アレンと別れてから何時間経過したのかと思ったが、
ラダトーム城の外に出てみると外はまだ明るかった。
カインとマリアはアレンと合流を図ろうとした。
ひとまず武器屋か宿屋にいるだろうとして、
街へ戻ることにした。
城と街をつなぐ橋を渡ろうとしたとき、
街のほうから見知った顔が見えてきた。
アレンであった。
小走りにこっちに向かって走ってきているようだ。
「あれ・・・どうしたんだろ。」
「もう武器見つかったのかしらね。」
アレンもこちらに気がついたようで、手を振っている。
「アレーン!どうしたの?」
カインも手を振って答えた。
アレンはここまで走ってきたらしい。
ふーっと息を整えた。
「どうしたの?アレン。」
「おう!お前ら、もう終わったのか?」
「うん・・・・。終わったと言うか、疲れたので終了。」
「疲れた〜?それほど時間経ったわけじゃないだろう?」
「うん。まぁ・・・でも疲れたんで。」
「何だよ。すげえ魔法使えるようになったんだろうな?」
アレンはいぶかしむように聞いてきた。
「えーっと、マリアがいくらか収穫があったよね?」
カインは矛先をマリアに向けて尋ねた。
マリアはいくらか新しい魔法の手ごたえを感じていたはずだった。
「そ、そうね・・多少は。外に出たときに試してみるわ。」
「どんな魔法なんだ?」
興味深そうにアレンがマリアに聞いた。
「魔物封じの魔法よ。旅が楽になると良いんだけど。」
「へーー。道中に魔物が出なくなるのか?そりゃすげえじゃん。」
アレンは感嘆の言葉を述べた。
「で?カインは?」
あ、やっぱり聞くよね、と思いつつ苦笑いを浮かべた。
「あー・・どうだろう?駄目かも?」
カインが見てきた命の魔法は使う自信がまだない。
「なんだよー。魔法も覚えずに、疲れて帰ってきたのかよ。」
「ごめんー。」
確かに、アレンからすれば何やってんだかと言う感じだろう。
素直に謝っておいた。
「しょうがねえなあ。そういうところがお前らしいかなあ。」
「そうかなあ。」
カインも自分でも情けないものだと思った。
そういえばアレンは自分の武器を買ってきてくれると
言っていた。見た感じアレンは新しい武器など持っていない様子だ。
「アレンは?新しい武器は良いのがあった?」
「あー・・武器屋ちょろっと行ったぜ。で、見てきたぜ。」
「どうだった?」
「店主にも話をしておいたんだ。あとで買いに行くか。」
「ほんと?ありがとう。買ってきてくれて良かったのに。」
そういうとアレンはこちらを睨み付けた。
「俺、金渡されてないんだけど。」
「あ。ごめん!そうだった。」
3人で行動するようになり、財布係はカインの役目であった。
では今から武器屋に行こうかとしたカインの横で
マリアがアレンに尋ねた。
「それより、アレン、何か急いでた様子だけど
何か急用でもあった?」
そういえばアレンは走ってこちらに向かってきていた。
急用だろうか?
アレンは面倒くさそうに言った。
「そう!あのじじいが!連れて来いって言うもんだから。」
「?」
アレンが言うには
光あれのお爺さんが3人連れて来いと言ってるらしい。
「何か用かしらね?アレンは何か用があってお爺さんのところへ行ったの?」
「ああ、まぁ・・・ロトの剣見つかったこと報告に行こうと思って
立ち寄ってみたんだよ。」
「そしたら、一人じゃなくて三人で来いって追い出されたの?」
「いや・・・そういう訳じゃないんだけど・・。
なんか変なことも言われた。」
「変なこと?」
アレンは爺さんに言われたことを思い出して
そのまま口に出した。
「二人の手綱を離すなって。」
「???ますます良く分からないんだけど。どういう意味?」
「しらね。それしか言われてない。
あ、あと手綱を離すと、俺が後悔するらしいぜ。」
「・・・・・・なあにそれ。
アレンの監視下に私達を置けってこと?」
「そうかもなー。鉄砲玉のお前らを放っておくと迷子になるぜ。
みたいな?」
リーダーも楽じゃないよとばかりに頷くアレン。
「鉄砲玉はアレンでしょ。」
呆れながらマリアがため息をついた。
「よう、じーさん連れてきたぞ。二人。」
「おお。よく来ましたな。カイン王子、マリア王女。」
老人は穏やかな表情で笑みを浮かべている。
「何か僕とマリアに御用でしたか?」
「いやあ、元気な顔さえ見れれば満足じゃよ。」
満足そうに笑う老人。
「なんだよ。3人で来いって言ったじゃないか。
それだけで終わりかよ。」
「アレン王子は老人思いの優しいお人じゃのお。」
相変わらず子供用のようにからかわれるアレン。
「なーんだよ。それ?じゃあ、用が済んだなら
俺たちは行くぜ。」
アレンは老人に背を向けた。
そんなアレンの背中から静かな老人の声が聞こえた。
「・・・・・・見てきたのじゃろ?」
「あ?」
老人は穏やかにこちらを見ている。
が、何のことだか分からない。
「見てきたのじゃろう?カイン王子?」
穏やかな表情ではあるが、老人は真面目な顔をして
今度はカインに話しかけた。
「あ、カイン?」
「え?僕?」
「カイン何か見てきたのか?」
「え?え?何のこと?」
一瞬何を言われてるのか分からなかった。
思い当たるとすれば、書庫で見てきた本のことだが、
老人は何故そんな事を知ってるのだろうか?
