どこかで、腹の底に届くような、激しい地鳴りのような音がする。
「嘘だろ〜〜!!」
騒いでいるのはミゲルだ。
一行は浅瀬に囲まれた洞窟へと辿り着いていた。
そして満月の塔で手に入れた月のかけらを天に照らすと、
その浅瀬が消えていった。
厳密に言うと浅瀬が消えたわけではなくて、
潮が一気に満ちたと言うわけだ。
「月の満ち欠けに関係するアイテムなんだね。」
「そうみたいね。」
納得したようにカインとマリアが言ったが、
ミゲルは納得できないようだった。
「そんなちっこい道具で、なんで海が変わっちまうんだ!?」
「だーから、月の満ち欠けだって言ってんだろ。
さぁ、行くぞ!!」
アレンは、威勢よく船から飛び降りた。
飛び降りたアレンを見下ろしながら、
カインがこっそりマリアに耳打ちした。
「格好良く言ってるけど、よく分かってないよ。あれは。」
「多分ね。」
***
ここは、海に囲まれた洞窟である。
てっきり内部は水浸しになっているのかと思ったが、
内部は思いもよらない状況になっていた。
「あーつーいーー。」
「暑いね・・。何これ。溶岩が噴出してるの?」
アレンとカインは入るなり汗だくになった。
内部は一体何℃になっているのだろうか?
「かろうじて道はあるようだけど、
先に進んでも大丈夫なのかしら?」
マリアは二人に比べて涼しい顔をしている。
「マリアは暑くねーの?」
「暑くて息苦しい〜・・。」
ダンジョンに入るなりトーンダウンしている二人に
対してマリアはそれほどでもない。
「え?それは暑いけど・・・そんな汗だくになるほどでも・・。
ああ、きっとこの水のはごろもの効果ね!?」
マリアがまとっている水の羽衣は、
こんな酷暑でも涼しげな風をはらんでいた。
「マジでか。良いな、それ。」
自分ひとり涼しいのが心苦しくて
マリアは二人に羽衣を順番に羽織るよう交換を提案した。
アレンはカインを見たが、カインはやはりうんとは言わなかった。
「良いからマリアはそれ着てろよ。
とにかく早く行って、早く出ようぜ!!」
「うん、それに賛成〜。」
「分かったわ。」
ここでただ立っているだけでも汗が流れて、
地面に水溜りが出来るんじゃないかと思うくらいだ。
3人は速攻でのダンジョン攻略を目指した。
***
が、その希望はあっという間に焦燥に変わった。
思いのほか、この洞窟は奥深かく、
階段もワンフロアに何個もあり、予想外の難迷宮と言えた。
「なんか、最早帰り道も分からなくなってない?」
「帰りは最悪リレミトがあるわ。」
早くも、帰り方すら不安になっている二人をよそに
アレンが明るい声で言った。
「宝箱あったぜー!」
ふとフロアの端の暗がりを見ると、そこに宝箱が鎮座していたのだ。
嬉しそうに宝箱に近づいて、わくわくとアレンは宝箱を開けた。
宝箱といえば、価値は様々だが、大なり小なり自分達に
役立つものが入っていると信じきっていたアレンだった。
だが、その宝箱は開けるなり、しゅっと何かが降りかかった。
「!?」
思わず、両手で飛び掛るそれを防御したが、
見る間に腕が毒々しい色に変わっていく。
「アレン!?」
様子のおかしいアレンに気づいて
カインが追ってきた。
「ど、どうしたの!?」
「いや・・・宝箱を開けたら、なんか変なモヤがぶわっと。」
「モヤ?」
マリアはいかづちの杖で宝箱を調べた。
普通の宝箱と違って、何かの仕掛けが施されていた。
「これはきっと罠ね。きっと毒か何か・・。」
マリアの考えは正しかったのだろう。
喋ってるうちにもアレンの腕を覆い始めた不気味な毒は
他の部分にも広がっていった。
「解毒しなきゃ!キアリー!」
あわてて、カインが毒消しの魔法を唱えた。
幸いそれほど強い毒でもなかったようだ。
キアリーの光が消える頃には、腕の色も戻っていた。
「おお、助かったよ・・。ってか、罠宝箱って何だよ〜。
恐ろしい所だな、ここ・・。」
「思ったより感じ悪いダンジョンだね。
宝箱も偽ものがあるなんて。」
いきなりの不意打ちに、気を引き締めたはずの3人であったが、
その後も3人は苦戦を強いられた。
出現する魔物のレベルも高かったのだ。
「キラータイガーが・・・3匹!?」
現れた魔物はぎらぎらとした目でこちらを睨みつける。
