ハーゴンの神殿 6

回復を施し、戦いを終えたマリアはようやく一息つくことができた。

ふとマリアが顔を上げるとカインがベリアルの死体から
隼の剣を抜き取って帰ってきた。
やはりカインも一緒に戦ってくれていたのだと思った。

「ありがとう。」

「ん?」

「あなたも一緒に戦ってくれていたのね?」

言われてカインはアレンと顔を見合わせた。

「いいや、僕らは何故だか参戦は出来なかったんだ。」

「そうなんだよな。
 俺達、めっちゃうるさい応援団だったぜ。
 ずっと見てたんだけどな。」

「確かに。アレンは、うおおー!とか叫んでばっかりだったね。」

「お前なんか、半泣きだったじゃねーか。」

「う、うるさいよっ。」

顔を赤くするカインに、アレンは笑った。
だが、マリアは全然覚えが無い。

「え、ええ?そうなの??
 全然気づかなかったわ。」

戦いに集中しすぎて、仲間が来てくれたことに
気づかなかったんだと思ったのだが、
そうではなかったようだ。

どうやら、戦ってる二人には結界の膜ようなものが張られ
近づくことが出来ないようになっていたらしい。
それは剣も魔法も受け付けない結界だったようだ。

「本当に・・・??
 でも、それが本当だとすると、どうやって隼の剣で
 ベリアルを攻撃したの?」

「いや、そんな難しい話でもなく・・。
 マリア、いかづちの杖を手放したでしょう?」

「ええ、衝撃で投げ飛ばされてしまったわ。
 それが何か?」

別にカインがそのいかづちの杖で攻撃してきた訳ではない。

「マリアが使っていたいかづちの杖も
 落ちてる分には普通に拾えたから、
 結界を越えて物質が移動する事は可能で、
 要は物理的に結界に触れて攻撃しなければ良いみたいで・・。」

「・・・・・?」

なんだか、詳しく教えてくれるが、カインの話はピンと来ない。

「つまり、こいつ隼の剣を遠くから放り投げたんだよ。
 あやうくマリアの頭を一刺しするところだったよな。」

「そんな事しませんー!」

カインの説明にアレンが口ぞえした。
なるほど・・・マリアは理解した。
そうすると、きっとベリアルが超至近距離からの
攻撃を何故か外したのは、その攻撃のおかげだったんだろう。

「やっぱり、助けてくれてたんじゃない。
 ありがとう。あれが無かったらきっと私今ごろ真っ二つよ。」

「あ・・いや・・・。
 それより!マリア、魔法力は大丈夫!?
 かなりイオナズン連発してたけど・・・・。」

マリアはイオナズンの連発にかけられる身体の負担には
耐えられるようになっていたが、
正直な所、遠慮なしに大魔法を使い続けた今の長期戦で、
残り魔法力は少々不安だった。

