デルコンダル5

後を追ってきたアレンとマリアは目の前の状況が分からず目を瞠った。

壁には何かの衝撃を受けたような焼け跡が残っている。
何らかの戦いがあったようだ。

そしてデルコンダル王が唖然とした表情で、立ち尽くしている。
王の様子を心配して何人かの兵が集まってきていた。

だが、そんなことはどうでも良い。
そこには、カインがうずくまる様に倒れていた。

「お、おい。どうしたんだ!?何があった!?」

急いで駆け寄って抱え起こすが、
その表情は苦しげに歪み、瞳は硬く閉ざされていた。

「マリア、回復を!」

「え、ええ。」

アレンに促されて、マリアも急いで回復魔法を施す。
しかし、カインの様子が改善する様子は無い。
マリアはこれ以上魔法を続けるのを止めた。

「・・・・駄目だわ。効果がないわ。」

「なんでだよ。」

「ベホマならさっきも私やっているの。
 カインが怪我を負った様子はないわよ・・?」

確かに、身体にどこか外傷を受けた様子はなかった。

「すげえ、冷や汗・・・。」

アレンはカインの頬を流れる汗をぬぐってやった。
戦った様子は無いが、ひどく苦しそうだ。
やっぱり何かがあったに違いない。

そしてカインの右手にはアレンが教えたように、剣が握られていた。
これはカインが何かと戦おうとした証だ。

マリアもアレンに考えが手に取るように感じられた。

「おい!ここで何があったのか見た奴はいるか?!」

立ち上がって、集まってきていた兵たちに聞いてみたが
兵は誰も見ていなかったようだ。

「なら、デルコンダル王!あんたは何か見てないのか!?」

焦りから思わず王への敬語がぬけるアレンに
思わずマリアがその裾を引いた。
だが、当のデルコンダル王はそんな事を気にした様子も無く、
アレンの方を振り返り、目を瞠りながら答えた。

