船旅

一行は今アレフガルドにある城下町ラ ダトームを目指して一路航海の最中である。

「やっぱり船ははえー。」

アレンたちは今甲板に出てきていた。

「この様子ならすぐに着きそうね。」

「そうだねー。この船なら少しの嵐くらい大丈夫そうだよね。」



3人はルプガナで街の長老より船を一隻貸してもらった。
どのような船だろうかと楽しみに港にやってくると、
思いのほか立派な船であった。

どうやら、自分達がロトの血をひくという話から
芋ずる式で、自分達がローレシア・サマルトリア・ムーンブルクの
王家の血をひくものだとばれてしまった。

それから自分達への対応が妙に他人行儀なものに
なっている。

アレンは長老の別れ際の挨拶を思い出した。
あの頑固だった長老は異常に腰が低くなっていた。

「あの長老なんて変わりすぎだぜー。
 なんて言ったか覚えてるか?
 『ロトの血を引きしアレン王子、カイン王子、マリア王女。
  どうぞ3人の勇者達に精霊ルビスのご加護のありますように。』
 だぞ。人のこと散々馬の骨やら小僧やら言ってたくせにさ。」

「ぷ。アレン、長老の物まねうますぎー!」

「まぁ別にいいじゃない。それでこんな立派な船を用意して下さったんだもの。」

今回はいい風に話が進んだが、
ロトの血というのはやはり大きな力を持つものなのだと改めて感じた3人であった。



太陽が真上に上がって、そろそろ正午である。

「そうそう、僕厨房使って何か作ろうと思って。
 そろそろご飯でしょ?」

立派な船にはありがたいことに、厨房までついていた。
食材もそれなりに積み込むことが出来たので、しばらくは航海中に飢える事も
ないだろう。

「おー。頼むよ。何でも良いから腹減った。」

「待っててねー。」

そう言って厨房に向かおうとするカインの元に
ミゲルが現れた。

「いやいや、お待ち下せえ!料理ならおれがやらせてもらいますって。
 カイン様!」

「ミゲル・・・」

どうやらミゲルも例の一件から、3人への対応が仰々しいものに
なってきていた。

「方々はここでお待ちになっててくだせえ。」

どうも、王家の血をひくアレン達に気を使っているらしい。

「あの・・・気を使わないで下さい。僕達これだけの人数で旅をしてるんだから、
 なんでも出来るようにならなきゃ。
 ミゲルは船の航海を見ててくれてるんだから、ご飯は僕が作るよ。」

そういうとカインは厨房へと向かっていった。

「あいつの言うとおりだぜ
 俺たちに気を使う必要はない。様もつけなくて良い。
 船の上では同等の仲間だと思ってくれたら良い。」

アレンは改めて自分達の仲間関係についてミゲルに話した。
その懐の広さにミゲルは感動を覚えつつ、
偶然とは言えこの3人と航海をすることになったことを
嬉しく思った。

「分かったぜ、兄ちゃん。」
 
「そうそう、それでいいよ。ミゲルっぽい。」

まぁ名前を呼び捨てにするのは言いづらいだろうし、アレンはにやりと笑った。

「ところで料理は姉ちゃんではなくて、緑の兄ちゃんが担当
 なんすか?」

素朴な疑問であった。

「・・・・・・・・・」

「マリアもするけど、あいつがどうも料理が好きみたいなんだよー」

「妹姫とよく料理してたんだそうよ。」

「さっきも厨房の様子ばっかり観察してたもんな。どうも新妻みたいな奴だよな。」

初めて船に乗ったときに、カインは宝物を見つけたような笑顔で、最初に厨房を見に行っていた。
今までの野宿生活では、魚や肉を焼くくらいのことしかできなかったが、
設備も整った厨房に夢が広がっているらしい。

「って訳だから、まぁ、楽しみにしてろって。」

「へーー。王子様に料理作ってもらうなんて恐れ多いですねえ。」




「ねえ、ミゲル。アレフガルドはあちらよね?」

ふとマリアは指を差して聞いた。
ここは前後左右に海が広がり、アレフガルド大陸の姿はまだ見えない。
それなのにマリアは指を差していた。

「あ、ああ。航海図によるとそっちだ。なんで分かるんだ?」

マリアには航海図は見せていなかったはずだ。

「ミゲルの言ったとおりかも。何か大きな力をあちらから感じるわ。
 竜王が復活したというのは本当なのかも。」

確かこの華奢な娘は魔法使いだと聞いた。
その魔力で何か分かるのだろうか。
アレンやカインの戦いを見た後、
この華奢な娘までがロトの末裔であると聞いたが、
にわかには信じがたかった。

