ハーゴンの神殿 4

カインは、待ち構えていたかのように目の前にあらわれた
異形の魔物を冷静に見つめていた。

「その表情。どうやら覚えてくれたようだな。」

「忘れる訳・・・無いだろう。」

この魔物がサマルトリアを襲い、妹の命を奪おうとし、
そしてカインを呪いで長く苦しめれらたことは忘れたくても
忘れられない記憶だった。

「名前は、バズズって言ったか?」

カインは隼の剣をバズズに突きつけた。

「おお。その剥き出しの敵意と表情。
 少しは変わったようだな。」

「さぁ・・・。」

カインは首を傾げると、
目にも見えない速さで隼の剣を振るった。

バズズは少し驚いたように、その攻撃を後ろによけて避けた。

「ふふふ!
 あれだけ、巨大な力を怖がって、恐れていたお前が!
 妹が傷つき泣いていたお前が!
 今はそうやって狡猾な攻撃をしかけてくる!」

「・・・・・・・・・。」

「見ていたぞ!
 先ほどのまやかしの中でもお前は、幻を見破ると
 躊躇いも無く、自分の肉親すらも斬り捨てた!」

カインは、少し眉をひそめて表情を変えた。
どうやら、こいつらはまやかしの中の自分達の様子を観察していたらしい。
発言の一つ一つも正直不快だし、気にならならない訳ではないが、
今は気にしないことにする。

それよりだ。
正直、その挑発的な発言よりも気になることがあった。

少し不思議だったのだ。
これだけ強大な力を持っているはずなのに、
わざわざ回りくどく、そんな事をしかける狙いは何なんだろう?

「・・・偽者を斬るのに躊躇なんかあるもんか。」

とりあえず、そう言っておいた。

そして、今度は左手で火柱を作り上げた。
バズズは急に現れた火柱に視界を奪われた。

その隙にカインは背後に回りこんで
バズズに斬りつけた。

「ぐっ!?」

「別に変わってなんかいない。
 今でも怖いものはあるし、誰も傷ついてほしくないと思ってる。
 だけど・・・もう怖いなんて言ってられないんだ!」

バズズは翼を広げて羽ばたいた。
普通に剣を振るっても届かない高さだ。

カインの言った事は真実だ。
本当は何も変わってなんかいないかもしれない。

初めて魔物と対峙した時の恐怖心も覚えている。
自分の力が全然通じず、逃げるしか出来なかった。
アレンの足を引っ張って迷惑をかけたことも昨日の事のように覚えている。
それらを忘れた事は一度も無い。

自分は弱い。
だから、強くならないといけないと思った。
アレンの力になれるように。
マリアを助けられるように。

だから、もう負けられなかった。

カインは目の前の火柱の中に剣の刃を通して
そしてそのまま空のバズズに向かって剣を振るった。

「やぁぁぁぁぁーー!!」

「何だとっ!」

炎を纏った剣戟はバズズまで届いた。
羽を傷つけられたバズズは少しふらついて
空中からの降下を余儀なくされた。

カインのこの剣技はアレンに教わったものだ。
アレンはかなり前から剣気だけで遠くの敵を攻撃できていたが、
カインは同じようには出来なかった。
だが炎を使えば、弱い攻撃力でもいくらか割り増しされるだろう?と
アレンが教えてくれたのだ。



