ムーンブルク 4

マリアの手のひらの炎が消えた。
その光が消えても、殊のほか明るい。
カインは空を見上げた。月の光のようだ。

「ここは月が綺麗に見えるでしょう。」

静かにマリアが呟いた。

「そうだね。さえぎるものが何も無くて・・・」

「真っ暗だから今は見えないけれど、ここからはムーンブルク城も見えたのよ。」

「へーー。そうなんだ。ここはマリアの秘密基地だったの?」

「秘密基地・・って。面白い発想ね。」

マリアは少年のようなその発想に笑った。

「お父様が、ムーンペタの街に来たときに、鍵を使って連れて来てくれたのよ。」

「鍵って金の鍵?」

「そう。ちょっと拝借させてもらったわ。お返しするわね。」

マリアは、道具袋から金の鍵を取り出して、カインへと渡そうとした。

「別に、マリアが持っててくれて良いんだよ。」

そういうとマリアは首を横に振る。

「いいえ、返すわ。あなた方にはこれが必要でしょう?」

衝動的にマリアは思い出のあるこの場所へやってきたのだろう。

だけどマリアの言い方には気になることがあった。
まだ聞きたいことがある・・そう思ったとき、
急に突風が吹き荒れた。

「!?」

カインが先ほど通ってきた、地下水路からだ。
思わず振り返ると、そこには魔物の姿があった。

「モンスター!?この街の中に・・!」

小さな悪魔のような姿。暗がりで良く見えないがグレムリンのような姿だ。
こいつらは小さな体のせいか街中でよく見かける。

魔物は二人の姿を認めると、戦意を顕にし、奇声をあげた。

その声を聞きつけると、どこからか仲間が数体現れた。 
 
「魔物がこんなに・・・!」

カインはロトの剣を抜き、魔物に斬りかかった。
だが、数が多い。

マリアもいかづちの杖をかざして、バギを唱えた。
だが、バギの刃は、翼を持つ魔物達に難なくかわされた。


空を飛ぶ魔物は、キィィ!と叫ぶとその腕に大きな火炎玉を抱えた。

「で、でかい!ベギラマだ!」

カインは咄嗟にマリアをかばうように立ち、魔法を唱えて応戦しようとした・・・が、
何故か一瞬躊躇した。
その間に魔物は勿論何の躊躇も無く、カインに向かってベギラマを唱える。

「う・・・わあぁぁーー!」

思わず防御するが、炎に包まれ膝をつくカイン。

「この・・・魔物め・・・!!」

背後にかばわれたマリアは、一歩前に出ると次にイオラを唱えた。
この爆発であれば完全に避けることは出来ないはず・・・・。

確かにイオラは魔物に直撃した。
だが、爆風が晴れた先には、未だに空を飛ぶ魔物の姿があった。

「この魔物・・グレムリンではないわね。皮膚の色も違う。
 本で見たことがあるわ。べビルっていう魔物ね。」

何度か戦ってきたグレムリンの戦い方、動きではなかった。
べビルは負傷を自らの回復魔法で癒した。

これでは、中途半端な攻撃では、回復とのいたちごっこだろう。

再び魔物たちは体勢を整えなおすと、今度こそベギラマで狙いを定めてマリアを攻撃した。

「きゃああぁぁーーー!」

炎に包まれたマリアは地に転がった。
だが、直後マリアは自身で回復魔法を唱えていた。
火傷自体はすぐに癒されていった。

「マリア・・・!」

「だ、大丈夫よ・・」

その様子を横目で見ながら、
カインはいかにして魔物を倒すかばかり考えていた。

どう見ても相手は炎が得意な魔物のようだ。
敵の数も多い。剣で一匹ずつ対応していては埒があかない。

「・・・なら!これでどうだ・・・・!」

カインは、覚えたばかりの魔法を唱えた。

「・・・ザラキ!」

その手のひらから生まれた闇は、魔物たちの群れを包み込んでゆく。
そして一瞬の間の後、何匹かの魔物たちは成す術もなくコトリと息絶えた。

闇から逃れた一部の魔物は、まるで何事もなかったかのようで、全滅には至らない。

「え・・・カインが『ザラキ』・・?」

マリアは、背後のカインが使った魔法に目を見張った。
初めて見た魔法だ。いつ、これを覚えたのだろうか?
なぜこの魔法を覚えているのか。

そんなことを不思議に思ったときだった。

ふいにカインが頭を抑えて座り込んだ。

「い・・・っつ・・・!!」

どうやら頭痛がするらしい。マリアは驚いて駆け寄った。

「どうしたの!?」

「ご・・め・・・・・。なんでも・・・ない・・・。」

何でもないというが、眉間にしわを寄せ、手で頭を抑えてる姿は
どう見てもあまり大丈夫そうではない。
そもそもカインは先ほどから自分に回復魔法を唱えていない。
魔物のベギラマによる火傷以前にも、カインはマリアの魔力で傷ついていたはずだった。
それを思い出すとマリアは、カインに急いでベホイミを唱えた。

