ハーゴンの神殿 5

「アレンは、どこから現れたの?」

アレンの負傷をベホイミで癒しながら、カインはアレンに尋ねた。

「どっからって・・下のフロアのアトラスを倒してから、
 普通に階段で上がってきたぞ。」

アレンはそう答えた。
アトラスを倒したが、特に何が起こる訳でもなく、
負傷を押して、界隈を歩き回ると、
上階へ昇る階段を見つけたそうだ。

「そうなんだ・・。
 アレン、マリアは?マリアは見かけなかった!?」

「見てない。俺はフロア1つしか上がってないからな。
 多分同じようにどっかに飛ばされてるんだと思うが。」

「って、アレンがアトラスと戦ったって事は・・
 マリアはベリアルと・・戦ってる・って言う事・・!?」

「まぁ。そうだろうな。」

「1人で!?」

「まぁ・・・そうだろうな・・・。」

カインがここでバズズと戦ってたんだから、
残ってるのはベリアルだろうという考えだ。

「何を落ち着いてるんだよ・・!
 は、早く行こうよ!!」

アレンのベホイミが終わると、
もうキョロキョロとカインは上への階段を探し始めていた。
そんなカインに呆れたように、アレンはその腕を掴んだ。

「い・・痛っ!」

バズズの爪で負傷していた箇所を思い切り捕まれて、
カインは思わず手を引いた。

「バーカ!!お前、また俺の怪我だけ治して
 自分を治してないだろうが!」

「そ、そんなの道々で良いよ!
 それより、マリアが心配じゃないか!」

「俺もお前も何とかしたし、
 あいつもきっと大丈夫だろうさ。」

カインの気持ちは分からないでもないが・・・。

心底心配そうにしているカインにアレンはそう言った。

「な、なんでアレンそんな落ち着いてるの・・!?」

「ってか、そんな急いで行ってもなあ。」

「・・・・??」

「まぁ、行けば分かるさ。
 上への階段は俺がさっき見つけておいた。」

「そ、そうなの・・・・?」

自分より後でこのフロアに来たアレンが
どうして自分より先に階段を見付けているのか、
カインには分からないことばかりであったが、
しかし、そんな事はどっちでも良い。

アレンの先導で、2人は無事に上のフロアに
昇ることが出来た。


そこは今まで室内とは違って、
外界からの風が吹き荒れていた。

一瞬ここが最上階なのかと思ったが、
見ると一繋ぎの通路を挟んで向こう側にも
同様のフロアが見える。

どうやらこの神殿は、双頭の塔のような建物のようだ。

そして、その先には・・・・。

「マリア・・・!!」

体中に負傷を負いながら、
ベリアルと敵対しているマリアの姿があった。

すぐさま駆け寄ろうとしたカインであったが、
不思議なことに、マリアの元へ近づくことが出来なかった。

何か立ち入る事のできない膜が張られているらしい。

「な、何だこれ・・?」

思わず、隼の剣で切裂こうとしたが、
物理攻撃は受け付けないようだった。

「じゃあ・・・。」

と今度はカインはベギラマを唱えてみたが、
やはり突破することが出来ず、
それどころか、跳ね返って飛んできた。

「うわっ!? あっつ・・・あち!!」

まさか跳ね返ってくるとは思ってなかったので、
無効化することも相殺することも出来ず、
熱そうに、カインは炎を払った。

1人で騒いでいるその様子にアレンが盛大に笑った。

「ぶはっ!!おもしれえ!
 お前がそんな面白いのも久しぶりな気がするな。」

「な・・な・・・なんだよーー!
 笑わなくても良いじゃないかー。」

笑われて少し恥ずかしそうだったカインであったが、
アレンが落ち着いている理由が分かった。

多分カインがバズズと戦っている時もそうだったんだろう。

「そうなんだよなあー。何故か近づけねえんだよ。
 声も届かないし。お前も気づかなかったろ?」

「あ、うん・・。全然。
 アレン・・・いたの・・?」

「ほら、気づいてねえ。
 だから、俺はフロア探索くらいしか出来なかった。
 でも、お前のときも、勝ったら解けたから、
 マリアも勝つしかないんじゃねえの?」

「う・・うう・・・。そ・・っか・・。」

と言うか、アレンにどこから見られていたんだろう?と言う所も気になった。
何か恥ずかしいことを言ったような気もする。
あまり触れないようにしよう・・。

「ここでも、一応階段を見つけたら、先に進むことは出来そうだけど
 そうはしないだろ?」

「当たり前だろ!!」

カインはマリアを置いて先に進むような選択はしなかった。
まぁそうだろう。
例え、ここで見ているしか出来なくても・・・。
 
アレンはそう思い、マリアの方に視線を向けた。
アレンだって勿論不安が無いわけじゃない。


マリアの身体能力は高くない。
本来は、あんな化け物と戦えるはずがない。

だけど、あいつの魔法の才能は一級品だ。
言っちゃなんだが、その種類の豊富さはカイン以上のものだ。
何とか得意の魔法だけで片を付けるしかないと思った。





***

ベリアルはイオナズンの魔法と、
時に火炎を吐くようだ。

そして打撃能力も高かった。

それに対して、
マリアはイオナズンに対してはイオナズンでの相殺を、
火炎に対しては、氷系魔法を使って相殺した。
またベホマがあるので、
打撃を受けても即座に致命傷になることはなかった。

