船は無事にアレフガルドへと到着した。
「どうぞ、お気をつけて。」
航海士ミゲルはアレンたち3人を見送った。
「ありがとう。船の留守は任せたぞ。」
「お任せを。」
++++
3人はとうとうラダトームへとやってきた。
いや、帰ってきたという表現の方がしっくりするのかもしれない。
ここは勇者アレフとローラ姫が旅立った国である。
「懐かしいね。ラダトームの街並みも。」
ロト祭から5年ぶり、回数で言えば4度目の訪問であった。
「でも・・・なんか活気がないな。」
「そうね・・・これももしかして竜王とやらのせいなのかしら?」
ルプガナで聞いた『竜王の復活』が気になる。
「王様に話を聞きに行こう。」
3人は一路城を目指した。
「あ、あなた方は!!」
城の門番はアレンたちの姿を認めるや否や、自分達が何者なのかを
把握したらしい。理解が早くて助かる。
「アレン様、カイン様、マリア様!!よくぞこのラダトームの城へ!」
3人は門番に目礼した。
「ローレシア、サマルトリア、ムーンブルク各国の使者として参った。
ラダトーム王との面会を取り次ぎ願いたい。」
ラダトーム王は気さくな人間であった。
急な訪問であるが、各国を代表してやってきた我々となら
面会の機会を得られるはずであった。
「あ、真に申し訳ありません。・・・実は、王は今城にはおりませぬ。」
門番は王の不在を告げた。
「そうか。それは突然の訪問だったこちらが悪かった。
いつ頃王は戻られる?」
重ねて問うたアレンに対する門番の答えは意外なものだった。
「王は・・王は、今行方不明なのです。」
「なんだって!?」
アレンたちは顔を見合わせた。
ラダトーム王が行方不明・・。何か事件に巻き込まれたのか。
それであれば、国をあげて捜索の協力をしなければならないだろう。
「もしかして、復活したと言う竜王と何か関係があるのですか?」
今度はカインが門番に聞いた。
「私などには、分かることではありません。」
「では質問を変えます。竜王が復活したと言うのは本当なのですか?」
「竜王が直接我が国を襲ってきている訳ではないのです。
ただ、ここ最近街の外は強力なモンスターが出るようになっています。
そして何より、我が城からも見えるかつての竜王の城・・・。
あの城が急に禍々しい霧に覆われ、調査する人間も受け付けなくなったのは
ここ1・2ヶ月ほどのことです。」
竜王の姿を見たものがいる訳ではないらしい。
ただ、何か禍々しい存在が、ここ最近になって、かつて竜王が巣食っていた城を
再び根城としていると言うことだ。そして竜王の城を調査しにいった兵達の中で
生きて帰ってこられたものはいないらしい。
「1・2ヶ月か・・・」
もしかするとハーゴンが根城としているのは竜王の城なのかと、一瞬考えた。
だが、ムーンブルクが滅ぼされたのはもっと前だ。
ハーゴンが竜王の城を根城とするのは少し不自然だった。
「じゃあ、本当に竜王が・・復活したのか・・・?」
勇者アレフが倒したと言う竜王。
伝承に伝えられる竜王とは、
文字通り、巨大な竜の姿に変身することができ、
その分厚い皮膚は並みの人間には傷一つ付けられるものではなく、
その攻撃は燃え盛る火炎をはじめ、強力な牙や爪による攻撃を
絶えうる防具などは存在しないと言われている。
そう、アレフが身につけていたロトの装備を除いては・・。
「勇者様!我々はロトの勇者が再び立たれることを信じて疑いませんでした!」
「は?」
門番は急にアレン達に目を輝かせて語りだした。
「かつて大魔王ゾーマを討ち果たした勇者ロト、そして竜王を打ち果たし、
我らがローラ姫とともに新たな国を興した勇者アレフ。
この尊き血を引きし若き勇者達が、立ち上がることを
我らラダトームの民は皆信じておりました。」
そういうと門番はアレンの手を取った。
「勇者アレン様、カイン様、マリア様!
どうかその勇者としてのお力を再び世にお示しください。」
アレンは、今おかしな違和感を感じていた。
勇者ロトの血を引く・・・そのことの意味を自分達はもちろん理解していた。
客観的に。
その血とはすべからく現れる悪しき力をくじき
世界に光を取り戻すものなのだと。
しかし、自分達は未だ成人もしていない17歳の子供であった。
その子供である自分が、自らの国のみならず、全世界を救わなければならない。
そんな重い運命があるだろうか。
自分達はムーンブルクを滅ぼした憎きハーゴンという敵を討つために旅を決断した。
しかしこの世の中は、自分達のような子供にハーゴンと言う敵のみならず、
全世界の未来の光を託さなければならない。
ロトの血とは一体なんなのだ?
