ムーンブルク 5

「ちょ・・・・ちょ、ちょっとこれ・・大丈夫なのか!?」

マリアの体から発せられる赤い光は辺り一帯を一気に包み込んでいった。
初めての事態に、アレンにはマリアの魔法力の暴走のようにしか感じられなかった。
これって恐れていた事態ではないのか?

「アレン、大丈夫だから!それより突っ立ってたら吹っ飛ばされるよ!
 伏せたほうが良い!!」

アレンの問いに答えたのはマリアではなくカインであった。
カインは大丈夫だという。なら・・大丈夫なのだろう。

「え・・・そう・・なのか・・・!?」

魔物たちはもちろん事態を把握できずにふわふわと飛んでいるままだ。

しかし見るとカインは既に膝をつけてしゃがみこんでいた。
訳が分からないまま、アレンもそれに習って座り込んだ。
と、思った次の瞬間大爆発が起きた。

「うわ・・わ・・・・ちょーーーー!?」

本当に伏せていなかったら吹っ飛ばされているだろう。
アレンは必死に頭を抑えてやり過ごしていた。


パラ・・パラパラ・・・・


どのくらいの時間が経ったか・・・恐らく数十秒と経っていないのだが、
爆風により吹っ飛ばされた辺りの壁や木々がパラパラと落ちてくるのを感じた。

「終わった・・のか?」

顔をあげてみると、べビルたちは壁に叩きつけられて絶命していた。
アレンも危うく叩きつけられるところであった。

「こ・・わーー。マリア少しは加減してくれよ。何だよ今の魔法は。」

アレンは爆発の中心にいるであろうマリアに声をかけようとした。
が、マリアの口からは何も答えられることなく、ゆらりとゆれて、その体は倒れ落ちていった。

「あ・・・おい!マリア1?」

倒れ落ちる体を支えたのはカインであった。

「よ・・・っと・・。」

まるでマリアが倒れるのを分かっていたようだった。アレンも二人のそばに駆け寄った。

「大丈夫なのか?マリアどうしたんだ?何が起こったんだ?」

どうやらカインは状況を把握しているようだったから、アレンはその問いをカインに尋ねた。
だが、カインも驚いている様子だった。

「す・・・ごかったね・・・・、今の!!」

「え?ああ、すごかったけど、なんだよ今の。
 お前ら阿吽の呼吸で把握してるんじゃないのか?
 今の新しい魔法なんじゃないのか?」

「や、うーん・・・。どうなんだろう。
 確かにマリアの魔法力が膨れ上がっていっただけだけど、
 魔法を唱えたわけでもなかった。
 なのに、まるであれは・・・イオナズン級の破壊力だったと思う。」

イオナズン・・・覚えがある。悪魔新官に散々やられたあの人間離れした魔法だ。
あの魔法をマリアが習得したのだろうか。

「イオナズン?すげえじゃねえか。マリアそんなすげえ魔法使えるのか。」

「・・・でも、だから・・・魔法は唱えてなかったんだって。
 単に魔法力が膨れ上がっただけで。だから、倒れちゃったんじゃないかな。」

よく分からない。
イオナズンを唱えられるだけの魔法力がありつつも、魔法を唱えてないと
倒れるのか?よく分からない。

「でもそういうことだよ。魔法って唱えられる力量があっても、
 その形式に乗っ取ってやるのが普通だもの。」

「ふーん。そういうことか。」

そういうことか・・といいつつも、アレンにはよく分からない。
まぁ良い、敵は倒れたし。

カインは、自分の腕の中で眠っているマリアを見た。
規則的に呼吸もしてるし、命に別状はないだろう。
倒れたのは、一時的な魔法力の暴発によるものだろう。
暴発といっても意識的なものだ。マリアはこうなることを意図していた。