結果、戦いは長期戦になっていた。

「なかなか粘るではないか、姫よ。」

だが、ギリギリで凌いでいるマリアと違って、
ベリアルは常に余裕の表情だった。
今の戦略では、相手の攻撃に対する対策はできても
直接にベリアルにダメージを与えるまでには至っていない。
実際、疲労で消耗しているのはマリアだけだった。

「これは賞賛の言葉だ。
 生身の人間がこれだけ戦えるとは驚いている。」

「お前の賞賛なんて聞きたくもないわ。
 お前達は我がムーンブルクを滅亡させたではないか!」

「そうだ。だが、見ろ。お前は生きているではないか。」

「・・・・・は?何を言っているの?」

何を言っているのだ。
私は何とか生き残ることが出来たが、
それは奇跡的偶然。

それより、今ベリアルはムーンブルクを滅亡させたことを認めた。
ムーンブルクを襲った魔物の群れにベリアルも参加していたと言う事だろう。

なお一層許すことなど出来なかった。

「ふざけないで!!!」

マリアは怒りを顕にすると
いかづちの杖に力を込めた。
何度目かのイオナズンだ。

「無駄なことだ。」

マリアがイオナズンを唱えると同時に
ベリアルもイオナズンを唱える。
極大爆発魔法同士の相打ちは激しい爆発が舞い起こる。

魔法の威力に差があれば、それでも相手にダメージを与えることがあるが、
どうやら2人のイオナズンの効果は同程度らしい。
何度か繰り返しても、爆発は互いに相殺されるだけであった。

あのような化け物と、小さな身体のマリアの魔法が同程度とは
それだけで十分すごすぎる話なのだが、
それでは勝負の決め手にはならなかった。

また、今回も同じ結果・・・と思ったが、
爆風が晴れるよりも先に、
動いたのはベリアルであった。

「きゃあぁぁ!!」

爆風を目くらましに、素早い動きでベリアルはマリアを殴りつけた。
軽量のマリアは抗いようも無く吹き飛ばされた。

「どうやら、魔法しか出来ないようだからな。姫は。」

マリアの持つ杖に視線を向けると、
ベリアルはその腕を三又銛で突き刺した。

「あぁああ!!」

その腕から激しく血が流れ、力が入らなくなる。
その隙にベリアルはマリアが手にするいかづちの杖を手に取り、投げ捨てた。

そして、そのまま、仰向けに倒れたマリアを
足元に捉えた。

「あ・・っ!!」

「どうだ?お前の戦力は大幅に削がれただろう。」

「・・・・・・!」

確かに、杖がなければ魔法の威力は落ちるかもしれない。
今まででも優位ではなかったのだ。
だが、マリアのベリアルを睨みつけ、
怯んではいなかった。

杖に頼って、『遠くからの魔法』を使っていては、
いつまで経っても倒せない相手だ。

腕の傷を素早くベホイミで治療すると
マリアは胸元から小さなナイフを取り出した。

そして、すぐ目の前にあるベリアルの足をナイフで切りつけた。

「ほう・・?姫が武器を?」

「馬鹿にしないで、私の仲間は世界一の剣士達よ!
 その戦いを私はいつも間近で見ているんだから!!」

いつか武器、刃物を使って、
アレンやカインに剣を教えてもらおうとしたことがある。
実際にはアレンには片手で軽くあしらわれて、
遠慮がちなカインには気を使われすぎて、稽古にもなりはしなかったが。