しかし、このちょっとしたやり取りだけでも
マリアが常人ではないのが良く分かった。

「ねえ、ミゲル。どうしたの?」

「い、いやあ。すげえなって思って。」




アレンは退屈そうに伸びをした。

「海の上って結構暇だな。ちょっと素振りでもしてくる。」

そういうとアレンは二人から離れて甲板の端のほうへ行き、
剣の素振りを始めた。

なるほど、火の玉をも切り裂く剣の腕は、
日々のたゆまぬ稽古によって生まれたものなのだろう。




「なぁ姉ちゃん。アレフガルドへ行って、何をするんだ?」

ミゲルは海を見つめるマリアに聞いた。

「ええ、ルプガナで竜王の話を聞いてからは、それも気になるんだけど、
 そもそもはロトの使っていた武具の情報を集めようと思って。
 今は残ってないのかもしれないけど、残っていたら大きな戦力アップになるわ。」

「今でも十分強いのに。」

アレンとカインの戦いから見ると、強力な海の魔物をも倒せそうだ。

「そんな事ないわ。」

マリアは首を振った。

「私達が戦おうとしているのは、一国を滅亡させるほどのもの・・。
 私達がいくらロトの末裔だといっても、普通の人間よ。
 普通にしてたら殺されるだけよ。」

ミゲルはごくりと息を飲んだ。確かアレンたち3人の最終目的はハーゴンとか
言ったか。それは一国を滅亡させるほどのものだと言うのか。

「しかし、滅ぼされた国って言うのは、一体どこのことだ?
 何とか反撃できなかったんだろうか?兵力はどんなもんだったんだ。
 十分な軍力の兵士を駆使したら、そうそう滅ぼされるなんてこたあ・・」

その一言にマリアは口をつぐんだ。
何か口を開こうとしたとき、それを静止するようにミゲルに話しかける声がかかった。
素振りしていたはずのアレンであった。

「なあ、ミゲル、素振りに使うんで何か角材とか余ってない?」

「え?え??」

「いーから、ちょっと来い。」

アレンは強引にミゲルを船首の方へと引っ張っていった。





「兄ちゃん角材ならあっちに少し・・・。」

反対方向に来ていることを不振に思いつつ声をかけると
アレンがこちらを向いて言った。

「あのさ、今みたいな話、マリアにしないでくれる?」

「は?」

いきなり何を批判されたのか分からない。
さっきの会話のどの部分がまずかったであろうか?

「滅ぼされた国ってのはマリアの国のことだ。
 下手にその話をマリアにしないでくれって言ってるんだ。」

「・・・!そ・・・それはすいませんでした。」

マリアがそんな重いものを背負っているとは知らず、
知らぬこととは言え、マリアを傷つけたかもしれない。
ミゲルは反省した。



そうこうするうちに、厨房のほうから元気な声が聞こえてきた。

「みーんーなーーー。できたよーーー。集まって〜〜」

お盆を持ってカインが戻ってきたのだ。

「お?早いじゃん。」

アレンは早速カインの元に向かった。机もあるし、甲板で食べようということだ。

「何作ったんだ?」

「小麦粉がいっぱいあったから、パンケーキ作ってみたよ。
 ねえ、マリアもおいでよー。」

すぐ寄ってきたアレンと違って、マリアは何やら海の方を見て沈んでいる様子だ。

「どうしたんだろ。」

「あ、悪い兄ちゃん。俺が間違って、姉ちゃんを傷つけるようなこと
 言っちまったんだ。」

「え・・・」

ミゲルはカインに事のあらましを話した。
いつも穏やかな表情のカインが、少し苦い表情となっていた。

「お願いだから・・・・・マリアにそんな話しないで。
 マリアを傷つけるようなことしたら許さないから。」

カインもアレンと同じようなことを言った。
それだけミゲルに釘をさして、カインはマリアの元に駆け寄った。



「ねえ、マリア元気ないの?」

「カイン。そんなことないわ。」

カインはパンケーキの乗ったお皿をマリアに手渡した。

「ねえ、僕マリアがイチゴ好きだって言ってたから、
 イチゴジャムも作ったんだよ〜。」

カインはビンを取り出した。中には赤くてとろっとしたジャムが入っている。

「あ、あとねー。アレンはバナナが好きだから、バナナジャムもあるんだー。」

「・・・カイン・・・ありがとう。」

自分を元気付けようとしてくれている姿にマリアは笑った。

「一緒に行って食べよ。」

カインはマリアの手を取って、机に戻ってきた。



「なぁカイン、俺一枚じゃ足りないぜ。」

「大丈夫だよ〜。アレンは5枚は食べるだろうって計算してます。」

「おー。ありがてー。」

輪に入れずにいるミゲルにアレンは笑って声をかけた。

「な。新妻みたいって本当だろ?」

「おみそれしました。」

この3人には決して逆らえないなと思ったミゲルであった。




これは船旅の最初の一幕。

アレフガルドはもう目と鼻の先であった。




- 次章へ続く -

2010/10/11
▲

一般人が混じっているというのは意外と楽しいです(発見)。

カインの料理好き設定をどっかで使いたいなあと
思っていたので、早速新妻になってもらいました(おい)。

マリアはアレンにもカインにも大事にされているというお話でした。


 
      ★2P漫画化しました
      【 見る  】

 
 

更新の活力。楽しんで頂けましたら是非ポチを。→