だけど、一つ言えることはやはりマリアの魔法力は人間離れしたものであることは間違いない。

きっとムーンブルク城でも最初は炎も暴走したわけではなかったのだろう。
だけど誰もマリアの支えになれなかったのだろう。

カインは自分が魔法力が暴走してもこうはならないよなあ・・と思った。
精々ガラス瓶が一つ割れる程度じゃないかと思う。

「マリア、すごいなあ。」

カインがそうつぶやいた時、あらぬ場所からまばゆく何かが光りだした。

「・・・!?」

また、新たな敵かと思わず顔をあげると、光っているのはアレンだった。

「な、何!?なにやってるの!?アレン!」

マリアが大変なこのときに、アレンまで何かの罠にかけられたのかと思ったが
そうではなかった。
アレンは満面の笑みであった。

「お〜〜い!!みっつけたぞー。紋章があった〜〜!!」

「え?」

「水の紋章だあ〜!」

「へ?・・・・・・え!紋章!?こんなとこに!?」

紋章は確かに自分たちが探しているものだが、
全くもってこんなところにあるとは思っていなかった。

「たまたま迷い込んだら、見つかったんだ。この地下牢の奥。」

カインはマリアをおろすと、アレンの言う場所へと向かった。
大灯台で見つけた星の紋章とと同じようなカケラが、確かにあった。

「お前ら、これが分かっててここに来たんじゃねえのか?」

アレンの質問にカインは首をふるふると振った。
カインは、たまたまマリアを追ってきただけだ。
マリアは、ここからはムーンブルク城が見えるといっていたが、
よもや紋章があるのだとは思っていなかっただろう。

