カインが取り出したのは今持っている限りのお金であった。
「今、8200ゴールドしかないんです。
だから、全然・・あの、全然足りないのは分かってるんですけど・・。」
デルコンダルに来た当初、アレンが欲したドラゴンキラー。
ドラゴンすらも貫くその武器は、きっと今の戦いに役に立つはず。
でもこれは、5万ゴールドもするとアレンが言っていた。
「なんじゃ、頼みごととはそんな事か。」
カインがデルコンダル王に願いごとを申し出ると
王は拍子抜けしたような顔をした。
「あ、あの・・・そんな事と仰りますが、
なんとか・・お願いできませんか?
王様に言うのは筋違いだと・・思いますけれど。」
カインの声のトーンがしぼんでいく。
そんなときであった。
ドン!!
背後から巨大な爆発音が鳴り響いた。
驚いて振り返ると、
大きな大爆発が起きていた。
「あ・・!!」
これはベリアルの魔法であろう。
爆風に敵も味方も関係なく吹き飛ばされていた。
特に近くにいたアレンとマリアは直撃を受けたようであった。
「アレン!マリア・・!」
思わず駆け寄ろうかとしたが、
マリアがアレンに回復魔法を施しているのが見える。
そしてアレンが剣を地面につきたてて、
立ち上がるのが見える。
二人の目の光は消えていなかった。
まだ戦うつもりだ。
自分がやるべきことは・・・?
カインは再度デルコンダル王のほうに向き直った。
「王様、お願いします!!」
デルコンダル王もベリアルの恐るべき魔法の破壊力に
しばし目を瞠っていたが、まだ戦う意思のある二人を見て、
カインの願いに耳を傾けてくれた。
「良いだろう。すぐに用意させよう。」
「あ、ありがとうございます!!」
カインはぱあっと表情を明るくした。
「ついてくるが良い。」
「は、はい!」
重い足を引きづりながら、カインは王についていくことにした。
「アレン・・・まだ駄目よ・・。」
まだ膝をついたままのマリアは
立ち上がったアレンにまだ回復魔法を施そうとした。
魔法はベホイミだった。
「大丈夫だ。これで十分動ける。」
アレンはロトの剣を持ち直した。
「マリア、お前こそ動くな。
あいつの狙いはお前らしいからな。」
「え?」
ベリアルの狙いはマリアなのだと、カインが言っていた。
何を狙っているのかはしらないが。
「ちょっと荷が重いけど、俺がおっぱらってやる!」
アレンは走り出した。
相手は体格が良すぎて、自分の動きを追えていないだろう。
アレンは離れたところから何度も剣を振るった。
その剣気は地を這い、ベリアルに襲い掛かる。
「ほう・・。」
ベリアルは興味深そうにその攻撃を見ていた。
だが、そんな攻撃はベリアルにとってはそよ風のようで、
鬱陶しそうに手で振り払った。
幾重にも重なるアレンの巻き起こした攻撃が
ベリアルの直前で止められた。
だがその剣気は地面を巻き上げて、視界を閉ざす。
「いまだ!」
アレンの狙いはそれだった。
一気に近づくと、ベリアルの首筋を狙った。
「素晴らしいな・・・。」
「!?」
ベリアルはアレンを見もせずに、
三又銛の武器を取り出すとロトの剣による攻撃をさえぎった。
「こいつが武器!?うわっ」
そして、三又銛を振り回すと、アレンの体を
大きく壁に投げつけた。
「がはっ!!!」
アレンは背中を激しく叩きつけられて
その場に崩れ落ちた。
「く・・・そ・・・っ・・。」
身をよじって、身体を起こそうとするが、
目の前にベリアルが迫ってきていた。
「早い!」
ベリアルはその大きな足で、
アレンが持つロトの剣と右腕を踏み潰した。
「あ・・あ・・・・ああーーー!!!」
アレンは激しい苦痛に叫び苦しんだ。
「ア、アレン!!!」
マリアはあわてていかづちの杖を使って、
アレンを助けようとした。
舞い起こる風がベリアルの意識をこちらに向けることに
成功した。
「姫よ。しばし待つが良い。
私はこの者の強さを喜んでいる・・・・。」
「どういうことよ?」
アレンの強さを喜んでいるという事か?
