「これは圧巻だなあ。」
「何が?」
アレンたちが船室で世界地図を広げていると
そこに航海士のミゲルがやってきた。
「兄ちゃん達は、世界中の国を回ったんだなあって思ってさ。」
地図には既に巡ったことのある箇所は目印が付けられている。
その目印がテパを出たことで、全ての国や街に付いたことになるのだ。
ミゲルはそれを言ってるんだろう。
「長年船乗りやってたって、文字通り世界中回るって事はそうはいねえぜ?
兄ちゃん達すげえや。」
そう言われて、アレンたちは顔を見合わせた。
夢中になってあっちこっちと旅をしてきた。
それが今の結果だった。
「気が付いたら、結構遠くまで来たもんだな。」
アレンはしみじみとそう言った。
そんなアレンを見て、カインはちゃかして笑った。
「遠くって言っても、このまま北に昇っていけば
ローレシアに着いちゃうんだけどね。意外と近いよ。」
そんな事を言うカインをアレンは軽く睨んだ。
距離的なことを言っているのではないのは分かっている。
「でも、そこまで行っても、まだ私達には足りないものがあるわ。
紋章だって、ロトの装備だってまだ足りない。」
マリアは冷静にそう言った。
「じゃあ早く、浅瀬に囲まれた洞窟、行ってみようよ。」
カインはテパの街で聞いたその情報の洞窟へ行こうとした。
「ねえ、ミゲルは知ってる?浅瀬に囲まれた洞窟。」
ミゲルは聞かれて、腕を組みながら記憶を掘り起こした。
「え?ああ、噂には聞いたことがあるが、
はっきりした場所がわからねえな。」
しかし、即答はできないようだった。
「そうなの?地図には載ってない?」
「載ってない。かなり小さいらしいからな。」
「そっかぁ。」
カインは残念そうにそう言った。
「でもまぁ、噂を頼りに情報を集めると
大体の場所は分かるんだけどな。
ちょっと調べてみるぜ。時間をくれるかい?」
「うん、お願いするよ。」
そんな様子を見て、アレンがポンと手を叩いた。
「じゃあさ、忘れてたんだけど、あそこ行こうぜ。
あそこ。ベラヌールで言ってたあそこ。」
「あそこって?」
「ああ、行っておかなきゃね。
太陽の紋章・・・だったかしら?」
「え?えっ?何それ?」
会話に置いてきぼりになっているカインを見て
アレンがにやっと笑った。
「お前、ベラヌールでのことは結構記憶が曖昧だからな。」
「しょうがないじゃない。
あの時はカイン寝てたんじゃないかしら?」
「『ほのおの祠』だったかな。」
確か、ベラヌールの宿でカインが眠っているときに
ローレシアの元兵隊長が言っていた情報なのだ。
「ほのおの祠なら、近いな。
ちょっと方向転換するか・・・。ちょっくら動かしてくるぜ。」
ミゲルはそう言って舵取りに戻っていった。
「おー任せたぜ。頼りになる航海士だなあ。」
アレンがそう言うとマリアも同感と頷いた。
カインが若干微妙な表情をしている。
自分だけ覚えてないのが悔しいようだ。
「なんか僕・・・・・なんで覚えてないんだろう?」
「まぁ、ベラヌールでのことは・・・忘れてた方が色々良いさ。」
アレンとしては、自我を失ってしまったときのカインのことは
思い出させたくもないし、自分もあまり思い出したくも無い。
「そうそう、忘れた方が良いわ!」
マリアも妙に激しく頷いた。
世界樹の葉を口移しで与えたことを、カインは覚えてないだろうと思った。
「マリアまで・・。忘れた方が良いってどう言う事さー?」
「なんか微妙にマリアの顔が赤いと思うのは、俺の気のせいか?」
アレンとカインが不思議そうにマリアの顔を覗き込んだ。
マリアはそれに気づくと、パッと立ち上がった。
「それより!カイン、話があるの!」
「え?僕?」
マリアはこくこくと頷いた。
「少し付き合ってもらいたいことがあるんだけど・・・。
良いかしら?」
「別に構わないよー」
カインは人懐っこい笑顔で頷きながら、立ち上がった。
その様子を見てアレンが不満げに呟いた。
「なんだよ、俺だけのけ者か?
俺も付き合ってやるぜ?」
「魔法の話よ。行きましょう、カイン。」
ぴしゃりとマリアが言う言葉にアレンは言葉も無い。
まぁ、確かに魔法の話ならアレンの立ち入る隙は無いのだが。
「アレン、アレンッ。
あとで僕のはやぶさの剣の稽古、付き合ってね!」
ぶーたれているアレンにフォローを入れていくカインに
アレンはひらひらと手を振って無言で答えた。
****
ほどなくして数時間もしないうちに
ほのおの祠がある小島に到着した。
アレンたちは船を下りて、小島に上陸した。
「小さい島だな。
本当に祠しかねえ。」
「そうだね。たいまつに炎が灯っている。
だから、ほのおの祠って言うのかな?」
「これくらいなら、太陽の紋章すぐに見つかりそうね。」
アレンはやまびこの笛を取り出して吹いてみた。
ぴぃーー ひぃーーー
「結構近くで、音が返って来たな。
さっさと見つけようぜ。」
アレンの言葉を合図に、カインとマリアも頷いて、
祠の中の探索を始めた。
しかし、予想に反して紋章は影も欠片も見つからなかった。
「あれーー??すぐに見つかると思ったのに、
結構見当たらないもんだね。」
「しかし、あっちぃなあ〜〜!