残念ながら実戦で使えるレベルではないと
アレンには匙を投げられもした。

「面白い。やってみよ?」

ベリアルはナイフを手にしたマリアを挑発的に誘った。






***



「うわ・・わわ・・・・・。
 マ、マリア・・・。マリアーーー!!
 が、がんばれ、がんばれーーーーー!!」

傍でその戦いを見ていたカインが、
ナイフを取り出したマリアの様子を見て、
見てもいられないような、泣きそうな声でマリアに声を掛けた。

まぁ、聞こえはしないわけだが。

「すげーー!熱いなマリア!あいつ肉弾戦する気か?」

アレンもマリアの選択に驚いていた。

「ま、待ってよ・・・、冗談じゃないよ。あんな化け物相手に!」

「ところで、あいつ武器なんか持ってたのか?」

アレンの素朴な疑問だった。

「持って・・ないよ。あれは武器でもなんでもない・・。
 いつもほら・・林檎の皮とか向いてる奴・・。」

「あ・・あー。それね・・。って、それは・・・・無理だろ!!」

アレンはそれを思いだして、頭を抱えた。
どんな味方びいきをしても、さすがに果物ナイフで
伝説の三巨神の1人ベリアルを倒すなんて無理だろう。

「お前もうちょっとまともなやつ渡しとけよ!!」

アレンは剣の稽古はカインとだけしてたし、
魔法の話は出来ないので、ロンダルキアの修行中
マリアとの修行はしていなかった。

「だって、武器で戦うなんて思わないじゃないか〜!」

「だってじゃねえよ!せめて聖なるナイフとかあるだろーが!」

ここで2人で言い争っていても仕方がない。

こんなことなら匙を投げずに聖なるナイフでも
使えるようにしてやればよかったーー!
とアレンは思ったが、後も祭りだ。

「うおお!!負けるなマリアーー!!」

今度はアレンが叫んでいた。最早応援してやるしかなかった。

「おい。カインも応援してやれよ!」

そうカインに声をかけたのだが、
何故か、カインはどこか別の所を向いていた。

見ているのは、先ほど投げ飛ばされたマリアのいかづちの杖だ。

何気なく、落ちている杖の所に行き、
それを・・・拾い上げた。

「アレン・・・アレン!!見て・・・!!!」

そして何か気づいたようにアレンに呼びかけた。



****

「はぁぁ!!」

何故か、でくの棒のように突っ立ったままのベリアルに
マリアは再度ナイフで斬りかかった。

「あ、・・つっ・・!」

が、ナイフの刃はベリアルの皮膚で止まったままだった。
一筋の切り傷すらつける事が出来ない。

「姫、滑稽な姿だな。血迷って使えない武器を手にするなど。」

「・・・・・・・・。」

だが、そんな事はマリアは十分分かっていた。
自分の武器は刃物では無い。

この奇をてらった行動に、
少しでもベリアルの気が削がれれば十分だった。

「ーー ヒャダルコ!」

「む・・・?」

降りそそぐ氷の刃に気を取られている隙に・・
一歩踏み込んで、狙ったのは、超至近距離からの極大魔法。

「バ・・・ギ・・クロス・・・!!」

マリアの小さなナイフから突風のような激しい竜巻が
舞い起きる。

「ぐおお!!」

強烈な魔法の連続技に、
今度はベリアルの表面の皮膚をえぐるように
ダメージを与えることが出来た。

そして、更に連続して追撃の魔法を・・・と思ったマリアであったが、
それは叶わなかった。

今まで余裕の笑みを浮かべていたベリアルは、
受けた想像以上の痛みに怒りの雄たけびをあげ、
マリアのみぞうちを蹴り付けた。

「ああ!!
 ・・・・ごほっ・・ううっ・・うっ!!」

攻撃されたのは腹部のはずだが、
全身に痺れが走り、息を吸うことすらままならなかった。

「ごほっ、ごほっ!!」

地面に倒れ、何とか呼吸をしようと落ち着けようとする
マリアにベリアルは三又銛を向けた。

「面白い真似をしてくれたものだ。
 だが、惨めなものだな。
 高貴な姫が地を這うように苦しむ様子は。」 

自身の息を取り戻すことで精一杯のマリアは
何を言われているのか分からない。

だが意識は相手を倒す事だけに向いている。
戦闘態勢は解いていない。
考えてる事は今もさっきも同じ。

至近距離からの魔法だ。
バギクロスでは倒せなかった。
やはり、自分の最大の魔法はイオナズンだ。
それを至近距離から打つのだ。

ベリアルの三又銛が迫っていることも気づけずに、
マリアは何とか身体を起こした。
手にはイオナズンを唱えるだけの魔法力を込めていた。

「せめて一撃で楽にしてくれる!」

「・・・え・・・!?」

すぐ目の前に鋭い刃が見えたことでようやく
自分が絶体絶命の窮地なのだと悟った。

だが・・・・

何故かベリアルの三又銛の一撃は
マリアを反れて、明後日の方向にガリッと突き刺さったのだ。

「・・・!?」

失敗・・?外しようの無い距離だったはずが、
何故だかわからないが、ベリアルは攻撃を外したらしい。

「今だわ!」

思いがけない好機に、マリアはベリアルの腹部を目掛けて、
イオナズンを解き放った。

「ぬああああ!!」

激しい咆哮と爆発が舞い起きた。
だが、マリアはまだ、手を止めはしなかった。
さらにもう一撃、連続で・・・追撃を・・!