「たまたま。偶然だよ。」

「へー。マジかよ。俺たち何かに導かれてるみたいじゃないか。やったなあ。」

アレンはそう言って笑った。
確かに、まるで何かに導かれるかのようだ。
マリアが出て行かなければ、こんなところ調べにも入らなかっただろう。

アレンたちは地下牢に潜むべビルを倒し、水の紋章を手に入れたのであった。







アレンはマリアを背負いつつ、カインと共に宿に戻るべく帰路についていた。

「なぁ。俺がここに着くまでにもいろいろあったんじゃないか?」

「う・・ん?そうだねえ・・。」

「何があったんだよ。」

何が起きたのか、
カインはそれを話すべきか一瞬躊躇したが、アレンには真実を話すことをした。

マリアが一人で出て行こうとしたこと。カインをも魔法で攻撃したこと。
そして、マリアが暴露したその心情・・・。

アレンはひとしきり話を聞くと、はぁ・・・と、ため息をついた。

「やっぱりさぁ・・今までずっと平気そうにしてたけど、
 そんな訳ないよなあ。」

マリアの普段の様子を思い出してアレンは言った。
旅を始めてすぐは泣くこともあったが、最近は笑顔を見せるし
マリア自身が旅を楽しんでいる様子すらみせていた。

「俺もさぁ、この間ローレシアが襲われて、危機に陥ったとき・・
 お前らがいてくれなかったら・・・って思うと・・さぁ・・。」

「それは右に同じくで、僕もだよ。
 あんなの・・・二度とやりたくない。」

「だよなあ。」

うーん。とアレンは唸った。

気がつくと、夜は徐々に明けていっていた。
日が昇り始めている。

「もう・・・朝になっちまったなあ。」

そう呟いたとき、3人の前に見知らぬ人物が立ちはだかった。

その男は、髪の毛はだらしなく伸びていて、それを後ろで軽く結っている。
見ると無精ひげも伸びている。
衣服にも汚れが目立っている。まるで乞食のように薄汚れている。

「・・?・・」

見るからに怪しい人物にアレンたちは身構えた。
もちろんアレンもカインも知らない人物だ。

危害を加えられる前に立ち去ろうと
アレンが通り過ぎようとしたとき、その人物が話しかけてきた。

「マ、マリア・・・さま!?マリア様ではないですか!?」

「え・・?」







++++


すっかり太陽は空の高いところまで上っていた。
カーテンの隙間からは明るい日差しがこぼれている。

時刻は昼になろうとしていた。

そんな時刻にマリアはうっすらと目を開けた。

起き上がってみると、既に昼になっていることに気がついて
何故こんなに寝坊してしまっているのか一瞬分からなかった。

「よう。おはよう。」

振り返るとそこにいたのはアレンであった。
アレンは退屈そうに武器の手入れをしているようだった。

「あ、アレン。」

「よく眠れたみたいだなマリア。昨日よりは、よほどすっきりした顔してるよ。」

「ごめんなさい。アレンにも迷惑をかけたわ・・・・。」

アレンはその言葉に苦々しく笑いながら、頭をかいた。

「いや、俺はお前のラリホーで気持ちよく眠っていただけで、
 割と何もしてないんだ。
 礼ならカインに言ったらどうだ?」

「カインは・・・どこに?」

見渡したが同じ部屋にいなかったようだ。

「ああ、あいつも帰ってきてから少し寝てたんだけどな。
 今はちょっと・・・来客んとこで。」

「来客?」

ちょうどそんな話をしていたとき、ドアをノックする音が聞こえた。

「入るねー。」

カインの声であった。

「おー。」

部屋に入ってきたカインは昼食をどこからか3人分用意してきたようだ。

「あ、マリアおはよう。よく眠れたみたいだね。」

「え、ええ。あの・・カイン・・・・」

何かを話そうとするマリアを、カインは「まぁまぁ」と手で軽く制止して、
大皿の上のサンドイッチを一つ渡した。

「朝から食べてないからお腹空いてない?サンドイッチだけ、軽くだけど、どう?」

「あ、ありがとう。」

「アレンも食べる?」

「もちろん。」

そう言ってアレンは大皿のサンドイッチを三つほど手にとって頬張った。

それほど食欲があるわけでもないのだが、
マリアも手渡されたサンドイッチに口をつけた。
アレンが食べてる大きなサンドイッチとは違って、
小さめのサイズで食べやすかった。

「食べたらさぁ、ちょっと時間良いかな。
 マリアに来客が来てるんだ。」

「え・・?私に来客?」

「うん。」

全く心当たりは無かった。
よく分からなかったが、マリアは言われるままにした。

食べ終わってから、マリアは身支度をするといって
少しだけ二人に部屋を出てもらった。

ベッドから立ち上がると、昨夜のことが思い出された。

何か夢のような気分であるが、
アレンとカインを守ろうとして、マリアは持てる自分の魔法力を開放したのだ。

大きな光が、大きな爆発を起こして・・・
そして魔物たちを倒してことはうっすらと覚えている。

あれは実際に起きたことだ。

では、自分がカインを傷つけたのも実際に起きたことだ。

夢ではないのだ。
謝らないといけないと思った。

「マリアー?用意できたかなあ?」

ドアの外からカインの声が聞こえる。
怒ってるような声ではないが、あまりにも自分の失礼な振る舞いに
あきれ返っているのかもしれない。

マリアは自分からまず謝ろうと、ドアを開けた。

「・・・?」

だが、そこにいたのは、カインではなかった。
いや、正確に言うと、カインもアレンも奥にいるのだが、
すぐそこにいたのは見慣れぬ男の顔であった。

「マ、マリア様!!!」

男は、マリアの姿を認めると、
膝をついて、最敬礼の意を表した。

「え・・・え・・・・?」

マリアには一瞬何が起きたのか分からない。
分からないが、男の着ている鎧には見覚えがある。
今はなきムーンブルク城の兵士の鎧だ。

「あなた・・・・は・・・?」

「我が姫、マリア王女!!よくぞよくぞ、よく・・ぞ・・・生き・・・て・・・・」

男はどんどん涙声になり、言葉が涙で続かなくなってきた。
そんな男にカインは後ろから助け舟を出した。

「マリア、この人は・・・正真正銘・・ムーンブルクの国民だよ。」

「え?」

「私は・・・私などが・・・おめおめと・・・生き恥を姫の前に・・・。」

「どういうこと?あなたはムーンブルク城の生き残り・・なの?」

城にはただの一人も生き残りは見当たらなかった。
ムーンブルクは自分ひとりを除いて、文字通り全滅したのだと思っていた。

「姫!!も、申し訳ありません・・・!!」

マリアには男が何を謝っているのかが分からない。
生きていてくれたのならば、喜ばしいことのはずなのに。

「何を謝っているの?聞かせて。あなたはどうしていたの?」

「わ、・・・私はあの日・・・あまりの魔物たちの大群に・・恐れをなして・・
 に、逃げて・・逃げ出してしまった・・・のです・・・・。」

男は震えながら、言葉を紡いだ。
アレンもカインも先にその話を聞いていた。
ムーンブルク城を守るべき兵が我先に逃げ出したということは、
許される罪ではないかもしれない。