「もうここまで来たら後はハーゴンだけだろ?
 どんな化け物だか知らないが、
 魔法力は回復しておいた方が良いんじゃないか?」

アレンはいのりの指輪を使っておくように促した。
いざと言う時に、魔法力切れて、回復魔法も出来ないって事だと困る。

「そうね・・・。何があるか分からないものね。
 準備は万全にするべきよね。」

そう言ってマリアは、左手の祈りの指輪に力をこめた。
ぱあっと手が光に包まれる。

「よくわかんねーけど、それで回復したのか?」

「そうね。いくらか回復したように思うわ。
 まだ壊れなかったから良かったわ。じゃあ次はカインね。」

そう言ってマリアは指輪を手離して、カインに手渡した。

「え・・・でも・・・。」

カインは一瞬それを使うのを躊躇した。
祈りの指輪は使用に制限がある。
何度でも使えるわけではない。むしろ、こんなに長く使える方が珍しい。

「カイン使ってね。あと少しだもの。
 『あの準備が足りなかった』なんて事で、後で後悔したくないでしょう?」

「そ・・・そうだね・・・。」

カインが祈りの指輪に力をこめると、マリアの時と同様に
ぱあっと光り・・・・そして音を立てて壊れた。

「あっ・・・・。」

やはり祈りの指輪が壊れてしまった。
もうこれで魔法力の回復は出来ない。

それはまあ良いのだが・・・。

「壊れたけど、ちょうど良かったな。
 2人ともこれで魔法力は回復したんだろ?」

その様子を見守っていたアレンがそう言った。
マリアもそれに頷いた。

「カイン、気にしないでね。
 さぁ、そろそろ行きましょうか。」

マリアは気にしないように立ち上がった。

マリアは気にしないようだが、カインは少し気にかかった。

一度は、ロンダルキアの雪原で、
マリアの幸せを願って彼女に手渡した指輪だ。
それを、自分が壊すだなんて、
何だか縁起が悪い。

まぁ・・・だがしかし、
元々この祈りの指輪は洞窟での拾いもののアイテムだ。

「いつか、ちゃんとした指輪をプレゼントするからね!」

カインのその言葉にマリアは一瞬立ち止まり、
アレンも目を見開いて驚いた。

「・・・は・・?何だって・・?指輪?
 お前ら、そういう感じなの・・?」

「え・・、そう言う感じって何が・・・?」

アレンの言葉にマリアが硬直したまま戸惑っている。
さらに、その2人の反応にカインが戸惑っている。

絶対、あれは違う。

「お前ら、俺の前で公開プロ−・・」
「あああーーーありがとう!カイン!!
 祈りの指輪、便利だものね!!」

アレンの言葉をマリアが遮った。
違う違う。違うのだ。

以前に、祈りの指輪をもらった時も
幸せになるからと指輪を左手薬指につけてくれたらしい。

そもそも、決してアレンが言わんとするような
プロポーズ云々なんて意味合いはないのだ。全然。

「祈りの指輪の素晴らしさは、素晴らしいものね!
 アレンには分からないわ!」

マリアは、何か言おうとしたが、
若干自分で何を言ってるか良く分からない。

「・・・知ってるよー!魔法力回復すんだろ?
 なんだよ、パーティーに一個、祈りの指輪って訳か?
 でもそんなもん、売ってるとこ見たことないけどなー。」

怪訝な顔をしているアレンと、
変な事を言ったかな・・・と言う顔をしているカインを
交互に見つめながら、マリアは一息ついた。

なんだか肩の力が抜けた気がした。

そう言えば、憎き仇敵がいる最後の砦だからと、
少なからず高ぶって落ち着かなかった感情が
今は少し落ち着いてる気がした。

良いのか、悪いのか、
仲間と一緒にいるだけで、
思った以上に自然体の状態にいられる気がした。




****

準備を整えて、次のフロアに上がってみると、
今までと空気が違っていた。
ここまではまるで塔か何か、
ダンジョンの一フロアと言う内装だったのが、がらりと変わったのだ。

空気が違うのだ。

重々しい雰囲気で・・・・
そこには間違いなく邪教の礼拝堂が存在した。

延々と一定の低いリズムで刻まれた聞きなれない文言の
祝詞が方々で唱えられている。
いや、一度は聞いた事がある。
海底の洞窟の礼拝堂でも唱えられていた。

間違いなく、邪教徒たちの祝詞だろう。

見渡すと何人もの悪魔神官たちがいる。
だが、アレン達が現れた事など意にも介さず、
黙々と祈りを捧げているようだ。

「・・・・・・・・・っ・・」

アレンはどうしたものかと思った。
こいつらを全員敵に回して、いきなり大乱闘を起こすのは
正解とは思えない。

そう思っていると、カインがアレンの肩をポンッと叩いた。
そして指差した一番奥の祭壇に、
他の悪魔神官たちとは違う雰囲気の
法衣姿の神官がいた。

三人の間に緊張が走る。
ハーゴンの顔がどんなのかと言うのは知らない。

だが、この集団を束ねているのは
あの一番奥の中央にいるあいつだろう。

何とも言えない緊張感だった。
見たところ、まるで普通の人間のような存在感なのだ。

数多の魔物たちを束ね、
あの化け物のような三巨神の上に立つものは
更なるど恐ろしい化け物のような様相をしているのだろうと
勝手に想像していた。
だから、正直言って意外だった。

あんなやつに一体どんな力があると言うのだ?