死の魔法、蘇生の魔法、そして自己犠牲の魔法の3つのことを。
「アレン王子はそなた達のことを大事に思っているそうじゃ。」
「あん?」
アレンはこの老人は先ほどから何を言い出すのかさっぱりわからない。
カインにも正直何故こんなことを言われてるのかは良く分からなかった。
だがアレンの前で話題にしたくないことだと、それだけは直感的に感じた。
「じゃから・・・」
「あ、あの!!」
しかし、カインは老人の言葉をさえぎって答えた。
「あの・・やりませんから!僕やりませんから。」
「何をだ?」
アレンはもう訳が分からない。
「マリアにも釘をさされてるんです。だからやりませんから。
そんな事を心配してるんだったら、必要ないですよ。」
ねぇ、とカインはマリアの方を見た。
マリアも思い当たることがあるらしく、少し困ったような顔で
頷いている。
「じゃあ、僕達用があるので、これで失礼します。」
「お達者でな。」
老人に唐突に別れを告げて、カインは未だ訳の分からないといった表情の
アレンの背を押した。
「おい。行くのか?」
「うん。」
カインはもう老人と話すつもりがないらしい。
マリアもそれに従う様子だ。
「あ、じゃあ。爺さん元気で!」
あわててアレンは老人に手を振り別れを告げた。
「なあ、何だったんだよ。」
アレンは先ほどの一連の会話の流れが何を意味するのか
さっぱり分からない。
しかしカインは押し黙ってしまっている。
「マリア、お前何だか分かるのか?」
アレンはマリアに尋ねてみた。
「書庫で見てきた魔法のことかしらね。
私も同じ本を見たわけじゃないので詳しい内容までは
分からないけれど・・・。」
でも、書庫での命の魔法に関する書物を読んでいたときの
尋常じゃないカインの様子は、忘れようにも忘れられない。
あそこに何が書いてあったのか、調べたほうが良かったかもしれない。
「なあ、カイン。何だよ。」
「・・・・。後で、・・・話すから。気にしないでよ。
アレンには関係ないことだから。」
「何だよ。関係ないって・・・。」
何か隠し事のようで、アレンには気に入らなかったが、
後で話すと言ってることだし、それ以上追求するのは止めておいた。
一行はそのまま武器屋に到着した。
「ああ、いらっしゃい。また来たね、旅のお人。」
武器屋の主は先ほどもやってきた青い服のアレンのことを
よく覚えていたらしい。
「そちらのお仲間の武器ってことかい?」
アレンはカインのために武器を見繕っていた。
ふさわしい武器を探す為に体格等の情報を伝えていた。
「ああ。そうだ。」
「ちょっと待っててくれよ。」
店舗内をカインは見回ってみたが、
大かなづちや、鋼の剣など、重く強固な武器ばかりで
カインには合わない様子だった。
「ちょっと・・・僕には重くて装備できないかも・・・。」
「そうみたいだなあ。
じゃあちょっと2階について来てくれないか?
倉庫になってるんだが、確かいいのがあったはずだ。」
あらかじめアレンが声をかけていてくれたおかげで、
店主のほうでも武器を探していてくれたらしい。
「はい。ありがとうございます。」
「2階が武器庫なわけ?俺も興味あるなあ。
行ってみて良いか?」
「どうぞ。散らかっておりますが。」
アレンたちは店主に連れられて2階に上がっていった。
マリアも待っていても仕方ないので、
一緒にあがっていった。
2階は倉庫のような部屋が一つと、
もう一つテーブルだけが置かれた薄暗い部屋があった。
アレンたちは倉庫のほうへ行ってしまったが、
ふとマリアはもう一つの部屋が気になった。
中では人が休憩している。
このお店の職員だろうと思ったが、
お客が来ても全くこちらを見ようともしない。
では職員ではないのだろうか?
武器屋に訪れた客人か何かだろうか?