そう思ったとき、爆風の煙の中から
顔面に恐ろしい怒りを顕にしたベリアルの顔が
ぬっと現れた。

「 っ ・・・・!!!」

激しい怒りに見開いた眼球と、イボだらけの醜い顔面で
大きな口を開けて、ぬるりとした舌と尖った牙をむき出しにした
ベリアルの顔はまさに恐怖。声も出ない。

これが魔物の本性。
それと比べて、なんと人間の身である自分の脆弱なことか。

あの牙に噛み付かれたら、
自分の身体などボロボロに食い尽くされるのだろう。

本能的にマリアは恐怖心を感じた。

だが・・・・・・
私が今までこの恐怖を知らずに戦ってきてこれたのは
仲間たちのおかげなのだろう。
アレンやカインはずっとこの距離で戦っていたのだ。

むしろ、彼らなら自分からこうやって顔を近づけてくるなどとは
好機だと思うだろう。

だから、これこそがきっと最後のチャンスだ。
怖がるな。

私には仲間達と同じだけの力はない。
だけど、同じだけの勇気は・・・私にもあるはず・・・!

むき出しの牙に噛み千切られる恐怖を越えて、
小さなナイフをベリアルの顔面に突き立てながら、
マリアは叫んだ。

「これで、最後よ!!!ィオナズーーン!!!!!」

ベリアルの極至近距離で放ったイオナズンの爆発に
マリア自身激しい反動を受けた。

激しい爆発に目の前が真っ白になる。
何かが飛んできて身体に触れたような気もする。
それが何か確認することは出来ない。

マリアも爆発で吹き飛ばされたからだ。

「おらぁぁああっ!!!」

急に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
この声は、アレンの声!

アレン達が来てくれたのだろう。
これでもう安心だろう。

そう思い、その安心感に身体の力を抜いたマリアは、
妙な浮遊感を感じた。

そう言えば、このフロアの通路は外界との壁がなかった。

マリアの真っ白にしか見えなかった視界が次第にはっきりして来て
見えたものは、堅いこの神殿の床ではなく、
同じく真っ白な吹雪の空と、雪の積もった地面・・。

「マ、マリア!!」

そこに、あわててダイブしてきたカインが、マリアの手をガッと支えてくれた。
どうやらマリアはこのフロアから、落下しかかっていたようだ。

「カ・・イン・・・?」

「あ、あぶな〜〜っ・・・!!!」

そう言いつつカインは、マリアをぐいっと一息に引き上げてくれた。

「カイン、ありがとう。助かったわ。
 2人とも助けに来てくれたのね!ありがとう!」

安堵の表情でそう言うマリアを、カインが突然強く抱き締めてきた。
いきなりの事に驚いたのはマリアの方だ。

「・・・!?・・・・ど、どうしたの・・カイン!?」

「すごかった!本当にすごかったよ!マリア!!
 無事で良かった〜〜!」

そう言って、マリアの健闘を称えてくれた。

「え・・・でも、まだ倒しては・・・。」

「勝ちだよ。君の勝ちだ。
 だから、僕達こっちへ来れたんだ。」

「・・・?」

「アレン、そうだよね・・・!?」

カインは確かめるようにアレンに確認した。
アレンの方を見ると、
倒れたベリアルの様子を「うげー」と嫌そうな顔で眺めている。

「・・・アレン??」

「あ・・?ああ。お前の勝ちみたいだぜ、マリア。
 だけど、顔面にイオナズンには相当グロい事になるなー。
 目ん球吹き飛んでるし。今後しない方が良いかもな。
 あ、お前は見ない方が良いぜ?」

どうやら、先ほど身体に当たったと思ったものは、
もしかするとベリアルの眼球だったかもしれない。

・・・・・・・。

一瞬ぞっとしたが・・あんまり、考えないようにしよう。

しかし良くは確認できていないが、
ベリアルの腕に隼の剣が突き刺さっているようだ・・?
何故だろう・・?

「よーし!!
 でもこれで俺達3人とも完勝だな!!」

アレンは、2人の方を向いて嬉しそうに笑った。

まぁ良い。その謎は後で聞かせてもらう。
今は、何とか得た勝利と、ようやく会えた頼もしい仲間達に
マリアは安堵感でいっぱいであった。




- 続く-

2013/05/31
▲

   

    気が付くと相当長いですね。スイマセン。
    マリアも戦える勇者の1人ですから、その勇気は誰にも負けてはいないと思います。
    恐ろしい化け物相手に、一歩も少しも引いておらず。
    アレンとカインは見守る立場でしたけど、手出しが出来ないと、すごいハラハラしたでしょうねー。
    近くにいたなら何でもするのにー!って。でも勝った。うわあ!みたいな。
    
    (風の塔以来の)塔と言えば落ちる、のあれもありつつ・・。

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