「王も・・仲間たちも・・・その後殺されたと・・・風の噂に聞きました。
 だが、姫・・・!
 あなた様が・・・死んだという話は・・・どこを彷徨っても・・・聞くことはなかった。」

男は土下座をするように、頭を地面にこすりつけていた。
自分の罪は許されるものではないと十分覚悟している。
しかし、姫の安否だけは確認したかったのだろう。

「さっき、お前を背負って歩いてたら、この兵に出会ったんだ。
 髪を振り乱して、何ヶ月もお前を探してたんだそうだぜ。」

「思えば私も最早生き霊と化しているのかもしれません。
 だが、姫の安否さえ確認できれば、私にはもう思い残すことは無い!
 どうか・・・姫の手で私を裁いて下さい。」

一頻り言い終わると男は、懐から小刀を取り出してマリアに差し出そうとした。
姫の手にかかって死ねるなら、最早思い残すことは無いというところだろうか。

「おい、お前・・・俺たちそんなつもりでマリアに引き合わせた訳じゃないぞ・・!」

あわてて、アレンがその手にある刀を捨てさせようとした。
だが、男は刀を手放さない。

「アレン様・・・こればかりは・・・私の気持ちは変わりません!」

マリアの手にかけられることを男は望んでいたようであった。

しばらくするとマリアが男と目線を合わせるように膝をつけた。

「姫・・・!?」

そして、自分の手を差し出して、その男の手を握り締めた。

「我がムーンブルクの兵よ。
 生き残ったことを・・・罪に思うのは私も同じ。」

「姫・・・?」

「本来なら、私たちはムーンブルクの法により、裁かれるべきなのかもしれませんね。」

「な、何をおっしゃっているのですか・・・!?」

マリアの脳裏からは自分が犯した罪が消えることは無いのだろう。
男はマリアが何のことを言ってるのかは分からない。

「だけども今はそのムーンブルクも既に無い。
 だから、私はあなたに・・・・こう願います。」

「・・・・・・・?」

「生きて・・・生きてほしい・・・!
 ムーンブルクがどれほど綺麗な国であったのか、すばらしい国であったか・・・
 あなたはそれを語り継いで欲しい・・・。」

マリアは男の手を強く握った。

「ひ、姫・・・・」

男は刀を落とした。マリアの裁きは悲痛なほどの願いであった。

「姫・・よ、良いのでしょうか!?私などが生き残って良いのでしょうか?」

「そうですね。それは私も同じ思いです。
 私などが生き残って良いのでしょうか・・・と。」

そう言ったマリアは男の顔を見て笑った。
そしてその瞳からはポツっと涙がこぼれた。


【 挿絵を見る 】



「ありがとう・・・生きていてくれて、ありがとう・・・
 よく・・・生きていて・・くれました・・・」

たった一人。
しかもその一人は、あの戦乱の最中、国を捨てて逃げてしまった一兵卒だ。

だけども、そのたった一人の存在がマリアの心をどれだけ救っただろう。

ムーンブルク城から誰も生き残りはいないと思っていた。
でも、完全に滅んだのではなかったのだ。

たった一人・・生きていてくれていた。
マリアの瞳から涙が零れ落ちていく。


「姫・・・!?」

涙を流すマリアの背を、アレンはゆっくりさすった。

「ほら、お前も・・・だよ。
 お前が生きていたから、この兵は救われたんだろ。」

「アレン・・・。」

カインは、マリアが一人で飛び出していったとき、
罪の重さに耐えかねて、マリアが自決してしまうのではないかと思った。
たった一人すら国民の残らない国の王女として、
生きていく事を放棄するのかもしれない・・と。

だけども国を興すのも、人を支えるのも
一人でも残されているだけで全然違う。

「そうだよ。ムーンブルクは滅んでなんかいない。
 あの美しかったムーンブルクは絶対取り戻せるよ。」

マリアはその言葉にゆっくりと、だけどしっかりと頷いた。
アレンとカインはマリアのその様子にようやく胸をなでおろしたのであった。

天に昇る陽はムーンペタの街を明るく照らしていた。



- 次章へ続く -

2011/08/06
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 ムーンブルク編、これにて終了です。
 置いてきぼりだったマリアの心の整理もできたでしょうか・・。 

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