「さきほど恐ろしく巨大で狡猾な魔物が現れた・・!」

「え・・?そ、それで!?それと戦ってカインはやられたのか!?」

気色ばんで尚も問うてくるアレンに、王は首を振った。

「う・・・うむ。落ち着け。
 だが、その者は・・・戦ってはいない。
 これから戦いが始まるのかというときになって
 戦いもせず、急に倒れたぞ。」

「なんだ・・・って?」

別にその巨大な魔物にやられた訳ではないらしい。

「その巨大な魔物と言うのはどこへ行ったのですか?」

「分からん。何かをこの者に言っていたようだが、
 そのまま消えてしまったぞ。
 このままいなくなれば良いのだが・・・。」

「そうかよ・・。」

このままいなくなれば良いが、そんな簡単に事は解決しないだろう。

アレンがそう思って顔をあげたとき、
また大きな衝撃音が聞こえてきた。

何事かと思って立ち上がると、
そばにいたらしい兵士たちが王に報告にやってきた。

「緊急事態です!キラータイガーの檻から
 モンスターの大群が!!」

「なんじゃと!?」

魔物の大群が現れて、暴れているらしい。
今度は観客席の人間も見境無いなくターゲットのようだ。

「観客席にはまだいっぱい人がいるだろ!?」

「そうなのです。既に先ほどの衝撃で怪我人が!」

そうなのです・・じゃねえよ、と思いつつ、
アレンは不審に思った。

「おかしいぜ、俺はさっき牢の中にはもうキラータイガーが
 いないことを確かめたぜ?」

「キラータイガー以外の魔物は?」

「いなかった。」

闘技場に飛び出してきていた魔物はマリアの魔法で全滅し、
牢の中には魔物もいなくなったのを確かめたからこそ
二人はカインを追ってきたのだ。

「魔物を増やすような、なにかがやってきているのかもしれないわ」

「そもそもキラータイガーの増産も変だったからなあ・・。」

アレンとマリアはそう話しながら、どうしたものかと考えた。

「けが人が出ているという話だわ。回復の必要もある。
 大量の魔物が来ているのであれば、私の魔法の方が有利ね。
 アレン、私が行くから後をよろしく。」

「・・・・・・・大丈夫か・・・?」

ここで一人にしてしまうことは不安であったが、
カインやデルコンダル王を置いていく事もできない。

「無理はしないわ。」

マリアはそう言うともと来た道へと戻っていった。
心配そうにアレンはそれを見送った。




しばらくするとまた激しい爆発音が聞こえてきた。
衝撃はここまで伝わってくる。

あれはマリアの魔法だろうか。それとも・・・。

アレンは何もできないもどかさに唇をかみながら
闘技場を見つめていると、
横たわっていたカインがわずかに身じろぎした。

「おい!カイン、大丈夫か!?」

「・・・・う・・ん・・・・。何・・・?今の・・おと・・。」

どうやら衝撃の音の大きさで目を覚ましたらしい。

「敵が現れたようだ。それよりお前どうしたんだ?」

目覚めてはいるが、顔色はあまり良くなかった。

「だ・・いじょうぶ。」

カインは半身を起こそうとわずかに体を動かした。
だが、体を支える腕に力が入らないようであった。
アレンはその体を起こしてやった。

「大丈夫じゃないだろ。何があったんだよ?」

しかし、カインはそれに答えず
視線を動かして不安そうな顔をした。

「ねえ、・・・アレン。マリアはどうしたの?
 どうしていないの?」

「ああ、魔物がまた出てきたって言うんで
 マリアが見に行ってくれてる。」

アレンが何気なく答えるとカインは驚いて目を見開いて
すがるようにアレンの腕を掴んだ。

「なんで?なんで一人で行かせたりするんだよ!
 君は何をやってるんだ!!」

何故だかひどく感情的になっているカインに怒鳴られて
アレンは憮然とした。

「何をって・・・敵の数が多いときは魔法が有利って、
 俺たちのセオリーっちゅうか、ルールがあるだろ?
 あいつだってそんな無茶はしないさ。
 それより、今はお前の方が心配だったから・・」

「そんなセオリーあるもんか!」

「あ・・?」

と言うか、何故こんなに怒鳴られるのかが釈然としない。

「敵の数が多いときに、一人で飛び込めなんて
 そんな馬鹿なセオリーあるわけないじゃないか・・!」

「・・・・・・。」

確かに・・・言われてみれば、
敵が多いときに魔法が有利って言うのは
これは「3人で戦うとき」のルールだ。

「わ、悪かったよ。だけど、おま・・」

アレンがカインに向かってそう話しかけたとき、
カインはもうアレンのほうを向いていなかった。

「王様、あなたもあなただ。
 いつまでこんなところにいるんですか!」

今度は何を思ったか、
デルコンダル王に向かって怒り始めた。
思わぬ矛先に心配げに様子を見守ろうとしていた王も驚いた。

「おい、お前・・いくらなんでも・・!」

アレンの制止も振り切って、カインは尚も叫んだ。

「魔物の暴走は・・あなたが誘い込んだ事とも言えるでしょう?
 あなたの責任だ。国のピンチなんだ。
 王様が指揮をして、国を守らないでどうするんですか・・!」

「むう・・・。」

「あなたが・・このまま何もせずにいるんであれば、
 僕は・・各国に吹聴してまわりますよ。
 あなたが・・デルコンダル王が、無謀にも魔物を飼っていたこと。」

「各国ってお前何を・・。」

カインが何を言い出してるのか、アレンは驚いた。
こんな大風呂敷を広げるカインは初めてだ。
王はふんと鼻息を荒くして、眉を寄せて険しい表情で尋ねた。

「おぬしがサマルトリアの王子と言うのは本当なのか。
 あの化け物が言っていたことは・・。」

間髪いれずにカインは頷いて答えた。

「本当です。僕は・・・サマルトリアの第一王子です。」

「おい・・おい・・・・・。」

なんだこの展開は?と思いつつ、
カインの勢いに誰も言い返せなかった。

「その真剣な瞳。信じよう。
 サマルトリアの王子が言うとなれば
 恥じぬ行いをしようではないか。」

言うなり、王は手をあげて号令した。

「皆のもの、陣形を崩さず闘技場へ戻れ!
 デルコンダルの民に犠牲者を出さぬようにな!!」

「おお!!」

号令に兵たちは答えると、彼らは一斉に、
しかし王を守りながら兵は駆けていった。
よく訓練はされているらしい。

「行っちまった・・・。」

唖然としながら成り行きを見守っていたアレンは
ぽかんと呟いた。
カインはほっとして息を吐いた。

「お前急にどうしたんだよ。
 サマルトリアの王子だ、なんて今までどこでだって
 そんな手使ったことないだろうが。」

自分たちが王族であることは、この旅の最中
滅多なことでは、明かしたりすることはしなかった。
ましてカインからそれを言うなんて初めてではないか?