ベリアルの狙いが分からない。
「アレンと言ったな・・・。」
「!?な、ん・・・?」
ベリアルはアレンに向かって話し始めた。
「お前ほどの力があれば、こんな所で死ぬこともない。
どうだ?私たちと共に来ないか?」
「はぁ!?」
かけられた言葉は思いもよらないものだった。
「ふざっけんな!死んでもそんな事断る!」
アレンはようやく半身だけを起こすと、
なんとかそれだけ虚勢を張った。
ベリアルはその答えにため息をついた。
「お前たちは馬鹿だな。
せっかくのこの恵まれた機会をふいにしようとする・・。」
「お前たち・・だって?
もしかして、お前らカインにも・・。」
「ああ、そうだな。サマルトリアであの王子はこの誘いを断った。
そしてその身体を投げ出し、蝕まれていった。」
アレンはマリアと顔をあわせた。
自分たちが知らないところで、サマルトリアで行われていたこと・・・。
「そういうことだったんだな・・・。」
アレンは相手を睨みつけると、
しかし少し納得したように笑った。
「何がおかしい。」
「あいつの解せない行動が少し分かったからな。
そりゃ、そんな誘いは断るわ。」
今度は鼻で笑った。
「あいつは呪いをかけた高位の術者を倒せば
呪いが解けるっていってた。
つまり、お前を・・・倒せば良いってことか!?」
アレンはよろっと立ち上がると、
左手でロトの剣を持ちかえて、
ベリアルに斬りかかった。
「そんな剣では私は斬れない。」
ベリアルはその攻撃を受け止めるとそう言ったとき
ピキッと嫌な音が手元から聞こえた。
「え!?」
アレンがふとロトの剣を見ると、
剣の刀身にヒビが入っていたのだ。
「え・・な・・!?嘘だろ!?ロトの剣が・・・!!!」
長い歴史の戦いの中でダメージが蓄積されていたのか、
それとも、先ほどのベリアルの攻撃で刀身にダメージがあったのだろうか。
伝説のロトの剣にヒビが入るなんて信じられなかった。
「ふん。」
つまらなそうに、ベリアルはその剣戟をなぎ払った。
アレンは地面に叩きつけられる直前に
何とか体制を整えつつ着地した。
が、呆然とロトの剣を見つめていた。
「ア、アレン・・・!!」
マリアも心配して駆け寄った。
「・・・そんな・・・・。」
アレンはロトの剣の柄をぎゅっと握り締めた。
「これで攻撃力は半減か?
教えてやろう。残念ながら、術者は私ではない。」
「くっそ・・・。そうかよ・・。」
今の自分たちにベリアルを倒すことは不可能にも思えるが、
それでも一瞬見えたかのような光が消えていくのを感じた。
「そんなにあの仲間が救いたければ、道は一つあるさ。」
「え・・、何だ?何だよ、それ!!」
「呪いの対象を移し変えることが出来る。
仲間の呪いをお前に移し変えれば、仲間は助かるだろうさ。」
その言葉にアレンは目を見開いた。
「・・・・本当か・?」
「そんなこと!」
アレンはカインのことを思い返した。
ずっと呪いのことも隠して、
徐々に動けなくなる恐怖と戦いながら、
今まで戦い続けていたのだ。
今のままだとカインはもうすぐ本当に
動けなくなる日が来るだろう。
助ける方法があるのなら、なんでもしてやろうと思っていた。
「それが・・できるんで・・あれば・・。」
ごくりと息を呑みながらアレンが言った。
「馬鹿!アレン、そんなことしても何にもならないわ!」
マリアが驚いてアレンを制止する。
そんなマリアにアレンは自分の考えを説いた。
「呪いを解く方法は見つかってない。
もうカインには時間がないんだ。
これで、少しでも時間がかせげれば良いじゃないか。」
「そんな・・・・・・アレン・・・。」
「呪いはお前とカインが解いてくれると信じてるさ。」
馬鹿な自分には体を張って時間稼ぎをするくらいしか
出来ないだろう。
カインもマリアも頭が良いから、
きっと何か良い方法を見つけてくれる。
「さあ、やれば良い。」
アレンは一歩前に出ると、そう言った。
「よく・・・言った・・・。」
その声はベリアルではない、どこかから聞こえた気がした。
ガクンッ
アレンは自分の体から力が抜けるのを感じた。
身体が重い・・。
耳鳴りがする・・・。
自分を覆う黒い膜のようなものが見える。
顔を上げると、目の前には赤いものが見える。
赤い・・・赤い・・・・これは何だ?