火傷や負傷はベホイミによって癒されていく。

「あ、ありがとう。」

頭の奥に鈍い痛みが残っている気がしたが、
それを気のせいだと振り切って、立ち上がった。

ふと見ると、奥にいるべビルが自分たちが攻勢に出でこないと感じとったのか、
勢いづいて、みたびベギラマを唱えようとしていた。

「マリア!逃げて・・!」

カインがそう叫んだとき

「がふっ」

何者かがべビルの体を背後から槍で一刺しに貫いた。


急な敵襲に何が起こったのかも分からず、べビルは血を吐いて倒れた。
闇から現れたのは・・・アレンであった。

「ア、アレンだ!」

カインは驚いて、顔をあげた。
アレンは宿でラリホーで眠らされていたはずだ。よく目覚めて自分達を見つけてくれたものだ。

「アレン、良かった!来てくれて!」

「お、お前らなあ・・・。」

アレンはずかずかと二人の下へ駆け寄ってきた。
その表情に笑顔はなく、重く固い表情だ。
そしてカインの眼前まで、ものすごい勢いでアレンは迫ってきた。

「え・・・何・・・どうしたの?」

「どうしたのじゃねえよ!お前ら、二人そろっていなくなったりして・・・!
 俺、一人置いていかれたのかと思うじゃねえか!
 びっくりするじゃねえか!どっか行くなら俺を起こせよ!」

「え・・・???あ・・・いやあ・・・・」

何か誤解があるようだ。
が、とりあえずアレンはいるはずの仲間が誰もいないことに驚き、
一人置いていかれたかと思ったらしい。
まぁ確かに少し気の毒である。

「違うって!僕言ったよ!?早く目覚めて追いかけてきてって!
 アレン全然起きなかったんじゃないか!」

「はぁー?」

そんな記憶はないらしい。
アレンは首をかしげた。

「じゃあ、なんだよ。出て行ったのはマリアなのか?」

アレンはマリアの顔を覗き込んだ。だがマリアはそれには答えなかった。

「話は後よ。べビルはさらに仲間を呼び集めてるわよ。」

じわじわと仲間が増えて5匹になっている。

「げー。増殖する魔物ってやっかりだなあ。まぁ言っててもしょうがねえ。
 さぁ、戦おうぜ。」

アレンはぼやきながら、マリアの背中をたたいた。



マリアは、当然のように自分を追いかけてくる二人を凝視した。
自分が犯した事は、とても大きな罪であったのに。
彼らは今も自分が仲間であることに一点の疑いも持っていない。

宿を出て行ったのは、自分で自分の罪が許せなかったからだ。
そして、そんな自分が、世界のため人々のために戦うアレンやカインと
共にいることは許されないことだったと思った。

ムーンブルク城は今や魔物たちが巣食う魔窟となっている。
生き残っている人もいなかった。
どう頑張ってもマリアの知っている「ムーンブルク」は帰ってこない。

そう考えると、さらに自分の心の中の悪魔のような感情にも気づいた。
二人の故郷へ行き、立派な城、素晴らしい国に触れ・・・・・
もう自分にはないものを、彼らは持っている。・・・羨ましいと思った。


もう自分には何も残っていないのに・・・・。
戦って守るべきものは残っていないのに・・・。


こんな浅ましい感情は自分でも信じられなかった。

これ以上、二人のそばには、いられないと思った。
それは、自分の小さい心のせいだ。一緒にいるのが辛いと思ったのだ。

そんな浅ましい自分をカインは追いかけてきて、
ひどい事をする自分と対峙しても一歩もひかず、
そして、優しく支えてくれた。
アレンも何の疑問も抱かず追いかけてきて、
今自分を共に戦おうとしている。

「ねぇ、一つだけ教えて。どうして、・・・来たの?」

マリアの質問に、アレンとカインは顔を見合わせた。

「俺はお前を大事な仲間だと思っている。今まで一緒に戦ってきたし。これからもな。
 だから、当たり前だろう?」

アレンは答えた。

「そうだよ。元気が無かったら心配する。いなくなったらもっと心配する。
 当たり前でしょう?」

カインは答えた。



『仲間』・・・・。



自分には、もう残っていないと思った。

守りたいと思うものは残っていないと思っていた。

でも、まだ残っていた。

当たり前になっていて・・分かっていたはずなのに・・・
こんな大事なことを忘れていたのかもしれない。

こんなに愛おしい、こんなに大事な存在を。

「二人とも・・・ありがとう・・・ありがとう・・・・」

二人を凝視していた視界が、曇る。
マリアは視界が涙でゆがむのを感じた。

「マリア・・・」


二人を守る。守りたい。

私はこの二人を守らないといけない。
戦わなければならない。

彼らは世界の希望だ。
そして、自分の中の悪魔のような闇を照らした光だ。

「アレン、カイン、下がっていて・・・。」

マリアは自分より前に立つ二人にそう告げた。
その体からは赤い光が発せられていく。

「・・・!」

カインはその光はマリアの内なる魔法力の表面化だと感じた。
その光はどんどん増幅していく。
やはり、マリアの魔法力はすごい。
自分より、よっぽどすごい。

だからこそ暴走は起こったときは、その反動が大きい。

だけど今、マリアの瞳に迷いは無かった。


「ねぇ聞いて。私にはまだ残っていた・・・。
 残されていたの・・・・・・!
 戦ってでも、守りたいものが!」


マリアの叫びと同時に赤い光は、辺りを眩く包み込んでいった。


- 続く -

2011/07/31
▲

 マリアは守られるばかりの姫ではないのです。
 二人を守るだけの力は十分に持っている・・・
 だって、彼女もまた勇者ですから。

 なーんて。
 

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