犬

「カインはさ・・・」
「ん?」

ムーンペタの街の宿屋の一室で朝食を取っている二人。
アレンはサラダを食べながら聞いた。

「マリア王女と仲が良いのか?」

「え!?」


カインは持っていたコップを落としそうになった。

「な、なんで・・・?」

「だってお前、最初に会ったときにマリアって呼び捨てにしてただろ。
 普通一国の王女を呼び捨てにしないだろ。」

アレンはフォークをカインに向けながら言った。

「そうだったっけ・・?えーっと」
「いや、別に良いんだけどさ。俺はあんまり会ったことないし、探すんだったら特徴を
 聞いとかないとな。」

「あ。そういうこと。」

カインはほっと息をついた。

「えーっとね、紫の長い髪が特徴で、赤い瞳。体格は・・うーん、小柄だけど、5年前だったから
 今は背が高いのかもしれない。」

「5年前ってラダトームのロト祭か?」
「そうだよ。そういえばアレンもいたじゃない。」

ラダトームでは6年に一度のロト祭が開催される。5年前の12歳のときに一度開催された。
その前は6歳のときに開催されている。どうやらその6年前は跡継ぎが一気に産まれたということで
非常に盛り上がったらしい。

そして来年もまた開催される予定・・であったが、ムーンブルクの悲劇があったため、
それどころではない現状である。

しかし、何度か赴いてるにも関わらず、アレンにはあまり記憶がない。

「いた・・のは覚えてるけど、気の強そうなお姫様。」

「僕たち3人と妹のマイしか子供がいなかったから、よくしゃべったじゃない。覚えてないの?」

「俺は、あの堅苦しい場所が苦手でさ。ラダトームの古い街並みを見学して回ったのは良く覚えてるんだけどなー」

過去のことは、すぐに忘れてしまうアレンであった。
特に興味のないことは記憶に残らない。どうも王や貴族たちが多く集まる堅苦しい場所は自分にとって
苦手な場所であった。

「まぁでも言われてみれば思い出してきた。小さいくせに気が強かった。」

アレンもマリアも二人とも気が強い。

「気が強いって・・。ムーンブルクにはマリア王女が一人いるだけ。
 強くなければ駄目だったんだよ。それにね・・」
「それに?」

「マリアは本当に強いんだよ。魔法だって僕よりずっとできるんだ。いや、僕だけじゃなくて、
 その辺りにいる魔道師なんかよりも、強いんだよ。」

えー、何じゃそりゃ。
貴族の女と言うものは箸より重いものは持たないってくらいの生活をしてるもんじゃないか。
気が強いだけならまだしも、魔道師よりも強いってのは、どんな女だ。

「ひどいなあ。マリアだってロトの血を引いているんだ。強くてもおかしくないでしょ。」

「あ、そうか。」

ロト同盟国の姫なのだから、ロトの血を引くのは当たり前か・・。
ロトの血統とは思えばすごいもんだな。

「お前の妹も強いのか?」
「うん。マイは細腕だけど、ああ見えて力と素早さがあって、僕もいつもやられてるんだよ。」

「いつもかよ!お前なっさけないなー!」

大げさに言ってやると、「いや、だって本当にあいつ強くって・・・」とぶつぶつカインはつぶやいている。

「ふーん。一度手合わせ願いたいもんだ。」

「うわあ、アレンとマイの手合わせなんて僕は見たくないよーー。」

カインは首をぶるぶると振っている。

「話がそれたけど、マリアの話だよ。
 マリアは確かに強いけど、、、心配だよ。今日は早速ムーンブルクへ行こう。きっと何か
 手がかりがあるよ。」

「ああ。」

朝食を終えた二人は早速身支度を整えた。



昨日命からがらムーンペタの街にたどり着いたため、まだ道具の補充などができていない。
道具屋に向かうこととした。

「薬草と、毒消し草をください。」

「あいよ。」

人の良さそうな道具屋の主は二人の姿を嘗め回すように眺めて言った。

「あんたたちは・・ここの人間じゃなさそうだね。」
「あ、はい。僕はサマルトリアの生まれです。彼はローレシアです。」

「そうかい。だったら武器屋も覗いていきな。あっちよりは強力なのがあるぜ。」

道具屋の主はおまけだよと言って、福引券を1枚くれた。

「なんだこれ?この紙で何かもらえるのか?」
「アレン、福引券知らないの!?これで一等になったらゴールドカードがもらえるんだよ。
 二等でもいのりの指輪だよ。あとで行ってみようよ。」