これは・・血だ・・・。
何だ・・これは・・・誰の血だ?
アレンはどんどん耳鳴りが激しくなるのを感じた。
頭が痛い。
「あ・・・、ああ・・・あ!!」
「アレンどうしたの!?」
マリアはアレンの急な変化にアレンを呼び戻そうと
必死に身体を揺すった。
だが、アレンは大きく目を見開いたまま、
何かに苦しんでいた。
「アレン!?・・・しっかりしてアレン・・・・!!」
マリアは、何度もアレンの名を呼んだ。
これがカインの受けている呪いだというのか?
全然違うのではないのか!?
そう思いながらもマリアは心の奥底に引っかかるものがあった。
「アレン!?アレン!!何やってるんだ!?」
その時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
マリアが振り返ると、そこにいたのは
デルコンダルの兵に身体を支えられるようにしているカインであった。
「カイン!?あなた、どこから?」
カインはずるずると足を引きづりながら、
アレンの元にやってきた。
その袖を引っ張りながら、大きな声で語りかけた。
「アレン!!駄目だ、目をつぶって!」
「カイン・・か?心配するな・・・。
お前の呪いは俺が解いてやる・・。」
まだどこかその眼は遥か空を見つめながら、
アレンが苦しそうにそう言った。
カインは大きく首を振った。
「ア・・アレンを犠牲にしてなんて、誰が、誰がそんな事を望んだんだ!!
そんな事僕は望んじゃいない!」
そう言いながら、カインは泣きそうな気持ちになった。
アレンは自分を救うために、自らの身を省みずに
その呪いを一身に受けようとしてくれたのだ。
でも・・・そんなことはカインはこれっぽっちも
望んだことじゃなかった。
「だけど・・・・。」
「アレン、目を閉じろ!何も見るな!何も聞いちゃ駄目だ!
『捕らわれて』しまう・・・!」
カインは必死にアレンに叫んだ。
それでもアレンは何かに取りつかれたように目を閉じることも出来なかった。
それに気づくと、カインはアレンの服の首筋を捕まえた。
「だったら・・・だったらこっちを見ろ!!!僕を見ろ!!」
ぐいっとアレンの顔をこっちに向けた。
「カイ・・ン?」
ぼやっとしていたアレンの視点がはっきりとカインを捕らえた。
意識がカインに集中した瞬間、ふっとアレンに見えていた黒い膜が消えていった。
「アレン・・・何が・・・見える?」
「何って・・・何って、カイン。お前だよ・・・。」
カインがは〜〜〜っと息を吐いて座り込んだ。
間に合った、止められた。
「え・・?え、なんだ?あれ、どうなったんだよ、俺。」
アレンからは耳鳴りも頭痛も、身体の重さも何もなくなっていた。
「呪い・・・失敗したのか?」
「馬鹿、馬鹿アレン・・・。
本当に馬鹿野郎だ、君は。馬鹿すぎてびっくりだ・・。」
「な、何だよ!馬鹿馬鹿言い過ぎだろ!
俺がどんだけ考えたと思って・・・。」
アレンの言葉をカインは人差し指を立てて制止した。
「二度と・・・やめてね・・・。あんなの。」
「っ・・・・。」
どうやらアレンに呪いを移すのは失敗に終わったようだ。
ではまだカインは呪われたままという事だろう。
それが良かったのかどうなのか、何とも言いがたいが、
事態は収まった。
しかし・・・
マリアの心はざわついでいた。
『呪い』
よく思い出せ。
私は、あれを知っている。
「お前たちの作戦は失敗したようだな。
まぁ自ら放棄したわけだが。姫よ。」
「・・・・・・・何かしら。」
マリアは顔を上げた。
「これ以上茶番に付き合うの時間は無い。」
「・・・・そうね、時間がないのは私も同じことよ。」
マリアはいかづちの杖を握り締めた。
「マリア・・気をつけろ!」
アレンの言葉にマリアは振り返って、頷いた。
「アレン、あなたの覚悟見せてもらった。
私も・・・・本気でやらせてもらうわ・・・。」
「え・・?」
「これって・・・。」
ムーンペタで起きたのと同じだ。
マリアのいかづちの杖に激しく魔法力が収束していくのを感じる。
でも今度はマリアははっきりと魔法の詠唱を行った。
「大気と大地にまじわる精霊よ。
我が手に集え。我が命に従え。
ここに存在しうる全ての悪しき魂を、破壊せよ!」
