「今日はこの辺で終わりだ」
「ありがとうございましたー!!」
カインはその場に尻餅をついた。肩でぜいぜい息をしている。
一方アレンは涼しい顔だ。息は一切乱れていない。
アレンとカインが剣の稽古をするようになって3日目。この関係は変わらない。
「よし、飯に行こうぜ。」
「ちょっと待ってよ。アレンはすごいなああ。ご飯なんて喉を通らないよ。」
尻餅をついたカインはそのまま後ろに大の字で倒れた。
「何言ってるんだ。早く行かないと飯食いそびれるぞ。飯食ったら湖の洞窟に行くんだろ。」
「そうだけど。。。」
朝稽古で疲れ果てたカインはぐったりとしている。
「お前が言ったんだろ!湖の洞窟の銀の鍵を手に入れないと先に進めないって!」
「う、うんそうだけど。。」
アレンは正直いらいらしていた。
本当ならルーラでムーンブルクへいけるものと思っていたのにそれが無理で、
仲間になったサマルトリアの王子は文字通り足を引っ張ってばかりである。
今日も朝の日課の稽古をこなしただけでバテバテである。
「じゃあ、ここで寝てろ。俺はもう行くからな。」
「ああ、待ってよーーー」
カインは正直あせっていた。
自分も国では剣と魔法学の講義はいつも真面目に受けていた。
それなのに、アレンとの腕の差は大人と子供の差だ。
今日だって朝の稽古を必死になって汗だくになって、ついて行くのが
精一杯だったのに、アレンは本当に汗一つかいていない様子だ。
「アレンは本当にロトの勇者なんだね・・・」
カインは小さい声でそう呟いた。
***
その日の昼、二人は湖の洞窟の前に来ていた。
「よし、行くぞ。準備は良いな。」
「うん。薬草も毒消し草もバッチリ残ってるよ。」
「来る途中でいくつ薬草使ってるんだか。」
カインのホイミは温存と言うことで使っていない。
あんまり使うと魔法力が尽きるんだそうだ。
本当に魔法が使えるのか、疑わしくなってくる。
そもそも魔法力が十分なら、薬草も毒消し草もいらないじゃないか。
「アレンも薬草半分持っていてよ。こっから先はモンスターも多そうだ。」
「俺はいらねーよ。お前が使えよ。」
「僕はホイミができるけど、君は出来ないじゃないか。もしはぐれたときに
何かあったらどうするんだよ。」
・・・
どうするんだよ、ってはぐれてどうにかなるのはお前だろうがとツッコミを
いれずにはいられない。俺は棺おけを運ぶなんて嫌だぞ。
「とにかく、行くぞ。」
アレンは結局薬草を持たずに入っていった。
洞窟の中は、薄暗く湿気ていて気味の悪い場所だった。
勇者の泉の洞窟も同じ様子だったが、さらにダンジョンは入り組んでいて、
難解さがあがっている。
暗がりを進み曲がり角を曲がったところに、黒い影を見つけた。
「うわ、おおねずみだ!!」
カインはあわてて、剣をかまえる。横を見ると軍隊ありも出てきた。
「軍隊ありは増えるとやっかいだ、俺がしとめる!お前はおおねずみをやれ!」
アレンはカインに指示を出す。
「うん。分かった!」
しゃべってる内に、軍隊ありは敵を認めて、仲間を呼んでいる。
「ええい、しゃらくさい!何匹増えても無駄だぜ!」
アレンが増えた分も含めて、全てしとめている間に、カインはようやく一匹のおおねずみを
しとめている。
「よし、またモンスターが来ないうちに、さっさと進むぜ。」
「うん!」
実際ここは平原と違ってモンスターだらけだった。
倒しても倒してもモンスターが出てくる。
さらに問題は・・・
「で、その銀の鍵はどこにあるんだよ!!!」
アレンは叫んだ。
「アレン・・・、銀の鍵には魔法力がこめられているって聞くよ。」
「だから、何だ?」
「だから、きっと分かると思うんだ。今まで魔法力を感じる宝箱なんてなかったでしょ?」
知らない。魔法力を感じる宝箱って何だ。
いくつか宝箱はあったが、入っていたのは5Gの金や、薬草だ。
「とりあえず先に進もうよ。きっとこの先にあるよ。」
