ここはドラゴンの角と呼ばれる塔の6
階。
ここまでの道のりは遠く険しいものであった。
ドラゴンの角に至るまでは、砂漠が広がり、三人の体力は大幅に奪われた。
そしてこの塔内はやはり魔物たちが巣食うダンジョンとなっていた。
幸いに、塔内の構造は単純なものであり、
3人は何度か魔物から遭遇しては戦い、あるいは体力温存のために逃げつつ、
ここにたどり着いた。
アレンは風のマントを取り出し、身にまとった。
「か、覚悟はできたか、お前ら。」
そう、この6階から今から自分達は飛び降りようとしている。
ごくり。
息を飲んで、カインは四つんばいになって、6階から下を見下ろした。
ピューっと風が吹き抜ける。
間違いなく落ちたら死ぬだろう。ここから飛び降りるなんて
我々は自殺願望者だったっけ・・?とふと思った。
下には運河が流れており、その向こうにもうひとつのドラゴンの角が見える。
そちら側の大陸に降り立つことが出来れば、ルプガナは近い。
「風のマントって空をびゅーんと飛べるんだよね・・・?」
カインはマリアに聞いた。
風のマントの効力はムーンブルクではよく謳われている。
しかし、そこでの効力と言うのは・・・
「鳥のように飛ぶと言うのとはちょっと違うわ。
浮力が増して、自然落下よりゆっくりふわふわと・・・
あくまで『落ちる』の。」
「落ちるのかよ!」
アレンもびゅーんと飛ぶことを期待していたため、ぎょっとした。
「そう、だからあっちの大陸までは、せめて大ジャンプして、
それから降りていきましょう。真下に落ちたり、
川に落ちたりしては意味が無いから気をつけて。」
マリアは冷静であった。
「いや、気をつけてって・・・どうやって・・?」
「助走をつけてみてはどうかしら?」
・・・・マリアは至極真顔でアドバイスした。
「なるほど。建設的で健全な助言をありがとう。」
こんなことなら一度練習しておけば良かったと思った。
アレンはその場でぴょんぴょん飛んでみる。足の具合は悪くない。
「マリア、怖くないのー?」
カインは冷静で落ち着いているマリアに聞いた。
正直自分はびびっている。
「大丈夫よ。とりあえず死にはしないわ。
勇者ロトはラーミアと言う神のご加護の元空を飛べたと言うし。」
「いないよ、ラーミアなんて今いないよー」
「まぁ、そうね。」
マリアはくすりと笑う。
「マリアって余裕だなあ。」
「大丈夫よ。私達空飛べるじゃない。」
「え?」
いつパタパタと空を飛んだだろうか?カインは翼が生えたことがあっただろうかと
記憶を辿ったりした。
「やーね。ついこないだもカインのルーラで飛んだじゃない。
いざとなったらカインが助けてくれるでしょう?」
「あ、ああ!そういうことー。」
すっかり忘れていた。そうだそうだ。ほんとに駄目そうならルーラすれば良いんだ。
「よーし、お前ら、そろそろ行くかぁ。この世に未練はないな?」
入念な柔軟体操を終えてアレンが言った。
「ここで死んだら未練だらけよ。」
マリアが答えた。死ぬ気など全くないらしい。当然だ。
「じゃあ、生きて、飛んで、街についたら何がしたい?」
ふとアレンは質問を変えてみた。
「はーい、僕はふかふかのベッドでゆっくり寝たいです〜」
ムーンペタから砂漠を経由した今回は野宿ばかりで宿が懐かしい。
カインはふかふかのベッドに転がって、シーツに包まってゆっくりと
休めたら極楽だろうなあと思った。
「出たなのんきものめ。俺は港町の海鮮料理を山のように食う!」
アレンは道中の続く野宿でまともなものを食べておらず、
とにかく腹が減っていた。うん、考えると余計腹が減る。
早く食いに行きたい。
「そうね、私は、綺麗なお水のお風呂に入って汗を流したいわ。」
城にいた頃と違って、今は当然お風呂にも入れない。
たまに湖で水浴びをするのが精一杯である。
しかも仲間とは言え、男性2人との旅ではゆっくりとつかる事もできない。
3人は顔を見合わせて笑った。
「これじゃあ勇者ロトも嘆いてるぜー。子孫達は大丈夫かって。」
「ロトだってきっとお布団で寝て、ご飯食べて、お風呂入ってたさ。」
「きっとそうよ。体を癒すときがあってもいいはずよ」
いい具合に肩の力が抜けた。
きっとうまくいくだろうという気がした。
「んじゃ、行こうか。助走するから、掴まれよー」
アレンは二人に手を伸ばした。
「よろしくね。」
マリアはその手を取った。
「ん。ほれ、カインも。」
「あ、そうだ。僕、アレンに頼みたいことがあるんだ。」
カインはふと真面目な顔になってアレンに言った。
「何だよ。」
「・・・・いや・・・・、街について・・・落ち着いてから言うね。」
一瞬考えてからカインはそう言った。
「気になるだろう?何だよ?」
「ごめんごめん、今のなし!さぁ行こうよ。」
カインはアレンの手を取った。
「頼んだよ、リーダー」
なんか気味が悪かったが、とりあえずアレンは大空に向かって立った。
「行くぞ。せーの・・・」
三人は走り出した。
「いち・・・に・・・・の・・・」
「さん!!」
初めてやった割には息ピッタリに踏み出すことができた。
「うっわああーーー」
果てしなく青い空が広がる。その中に自分達はいる。
眼前に広がるのは、これから旅をする大陸。
【 挿絵を見る
】
「あ、あれ!!あの辺がルプガナじゃない!?」
カインはふと右を見ると街を見つけた。
上空から見ると多くの建物が集まっている集落が見える。
海のそばにあるし、きっとあれがルプガナだろう。
「ねぇ・・・そしたら、あっちの大陸。あれがアレフガルドかしら!?」
マリアは空いている左手で指差した。東のほうに丸い大陸が見える。
勇者ロトが舞い降りて、勇者アレフが世界を救ったという
伝説の大陸が見えていた。
「おー・・あれかあ、待ってろよ。アレフガルドー!!」
ラーミアはいないが、こうやって空を飛んでると
アレフガルドも近くに感じた。すぐに行けそうだった。
眼下には運河が見えた。
「よっしゃあ!川を越えたぜええーー!!」
川さえ越えれば、あとは降下していって大丈夫だ。
「すごい!すごいね!僕達本当に空を飛んでるねー!」
「お前らあちこち指差すのは良いけど、手を離すなよー」
飛ぶ前はあれほど怖かったが、今は不思議と恐怖心は無かった。
そして無事に三人は大陸に降り立つことができた。
「無事だな、お前ら?」
アレンは両手をつかんだままの二人に聞いた。
「ええ、大丈夫よ。楽しかったわ。」
「うん!すごいねえ、あの塔から・・・こんなに飛んだんだー」
三人は無事を祝った。
「いやあ、すごいもんだなあ、このマント。」
アレンは風のマントを気に入ったらしく、外さずつけたままにするようだ。
「空から見えていたな。ルプガナはあっちだ。行こうぜ。」
広大な船旅の起点となるルプガナはもう目と鼻の先であった。
- 次章へ続く -
2010/10/06
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