「うん。でも、どうせさっきあいつがばらしてたし。」

「あいつ?」

「巨神ベリアルってやつ・・。」

「げえ!そんなんが出てきてんのか!?」

思わぬその言葉にアレンは目を剥いた。

「アレン、だから、僕は平気だから。
 マリアを追ってよ。ベリアルのやつ、狙いはマリアだって・・
 そう言ってたんだ。」

「それ、本当か?」

「本当だよ。ねぇ、アレン早く!」

カインがいくらアレンを急かしても
アレンは手を組んでしばらく動かなかった。
そして、アレンは膝をついて腰を下ろした。

「アレン?何やってんのさ?早く・・!」

「カイン、それ嘘だろ?」

「う、嘘なんかつくわけないだろ!!
 マリアが今だって襲われてるかもしれないのに、
 そんなの・・・!」

「違うよ。お前が、平気だって言うのが嘘だって言うんだ。」

「・・・・・え・・」

「あんな風にデルコンダル王をけしかけるなんて
 お前らしくない。今も俺に行かせようとするばかりで
 お前は立ち上がろうともしないじゃないか。」

そう言われてカインは苦々しそうに表情を歪めた。

「そ・・・そうだよ。もう僕は戦えない。」

「・・どうしたっていうんだよ。」

「もう手だけじゃなくて、足も・・ろくに動かせない。
 それに・・・。」

そう言えば先ほどの激しい頭痛は今は少し消えている。
あれは何だったんだろうか。

「いや、なんでもない。」

「呪いの進行がお前の体を蝕んでいるようだな。」

「そう・・・みたいだよ。
 だから・・・だから、僕はもう何も出来ない。
 僕なんかどうでも良いから、放っておいて。
 早くマリアを助けに行ってよ。
 お願いだよ、アレン。」

カインはアレンの瞳を見つめ、真剣に頼んだ。
そして力の入らない腕を精一杯動かして
アレンの手に重ねた。

カインはもう自分が動けない、
自分では助けられないと分かっていたから、
こんなにも周りに働きかけて、人を動かそうとしていたのだろう。

「何も出来ないなんてことがあるかよ。」

「・・・・・だって本当だよ。本当に・・」

「あんなふうにデルコンダル王を動かすなんて
 お前にしか出来なかったさ。
 お前がサマルトリアの王子だから、
 それとお前のその真剣な瞳が王を動かしたんだ。」

「え・・・。」

アレンは立ち上がってカインに手を伸ばした。
これだけ言って何故手を伸ばしてくるのかカインは分からなかった。

「お前の言うとおり、マリアを一人で行かせたのはまずかった。」

「そ、そうだよ。だから、早く。」

「だけど、俺はお前を一人にしておくこともできなかったんだ。」

「そんなの、もう良いよ!」

「もう誰も一人にしない。一緒に行くぞ。カイン。」

「僕が付いていっても何も出来ない。」

アレンが何を言い出すのかカインは理解できない。
自分はもう戦えない、どころかまともに動けもしない。
足手まといだって分かっていて、どうしてついていこうと思うだろうか。

「もう、良いよ。お前が何も出来なくても良いよ。
 俺が目を離すのが嫌なんだよ。そばにいろよ。」

「そんなの・・。」

「マリアもそう言うだろうさ。
 つーか、お前一人置いてきたりしたら
 また怒られる。俺エンドレスで怒られる。」

アレンはそう言って屈託の無い笑顔で笑った。

「アレン・・・。」

「とりあえず急ぐから背負っていくぞ。」

そう言うと、アレンはカインの脇に腕を入れて
カインを抱えあげた。

「ちょ・・ちょっと!」

「だから、もう嘘つくのやめろよな。
 俺たちの前では。」

「アレン・・。」

カインは何をアレンに答えたら良いか分からなかった。
こんな足手まといの自分をどうして見捨てないのか。

「あのさ、訳分からんって顔をしてるけど、
 ちょっと想像してみ。
 お前怪我してるマリアを放って一人で
 行こうと思わないだろ?」

「あ・・・え・・・そりゃ。
 いや、でももう僕は・・。」

なおも口を開くカインに
アレンは口を閉ざすように人差し指を
カインの口元にあてた。

「もう、言うなって。理屈じゃないんだよ。」

「・・・・・・・。」

「ほら、背負うぞ。よいしょっと。
 って、軽いなお前ー。」

アレンは軽々とカインを背負った。

「行くぞー。走っていくから振り落とされないように、
 気をつけろよな。」

「う・・うん・・・。」

アレンの言葉が、アレンの背中が、
今のカインには暖かかった・・・。
誰が考えたって、今の自分を連れて行くメリットなんてないはずなのに。

アレンはそんな理屈は関係ないといってくれた。

カインの目からは光るものが零れ落ちた。
でもアレンには気づかれないようにカインは顔を伏せ続けた。



そうして彼らはマリアの待つ闘技場へと戻っていったのであった。




- 続く-

2012/01/08

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  あったかほんわかロレサマのターンです。展開が遅い・・。

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