まぁひとまずは先に進むしかない。
ダンジョンを下っていくと、さらにモンスターは増えた。
アレンもそうだが、カインはさらに傷だらけである。薬草も残り少ない。
そんなときに、空からドラキーが4匹あらわれた。
「ちっ、敵じゃないが、こう数が多いとうっとうしいな。」
俺は銅の剣を握りなおし、一匹ずつ倒していく。
カインを見ると、同じくあらわれたバブルスライムと戦っている。が、苦戦しているようだ。
ドラキーをしとめて加勢に向かったときに、ひどい衝撃があった。
何だ、洞窟の壁が崩れたのか?と思ったら、カインが叫んだ。
「アレン、危ない!!」
俺は背中から、赤い鮮血が飛ぶのを見た。
崩れた壁から兜ムカデが現れるのが見える。
俺は地面に叩きつけられた。さらにモンスターの追撃があるだろうと、俺は覚悟を決めた。
だが、俺が感じたのは兜ムカデの追撃の牙ではなくて、熱い炎。
「ギラ!!」
カインは魔法の詠唱をし、その手のひらから炎が飛んだ。
兜ムカデは炎に包まれ、苦しんでいる。
止めを刺すチャンスだ、が、腕があがらない。
すると、カインは炎につつまれたままの兜ムカデのむき出しになっている胴体に剣を突き刺した。
兜ムカデはしばらくバタバタと暴れまくったが、次第にその動きを止めた。
「アレン、大丈夫!?」
「お、おお。」
俺はゆっくりと起き上がった。
「・・・・・・・・・ホイミ!!」
背中の傷に対して、回復呪文をかける。
傷はみるみるふさがり、痛みはきえた。ホイミを受けたのは初めてだが、こんなに早く傷が治るものか。
まさか本当にこいつに助けられることがあるとは・・・。
「お前、やるじゃ」
「アレン!!!見た!!!??」
礼を言おうとしたアレンの声に、カインの嬉しそうな声がかぶさる。
「やった!やったよ、ギラができたよ!!!」
「お前初めて出来たのか?」
「そうだよ。ずっと練習してたんだけど、あんなに決まるのは初めてだよ!!」
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俺との剣の稽古以外にも、魔法の修行も続けていたらしい。
それもあってあんなに疲れ果てていたのか。
「すごい威力じゃないか。それに、ホイミも助かったよ。」
「え、アレンが僕をほめるなんて珍しい。」
「馬鹿、からかうなよ、せっかく褒めてんだから。」
えへへ。と笑い続ける。気持ち悪いやつだ。
「よし、アレン、先へ進もうよ。」
「おう。」
新しい魔法ギラを覚えたカインとアレンの二人は快進撃を続けた。
「しかし、どこにあるんだ銀の鍵・・・・」
その後もモンスターが現れ続け、ホイミや薬草を使っても
追いつかないほどだった。
二人の疲労は激しかった。
「本当に今までのところには、銀の鍵はなかったんだろうな。」
「え・・、た、多分。」
「多分じゃねえよ!」
もう一度引き返してしらみつぶしで探すのは無理があった。
さらに階段を下りていくと、
下りたつ前から、モンスターの気配を感じた。
「うわ、なんだよあれ・・・・」
「これはひどいね。」
狭いフロアの中にひしめき合うように、
スライムに始まり、タホドラキー、軍隊ありの集団、おおねずみの姿が見える。
「あ!でもあの先!あそこにあるのって、銀の鍵じゃないかな?アレン!」
カインはモンスター集団の先にある何もない地面を指差した。
「え、どれだよ。」
そんな先にちっこい鍵が落ちてても、どうやって気づくというんだ。
「光ってるじゃない?あれ、違うかなあ。」
「光るも何も真っ暗じゃないか」
「ええ?、、あの水溜りの横のところだよ・・・」
目のいいやつだな。確かに水溜りはある。が、光ってなんかいない。
「水が光って見えるのか?」
「違うよ、水溜りじゃなくて、その隣。」
どう目をこらしても光ってなどいない。
「お前にだけ見えるんじゃないか?」