野生のキラータイガーの群れだ。
デルコンダルで対峙したときは1匹だった。
それがいきなり3匹も現れた。
「だ、大丈夫だよ!!今度はこっちも3人いるんだもん!」
デルコンダルで一人で戦ったことのあるカインは
そう言って二人を鼓舞しようと思ったが、
次の瞬間顔色が変わった。
その3匹が一斉にカインに襲い掛かったのだ。
「うわっ!!ちょっ、全部来たっ!!!全部僕!?」
一匹の攻撃をかろうじてかわしたが、
体勢を崩した所にもう一匹の追撃が来た。
「がはっ!!」
激しい体当たりに吹き飛ばされている所に
3匹目の攻撃が容赦なく襲い掛かる。
「カイン・・!」
マリアは3匹同時に足を止めるために、
いかづちの杖で、イオラを唱えた。
爆風は魔物の足を止めた。
そこにアレンが気合を込めた一撃で襲い掛かった。
アレンは一匹をしとめた。
カインは跪いたまま残った魔物を殲滅しようと
ベギラマを唱えた。
巻き起こった炎で、キラータイガーの苦しめた。
だが、未だに息絶えることのない一匹が
再度カインに向かって牙を剥いた。
「げーー!また来た!!」
襲い掛かる牙を、はやぶさの剣で押さえようとしたが、
細身の剣は、その猛獣の力の前にはあまりに儚い。
「・・っ・・ううーー。」
キラータイガーの牙が、カインの肩を噛いたとき、
アレンの追撃が、背後からキラータイガーの息の根を止めた。
「大丈夫か?!」
キラータイガーがずるずると崩れ落ちていく向こうに
アレンの顔が見えた。
何とか全滅できた。
「アレン、助かったよ。ありがとうー。」
「しかし、恐ろしい魔物だな・・。」
どうやらキラータイガーが一人に一斉に襲い掛かるのは
この魔物の習性のようだった。
その後も何度かキラータイガーには出くわしたが、
やはりキラータイガーはターゲットを決めた一人に一斉に襲い掛かるのだ。
しかし、最初はその攻撃力に恐れていた3人だが、
徐々に戦い方を見つけていった。
キラータイガーの他に違う魔物が出ても
優先して攻撃するのは、こちらもキラータイガーとする。
そしてターゲットにされた一人は反撃するより何よりも
とにかく防御をする。
そのターゲットにされた一人に対しては、
カインかマリアが回復を優先する。
残った一人がキラータイガーを少しずつ攻撃するのだ。
アレンはもとより、カインやマリアの攻撃魔法も効果的だった。
この作戦で時間はかかるが、こちらのダメージは最小で
キラータイガーの群れを倒すことができるようになってきた。
「まぁ、何とか行けるもんだな。」
「行けてるのかなー。あまり無事とも言いがたい感じだけど。」
「そうでもないわ。キラータイガー恐るるに足らずね。」
マリアは、そう言い切ると毅然と進んでいく。
「マリアってさ、本当度胸すごいよな。」
「・・・そうだね・・。」
キラータイガーの標的にされても顔色を変えることもない。
「お前なんて、ギャーギャーびびってたのにな・・。」
「もー、今はびびってません!防御すれば良いんだもん。
そしたらアレンが倒してくれる、もう分かったよ。」
にやにや笑うアレンにカインが唇を尖らせてそう言った。
カインが標的にされるとマリアは回復魔法を唱えてくれるので、
フリーになるのはアレンだ。アレンが魔物を倒して行ってくれた。
それで勝てると思うので、確かに初戦の時のように
カインはターゲットにされることも恐れることは無かった。
まぁ、誰がどうなっても、この3人がいれば、
絶対何とか出来るという信頼感があった。
しばらくダンジョンを進むと、
洞窟内に怪我だらけの兵を見つけた。
一瞬これも罠かと思ったが、
怪我をして苦しむのは罠や魔物ではできないことだと思った。
「こんな所で何をしてるんですか?」
アレンはその兵に話しかけた。
兵はアレンを見ると、驚いた顔をした。
相手も何故自分達がこんなところにいるのかと思ったようだ。
「もしやあなた方は邪神の礼拝堂へ辿り着いたのか?」
「礼拝堂・・?」
聞かない言葉だった。
「そこにはハーゴンの神殿に近づく重要な手がかりがあるという・・。」
「ハーゴンの神殿・・!?」
3人を顔を見合わせた。
ここに来て、ぐっとハーゴンに近づける情報だ。
「ハーゴンはロンダルキアにいると聞きます。