「行きましょう・・。」

中々一歩を踏み出せないアレンに、先立って
マリアが歩み始めた。

あそこに見える男が
ハーゴンだとしても、別人だとしても、
ここで止まっていても仕方が無い。

「待てよマリア。先頭は俺が立つ。」

我に返って、アレンが先頭に立ち、
3人は礼拝堂へと歩んでいった。

てっきりサイドの悪魔神官たちが、
アレン達を不届き者と認識し襲い掛かってくるものだと思ったが、
こちらなどには意識を向けもせず、一心不乱に祈り続けている。
まさに異様な光景だった。

「・・・・・・・・。」

だが、いつ戦闘が始まっても対応できるよう、
アレン達は戦闘体制に入っていた。

そして、最奥にいた神官にアレンが声をかけた。

「おい・・・。」

アレンの声に、その神官が胡乱げに答えた。

「誰だ、私の祈りを邪魔するものは?
 私が大神官ハーゴンと知っての事か?」

「・・っ!!ハーゴン!」

アレン達ははじけるように武器を構えた。
こいつが、ハーゴンに間違いなかった。

「お前がハーゴンね!!?」

マリアが緊張感を持った声で、再度問いかけた。
ハーゴンを名乗る神官は、マリアを見ると確かに頷いた。

「覚えていないとは言わせないわ!
 私はお前に滅ぼされたムーンブルクのマリアよ!
 私達はお前を討つためにここに来た!」

マリアの叫びに、ハーゴンがカッと目を見開いた。

それは人には有るまじき浅黒い顔をしていて、
ぎょろりと人を嘗め回すようなその目は
悪の神官と呼ぶに相応しい様相だった・・・が・・。

「ロトの末裔が3人揃ってここまで来たか・・・。
 ふふ・・ふふふっ!!」

何故かハーゴンは3人を見ると怪しく笑った。

「何がおかしい!!」

アレンは稲妻の剣をハーゴンに向けた。
だが、ハーゴンはそれを意にも介さない様子だった。

「お前達はここまで何をしに来たか、分かっているぞ。
 私を討ちに来たのだ。」

「その通りだ。いい覚悟じゃねえか。」

アレンはそう言いながら油断無くハーゴンの装備を確認していた。

体格は・・・さほど大きくない。
やや猫背気味で、手には神官らしく杖を携えていた。

恐らく相当な魔法を使いこなすのだろう。
だが、本当にこんな奴が強いのだろうか・・?

「いいだろう、その力を見せてみるが良い。」

そう言ってハーゴンは両手をバッと広げた。

いよいよハーゴンと周りの悪魔神官どもと戦闘開始か・・!?
そう思ったが、
周りの悪魔神官は相変わらず祝詞を唱え続け、
加勢に来る様子も無い。

一体あいつらは何なのだ・・?
侵入者を排除しようともせず、何をしているのだ?

