デルコンダル4

「おらあーー!!」

アレンがキラータイガーに向かって一直線に駆け出した。

「ガァー!」

キラータイガーは眼前に見つけた標的に牙を剥くが
そんなものには一向に気圧される様子は無い。

「でっかい口開けてんじゃねえぞ!!」

牙を向けて大きく開けているその口に向かって
アレンは大かなづちをぶち込んだ。

思わぬ衝撃に動きを止められたキラータイガーは
そのままアレンの豪腕に投げ飛ばされた。

見守る観客からは人間離れした逞しいその力に歓声があがる。
マリアはその様子を見守りながら思わずため息をついた。

「アレンの強さは心強いけど、あの武器ってあんまり
 正義の勇者の武器って感じじゃないわねえ・・。」

「はあ・・。それもそうだね。」

マリアのそんな呟きに足元で膝を付いたままのカインは思わず笑った。

あんな鈍器で殴れば、当然血は飛び散るし、
場合によっては臓器も飛び散るはで、
まるでその戦いっぷりは悪魔のごとき所業だ。

もともと実戦とは一般人が考えるような聖戦などではないのだが
しかしいくらなんでも正義の使者の戦いっぷりとは思えない。

「じゃあ、これ渡してこようか?」

カインは自分の持ってる武器、ロトの剣を指し示した。

「良いのよ、別に。何と思われてても生き残れば良いんだから。」

それはそのはずだ。
3人の目的は既に達成されていた。
あとは無事にこの場を乗り越えて、紋章をもらえればいいのだ。

「・・・・・ねえ、僕気になることがあるんだけど。」

「何?」

カインは観客席を見上げた。

「見てる人たちは、・・多分ここの国の人なんだろうけど、
 いまだにこれがショーか何かと思って見てるようだね。」

「そうね。」

「でもあれだけ大量のモンスターが飛び出してきてから・・・
 王様がいなくなったよ。」

カインは王が座っていたあたりを指差した。

「キラータイガーが飛び出してきたことには驚いた様子だったわね。」

「嫌な予感、ちょっとする?」

具体的には何がとは言わずに、
カインはマリアの方を振り返った。

しかし真面目な顔をしているカインに、
マリアはふふっと笑って見せた。

「ええ。嫌な予感なら、私もアレンも結構前からしてるわ。」

「そうなの?」

カインが戦う前から嫌な予感はしていた。
勝利したから、杞憂かと思ったが、この調子では杞憂とも言い捨てられない。

「でも・・・まぁ、良いんだよ。だって、まだ何も起きてない。
 ちょっとしたハプニングで柵が壊れて、キラータイガーが飛び出してきた。
 それだけのこと。それだけで終わらせれれば良い。」