しかしロンダルキアは高い岩山に囲まれて近づくことは出来ない。
それを打破できる方法があると言うのですね!?」
マリアは一歩踏み出し、その兵に尋ねた。
「うむ。そうだ。
すなわち、礼拝堂を見つけられた者は
ハーゴンを倒すことができるはずだ!」
「あ、あなたは・・?」
そこまで知っているこの兵はきっと只者ではないと思った。
「私も志を秘めて、この洞窟に挑戦したが、
残念ながら・・・どうやら私の力では、これ以上先には進めないようだ・・。」
体中の傷を見ると、その戦いぶりが分かる。
足を引きづるようにしてここまで進んだのだろう。
マリアはこの歴戦の戦士に、ベホマを唱えた。
傷は見る間に癒されていく。
だが、折れた心は戻らなかったようだ。
「ありがとう。危険を知って、なお進む
あなた方の健闘を祈っている。」
3人には緊張感が走っていた。
ただの洞窟ではないと思ったが、
ハーゴンに直結する手がかりがあると言う。
だが、そこに辿り着くのは並の事では無さそうだった。
実際問題、
次のフロアに進むとそこは吹き上がる溶岩で
通路は全て塞がれていた。
「こりゃ、あの兵も心が折れるわ。」
アレンがげっそりとそう言った。
「私なら多少の溶岩も平気よ。
少し先へ進んで様子を見てくるわ。」
水の羽衣を羽織ったマリアが二人にそう言った。
そして一人で、先に一歩足を進めようとした。
「待ってマリア、そんなことしなくても魔法で。」
「回復しながら進むって言うの?
それこそ無茶よ。」
「いやいや、違うよ。そうじゃなくって・・。」
溶岩を進めば、ダメージを受ける。
と言う事は、要はバリア床と同じことだ。
では、きっとこの魔法が通じる・・・。
「トラマナ!」
カインの手から光が広がる。
トラマナの防壁が3人を包み込んだ。
「おおー」
アレンが溶岩に足を突っ込んでみた。
まるで熱くない。
「これは、いけるぞ。」
「本当?良かったー。」
「ええ、これで溶岩も怖くないわね。」
こうして、溶岩地獄はトラマナで解決した・・かと思えた。
「あっち!!」
一番先頭を行くアレンがほんの50メートルほど歩くと
また熱さに悲鳴をあげた。
「あれ!?なんで?トラマナの効果切れちゃった?」
いくらなんでもこの程度では
トラマナの効果が切れるはずがなかった。
「おそらく・・・溶岩が一度途切れると、
トラマナも切れるんじゃない?」
「え?あ、今ここの普通の通路を横切ったから?」
「多分・・・。」
溶岩はあちらこちらで噴出しているが、
幸か不幸か、全面が溶岩で覆われていると言うわけでもない。
ところどころ普通に歩ける部分もあるのだ。
それでも、向こうサイドに見える階段に進むには
溶岩エリアに突入しなければいけない。
「うーー。分かった。
その度にトラマナを唱えるってことだね。」
「そうなる・・わね。」
そうして3人は意を決して再びトラマナを使って
先へ進むことにした。
が、進めど進めど、礼拝堂への道は見つからない。
「あれーー!?ここってさっき来た場所だよな?」
溶岩エリアを突っ切って、
階段を2回ほど上がったり下がったりすると
先ほど来た場所に戻ってきた。
「じゃあ、またトラマナしないとー・・。」
既に何回トラマナを使っているだろうか。
階段はいくつも見える。
手当たり次第に進んでも、目的地は一向に
見えてこなかった。
さらに、溶岩の中でも容赦なく魔物が襲い掛かる。
キラータイガーの他にも、
徒党で現れて炎を吹くドラゴンフライの集団、
そしてふしぎの踊りをおどるパペットマンとあくまの目玉は
カインとマリアには天敵だった。
「ベギラマーー!!!」
ドラゴンフライの炎に対抗して、カインがベギラマを唱えた。
そしてマリアの魔法がそれを追撃し、アレンが止めを刺した。
一匹一匹のモンスターが手に負えないほど強いわけではない。
ただ、徒党を組んで現れたり、この今の状況で
戦い続けることは非常に過酷な環境であった。
「カイン、汗だくだぞ。」
アレンはカインが胸元をパタパタさせて、
熱そうにしているのに気づいた。
「いや・・・暑くって。」
「熱いなら、炎なんて使うなよー。
ていうか、溶岩の上で、炎合戦とかマジ半端ねえよな。
つーか、こっちも熱いんだけど。」
「だって!しょうがないでしょー!