いや。

周りの雰囲気に飲まれる事は無い。
3人で掛かれば、いかな魔法を使えようとも
このような奴に負ける気がしなかった。

「カイン、マリア!!いくぞ、お前ら!!」

アレンの一言の元にカインとマリアも戦闘体制に入った。

まず、アレンの気合をこめた一撃は、ハーゴンを斬りつけた。
先制の一撃だ。

一瞬よろめいたハーゴンであったが、
ハーゴンは燃え盛る火炎を唱え、
さらに手にする武器で攻撃を仕掛てきた。
思ったよりも素早い魔法と打撃の二重攻撃だ。

「マリアッ、下がって!!」

カインがその炎を、自身のベギラマで打ち消した。
一歩下がっていたマリアは、襲いかかるハーゴンの攻撃にも怯むことなく、
渾身のイオナズンを唱えた。

その衝撃にハーゴンが巻き込まれたのが見える。
アレンが、爆風吹き荒れるその渦中に飛び込み、
ハーゴンの法衣をガッと掴んで、勢いそのまま地面に叩きつけた。

「ぐ・・っ・・!!」

胸倉を掴まれたままのハーゴンを見下ろし、
アレンは不思議な感覚だった。

確かに一魔物の力としては、強いかもしれない。
だが、数々の戦いを乗り越えてきた自分達には
ハーゴンがそれほど強い相手だとは思わなかった。

勝てる・・・?

そう思ったとき、ハーゴンは倒れたまま不敵に笑った。

「何がおかしいっ!!」

「強い・・さすがはロトの末裔たちだ・・・。」

「な、なんだ。素直にお縄に付くと言うのか!?」

「私は一国を滅ぼした。
 その罪を背負い今日まで生きてきたが、
 いよいよ罪を罰せられる時が来たようだ・・・。」

意外なほど殊勝な言葉だった。
少し拍子抜けしたが、これがこいつの実力なんだろうか。

「・・そうか・・。
 なら、お前を裁くのは俺じゃねえ。マリア・・・!」

アレンは油断無く稲妻の剣をハーゴンに突きつけたまま
マリアを呼んだ。

「・・・え、ええ・・・・」

マリアは正直戸惑っていた。
ムーンブルクの仇を討ちに来た。
ハーゴンの首を討ってそれを父の墓前に報告するつもりだった。

それが例えどんな獰猛な魔物であっても
その信念は怯むつもりはなかった。

逆にこうも普通に首を差し出されると
手を出し兼ねてしまう。

アレンも正直な所そうだったらしい。
ややいぶかしむような表情で、ハーゴンの出方を伺っていた。

だが、ハーゴンは俄かに顔を上げると、
アレンの稲妻の剣の刃をその手で掴んだ。

「な、何をする・・・!?」

「さぁっ、どうしたと言うのだ・・ロトの子孫よ!?」

刃を掴んだその手からは勿論血が滴る。
その血の色は人間と同じ赤い血だった。

「・・・赤い・・・血・・・・。
 お前は人間なの・・・?」

マリアは、ハーゴンに対して静かに問うた。
ずっとハーゴンは魔物だと思っていた。
何故ならそれが魔物を束ねる存在である事から、
たとえばロトの伝説にあるような大魔王のような存在だと思っていた。

それが、このような脆く、小さな存在であるとは
考えていなかった。

「お前達と同じく赤い血を流す・・元、人間だ・・・。。」

「・・・・・・・・っ・・!」

その言葉に少なからず衝撃を受けたマリアは、
振り上げた拳をどこに収めるべきなのか一瞬分からなくなった。

魔物ならと思っていた今まで修行に明け暮れていたが、
人間を殺す事などできないと思った。

もし深く反省していると言うなら・・・
ここで息の根を止めずとも、
ロト同盟国筆頭ローレシアにつれてゆき、
その法の元、裁きを受けるという道もあるのかもしれない・・。

「マリア!油断しないで。罠だよ。」

「え・・!?」

そんな中、今まで様子を見ていたカインが
一歩足を前に踏み出して、問いかけた。

「ハーゴン!お前、何を企んでいるんだ?」

「企む・・・?」

ハーゴンは表情を変えずにそう言った。

「おかしいと思っていた。
 お前は、僕らを何の罠にかけようとしてるんだ?」

「罠?罠ですって・・?」

マリアが驚いたようにカインの方を見た。

「お前は勿論マリアに罰せられるべきだ。
 けど、僕が言ってるのはそう言うことじゃない。
 何のために僕らを『生かしていた』んだ?」

その言葉にアレンが驚いた。
何を言っているんだ。
息も絶え絶えにようやくここまで来たんじゃないか。
実際戦いの最中、殺された事もあったし、
カインだって呪いで殺されかけたじゃないか。