身なりが整えられて、良い衣類を身につけているな・・と
思った。
そう、まるで懐かしいムーンブルク国で見かけたような
きちんと整えられた衣服である。
あれ?と思った。
こんな武器屋にいるには、あからさまにおかしいという違和感。
失礼だと思ったが、
マリアはその人を後ろから観察した。
私はこの人を知っている・・・。
「あの・・お尋ねします。」
マリアは思い切って、話しかけてみた。
自分の勘違いかもしれないが、もしかしたら・・・
「あなたは・・・もしかしてラダトーム国のラルス王ではないですか?」
ぎょっとした様子で、ずっと後ろを見ていた人影が
こちらを向いた。
やや頬がこけ、髭が無作法に伸びている。
だがその面影はかつて温かく自分を迎え入れてくれた
ラダトーム王のものに間違いない。
「何を言っている!私は武器屋の隠居であるぞ!」
「ええ?」
「さあ、帰ってもらおう。どうやってこの部屋にまで
入ったのかは知らないが、私は忙しいのだ!」
どうやらラダトーム王は武器屋の隠居と言って
ここに隠れてしまっていたらしい。
どうしたものかと思っていたら、
騒ぎを聞きつけ、アレンとカインもこちらの部屋にやってきた。
「どうしたんだ?マリア。」
アレンもカインもマリアが見ていた人影の方に
視線を向けた。マリアは二人の目を見て頷いている。
「あ!!ラダトーム王!!」
アレンも思わず声をあげた。
遅れてやってきた店主がぎょっとした様子で
アレンの手を引いた。
「お客さん、困りますよ。この部屋に入っては!
大事な来賓なんだ。困ります!」
店主も王とアレンたちとの接触を嫌って引き離そうとする。
だが、おかしい。
先ほど王は「武器屋の隠居」だと言ったのに
店主は「大事な来賓」だと言っている。矛盾している。
マリアは引き下がらなかった。
「ラダトーム王・・・何故こんな所にいるのかは
分かりませんが、お城の兵士は皆心配しておりましたよ。」
「見ず知らずのものには関係ないことだ!」
「見ず知らずではありません。
私ども3人ともラダトーム王には長年の親愛の感謝の気持ちで
いっぱいです。」
「ふ・・どこの誰だかは知らないが・・・。」
ラダトーム王はこちらを見ようともしない。
「王!!どうかこちらを見てください!我々を見てください!
私はムーンブルクのマリアです。こちらには
ローレシアとサマルトリアの両王子もおります。」
王はようやく3人の姿を見た。
5年前のロト祭のとき、ラダトームで出会ったときと比べて
まるで別人のようにたくましくなっている3人を。
「お・・・おお・・・・ロトの・・・・」
「ムーンブルクが大変なことになったと聞いておったが・・・。」
「ラルス王。俺たちはそのムーンブルクの敵を討つために
ハーゴンを討つ旅に出ました。」
「そうであったのか。マリア姫、御身が無事で本当に何よりであった。
アレン王子は・・・まるでかつての勇者アレフの肖像画に瓜二つになられたな。」
王の温かな言葉にマリアは感謝した。ムーンブルクのことを気にしてくれていたらしい。
「立派なロトの子孫達だ。それに比べて私は情けない。
このようなところで世俗と離れて・・。」
「そんなことないですよ。ご無事で良かったです。
ラダトームが心配だから、この国を離れられなかったのではないですか?」
今度はカインが王に声をかけた。
落ち込んだラルス王など見たくは無い。
「しかし・・・ハーゴンだけではない。知っておるか。
竜王が復活したのじゃ。対岸の竜王の城は禍々しい気に覆われておる。」
その言葉に3人は顔を見合わせて笑った。
「それなら心配要りませんよ。」
「竜王はこの国に危害を与える者ではありません。」
「俺たち、もうあいつと一戦交えてきたからな。」
口々に言う3人の言葉に、いよいよ王は目を丸くする。
「なんと・・なんと・・・・そうであったのか・・・。」
「王が無事であったと言うことだけでも、心配している兵の皆さんに
伝えても大丈夫ですか?」
しかし静かに首を横にふるラルス王。
「いいや、私は城に戻る。私から皆のものに伝えよう。
ロトの子孫たちが必ずや世界に光を取り戻すであろうと。」
「本当ですか!?」
それが出来るのであれば、この国にとって、一番最良の道であろう。
「カイン王子の言うとおりだ。城を出ても、私は国のことが
心配で・・・気になって・・・とうとうこの国を出て行くことは出来なかった。
いまやロトの子孫達が立ったのであれば、心配することなどない。私は城に戻ろう。」
良かった。自分達に期待が寄せられていることに関しては、なんとも言い難い気持ちではあるが、
何はともあれ、これでラダトーム国には平穏が戻るだろう。
「時に、王子たちは武器を探しにこの店へ?」
「あ、はい。そうです。」
「ならば・・・店主よ!」
王は唐突に後ろで、この展開をドギマギしながら見守っている
店主に声をかけた。
「は!?」
「聞いておったな!ロトの子孫達の旅立ちだ。
武器防具を全て無料で提供するように!」
「は、ははーー!!」
アレンとカインは驚いて顔を見合わせた。
何とラッキーなことだろうか。
「それから、ラダトームで代々伝えてきた伝説のロトの兜を
そなた達に伝えよう。」
「え!本当ですか!!!」
「ロトの兜は、このアレフガルド大陸のラダトームの南東
聖なるほこらで保管している。どうぞ、王子らがお持ちになると良い。」
3人は図らずもロトの兜の居場所を知ることとなったのであった。
- 次章へ続く -
2010/11/10
▲