デルコンダル6

「早く逃げよ!退路はこちらだ!!」

デルコンダル王の指示と兵士たちの誘導に従い、
闘技場にいた観客達は速やかに避難を始めていた。

一足先に戻ってきていたマリアは
何故こんな危険な場に急に王が戻ってくるのかと驚いたが、
毅然としたその様子は国民を愛する王の姿だと感じた。
それは心強かった。

マリアは観客の安全については、兵士たちに任せて
魔物たちと戦っていた。

数が多いため、物陰に隠れて
いかづちの杖に秘められた力で攻撃をするのだ。

魔法力を無駄にしないためにも、この戦法は
有効であるかに思えた。

しかし・・・・

『こんな戦いじゃあ埒があかないわ。
 根源がどこかにあるに違いない・・・・』

そう考えて再度杖をかざしたとき、
魔物の群れが妙に興奮したかのように見えた。

『?』

マリアが思わず闘技場を覗き込んだとき
思わぬところから激しい衝撃を感じた。

「ああっ!!」

何もなかったはずの背後から爆発が起きたのだ。

地面に叩きつけられたマリアは
驚いて背後を振り向いた。

そこにいたのは見たことも無い化け物・・・。
だが、マリアはどこかでそれを知っていたような気がした。
どこかで見たことがあっただろうか?

「見つけたぞ、ムーンブルクの王女。」

「・・・・・・。」

化け物は品定めするようにマリアの姿を見定めた。

「魔物たちの進撃がいまひとつ進まないと思ったら
 お前が足止めをしていたのか。
 たった一人でよくも健気に戦えるものだな。」

まるでマリアを労うような言葉だった。

「お前は何者?
 名を名乗りなさい!」

「ベリアル。」

「・・ベリアル?
 この魔物の群れはお前の仕業だったのね。
 デルコンダルの滅亡を狙っているの?
 だとしたら、そうはさせないわ!」

マリアの決意に対して、ベリアルは
滑稽そうに笑った。

「勇ましい姫だ。あの時とは違って・・・。」

「あの時・・・・???お前は私を知っているの?
 何者なの?」

ふん。と鼻を鳴らすと
しばらく動きを止めていた魔物の群れが再び
動き始めた。

「っ!!
 話をしている時間はないようね!」

マリアはいかづちの杖を使うことで
温存していた魔法の詠唱を始めた。

「イオラ!!」

敵が攻撃を仕掛けられる前の先制攻撃だ。
イオラなら、魔物の群れにも
眼前のこの化け物にも効果があるだろう。

確かに、魔物たちには効果があったようだ。
爆風に吹き飛ばされて、
うめき声を上げながら動かなくなっていく。

だが、爆風が晴れるとそこには
全く傷一つ受けていないベリアルの変わらない姿があった。

「!」

「腕を上げたようだな、姫よ。」

「なんなの?あなたは・・・。」

「だが、爆発と言うよりはそよ風だな。
 同じ魔法ならこれくらいはやってもらいたい。」

ベリアルは右腕に意識を集中させると
魔法力をそこに集積し始めた。

マリアの先ほどの魔法とよく似ているが
規模は段違いだった。

「くっ!!」

瞬間的にマリアは次に来る魔法が何かを悟った。
イオナズンだ。

こんな至近距離からのイオナズンなど
最早避けようがない・・と、身を縮めて精一杯の防御をしたとき、

がん!!

とベリアルの頭から鈍い打撃音が響いた。

「させっか・・よ!!」

その声にマリアは思わず顔をあげると、顔をほころばせた。

大かなづちでベリアルの無防備な頭部を殴りつけたのは
アレンであった。

「アレン!!」

「おう!!無事か!?俺、間に合ってるか!?
 腕とか足とか吹き飛ばされてないか!?」

「え?ええ、大丈夫よ。」

アレンは着地するなり、ちらちらとマリアの無事を目視して確認し
ほーっと息を吐いた。

「良かった。無事だな。間に合って良かった。
 間に合ってなかったらカインにぶっ飛ばされる所だ。」

「そうよ、カインは!?カインはどうしたの?」

「大丈夫、無事だよ。」

アレンはベリアルからは眼を離さず
右手でとある方向を指差した。

そこには壁にもたれ掛かるようにしてはいるものの
カインの姿があった。
デルコンダルの兵が集まっていたので、そこなら少し安全かと預けてきた。
なにやら兵と話をしているようだ。