「お前、何を言ってるんだ?」

「アレン気づかない?
 城に入ってすぐのまやかしも変だと思った。
 どこかに嘘と見破られるような点を残していた。
 もっと徹底的にやれば僕らの心を折る事も出来ただろう。
 バズズ達との一騎打ちも、どこか本気とは思えなかった。」

「どう言う事だよ。」

十分本気で戦ったぞ?とアレンは言いたかったのだが、
カインの言う事は少し違った。

「僕らを1人ずつに出来るんであれば、
 わざわざ一騎打ちなんてしなくても、
 三体同時に1人ずつ相手すれば良かったんだ。」

アトラス・バズズ・ベリアルの三体と同時に1人で戦うとなれば・・
さすがにアレンもぞっとした。

「手を抜いていたって事か・・・?」

「というより・・・何か僕らの力を計っていた・・気がする。
 ここまでこれるか力があるのかどうかを・・。
 もしそれが無理なら、本当に殺されてたのかもしれないけど・・。」

マリアもそう言われて、思い出した。
ベリアルがマリアが行きてここまで来た事に、確信深そうだった。

デルコンダルでも、ベリアルがアレンが想像以上に強い事を喜んでいた。

そもそもの話だ。
マリアをムーンブルクで殺さないでおいたのは何故だったのか?
国のほとんどの民を全滅させておきながら、
マリア1人だけ、何故か殺しはしなかった。
そこもわかっていなかった。

「ふふ・・・鋭いな、サマルトリアの王子。
 お前はあの時、呪い殺しておけば良かったか・・・。」

ぎらりと目を光らせるとハーゴンは、
かっと目を光らせると、激しい爆発が起きた。

「うわっ・・・!!」

「カイン!?」

その爆発に吹き飛ばされたカインに視線を向けると、
アレンが掴まれたままの稲妻の剣を払った。
やはりこいつ、まともではない。

「お前、いい加減にしろよ!
 怪しい奴!何のためにムーンブルクを襲ったんだ!!
 なんで、世界を混乱に陥れるような事をする!?」

「勘違いをしているようだが、我らが思想、我らが理想は・・・
 お前達と同じもの。」

「何を言っている!?」

ムーンブルクを襲ったハーゴンの思想と
自分達の思想が同じだなどとは、
微塵も意味が分からない。

「ただの人間だったに私にとって・・
 お前達が知りもしない世界の最果てで虐げられ、
 顧られる事のない地獄の中で、
 それを塗り替えられる可能性があるものはただ1つであった・・。
 すなわち、お前達の願望と同じよ。」

「意味がわからねえ・・・!」

「なら、聞く。
 このロンダルキアにやってきて、お前達が誓った事はなんだ?」

「・・・え・・・?」

「覚えが無いとは言わせないぞ?
 それは・・・力。さらなる強さであったはずだ!!
 それこそが我らの理想・・!!
 弱きものが淘汰される。
 強さだけが、唯一の頼り。
 我らが求めるものと同じ・・・!!どうだ、違うか!?」

その言葉にアレンは総毛だつような嫌悪感を覚えた。
こんな邪教の思想と、俺達は同じものを追い求めていたと言うのか?

「ち、違う!!ふざけるな!!
 お前らと同じであるものか!俺達が求めたものは平和だ!
 力でムーンブルクを滅ぼしたお前と同じであるものか!」

アレンの血を吐くような叫びは、
しかしハーゴンに遮られた。

「同じだとも!
 純粋な力を求めたお前達は、多くの魔物の命を奪い
 それを糧に、更なる力を持って世界を統治しようとした!」

「・・・・・・・。」

「すなわちお前達も、もう知っているはずだ。
 強さに勝るものは、それ以上の強さのみ。
 それこそが唯一の真実だと!」

アレンは、その勢いに呑まれていた。

イオナズンの爆風で吹き飛ばされ、
少し離れたところで、その様子を見ていたカインは
ぐっと身体を起こした。

アレンが動揺している。
違う、ハーゴンの言っている事は壮大な欺瞞だ。
確かに僕らは力を求めた。
だけど、それはハーゴンの行ったものとは違う。

アレンは決して不必要な魔物の討伐なんてしなかった。
全ての魔物を力で滅ぼそうとした訳ではない。
襲われたものに対抗できるだけの力を、戦える力が無ければ
ここまで来れなかったのだ。