え、まさか・・・とつぶやくカインだが、やがて納得したように言った。
「アレンには見えないのかな。もしかして銀の鍵の魔法力で光って見えるのかもしれない。」
「じゃあ、魔法力のない俺には見つけられないじゃないか!」
もう一度目をこらしてみるが、やはり俺には何も見えない。
「よし!!じゃあ、お前が取りに行け」
「ええ!?このモンスターの中、僕一人で行くの!?」
「別にお前一人で行くんじゃねえよ。俺が後ろでお前を守る。お前は鍵だけ取って来い。そしたらとっとこんなとこ脱出だ」
「それはアレンが危険じゃないの?」
「お前えらくなったな。俺のことを心配するなんて5年は早いぜ。」
「そ、そうだね。じゃあ分かったよ。」
「いいな、お前に任せたからな。頼んだぞ。」
「え・・・・」
アレンに何か頼まれるなんて初めてのことだ。
「分かったよ。僕に任せて!」
俺たちは、まず俺が特攻して、一筋の道を作って、そこをカインが強行突破する作戦を立てた。
もちろん敵は残るだろうが、鍵を手に入れたら、カインのギラで敵をひるませて、
その瞬間に逃げ出す作戦だ。
「よぉし、行くぞーーー!!」
突然現れた二人の襲撃者にモンスターたちはいきり立った。
「うわわわ、すごい量のモンスターだ!!」
「お前は気にせず行けーー!!」
「うん!すぐ見つけてくるよ!」
雑魚モンスターを蹴散らしたあとに現れたのは、またあの兜ムカデだ。
「また現れやがったな。こんどは俺がしとめてやる!」
しかし周りには軍隊ありの集団も見える。
「上等だぜ。まとめてやってやるよ。」
カインは敵の集団を何とか切り抜けて、先ほど見えていた水溜りにやってきた。
「この辺りだと思うんだけど。。。」
きょろきょろ探すが見当たらない。
「あ、あれーー!?さっきはここにあったのに!」
ふとアレンを見るとまさに死闘の真っ最中だ。兜ムカデや軍隊ありの一匹や二匹なら
アレンが負けるわけはないが、数が多い。
「どうしよう!アレンが死んじゃうよ!!」
引き返したほうが良いのかと思ったが、先ほどのアレンの言葉を思い出した。
「僕はアレンに頼まれてるんだ。絶対やらないと駄目なんだ。」
あわててきょろきょろ見回すと、奥のほうに一匹のスライムが見えた。
スライムを相手にしている場合じゃないが、その口元がきらりと光るのが見えた。
「あれ?」
どうも、ここにあった銀の鍵をあのスライムがくわえて逃げたようだ。
「見つけた!!」
カインは銅の剣をかまえて、横一文字にスライムを切り裂いた。
コロンとスライムの口から鍵が落ちた。
光る鍵を手に握ると、鍵は光るのをやめた。
「こ、これが銀の鍵・・・?」
カインは銀の鍵を手に入れた。
「アレン!!やったよ、見つけたよ!!!」
アレンはカインの声を聞いて、口元がゆるんだ。
やるじゃねえか。
こちらは戦闘中である。既に軍隊ありを4体はしとめた。兜ムカデも一匹しとめた。
が、やってもやっても仲間を呼び戦いが終わらない。
もちろんこちらの傷は増えていく。
「カイン!!ギラだ!!」
アレンは叫んだ。
「うん!任せてー!」
カインはギラの魔法を唱えた。炎の塊が敵をつつむ。
この際相手が倒れたかどうかは関係ない。
敵がひるんだ隙に退却だ。
「逃げるぞーーー!!」
「うん!!」
俺たちは急いで駆け出した。
しかし、上のフロアにあがる階段が見えたあたりで、炎から逃れたモンスターが
襲ってきた。
「ちぃ!」
剣を構えた俺の隣で、カインが叫んだ。
「もう一回ギラだーー!!くらえーーー!!!」
巻き起こった炎にモンスターがのまれていく。
「やるじゃねえか、よし行くぞ。」
階段をかけあがろうとした、俺たち。
が、急にカインが膝をついた。
「あ・・・・あれ?」
手で目を覆っている。こんなときに貧血だろうか。
「なにやってるんだ。急げよ。」
「う、うん。」
どうもうまく立ち上がれないようだ。
「どうしたんだよ。」