そこまで言うとマリアはいかづちの杖を天にかかげた。
「 イ オ ナ ズ ン ・・・・!」
その瞬間。
激しい爆発が起きた。
爆風に敵も瓦礫も何もかも吹き飛んだ。
でもそばにいるアレンとカインはまるで
その光に包まれているかのように
爆風の影響から守られていた。
「す・・・っげ!!すげえぞ、マリアのイオナズン!!」
アレンは興奮しながら、その魔法の効果を体感していた。
「いっ・・つ。」
負傷しているアレンの右手に何かが触れた。
カインがその手を取っていた。
「痛いよ。カイン、何するんだ。」
「アレン、傷を治すよ。」
カインは必死に残り少ない魔法力を左手に集中させた。
もうカインには大した魔法も使う余力は無かった。
ベホイミすら出来そうになかったが。
あと、一つだけ。
初めて覚えた魔法・・・。
これくらいなら、今の自分にも出来るだろう・・と言うか出来て欲しい。
「ホイミ!」
カインがそう言うと、ふわっと緑色の光が
アレンの右手を包み込んだ。
「お。治った。サンキュー。」
ほっとカインは胸をなでおろした。
「アレン、ベリアルはイオナズン一発で倒せるとは思えないんだ。」
「あ?ああ、そうだな。
だけど、見ろよこれ。」
アレンはロトの剣を差し出した。
そこにはやはり先ほどと同じくヒビが入っている。
「え・・・ロトの剣が・・・そんな!」
「やべーぜ。あいつロトの剣にヒビ入れやがるんだ。
大かなづちも吹っ飛ばされちまったし・・・。
とりあえず、鉄のやりで目とか狙ってやってみるか。」
アレンが仕方なく取り出した鉄のやりは余りに細身で
頼りなかった。
「アレン、武器ならこれ・・・使って。」
カインは先ほど王様に頼み込んでもらってきたあの武器を
取り出した。
「これ!!5万ゴールドのドラゴンキラー!!
なんでお前これもってんの!?」
カインは何も言わずに笑って頷くと、それを渡した。
アレンは受け取ると腕に装着した。
やはりアレンは武器ならなんでも装備できるようだ。
「よし・・・これなら・・・・!」
アレンは立ち上がった。
イオナズンの爆風が消えていく。
そこには傷は受けながらもやはり仁王立ちで
立っているベリアルの姿が見えた。
「イオナズンでも倒せないなんて・・・。」
マリアは杖をおろすと、はぁはぁと息を切らした。
前のように意識を失うことはないが、
やはりイオナズンで消費する精神力は相当のようだ。
「マリア、すげかったぜ!選手交代だ!」
アレンはマリアの肩をぽんと叩くと、
一歩二歩と走り始めた。
結局カインの呪いも解けなかった。
自分たちは何も前進できなかったのかもしれないが、
それでも二人の仲間はこんなにも心強い。
「くらえええええーーー!!」
アレンは飛び上がると、ベリアルの顔面を狙った。
「アレン、行けーーー!!!」
「アレン・・・!」
二人の声が聞こえてきた。
絶対、外さない。
イオナズンされようが何をされようが、
この一撃、絶対外してたまるか!!
ベリアルは攻撃を避けようとした。
だが、アレンの攻撃は、ベリアルを追い続け、
「うおおおあああ!!」
その瞳を付き刺した。
「ぐ・・・・ぐああああああ!!」
初めてこの巨大な魔物が苦しそうな悲鳴を上げた。
だが、直後にベリアルは何故か嬉しそうに言った。
「強くなった・・な・・。強くなっていく・・・お前たちは!」
「どういうことだ?」
アレンは怪訝な表情をした。
何故さっきからこいつは自分たちが強くなったなどと言うのだろうか。
何を考えているのだろうか。
だけど、そんなことはどうでも良かった。
今はこの敵をおっぱらって、平和を取り戻すことだけ考えれば良い。
アレンは再度右手を振り上げると、
今度はベリアルの喉元を狙って、襲い掛かった。
「もう・・・一発だあ!!」
だが、その一撃がベリアルの身体に触れることは無かった。
ベリアルは不適に笑うとこう言った。
「次に・・・会うときを楽しみにしている・・・。」
そして、アレンの一撃が身体に触れる寸前にその姿を消したのであった。
- 続く-
2012/02/03
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