この松明こんなに必要あるのかよ!?」
煌々と灯された松明の炎が
狭い祠の内部を熱していた。
「ほのおの祠って言うくらいだから、炎を消したら
祟られるんじゃない?」
カインも手で自分を仰ぎながら、
祠の隅を探るように探索していた。
「ああ、もしかしてこの炎の内部に紋章が隠されているとか?」
水の羽衣のおかげで、一人涼しげなマリアは
炎の中を調べてみることにした。
水の羽衣は多少の炎では燃えも焦げもしない。
炎の中の様子を伺おうと、身を乗り出した。
「マリア、危ないよ!!」
「おーい。無茶すんなよ〜。」
アレンたちも心配そうに声を掛けたが、
マリアは探索を止めなかった。
だが、ほどなくしてマリアは残念そうに首を振った。
「ここにもないわねえ。」
小さな祠である。
祠の内部は隅々まで調べた。
松明の中も調べた。
それでも紋章は見つからなかった。
アレンは大の字で寝転んでもう一度
やまびこの笛を吹いた。
ぴぃーー ぴぃーー
やはり山彦は返って来る。
「これ、壊れてるんじゃないのか?」
アレンははぁっとため息をついて天を見上げた。
太陽の紋章なあ・・・。太陽、太陽・・・。
太陽は燦々と輝いている。
もうあれが紋章で良いんじゃないか・・などと言う考えが
頭をよぎったとき、輝いていたはずの太陽が急に翳った。
「ん?」
太陽が消えた?
なんて思っていると、急に天から火の玉が降ってきた。
「わっ!!」
「アレン、危ないよ!魔物だ!!」
カインがアレンの手を引いて起き上がらせようとした。
「お・・おおっ!」
アレンは立ち上がると手にドラゴンキラーを装着した。
しかし相手は空を飛ぶ魔物パピルスだった。
「おら、降りて来いよ!!」
アレンが魔物を挑発するが、聞こえているのかいないのか
魔物は悠々と飛びながら時折急降下して襲い掛かってきた。
降りてきたところを防御しつつ、
反撃しようと試みるが、大ダメージには繋がらない。
そんな様子を見つつマリアがカインに話しかけた。
「カイン、さっきの話の・・やってみましょうよ。」
「え、無理無理無理、全然無理だって!!
それより普通にベギラマでやった方が・・!」
どうやら先ほど二人で話をしていた魔法の話らしい。
だが、カインは何故かマリアの提案を全力で拒否した。
「今なら空もしっかり見えているもの。
実戦でやってみる価値はあるわよ、きっと。」
マリアとしては駄目で元々と言う感じだった。
「おいっ!!そこ、何かやるんなら、さっさとやれよ!!」
アレンには二人が何をしようとしているのかは
さっぱり分からなかった。
だが、この戦況を打開できるのではと期待していた。
「いや・・・本当無理だよ!?
だって、出来たこと無いもん・・・!!」
カインはそう言うと、
しぶしぶとはやぶさの剣を両手で持って天高く突き出した。
「えー・・・と
天空の大いなる精霊達よ、一筋の光となって、
我が力となれ・・・!!」
恐る恐ると魔法の詠唱を唱えたが、天も大地も
天にかかげた剣にも何の変化も無い。
「ほらほらっ!!!何も起きないって、やっぱり!!!」
顔を真っ赤にして恥ずかしそうにキャーキャー騒ぎながら、
カインは何かの魔法の空振りを盛大にアピールしていた。
「・・・・・?おかしいわね・・・・。」
マリアはその様子をみて、同じように杖を天に差し伸ばした。
「天よ・・・大いなる天と空の精霊よ・・我が意思に従え・・・っ!!」
マリアの言葉は、カインのときとは違って
空に何らかの効果を空にもたらしたようだ。
雲ひとつ無い晴天だった空が、急に翳っていく。
明らかに何らかの魔法の効果だろう。
「おおっ!!マリア、すごい!」
カインは思わず魔法の成功と思い、感嘆の声をあげた。
アレンはその様子に、
きっとマリアのでっかい魔法が飛んでくるのかと身構えていたが、
一向に大きな衝撃はやって来なかった。
かわりにやってきたのはぽつぽつとした水滴・・
というか雨。
ぽつぽつと降り出した雨は次第に激しい雨になった。
ざーっと激しい雨に、羽が濡れるのを嫌がったのか、
パピルスは去っていった。
「え?あのさ・・お前ら何してんの?何がしたいの?」
唖然として立ち尽くすアレンは、ようやくそれだけを口にした。
マリアはいかづちの杖の先端を見ながら、
うまく行ったかと思ったのに・・と残念そうに呟いた。
「雨を降らす魔法?