「・・・・どうやら確かに強くなったようだな。
 だが!!」

バズズは両手を広げると
一瞬の気合とともにイオナズンを唱えた。

「!!」

爆風の勢いで、その場からカインは吹き飛ばされた。

「・・・っ・・うわ・・・!!」

何とか身体を起こして、追撃に備えて周りを見渡したが
バズズの姿は見えなかった。

このフロアはどうやら柱が沢山あるため
死角が多くなってしまうようだ。

「どこだ・・・どこへ行った!?」

そうカインが叫んだ次の瞬間、どこからか現れた
バズズはその爪で背後からカインの右肩を貫いた。

「・・っ!!ううっ・・・!!」

激しい痛みとあふれ出る出血で
右手は力が入らなくなり、カインは隼の剣を落としてしまった。

それを見たバズズは長い尾でカインの足を掴んで
投げ飛ばした。

「わっ・・・!!」

そうして床に投げ出されたカインは、
武器も手に取れず、回復で手一杯だった。
それを好機と捉えたバズズは生奪の魔法を唱えた。

「あっけなかったな!ザラキ!!」

ベホイミを唱えているカインは反撃もできないはず。

「・・・・っ!」

カインはバズズの方に顔を上げると、何かを呟いた。

切れた糸のようにあっけなく事切れるだろうと思ったが、
いくら待てども倒れることは無かった。

「なんだ・・と!?」

一瞬何が起きたのか分からなかった。
だがザラキは必ずしも効く訳ではない。今回は失敗しただけのこと。

「ならば、もう一度だ!ザラキ・・!」

バズズは再度ザラキを唱えたが、何度唱えても結果は同じだった。
そうこうする内にカインはベホイミが終わったらしく立ち上がっていた。

「なんだ!貴様何をした!?」

「分からないの?ザラキは僕も使える魔法だ。
 だから相殺してたんだ。」

「相殺・・・だと・・・?」

信じがたかった。
何故なら、ザラキを唱えた間、ずっとベホイミを唱えていたからだ。
相殺なんてする間は無かったはずだ。

だが、カインは左手でベホイミを唱えながらも、
反対側の手でザラキを唱えていた。

カインは両手で異なる魔法を唱えられるようになっていた。

そうとは思わず、ハッタリだと思ったバズズは違う魔法を試した。

「ならば、これならどうだ・・・!
 ベギラマーーー!!!!」

バズズがベギラマを唱えたのを見ると、
カインは少し笑った。これなら・・・さっきより有利だ。

左手にベギラマの炎を宿して、
右手にも同様にベギラマの炎を作り上げた。

「いっけぇぇえええ!!!」

カインが両手で作った炎は、
極大閃熱魔法ベギラゴンにも似た勢いで
バズズのベギラマの勢いを越えて飲み込んだ。

「ぐあああああーーーー!!」

その隙に、隼の剣を拾いに行った。
さすがに、この一撃で倒せる相手では無いと思っていた。

「おの・・・れ・・!」

炎から抜け出したバズズは
ダメージを隠そうともせず、苦々しそうに口を開いた。
こいつは放って置くと何をしでかすか分からない怖さがあった。
こうなったら・・・

「吹き飛ばしてやる・・・跡形も無く!!」

その言葉にカインは再度イオナズンが来るのかと
身構えたが、バズズの言葉は違うものであった。

「メガンテで・・・!」

「え・・・メ、メガンテ・・・!?」

信じられなかった。
最初自分を驚かせるために、そんな言葉を言ったのだと思った。
何故なら、こんな人間1人を殺すために、
ハーゴンらの1幹部であろうバズズが
メガンテなどして命を捨てる訳が無いと思ったのだ。

「ハッタリだと思っているな。
 簡単なことだ、蘇生魔法で生き返れば良いのだから!」

「・・・!」

カインは弾かれるように、その場を駆け出した。
メガンテは唱えられたら最後、必殺の魔法だ。
止めるには、発動を止めさせるしかない。

焦った剣筋はバズズに防御された。
さらに、その鋭い爪や牙で返り討ちにされる。

「ううっ・・!」

痛みに体勢を崩したカインであったが、
回復もせず再度立ち上がって、バズズに斬りかかった。

何としても、バズズにメガンテを唱えさせないつもりだろう。

だが、その戦略はバズズにとっても有利なものだった。
先ほどからのカインの戦い方を見るに、
この者は遠距離から中距離の戦いが得意らしい。

接近戦はそれに比べて単調になる。

その証拠に、先ほどから何度蹴散らしても、
カインは馬鹿の1つ覚えのように
斬りかかって来るしか出来ない。

「無駄なことだ!」

「・・・・・・・〜 っ・・・!」

鋭い爪に跳ね飛ばされつつ、カインが何かを呟いた気がした。

「・・・・・・・・?」

気のせいか?何かをしたか?
だがそれが何かは分からないまま、実際何も変わることなく、
カインは何度も何度も立ち上がってきて、剣で斬りかかって来る。

こうなると哀れなものだ。

単調な一振りではバズズを倒すことなど出来ない。
それくらい分かっているだろうに、それしか出来ないとは同情すら覚える。
総合的な地力では力も守りも、バズズが勝っていた。

