デルコンダル3

「そろそろ時間です。」

城の兵から声をかけられた。
そろそろ闘技場に行ったほうが良いようだ。
入念に体を動かしていたカインは
最後に2度3度足を曲げて屈伸して、
つま先でトントンと地面を蹴った。

「気をつけろよ。カイン。」

「うん。分かった。」

「頑張って。でも無理しないで。」

「うん。ありがとう。」

アレンとマリアの激励にカインは笑って答えた。
そして、カインは案内の兵についていった。

それを背後から見送ったアレンとマリアだったが
二人とも戦闘を前に、あまり明るい表情はしていない。

「あのさ・・・マリア。正直なところを言って良いか?」

「ええ、何?」

「俺は何か嫌な予感がする。」

カインがいくら明るく笑っても、元気そうにしてても、
その予感は取れない。

「・・・・そうね。私も。」

「あいつは一人でやりきるつもりだろうけど・・
 万一の事があれば、俺は飛び込むつもりだ。」

そう言ってアレンは自分の拳をボキボキと鳴らした。

「たとえ紋章がもらえなくなったとしても?」

「マリアには悪いけど、そういうことになるな。」

冷ややかな視線でこちらを見るマリアに
アレンは挑戦的に答えた。

「それはひどいわね。」

アレンの提案にマリアは首を振った。
たとえ反対されてもアレンの意思は変わらない。

「・・・・まぁ、お前はそう言うかもしれないが・・。
 だけど俺はー」

「それは私が考えていたことよ。
 この城中に混乱を巻き起こしてでも、
 私は飛び込んでいくわ。
 ・・・・紋章なんて、二の次よ。」

「へ?」

マリアの物騒な言葉にアレンが目を丸くした。

「考えてることは同じようよ、アレン。」

「ぷはっ。なーんだ。そうかよ。
 じゃあ、大丈夫だ。
 3人がかりと思えば、きっと何とかなる。」

今まで3人で戦って何とかならなかった事は無い。
きっとこれなら大丈夫だ。






薄暗い廊下から、外に設置された闘技場へ出ると
眩しさを感じる。

カインは、その眩しさを払うように首を振った。

観客たちの大歓声が聞こえる。
こんな小さい子供が戦えるのかと揶揄している声も聞こえる。
いつもこうやって戦士たちが魔物と戦っているのを
あの場所で見下ろしているのだろうか。