アレンたちは次に武器屋を覗いた。

「へー・・・確かに、立派なもんだな。はがねの剣に、はがねの鎧。」
「これは僕には重たくて装備できないよ。アレン買っとく?」
「そうだな。」

アレンは武器を新調した。古い武具は売り払って資金とした。



その後、福引所へ。

「よーし、今日こそはいのりの指輪を当てるぞ!」

カインは気合が入っている。

「いのりの指輪って何だよ?」

「魔法力が回復する夢のようなアイテムだよ。」

目を輝かせて応えるカイン。

「げ、いらね。」
だが、魔法力のないアレンにとっては無駄な装飾品である。
興味をなくしたアレンの隣で、カインは福引台に立った。

いのりの指輪が出るには★がみっつ必要らしい。

★がひとつ、ふたつと出て・・

「お、当たるんじゃないの?」

期待の眼差しを向けたところに出たのは●だった。

「はーい、お客さん残念。はずれ。残念章に福引1枚どうぞ。」
「ちぇーー。いつもふたつまでしか出ないんだ。次はアレンやってみたら?」

カインは残念賞の福引券を1枚アレンに渡した。

「もらってもなあ。俺指輪なんていらないし。3位は何なの?」
「まどうしの杖。使うと炎が出るんだよ。」

「へー。」
魔法が使えないアレンにとっては、面白い武器だ。

「俺一度そういうの使ってみたいな。」

「アレンが杖?似合わないよ?」

「うるさいよ。」

カインを一発殴って、アレンも福引台に立った。

「杖は月が3つ出ればあたりだよ。頑張ってー」
「よぉし!」

福引台を動かすアレン。
しかし、出たのは星とハートと月のマーク。

「ざんねーん。兄さんは大外れ。」
「月、出たじゃないか!」
「アレンー、一個じゃ駄目だよ〜」

福引屋の主人にほえるが、外れは外れ。今度は残念賞ももらえなかった。

「壊れてんじゃないの?」

「まぁまぁ。そうそう当たるもんじゃないよ。今度また機会があったらやろうよ。」

「次は絶対あててやるからな。」

意外と熱中してしまったアレンであった。






道具も武器も整えた二人。
ムーンブルク城へ向かう前に教会に立ち寄ることにした。誰か城の状況を知るものが
いないか情報収集のためだ。

「くーん」

教会の敷地に入ったところで一匹の犬が鳴いていた。

「白い犬・・・かわいいね。」

カインはふと目に入った犬の前にしゃがみこんだ。

「おーいカイン、何やってるんだ。早く行くぞ。」
「う、うん。ねえ、アレン、この子泥だらけだよ。どうしたんだろう。」

「キャン!キャン!」

二人の何気ない会話を聞いた白い犬はさらにもう一度ほえた。
尻尾を振っている。

「人懐っこい子だね。ねえ。アレン、泥を落としてあげようよ。」

「何言ってんだよ!お前のんき者だとは思ってたけど、一々動物や草や花に気を取られてたら
 いつまで経っても辿りつけねえぞ。」

ただでさえ、大陸を渡ってからこちらと言うもの、珍しい植物だの何だのと
道草をするカインであった。

「うー、そうだよね・・・。」

あきらめたカインは再び犬に向き合った。

「ごめんよ。今は急ぎの用があるんだ。また戻ってくるから、ここで待ってて・・
 って言っても分かんないよね・・。うーん。。。。そうだ!」



カインは道具袋に入っていたスカーフを取り出して、犬の首に巻きつけた。

「これ妹のマイのなんだよ。綺麗でしょ。かわいくしといてあげるね。
 僕がまたこの街に帰ってきたら、スカーフを目印にきっと見つけて泥をおとしてあげるからね。
 ちょっとだけ待ってて。」

「おい!カイン、置いていくぞ!!!」

アレンはもう先に進んでいた。

「うん、今行くよー。じゃあね!」

カインも走って追いかけていった。



「くーん・・・・」

二人がいなくなったあと、白い犬は自分の首に巻かれたスカーフと、
去っていった二人をずっと見つめていた。

- 次章へ続く -

2010/09/26
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えー、そろそろ王女を・・・と思ったんですが、出てきたのは犬でした。
時系列にやる気はないんだけど、二人旅をもうちょっと書きたいと思って、
こんなになりました。
福引とか楽しいよね。
 
      ★2P漫画化しました
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