「そして・・ムーンブルクの王女よ・・・!」

そのハーゴンの声に、ハッとマリアは顔をあげた。
マリア自身は頭が混乱していた。
ハーゴンが人間であったと言う事もそうだが、
自分達が追い求めたものの境地について・・・。

「お前を生かした理由も簡単な事だ・・・!」

「・・・な、何・・・?」

「無力で無能な王と違って、
 お前はきっとここまで来れると思っていたぞ!
 あの若さであれだけの魔法力、あの才能!!
 殺すには惜しいと思った!」

「・・・・・え・・・・」

「魔法の力で、実の父をも殺し得るその才能!!
 そしてあの時より更に強力になった捨て置きがたいその能力!
 どんどん強力になる人間離れしたその力!!
 それが強さだ・・・!私が欲しいものは強さ!誰にも負けない力!」

「な・・・何を・・・・。」

「ここにいるもの全員そうだ。
 悪魔神官だけではない、魔物たちを含め、それ以上に
 生きとし生けるもの、全てが求める純粋な心理だ。
 求めるものは、全てに勝る強さ! 」

ハーゴンの言う事は1つの真理なのかもしれない。
だが、まだ分からない。

「わ、分からないわ・・・。
 それで・・何故・・・ムーンブルクを何故滅ぼしたと言う・・の・・・?」

「簡単な事。勇者アレフの竜王討伐より100年。
 竜の神にも勝るロトの血は脆弱化の一過を辿っていた。」

「・・・・・・。」

それはそうだろう。戦う敵がいなければ、平和になれば
兵力は落ちるものだ。

「ま・・ちなさい・・・。
 それじゃあ・・・・。」

マリアの胸がざわついた。

「どこでも良かった。
 ただ、ロトと言う眠れる獅子を起こすために・・。
 その片鱗の芽が出るよう私が種をまいたのだ。」 

どこでも良かった?

つまり、ムーンブルクが滅べば、
同じロトの・・勇者の血を引く末裔達が立ち上がるだろうと。

ハーゴンの言う、強さこそ真理という・・
その主義主張のために、その思想実現のために、
ムーンブルクは滅ぼされ、
さらに、その恨みを糧にする可能性がある私は生かされた。

それだけのために。たったそれだけのために・・。
私が失ったものは、何だったのだ?

確かに、力が無ければ、強さが無ければ、
夢破れ、虐げられることだってあるだろう。

だけど、それが全ての真理?
そんな訳あるはずが無い。

だって・・・それでは・・その為に私が失った・・・
あの幸せだった日々は何だったというのだ?
いや、失ったのは私だけではない。
夢と希望にあふれ、将来の夢を語らい、
幸せな日々を過ごしていた人々の未来が、全て失われたのだ。

もう・・・もう二度と返ってこないのに。
それが不必要だったなんてはずはないのだ。
何かの、誰かの理想のために、消滅していいものではない。

マリアの中で何かが吹っ切れた。

馬鹿馬鹿しい・・・!
何を迷う事なんてあったのだ?
そうだ、この「悪魔」を討つために、私は今まで旅をしてきたのだろう?

「あああああーーーーーーー!!」

髪を振り乱し、マリアは大きく頭を左右に振った。

それは、一瞬の事だった。
そのため、すぐ傍にいたはずのアレンも動きが取れなかった。

「マリアっ!!待っ・・!!」

カインの言葉も耳に届かなかった。

マリアが逆手に持ったいかづちの杖が、
ハーゴンの喉元を付き裂いていた。





- 続く-

2013/06/08
▲

     
     長くてすいません。 なんか段々長くなってないかなー?
     多分あと少しー

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