3人は門番に別れを告げて、城下町へ下った。
目的のラダトーム王とも会えず、3人は自然無口だった。
「アレンどうする?これから。」
口を開かないアレンに痺れをきらしてカインは尋ねた。
「行かなきゃいけねえよな。竜王の城。」
「アレン・・・。」
「行って、竜王を倒す・・・ってか。倒せると思うか?」
自分達が多少強くなったといっても、ロトの装備も持たない自分達が
勝てる相手とは思えない。
「倒せると思う?アレンなら。」
「はぁ・・・・・。お前、ドラゴンを斬れるか?」
「僕には無理だよ・・。」
実際本当に伝説に出てきた竜王が近くにいるのだと思うと
アレンもカインも自分の力がまだまだ未熟であることを感じた。
「でも放っておけないわ。竜王がまた世界の征服をたくらんでいるとしたら
ラダトームは元より、他の国も危険だもの。」
一国を滅ぼされているマリアは、国家の滅亡と言うものが
いかに一瞬で起こってしまうのか身を持って実感していた。
「うん。。」
二人ともそれは良く分かっていた。
「せめてロトの剣でもあればなぁ・・・。」
アレンのため息とともに呟いた。
するとその呟きを聞いたのか、城下町で年老いた老人に話しかけられた。
「ロトの子供達よ。」
3人はその声に振り向いた。
ロトの子供達・・・。末裔と言われたことはあったが、そのような呼び方を
されたのは初めてだった。
「大きくなられて・・・ロトの子供達よ。」
老人は懐かしい孫に会うような口調でそう言った。
「おじいさん、以前お会いしていましたか?」
「ええ、ええ、この爺はずーっとロトの血を見守ってきたのじゃ。」
「ずーっと?」
ロト祭のときからずっと見守られていたのだろうかと思った。
「アレン様は随分アレフ様と似てきたようでいらっしゃる。」
老人は懐かしそうに目を細めた。
「え・・・・アレフ?勇者アレフか?」
「おじいさん、勇者アレフを知ってるのですか?」
「ようく知っておりますとも。」
アレフが竜王を倒したとされるのは100年も前だ。
生きていた頃のアレフを知るとすれば、この老人は何歳だ?
「アレン様は今何を戸惑っていらっしゃる?」
アレンはこの不思議な老人に先ほど感じた違和感について、
話してみようという気になった。
「俺は、生まれたときからロトの血を引くと聞かされて育ってきた・・・
確かに俺は他の人たちより成長が早かった。城でもすぐ一番の剣士になった。
それは、ロトの血を引くからだろうと思っていた。回りもだ。」
「ふむ・・・そうでしょう。」
「俺はロトの血のおかげで、他人よりちょっとだけ強い。
それだけだ。俺は・・・ただの人間だ・・・。
勇者ロトが偉大な人物だったと言うのは分かる。」
「ええ・・・。」
「だけど、俺は勇者ロトなんかじゃないんだ。」
「同じ事を求められても困ると言う訳じゃな。」
老人はそう言った。
カインとマリアも無言でアレンの告白を聞いた。
「アレン様は本当にアレフ様とそっくりじゃ。」
「え?」
アレンはまるで小さい子供になったような気持ちで老人の言葉を待った。
「アレフ様もそれはそれは悩んでいらっしゃった。
勇者ロトの血を引くと言われても、それは何百年も前の話。
最早誰もロトの戦いを見守ったものは生きてはいないのじゃから。」
それはそうだろう。勇者ロトの戦いはアレフよりさらに何百年も前にさかのぼる。
「しかもアレフ様が旅立たれたのは16歳のとき。今のアレン様よりも
幼かった。」
「・・・・・・・・。」
「そのまま順風満帆に、ローラ姫を救出し、竜王を倒したと言うわけじゃないのじゃ。
アレフ様とて、悩み苦しみ、何度も敗れて悔し涙を飲み、しかし何度も立ち上がり、
何度もの死線を潜り抜け、ようやくアレフガルドに光を取り戻すことができた。」
勇者伝説に謡われるアレフはたった一人で多彩な魔法を使いわけ、
伝説のアイテムを手に入れ、ルビスのご加護とロトの武具に身を守られて、
偉業をなしとげたのだと描かれている。
しかし、アレフは自分よりも幼い年で旅立ち、何度も苦杯を喫し、
その果てにようやく光を取り戻していたのだ。
「大丈夫じゃよ。たった一人だったアレフ様とは違い、
おぬしには立派な仲間がおるんじゃから。」
アレンは背後の二人の方をふと見た。
二人は困ったような、戸惑ったような顔で笑っていた。
カインとマリアはいつも自分の後ろにいる。
「しかも、ただの仲間じゃないぞよ。
二人とも精霊ルビスのご加護とロトの血を引いておるんじゃ。」
そして老人は穏やかに微笑んだ。
「おぬしは幸運じゃよ。」
「じいさん・・・。」
「さぁ、行くがいい。おぬしらに必要なのはあと勇気だけ。」
アレンは老人の言葉に確かな力をもらった。
「じいさん、ありがとう。」
「そうそう。必要と言えば、アレフの使ったロトの剣は、
竜王の城で眠っておるそうじゃよ。」
「本当か!?」
必要なのは勇気だけと言ったのっけから、えらく実用的な武器の名前が
出てきた。
しかし本当にロトの剣があるのだとしたら、竜王の城に行く理由がもう一つ増える。
「ま、本当にあるかは知らぬがな。」
そういうと老人はホッホッホと笑った。
「何がおかしいんだよ。」
急に笑い出して、おかしくなったのかとアレンが聞いた。
「ふふふ。
さぁロトの子供達よ。精霊ルビスのご加護のありますように。
光 あれ!!」
老人がそう叫ぶと、アレン達3人の身体はまばゆい光に包まれて、
力が沸き起こるのを感じていた。
- 次章へ続く -
2010/10/14
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