「良かった!無事だったのね。」

「ん。なんとかな。置いてけ置いてけって煩かったんだが、
 無理やり連れてきた。悪いが、そこんとこよろしくな。」

「了解よ。」

マリアも安堵して微笑んだ。
カインを一人放っておけなかったのであろう
アレンの心境は良く分かる。

しかしゆっくり話を聞きたいが、
こんな強敵の前ではゆっくり会話などできない。
こういう時の時間稼ぎといえば・・・

「マリア、ちょっとさ。」

「ええ、分かってるわ。マヌーサね!」

瞬時にアレンの意図を読み取ると
マリアはマヌーサを唱えた。
マヌーサが生み出した幻がベリアルを包み込んだ。

「くらえ!」

アレンはその隙に再度殴りかかった。

マヌーサの幻に包まれたままのベリアルに
確実に一撃を入れられると踏み込んだアレンだったが、
ベリアルはゆっくりと動くと何事もないかのように
アレンの一撃を受け止めた。

「その程度の攻撃、二度も受けはしない。」

「くっ!!」

逆にアレンはベリアルに大かなづちを奪われると、
大きく吹き飛ばされてしまった。

「アレン!そんな・・。
 こいつ、マヌーサが効いていない!」

「さあ、これで武器はなくなったぞ。どうする?」

面白そうにベリアルがアレンのほうに歩み寄っていくと
アレンは体制を整えて、
隠し持っていた槍を投げつけた。

「ほう。」

少し驚いて、槍をかわしたベリアルに、
尚もアレンは襲い掛かった。

「武器なら、いくらでもあるぜ。」

今度はアレンが手にしていたのは
ロトの剣だ。

自分はもう使えないからと、カインから譲り受けていたのだ。

アレンの一撃はわずかに頬を掠めると
そこからは緑色の血液が流れ出ていた。

「やっぱりこいつなら斬れるようだな。」

久しぶりに持ったロトの剣を握り締めると
少し力が沸いてきた。

「カインの分まで戦ってやらあ。」

そして先ほど投げつけた槍も拾った。
戦えないカインの分まで戦うつもりであった。








「アレン・・・・。」

一方カインはその様子を少し離れたところから見守っていた。

「あの者すごいではないか!!」

興奮気味に王が感嘆の声を上げていた。
この王様は本当に強いものが好きらしい。

「あんな化け物に少しも怯むことなく戦う姿、
 なんとも勇ましい!!」

デルコンダルの兵たちもその姿に奮い立たされてるようだ。
やはりアレンの戦いっぷりは皆を勇気立たせる。

「我々も負けてはいられぬぞ!
 デルコンダルの兵の力、あの化け物に見せてやろうぞ!」

「おおーー!!」

どうやら、観客の避難が一段落し、
次なる標的はあのベリアルだと思っているらしい。

何とも結構な士気の高さではあったが、
カインにはあまりに無謀な挑戦としか思えなかった。

「待って。待ってください。
 行っちゃ駄目だ。危険すぎる。」

カインは少し体を起こすと、
釘を刺すように声をかけた。

デルコンダル王は不思議そうに問いただした。

「馬鹿な事を言うな。お主は仲間が心配ではないのか。
 せっかく兵らがお主の仲間を助けに行こうとしているのに。
 助太刀に行こうとは思わぬのか。」

仲間が心配じゃない?心配に決まっている。
いけるものなら真っ先に飛んで行きたい。

だけど、それが出来ないのはよく分かってるし、
さらに、ここの兵たちが手を出せるレベルの戦いでないのも、
カインにはよく分かっていた。

「あなたたちが行っても、死人が出るだけだ。」

そうはっきりと言った。

「馬鹿な。あんな若い魔法使いと戦士がたった二人で戦っているのに、
 我らが兵が束になって掛かってもかなわぬと言うのか?」

「そうです。かなわない。だから止めた方が良い。」

その一言に、一人の兵が憤りを顕わにした。

「侮辱をするな!!」

「わっ」

急に肩を押されてカインはふらついて尻餅をついた。

「ふん。ふらふらとして。
 止めておいたほうが良いのはお主の方ではないか。」

侮辱されてるのは分かっているが、
そんなことに目くじらを立てているつもりはなかった。
相手が言いたいこともよく分かる。
ここで争っていても仕方が無い。

「あ、あいつは、イオナズンだって使える。