バズズの強力な爪が、カインの身を切裂いていく。

「はぁっ・・・はぁ・・・っ・・・・」

とうとう力尽きたらしい。
何度目かの反撃を受けて、
膝をついたまま立ち上がれなくなったようだ。
回復もしていないから全身ボロボロになっている。

「その根性だけは認めてやろう。」

カインは憎憎しげにバズズを見上げた。

「心配せずとも、お前の仲間達もすぐに後を追うさ。」

バズズがそう言うと、カインが言い返した。

「アレンも・・・マリアも・・・天才だ。負ける訳無い。
 それに・・アレンなら・・もうとっくに勝ってる頃だ。」

「ほう・・・?」

「僕も・・死ぬつもりもないし、負けるつもりもない!
 お前を倒して、先に進むんだ!」

まだこんな事を言うとは少し意外だった。

「夢物語だな・・・!
 あの世で仲間と、仲良く旅を続けるが良い!!」

もうお喋りの時間は終わりだと、
バズズはカインの言葉を笑い飛ばすと
とうとうあの魔法を唱えた。

「メガンテ!!」 と。

だが・・・・

何も起きなかった。
バズズは何故何も起きないのかが分からなかった。

これは先ほどのザラキのように相殺出来るようなものではない。
実際カインはボロボロで何もしていない。

錯乱しているバズズを余所に、カインは笑った。

「何度も何度も唱えた甲斐があったみたいだ。
 ようやく効いた。マホトーン。」

「マホトーン!?」

魔法封じの魔法だ。
いつの間に唱えていたのか・・・・・。

そんなものひとつしか考えられない。
馬鹿の一つ覚えのように斬りかかって来ながら
何かを呟いていた。あれだ。

「メガンテを止めるには、魔法の発動を止めるしかない。
 だから、悪いけど、魔法を封じさせてもらったよ・・・!!」

カインはそう言うと隼の剣を地面に突き刺して、
何とかよろっと立ち上がった。
一撃、あと一撃、隼の軽い一撃ではなく、
必殺の一撃だ。

「炎の精霊よ!!僕に力を貸してくれ・・!」

両腕から生み出された巨大な炎が
カインの剣を包み込んだ。
それをバズズに向けて、カインは剣を構えた。

バズズはその巨大な炎に、思わず息を呑んだ。

「ま、待て!!1つ教えてやろう!
 お前の力は、いつか人々に疎んじられるようになるぞ!
 人間離れし、命すら手段の一つとする力を
 人々は恐れるだろう!お前の力は我らに近いものだ!」

窮地に焦ったのかバズズは急に言葉多く語り始めた。
そう言えば、サマルトリアでもそんな事を言われた気がする。

「・・・・・だから?だからなんだって言うんだ?」

「我らの仲間になれ。むざむざ人間側に付き、
 不幸な将来を迎えることはない。」

・・・・本気で言ってるんだろうか?
まぁ、確かに人間の姿をした自分が、
ザラキやザオリクを飄々と使って生死を我が物にしていたら
それは最早人間とは言えないのかもしれない。

バズズの言う事は、
あながち、外れていないのかもしれない。

だが、カインの感情は少しも揺るぐことはなかった。

「関係ないね。
 不幸になっても構わない。
 誰に嫌われたって構わない。
 魔法を将来封じたとしても、剣が使えなくなっても構わない。」

「馬鹿な!本当にそれで良いのか!?」

信じられないと言う風にバズズが詰め寄った。
だけど、今こいつに何と言われようとも、何とも思わない。

弱かった自分がこんな所まで来たのには理由がある。
何のためにここまで来たんだ。
家族を喪い、それでもここに来た理由はなんだ。

「僕の希望は『今』、お前を倒して先に進むことだけだ!」

カインは少しも怯むことはなかった。

「お、おのれーーー!!」

バズズは慌てて、手をうとうとした。
だが、マホトーンの効果で、
イオナズンはおろか、ザラキもベギラマも、何も出来なかった。

「くらええええーーーーー!!!!」

カインの改心の一撃が
バズズの胴体を貫いた。

「ぐううああああーーーー!!」

そして、さらにその炎がバズズの身体を焼き尽くしていった。
炎を振り払おうともがいているが、徐々にそれも収まっていく。

どうやら、炎から身動きも出来ず、出てこないところを見ると、
バズズは力尽きたらしい。

「はっ・・・・はぁ・・はぁ・・」

何とか息を整えて、その様子を凝視していたが、
次第に朽ちていくバズズの姿に、カインは勝利を確信した。

「・・・・や・・・った・・・・!」

カインはカランと剣を落として、
勢いそのままその場に倒れこみそうになった。

「おおっと!」

何故か、それを支えたのは、どこからか現れたアレンだった。
アレンも血みどろの満身創痍の姿だった。

「・・・ア、アレン・・・?
 アレン・・・傷だらけじゃないか!?」

「お前もだよ。
 それよりお前、剣を落としすぎだぜ?」

「ご、ごめん・・・。」

何だか会うなり怒られたが、
アレンを見ると、安心してカインは笑顔になった。
この様子だと、おそらくアレンも勝ったのだろう。

「でも・・まあ、とりあえず良くやったな。」

「へへ・・・アレンも。」

2人はそう言ってつかの間ではあったが、
互いの勝利を喜んだ。



- 続く-

2013/05/25
▲

     
     ・・・アレンとは大分戦い方と性格の違いが出てたんじゃないかなあ・・と思うカインでした。
    さて、次は正直一番大変な気もします。

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