僕は炎しか使えないんだから。」
文句を言ってくるアレンに
カインが息を乱しながら言い返した。
「ほら、じゃあ、また進むよ。
トラマナ!」
カインは何度目かのトラマナを唱えた。
既に数も分からないくらいトラマナを使っている。
実際の所カインは顔を真っ赤にして
肩で息をしている。
このまま強制突破で進んでも、
いつか本当に魔法力が尽きて
ジリ貧になるのは目に見えている。
「ちょっと待ってよ。がむしゃらに進んでもダメよ。
一度きっちりマッピングをしましょう。」
「そうだな。」
3人は記憶を頼りに、
今まで使った階段とフロアの形状を地図に起こしていった。
「あれ。
じゃあ、あっちに見えてる階段ってさっき行ったやつか。」
「そうね、ここは向こうから横切ったときに行ってるわね。」
地図に起こすと見えてくるものを多く、
少し冷静にもなれた。
「なあ、あそこに宝箱が見えるんだけど、
あれはまだ行ってないよな?」
アレンはフロアを見渡して、また宝箱を見つけた。
「アレン〜・・・また、毒かもしれないよ?」
「今度こそ宝かもしれないじゃん。
俺今度は宝の気がするぜー」
アレンの直感は信じていいのかどうか分からない。
まぁ毒消し草も一つ手持ちのものがある。
いざとなれば魔法を使わずとも、毒は解毒できる。
アレンはカインが魔法力を消耗しているのも感じていた。
「じゃあ、俺だけちょっと行って見て来る。
すぐに戻るし。お前ちょっと休憩してろよ。」
「え?一人で行くの?」
別行動は危険だと思った。
「一人でって、別に見えてる距離じゃん。」
「あ、まぁ確かに。」
そう言うとアレンはさっさと宝箱に向かって進んでいった。
残されたカインとマリアは、その場で少し休憩することにした。
と言っても、下は溶岩だし、座ることも出来ない。
とりあえず壁にもたれて、カインはふーっと息をついた。
しかし、本当に暑い。
自分は特別暑さに弱いとは思っていなかったが、
別に強くも無いと言う事だろう。
水の羽衣を着ているマリアはともかく、
同じ条件のアレンは、この暑さの中でもあの元気である。
この辺は根本的な体力の違いだろう。
暑さのあまり溶岩がゆがんで見える。
汗で視界がぼやけているんだろう。
いやいや、まだ先は長いんだからと首をぶんぶんと振った。
あの傷だらけの兵は無事に帰れただろうか。
それにしても、
ここにはハーゴンの神殿に通じる何かがあると言うが、
いまだ見つからない紋章やロトの鎧は、
それではどこにあるのだろうか?
アレンが身に付けるべき最後のロトの装備・・・。
まとまらない思考に苦笑して、考えるのを諦めた。
顔を上げたカインは、驚いて、何度か瞬きをした。
どこからやってきたのか、
小さな少年がこちらを仏頂面で覗き込んでいるのだ。
あの兵の子供だろうか?
いや、違う・・。どこかで見たことのある顔だ。
不機嫌そうなのに、何故だかこちらを物珍しそうに
すごく見つめているのだ。
でもやっぱり心を開くこともなく、
少年はつまらなそうに去っていく。
一度見たことがある気がする。
そう、十年位前の事だ・・・。
あの、黒髪の少年って・・。
そこまで思い至ってカインはガバっと体を起こした。
「わっ!!どうしたの!?魔物でも!?」
そこにいたのはマリアだ。
別に魔物もいない。
先ほどと変わらない溶岩に囲まれた風景だ。
「あ・・マリア・・・!
あのさ、えっと・・僕寝てた・・!?」
「え?いや、ちょっとぼーっとしてたんだと思うけど、
疲れて寝ちゃってたの??」
「やっぱり寝てたんだよね?
ほら、僕ぼーっとしてるから、こんな所で寝るなんて
しょうがない奴だよね!!」
「え・・?え??」
何故かカインは自分が寝ていたと言い張っている。
別に横になって休んでたわけでもないし、
マリアは寝てた訳は無いと思うのだが。
でもカインがそう言うので、別にどちらでも良いと思い
否定もしなかった。
カインは急に落ち着きをなくしたように、
アレンを探し始めた。
カインは心臓がバクバク言っているのを感た。
テパやサマルトリアで見たあの幻と同じのはずはない。
きっと夢を見たんだ。
恐らく暑さに負けて、疲れて、寝ぼけて見た夢だ。
だから、今見た幻が小さい頃の・・・アレンの姿・・な訳が無い。
絶対違う!
カインはそう思いつつも、
狼狽した様子でその場を駆け出した。
「ちょっとカインどうしたの?!」
マリアは訳も分からず、その後を追うしかなかった。
- 続く-
2012/10/01
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