 あの二人ならともかく、あなた達がイオナズンを受けたら
 即死でしょう?」

「イオナズン!?」

どんなに百戦錬磨の戦士でも
最上級爆発呪文のイオナズンを目の当たりにしたものなどいない。
それほど高度すぎていまや使い手のいない魔法であった。

「それに、ベリアルはアレンのロトの剣での攻撃でも
 一筋の切り傷をつけるのがやっとの相手なんだ。
 並みの武器じゃあ、傷もつけられない。」

「ロト?ロトの剣と言ったか?」

「だから・・・。」

カインがそこまで言ったとき、はっと息を呑んだ。

マリアがイオラで倒したはずの魔物が起き上がり
襲ってくるのが見えた。

サーベルウルフの鋭い牙がデルコンダル王の頭上に
襲い掛かる。

「王様!!危ない!」

とっさに唱えたギラの魔法は、小さな炎にしかならず
少しのダメージも与えるには至らなかったのだが
それでもサーベルウルフは一瞬の怯みを見せた。

その隙に、扱いに慣れたデルコンダル兵はサーベルウルフを討ち取った。

「王!ご無事ですか!」

「う、うむ・・なんともない。お主大丈夫か!?」

王の無事を確かめると、
カインは前かがみに膝をついて
肩で息をしていた。これだけの魔法が
今の精一杯のようだ。何と情けないのだろうか。

「デルコンダルの・・兵の皆さん。。。
 敵はベリアルだけじゃない。
 戦うなら・・・、戦うならそいつらと戦ってください。
 そしたらアレンとマリアは、ベリアルだけに集中できる。
 どうか、お願いします!」

カインは兵たちに懇願した。

だけどこんな自分の言う事など、誰も聞いてもらえないだろう、
そう思った。

しかし、意外にも皆そのカインの願いを聞き入れてくれた。

「皆!行くぞ!」

ばらけて散っていったデルコンダル兵は
サーベルウルフなどは慣れた手つきで捕らえていった。
やはり適材適所というものであろうか。

しかし、何故すんなりという事を聞いてくれたのだろうか?
カインは不思議に思った。

「ロトの勇者とは胸が高鳴るのう。」

さすがに王は飛び出しはしなかったが、
なにやら少年のように目を輝かせていた。

「ロトの剣じゃったのだな。あれは。」

どうやら、さっきとっさに口に出したロトの剣という言葉が
皆の心に何かを訴えたらしい。

「あの者たちも、おぬしも強いわけじゃな。」

王はうんうんと頷いた。

「いえ・・・僕は・・何もできませんけど・・・。」

「何を言う。今もさっきも私を助けてくれたではないか。
 本来であれば礼でもするべきところだ。
 この戦いが終わってから、何なりと頼みを言うが良い。
 もちろん紋章とは別にだ。」

「え・・。」

「先ほどから気になっているのだが、
 お主は病か何かに冒されているのか?
 それならこのデルコンダルの王が、腕の良い医者に見せてやろう。」

すっかり戦勝モードの王にカインは苦笑した。
まだちっとも事態は好転していないと言うのに、
ロトと言う言葉の影響はこんなに大きいのか。

しかしあえて願いと言えば、戦いが終われば、と言うよりも、
とにかくこの戦いに無事に生き残ることだ。

もし神に願って、例え自分がいつも通り戦えてるようになったとしても
アレンならまだしも、あの頑強なベリアルの皮膚には
自分では傷をつけられるとは思えなかった。

そこまで考えて、ふとカインはあることを思い出した。

そして、ふいに手探りで自らの懐から何かを見つけると
カインは王様の方を向いた。

「王様!頼みなら今聞いてもらえませんか!?」

「んん?なんじゃ??」

そしてカインは見つけたそれを取り出すと、
ある頼みごとをしたのであった。

 



- 続く-

2012/01/23

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  おっそい・・。進まないわあ。この調子だとあと2話くらい?出来れば次で終わりたいですわ。どうかな。
  カインの頼みごとは分かりますでしょうか?分かりますよねー。でもそんなところで次回に続く。

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