「ま、魔法力が尽きちゃったみたい・・・」
青い顔で答える。
俺はもともと魔法力なんてないから、さっぱり分からないが、
魔法力がつきるとこうなるのだろうか。
「ごめん。足を引っ張って、先に行って。」
「馬鹿そんな訳いくか。」
肩をかそうとするが、ぼやぼやしていた俺たちの前に
カインのギラに耐え切ったモンスターが現れた。
「邪魔ばっかりするんじゃねえー」
一旦脱出をあきらめて、再度剣を構えた。何種類かモンスターがいるようだが
目の前にいるのはおおねずみだ。
おおねずみくらいなら敵じゃない。
しかし、いかんせん敵の数が多い。時間がたてば、さらに増えるだろう。
一瞬俺がひるんだとき、新たにバブルスライムが現れたのに気がつかなかった。
バブルスライムは毒々しい泡を吐き出した。
「アレン!危ない!!」
「え!?」
カインがアレンとバブルスライムの間に割って入った。
「うあ。」
バブルスライムの毒を受けたカインは倒れこんだ。
「く!!」
二度も三度もこんな奴にかばわれてたまるか。
アレンはバブルスライムを一撃でしとめて、おおねずみをモンスターの山に蹴り捨てて、
カインをかついでフロアを駆け上がった。
****
次に気がついたときは、リリザの街だった。
「あれ?ここ・・・どこ?」
カインは体中に痛みを感じつつ起き上がった。
「よう、起きたか。」
枕元にはアレンがいた。
「アレン?あれ?なんで僕ここにいるんだっけ・・・?」
「なんでって、覚えてないのか。洞窟でぶっ倒れたから、俺が運んできたんだよ。」
バブルスライムに襲われたからの記憶がない。
「え、えええ!?帰り道をずっと僕を背負って?」
「そうだよ。お前意外に重たかったぞ。」
「えええええーーー。ご、ごめんなさい。足を引っ張ってばかりで。でも毒消し草もあったよね?」
「毒だけじゃねえよ。薬草だって使ったけど、お前ずっと起きなかったんじゃないか。」
魔法力を使いきり、毒も受けたショックですっかりカインは気を失ってしまったようだった。
「うわわわ、ご、ごめんよ、ごめんよ。アレンは怪我はない?」
「俺はなんともないよ」
アレンは立ち上がって腕をまわしてみせる。大きな傷はないようだ。
「よかったぁ。アレンはすごいなあ。」
カインはほっとした表情を見せたが、やはり足を引っ張ったことがショックだったようで落ち込んでいた。
「なに、言ってんだよ。」
「え?」
「銀の鍵は?」
アレンは聞いた。カインはあわてて、道具袋を探った。銀の鍵は袋の中にあった。
光っていた銀の鍵だが、今はまるで普通の鍵のようだ。
「ここにあるよ。はい、アレン。」
アレンは鍵を受け取り、じっと見つめた。
光る鍵は自分には見つけられなかった。
「これはお前が持ってろ。」
「え」
「銀の鍵はお前が持ってろ。」
「・・アレン?」
「俺じゃあ、これは手に入れられなかった。俺は一人だったら生きて帰ってこれたかも分からない。
お前がいてくれてよかったと思ってるんだぜ。」
「ア、アレン・・・・・!?」
カインはアレンが自分を褒めるのを聞いて、信じられない気持ちである。
「僕が役に立ったのかな・・」
「立ったんだよ。」
アレンの言葉に、カインは笑顔でこたえる。
「でもな!」
「?」
「あんな数発の魔法で、魔法力尽きて動けなくなるようじゃあ、やっぱりこの先足手まといになるぞ。」
アレンは釘を刺すことも忘れない。
「うん。ありがとう!僕頑張るよ!」
「よし、怪我が治ったら、今度こそムーンペタに行くからな。」
「うん!!」
初めてのダンジョンを命からがら生き延びて、二人は次の旅を見すえるのだった。
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2010/09/24
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