なんだよ、これ。びっしょびしょだよ!!」
アレンは濡れ鼠になりながら、二人に噛み付いてきた。
「いや、結果的に良かったじゃない。
敵もどっか行ったし!!
それにしても、雨が降っても
この松明の炎は消えないんだねえ。すごいねえ。」
カインは能天気に消えない炎を観察しながら、
微妙にフォローにもならないようなフォローを言った。
「おいって、俺の質問にちゃんと答えろよ。
大体マリアの魔法はともかく、お前のあの空振りは何なんだよ。」
アレンはカインの肩をぐいっと引いて聞いた。
戦闘中に新しい魔法を試すのは良いが、
自分にもどう言う事か説明するべきだと思った。
「いやあ〜〜。あれはひどかったね。」
カインはあははと笑ってごまかした。
「私が言ったのよ。
雷の魔法・・・今の私達のレベルなら使えるんじゃないかと思って。」
「雷ぃ??」
アレンは眉をひそめた。
雷の魔法と言えば、勇者ロトの使っていた何とかってあれだ。
「でもやっぱり僕魔法の才能ないんだよ。
炎以外の精霊はほとんど応えてもくれないから。」
「いや、そんな事はないわよ。
カイン最近ルーラの精度がすごかったり、
両手で違う魔法を使ったり、とても器用じゃない。」
「そりゃもう、僕は器用貧乏ですから。」
カインはそんな事を言った。
「でもマリアはいけそうだね。
天の精霊は応えているもの。」
「応えるといっても全然思い通りにではないわ。
雨降らせなんて言ってないもの。」
アレンはそんな二人の会話を聞きながら、
なるほど先ほどの船での二人の会話はこう言うことだったのかと納得した。
新しい魔法の開発に余念がないのは良い事だろうと思う。
実際は失敗したが、
成功すればとても心強い・・んじゃないか?
それと引き換え自分はどうだろうか?
右手にはめているドラゴンキラーを見つめた。
攻撃力は確かなのだが、超接近戦を必要とするこの武器は
リスクの高さの割に、立てられる戦略はそう多くない。
今後、強力な魔物と向かって戦っていくには
どうもしっくりしない感覚を感じているのが実際のところだった。
「はぁ〜〜。」
アレンは大きくため息をついた。
そう言えば、もうこれから先新しい武器屋も望めないんだった。
やばいな・・・と思っていた。
「アレン・・・どうしたの?」
カインはアレンの顔を心配そうに覗き込んだ。
「おい、カイン。魔法の特訓も良いけど、
今度は俺に付き合えよ?」
「え?うん。」
カインはアレンが自分の失敗に呆れて声も出ないんじゃないかと不安だったが
魔法よりは剣の方に活路を見出した方が良いのかなと思った。
「ところで、さっきから雨降りたい放題なんだが、
これどうにかならないのか?紋章も探してる途中だぜ。」
「そうね。やってみるわ。」
マリアは杖を再度天高くかかげた。
ぼそっと小さい声で魔法の詠唱を行うと、
空を覆いつくしていた暗雲が少しずつ散っていった。
「おおーー。晴れてきた。」
「マリアやっぱりすごいね〜。自由自在じゃない。」
雲の切れ間から太陽の光が差し込んできた。
その時、太陽の光がとある一部分を明るく照らした。
「まぶしっ!なんだ、今の?」
「祠の外だったけど・・・。」
「もしかして・・・・」
マリアは、吹き抜けの祠から外に出た。
明るく照らされたその部分は、今もまばゆく輝いている。
アレンとカインもその様子に気づいた。
「太陽の紋章・・・あった!!」
皮肉にも、太陽が強く照り付けていたときは
気が付かなかったが、久々の太陽の光を浴びて
その存在を訴えるように光ったようだ。
「こいつ相当ひねくれてるな。
どう見ても、祠の外だし!!ここ!!」
アレンはそんな素直じゃない紋章に驚いたが、
それでも、無事に見つけることが出来て一安心だった。
「でも良かったねー。無事に見つけられたよ。」
「だな。」
アレンは太陽の紋章に手を伸ばした。
今までの紋章同様に、アレンがそれに触れると
ぱぁっと明るく輝いた。
「これで、星の紋章、水の紋章、月の紋章、
それからこの太陽の紋章と4つ手に入れたって事だな。」
アレンは嬉しそうにそう言った。
「そうね。あと残るは一つね。」
「最後の1つは、命の紋章だね」
そう言ってから気が付いたが、
最後の命の紋章の在り処はまだ何の手がかりもなかった。
- 続く-
2012/08/20
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