
じゃ、その邪神の像とやらはもらっていくぜ。」
「何・・!」
アレンは堂々と神官たちの中央を歩いて
礼拝堂の奥へと進もうとした。
「この不届き者め!
それ以上進めばただでは済まさぬぞ!」
「それはこっちの台詞だよ!
素直に像を渡せば何もしねえが、
邪魔するなら、お前らを倒してでももらっていく!!」
あまりにもアレンらしい気風と言うか、
しかし押し問答を繰り広げた所で結局は同じ結果だろう。
カインもマリアもアレンの決断には異論なかった。
「人間風情めが!!」
神官たちは一斉に杖をアレンたちに向けた。
敵の数が多い。
マリアは神官が魔法を唱えるよりも先に、
杖をかざした。
「ラリホー!!」
その睡眠の魔法に半数の神官が力無く倒れて眠った。
「よおし!」
眠った神官はとりあえず後回しにして
アレンは目の前でまだ杖を手にしている神官に斬りかかった。
「ぐはっ!」
アレンの一撃で神官は沈む。
間をおかず、アレンは次の神官に向かっていく。
あわてて反撃に出る神官はベギラマを唱えるが、
その炎はアレンには有効ではなかった。
真っ向から炎をさばいて、神官を殴り倒した。
「なんだ、こいつら弱いじゃねえか。」
神官は力は弱く、アレンの敵ではないように感じた。
どんどんマリアの魔法と合わせて
神官を倒していく。
何人もいた神官がどんどん打ち倒されていく。
「大したことねえな。
あとはラリホーで眠っているやつくらいだ。
とっとと邪神の像とやらをもらって帰ろうぜ。」
アレンが敵を無視して先に進もうとした時、
眠っていたはずの一人の神官が、
がしっとアレンの足を掴んだ。
「なんだ!?」
倒れていた神官は、眠っている振りをしていたようだ。
そしてその隙に、ある魔法の詠唱を完成させていた。
そしてアレンが反応を起こすよりも前に
神官は魔法を唱えようとした。
急激に空気の収縮を感じるその魔法は
イオナズンのそれだった。
「イオナ・・・・」
だが、アレンが動作を起こすよりも、
そして神官が魔法を唱え終わるよりも早く
反応をしていたものがいた。
「そうは、させないっ!!!」
カインの声がした。
そしてカインはアレンの手を掴んでいる神官を
まるで抱きかかえるように体当たりをした。
「っ!!!」
体当たりの衝撃で、アレンの足からその手が離れたのを感じた。
そして直後に大爆発が起きた。
「うわっ!」
すぐそばにいたアレンはその衝撃に思わず吹き飛ばされた。
あの大爆発である。
アレンにもダメージが無いわけではなかった。
だが、自分は爆風で吹き飛ばされただけだ。
爆発の中心にいた・・カインはどうなったんだ?
徐々に爆発の煙が晴れていく。
そこにはうずくまる様に倒れているカインの姿があった。
「カイン!!」
アレンより先にマリアはその場を駆け出していた。
至近距離のイオナズンを直撃したのだ。
無事ですむ筈が無かった。
マリアは悔やんだ。
魔法力の保存なんて考えるべきではなかった。
バギではなく、最初からイオナズンを唱えていれば
すぐに戦闘終わっていたはずだ。
少しの油断が決定的な致命傷に繋がるのだ。
マリアはそれを後悔しながら
反撃のイオナズンを唱えようとした。
だが、それをアレンが留めた。
「待て!マリア!落ち着け!
先に回復だ!!」
「アレン・・・!」
「それに、こいつは・・俺がやる!
やらなきゃ気がすまねえ!!!」
くそっ。
カインにこうやって庇われるのは何回目か。
自分が引っ張っていこうと思っているのに・・・!
アレンも自分の油断が許せなかった。
「仲間と共に、仲良く死ねえ!!」
神官はアレンに向かってベギラマを唱えた。
イオナズンを唱えた直後にベギラマを唱えるとは
こいつはきっと他の神官よりかなり上級なんだろう。
だが、そんな事はどうでも良かった。
「そんなもん、効くかーー!!」
アレンのドラゴンキラーの一撃は炎ごとその腕に突き刺され
そのままその体を引き裂いていった。
こんな残酷な倒し方はアレンは普段しない。
それだけ感情的になっていたのだろう。
だらりと白目を向いた状態で最後の神官は朽ち倒れていた。
完全に頭に血が上っているのを感じた。
でも、これで魔物は倒したのだ。
ハーッとアレンは乱れた息を整えた。
「マリア、カインの状態は?」
アレンはカインの回復を行っているマリアの元へと向かった。
「ええ・・。傷はほとんど治癒したわ。
息もしっかりしてる。きっと大丈夫よ。」
「そっか・・・。」
大丈夫と言いつつも、カインはまだ目をつぶったままだった。
再度回復魔法をかけるよりも・・・・。
「マリア、リレミトする魔法力は残っているか?
こんな場所に長居するよりも、避難した方が良いと思うんだ。」
「そ、そうね。」
元来た道を戻って、また魔物と戦う力は正直残っていなかった。
「邪神の像ってのは・・・あれだな・・。」
アレンは礼拝堂の奥へと進んだ。
そこには確かに人にあらざる醜い化け物の顔を
形作る石像があった。
あれだけ禍々しい空気を感じていたが、
今となってはこの石像が一体なんだと言うのかと思った。
さほど大きくもなく、重くもなく、
持ち運ぶことも出来そうだった。
無言でそれを持ち上げると、アレンは二人の元に戻った。
「よし、帰ろうぜ。」
- 続く-
2012/10/23
▲