「どうするの?」

「王様を探してくる。マリアはこの場をお願い。」

そう言って立ち上がろうとしたカインであったが、
ふらっとよろめいてマリアがとっさに支えた。

「ちょっと待って。あなた大丈夫なの?」

カインはマリアから手を離して立ち上がった。

「マリアがベホマしてくれたもの。大丈夫。」

「でも・・・。」

今のカインを一人で行かせることは
どうしても不安が残った。

「だったら、アレンと一緒にこの場を沈めて追ってきて。」

二人が喋っているこの間も、ずっとアレンは一人で奮戦している。
一人で戦うには数が多すぎるし、
どうしても回復手は必要なのだ。

「待ってるから。」

「・・・・・分かった。すぐに行くわ。」

マリアの言葉に、カインが頷いた。
そして二人は互いに背を向けた。




アレンは一人で戦いながらも、
あとでマリアがカインを回復させて、
二人が援護に来るものだと思っていた。

しかしやってきたのは、いかづちの杖を持って
恐ろしい形相で現れたマリア一人だ。

「おい。カインはどうしたんだよ。」

返り血を浴びながらも、アレンはマリアに尋ねた。

「王様を探しに行くって。いなくなってるから不審だって。」

「はあー?なんで一人でどっか行かせるんだよ!」

アレンの剣幕はすごかったが、それを上回る迫力でマリアが答えた。

「カインから伝言よ!
 まだ混乱が起きてない今のうちに収拾しないといけない!
 私たちがやることは、とっととこの魔物たちを全滅させることよ!」

何だか理不尽そうにアレンが眉を顰める。
もうちょっとちゃんと自分にも説明してほしいと思う。

武器を大振りしながら、アレンが不服そうにしていると
マリアがラリホーを唱えた。

一時的にキラータイガーの動きが鈍った。

「アレン。説明も何も分かってるでしょう?
 今やることは魔物の殲滅よ。」

「あーー・・分かってるよ。じゃあ、さっさと倒すぞ!」

残るその数は3匹。
どうもキラータイガーは奥の牢獄で飼われていたらしいので
もしかすると奥にはもっとたくさんいるのかもしれない。

先ほどのカインとの戦いを考えても
一匹ずつの魔物のレベルは高い。
しかもこの野獣性と獰猛さでは、ご丁寧に相手をするのはリスクが高い。

アレンは一匹ずつ殴りつけてダメージを与えているようだが、
回りこんで襲い掛かってくる別のキラータイガーの攻撃を避けきれず
ダメージも追っているようだ。

こんなものとても相手をしていられない。

アレンが必死に戦っていることは分かる。
魔物の群れの激しさにも負けず、縦横無尽に動き回っている。

だけど、それでは効率が悪い。

「アレン!!言ってるわよ、時間が無いって!」

「うっせえな!やってるよ!」

会話しながらもアレンは油断を見せずに背後からの攻撃もかわしている。
観客はアレンの勇姿に大興奮しているが、そんなものはどうでもいい。

「そうじゃなくって、魔物の数が多い場合は魔法を使うのが
 私たちの戦いのセオリーでしょう!?」

マリアがいかづちの杖を天にかざしたのを見て、
その意図を読み取った。

「え・・・、ああ。お前がやるっていうのか?
 でもこいつら動きが早いぞ、大丈夫かよ?魔法かわされたらどうする?」

「関係ないわ。全部吹き飛ばすから。
 いいから、どいて。あなたごと吹き飛ばすことになるわよ!?
 アレンは代わりに牢獄の扉をちゃんと確認してきてくれるかしら」

その物騒な言葉にアレンがさらに眉を顰めて飛びのいた。

マリアはすうっと息を吸うとの魔法の詠唱を始めた。

アレンも走りながら背後からそのぴりぴりとした空気の流れを感じていた。
詠唱を終えると空気の流れが一気にぎゅっと凝縮された。

「何発でもいくわよ、イオラ!!!」





パラパラと爆風を浴びて壁が剥がれ落ちてくる。

激しい魔法力の爆発が起きたのを感じた。

キラータイガーは魔法を唱えないし、
今のは恐らくマリアの魔法だろう。

カインは壁に寄りかかって背後で起きていることを推察した。
彼らは、心配ないだろう。

問題なのは自分の体だ。
どうもまずい。

マリアにベホマをしてもらっているのに、
引きずるようにしか足が動かない。

まぁ・・腕の次が足って事だ。
どんどん身体が言うことを利かなくなるってことだ・・。

そんな事を冷静に思いつつ
それでも一歩ずつ足を前に動かしていく。

しばらく行くと聞き覚えのある声が聞こえてきた。
デルコンダル王の声だ。

何か言い争いをしている。

カインは壁にもたれて様子を伺うことにした。

「話が違うではないか!!
 あの魔物たちは、ぬしらが確実に管理すると言ってたではないか!」

王がなにやら激昂している。
魔物の飼育をしている者と話しているのだろうか。

いや・・・魔物相手に飼育と言うのも変な話だ。
そんなことが出来るのであれば、世の中こんなに混乱しない。

「約束どおりです。王。
 キラータイガーを飼いならしているうちに、
 他国から強力な戦士がやってくると。
 話をしていた通りではないですか?王は強い者がお好きでしょう?」

飼育員は淡々と答えている。

「いや、それはそうだが。これが予想外のことでないのならまぁ良い。
 早く場を収めてくれれば良い。」

「予想外だなんてひどいですな。計画通りですよ。
 今の爆発音は、先ほどの戦士たちの魔法ですよ。
 こんな強力な魔法を使えるようになっているとは。」

「そ、そうか。うむ。あの者たちの強さは本物のようだな。」

「そうですとも、王様・・・・。」

この二人の会話に耳を傾けながら、変な違和感を覚える。

自分たちが来ることがまるで組み込まれた計画だったかのようだ。
それどころか自分たちのことを知っているかのようだ・・・。

余り一人で深追いしないほうが良いか・・と思ったとき、
耳元でざわりと殺気を感じた。

「!?」

思わず体を起こすと、
驚いたような表情のデルコンダル王と眼が合った。

「おお、おぬしは先ほどの剣士殿。
 こんな所で何をしている?」

「ご無礼を・・・申し訳ありません。
 ・・・王様の姿が急に見えなくなったので、
 探していたのですが・・・。
 魔物も出ているので危険だと思い。」

「あいや、すまぬな。心配をかけた。
 いや、問題は無いよ。」

王は片手を振りながら申し訳なさそうに振った。
そして穏やかそうに言った。

「さぁ、戻ろうか。」

そう言って戻ろうとする王を無礼を承知で呼び止めた。

「あの!奥の方はどなたでしょうか?」

「ああ、彼はな・・・」

王が何をか説明をしようとしたとき、
奥の飼育員と思しき人物は急に炎を「吐き出し」た。

「!?危ない!!」

思わず、カインは王に体当たりする形でその炎を避けた。
おかげで直撃はせず、炎は壁にぶつ当たってふつふつと燻っていた。

「おぬし!!何をするのだ!?」

王は激しく激昂しながら、男を睨み返して、
そして目を見開いた。

その男は口から炎を吐き出した後遺症か
体が燃え上がっていた。

「何・・・?自爆したのか?」

しかし、その肉体は倒れることもなく
その禍々しくも悪しき体は逆に殻を破っていくように
魔力を増していった。
そして何をか口を開いた。

「とっくに死んでいる頃かと思ったぞ。
 サマルトリアの王子。」

ぎくっとカインが顔を上げると、
焼け付いた肉体の奥から魔物の姿が現れた。

「バズズから聞いていたんだがな。
 それなのに、先ほどの戦いぶりはどうだ。
 中々面白いものを見せてもらった。」

笑ってそう言いながらも、魔物の変化はまだまだ続いていく。
どんどん身体が巨大化していくのだ。

ああ、これは最悪の展開だな・・・と思った。

「お前は僕を知ってるようだけど、こっちは知らない。
 名を名乗れ。」

「巨神 ベリアル。」

3人いるはずの最後の巨神に間違いない。
人間に化けているところから見てもアトラスなどとは違い知性も高そうだ。

しかし背後にかばうデルコンダル王は自分以上に唖然とし、
目を丸くして、あごも外れんばかりだ。
まぁそれはそうだろう。

対して、自分はどこかでこの最悪の展開を予想していたのかもしれない。

「王様下がって・・・。」

「うむ、慌てるな!落ち着け!!おぬしなら勝てる!!」

激しく慌てている王から、なんら裏付けのない励ましを受けて苦笑する。

王には申し訳ないが、かばって戦う余力なんて自分には無い。
せめてアレンたちが来るまでだけでも・・と思い
カインは、闘技場に行く前にアレンに教えてもらったように
剣の柄と右手を布で巻きつけた。

「・・・・・・・?」

すっかり巨大化したベリアルであったが
襲ってくる様子はない。

「な、何故襲ってこない?」

「私はお前を殺すためにここに来たわけではない。
 そも、お前には戦う力など残っていない。」

嫌なことを言う。
一体何をしにここに来たのか判然としないが、
こうやって喋っているうちに時間稼ぎが出来れば
ちょうど良いかもしれないと思った。

「既に手足は思い通りに動かせないだろう。」

「それでも、まだ戦える。」

ぎゅっと左手に魔法力をこめる。
ベギラマで応戦してやるつもりであった。

「魔法か、しかしそれも最早思う通りになるまい。」

「え・・・・」

カインの左手を大きなその手で覆うと
哀れみを持ってベリアルはそう言った。

手にこめていたはずの魔法力が急速に消えていく。
頭で思い描く魔法が形を結ばない。

目の前が急に真っ黒になっていく。

「な・・んだ・・・これ・・・・・?」

そして頭部に激しい衝撃を感じた。
思わず何かの攻撃を受けたものかと思ったが、そうではなかった。

「これは悪いことをしたな。
 我らが邪教の力を身体に受けて、
 『呪い』が進行してしまったようだな。」

「な・・に・・・・・!?」

激しい頭痛がカインを襲った。

「おぬし!!急にどうしたのだ!?」

後ろではデルコンダル王が何事かと泡を食った表情で慌てている。
だがそれに答えることも出来ない。

「う・・・うう・・・。」

カインは頭を押さえて膝を付いた。
頭が割れそうに痛い。鈍器で殴りつけられ、頭蓋骨を細い刃で
削られていくような痛みであった。

「うう・・・・ああーーーーーーー!!!」

激しい痛みに額からは脂汗が流れ、意識が徐々に薄れていく。

薄れゆく意識の中で最後にベリアルがこう口走ったのを聞いた。

「私が手を出すまでも無いわ。
 私の狙いはあの姫よ。」

と。

- 続く-

2011/12/27
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  またそんな展開でした。大変大変。収拾付くのか。

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