・・・・正直その感覚は自分には理解できない。
デルコンダルという国柄だろうか。

そんな事を考えていると、
先ほど見かけたデルコンダルの王が嬉しそうに、
反対側の扉を開門した。

その先にいたのは、やはりあの虎のような狼のような魔物であった。
サーベルウルフと言ったか。

『集中しろ・・。』

誰に言われなくても自分の力が落ちているのは分かっている。
きっといつか戦えなくなると言うことも。

それでも、アレンが施してくれた処置のおかげで、
剣を振るうことが出来る。

まだ足も動く。
魔法だって使える。

戦える。

ドラゴンの角を出たときには、
もう自分が何も出来なくなったと失望したものだが、
まだ、戦える。

彼らの役に立つんだ。

アレンとマリアに少しでも役立ちたい。

『絶対勝つ。』

狭い牢獄から放たれた魔物は今回の獲物を見つけると
一目散に襲い掛かってきた。

『来た!!』

魔物の動きは早い。
あんな動きで相手に合わせて動いていたら
すぐにつかまるだろう。

「・・・ギラ!!」

カインは小さな火の玉を魔物に向かって放り投げた。





アレンとマリアは先ほどカインが出て行った扉の影から
戦いの様子を見守っていた。

「ギラ〜?一気に勝負決める作戦じゃないのかよ・・。
 あんなちまい攻撃で勝てんのかよ。」

見守りながら、アレンは気を揉んでいた。
そんなアレンをよそに、マリアはこの戦いを分析した。

「アレンの大振りな戦い方と、カインの戦い方は違うわよ。
 一発、大きなベギラマを打って外されたリスクを
 考えたんだと思うわよ。」

「あ、そういうことなのか?」

マリアがそう言うと、そう言うことなのかなあと思いつつも
二人ははらはらして見守っていた。




「ギラ!!」

何度目かのギラを放った頃になると
周りには炎が立ち、魔物は視野を失っていた。

がむしゃらに襲い掛かってきた魔物の攻撃は
大きく的を外れていた。

『いける!』

カインはロトの剣を両手で持つと
サーベルウルフの首筋に斬りつけた。

魔物は大きく一度吠えるとそのまま息絶えて
そして倒れた。

「勝った・・・・?」

カインは息を整えながら、敵がもう立ち上がってこないのを確認した。



「やったわ!」

「なんだ!勝ったじゃねえか!!」

脇で見ていたアレンもマリアもその様子に大喜びだった。
早速にカインの元に駆け寄ろうとしたが、
しかしそれを兵に止められた。

「お待ちください。戦いはまだ続きます。」

「!?」



カインは顔を上げてデルコンダル王の方を見上げた。

「これで、私の勝ちですよね?」

しかし、デルコンダル王は悠然と笑って首を振った。

「他国の冒険者よ。戦いなどできぬか弱者かと思ったが、
 なかなか戦いなれた様子。
 次なる戦いが楽しみだ。」

「え?」

カインが詳しく問いただす前に、
先ほど魔物が飛び出してきた扉から
別の魔物が現れた。

同じような獣であったが、今度は毛並みが赤色だった。

「多くの血を吸い込んだキラータイガーだ。
 さぁ、今度も勝ってみよ。」

デルコンダル王は愉快そうにそう言った。

とても愉快とは言っていられないのが
脇で見ていたアレンたちだ。

「なんだよ!?なんでもう一回やるんだよ!?」

「戦いは一度だけ・・などと王は言いましたか?」

冷静に言う兵士が憎らしい。

「では、あと一度戦えば、
 この馬鹿げた試合は終わるのですね!?」

マリアはいかづちの杖を兵士の前にかざして
そう問いただした。

「え・・・ええ・・・。そうですよ・・。」

「なら、最初からそう言いなさい!」

思わずきつい口調になったマリアであったが、
しかし心中は祈るような気持ちであった。

「カイン・・・。」



一方カインは、同じような魔物との戦いであると判断して
同じ戦法で戦うことにした。

ギラを数度使って足止め、
視界を失ったところで、とどめを刺すという作戦だ。

「ギラ!」

しかし、今度の獣は小さな火の玉程度では
ぴくりとも怯まなかった。

「ガアアアア!!」

「!!」

キラータイガーの激しい体当たりを受けて、
カインは吹き飛ばされた。



「なんだ、あの赤い魔物。
 さっきより早いぞ!!?」

「かなり高位の魔物のようだわ・・。」

アレンとマリアは今にも飛び出しかねない勢いで
身を乗り出していた。



吹き飛ばされたカインは、スクルトを唱えた。
今度の敵はさっきの魔物とは全然違うようだ。

どうやって戦うか?

確率勝負のザラキに賭けるのはあまりに怖い。

順当に考えて、ギラが駄目なら、
ベギラマで勝負するしかないだろう。

カインはすーっと深呼吸すると、
左手を大きく前に出した。

あの素早いキラータイガーに直撃させるのは
難しいだろう。
狙いは一歩手前。

「ベギラマ!」

先ほどの数倍の大きさの炎が舞い起こった。
大きな衝撃があり、煙が舞いあがった。

よし、いまだ・・!

隙を見て後ろ手に回ったカインは
精一杯の力を混めてロトの剣を振り下ろした。

確かにその一撃はキラータイガーにダメージを与えた。

しかし、キラータイガーは倒れることも無く
ぎろりとこちらを睨みつけてきた。

「危ない!!」

遠く背後から、仲間の声が聞こえてきたが、
時既に遅く、魔物の鋭い爪がカインの体を切裂いた。

「う・・・ううっ。」

激しい痛みに思わず、カインは前のめりに膝をついた。

「カイン、もう下がれ!!」

背後からまた声が聞こえる。
今度の声はアレンだと分かった。

「下がれって、言われても・・・下がれないよ。」

カインは胸の傷を押さえたまま、
何故か笑いが込み上げてきた。

「はは。」

自分から引くつもりは無い・・のも確かだが、
この敵から逃げられるほどの素早い動きも出来そうになかったのだ。

『どうしようか・・』

カインは一瞬の間に考えた。

力勝負で勝てるはずがないのは分かっている。
だからといって、早さ勝負でも勝てそうに無い。

魔法も、もうろくな魔法が使え無そうだ。
さっきベギラマを使ったからか、また頭が痛くなってきた。

考えてても絶望的な状況なばかりだった。
大体敵も悠長に作戦会議をする時間など与えてそうにない。

『たいしたことはできないけど・・・
 まだ・・動けて、剣が振れて、魔法も使えるんであれば、
 やることは一つ・・でしょ。』

カインは剣を杖に立ち上がると、
重い足を引きずって壁に向かって走り出した。

アレンはそれを最初自分へのバトンタッチのつもりなんだと
思ったが、そうではなかった。

何故かカインは自ら、袋小路となっている角へと向かった。

「あいつ何やってるんだ!?
 パニックになって逃げ惑ってるのか!?」

角までくるとカインは走るのを止めて振り返った。

「逃げ場がないわ!」

アレンもマリアもその行動が分からなかった。

『おも・・い・・。なんだか足が重いな・・。
 ここまで来るのでやっとだけど・・・ちょうど良いや。』

カインはふーっと息を吐くと、
剣を握った右手に精一杯の力をこめた。

『勇者が使っていたロトの剣・・・それから・・・』

反対側の左手にも出来る限りの魔法力をこめた。

『魔法。
 大した魔法は使えないけど・・。』

キラータイガーはカインが止まったのを認めると、
止めを刺さんと駆け寄ってきた。

『逃げ場がないんじゃなくて、あいつはここにしか来ない。
 だから予測して、精一杯の準備が出来る。』

予想通り、魔物はただ一直線に走ってくるだけだ。

『出来ることを思いっきりやる。
 今の僕にはそれしか出来ないよね。』

魔法と剣。

カインは左手から魔法を放った。
それほど大きくは無いが今のカインの精一杯の炎だ。

そして、勢いあまって一歩前に踏み出して、それに追いつくと
ロトの剣は魔法を吸収していった。

『え?』

【 挿絵を見る 】



なんだか何が起きているのかカインにも良く分からない。

ロトの剣は炎をまとって、大きく一度だけ
振り下ろされた。

「い・・・・・けえ!」

剣戟は確かに手ごたえがあったが、
その勢いでカインは大きく前によろめいて倒れた。

「わ!」

右手に巻いていた布が外れて、剣も落としてしまった。

見上げると、大きなキラータイガーの牙が見えた。

その牙がこちらへ襲い掛かってくる。
起き上がって逃げなきゃと思うのに、体が動かなかった。

『だ、駄目だ・・・』

逃げようにもちっとも足が動かせない。
カインが覚悟を決めて目をつぶると、
どさっと体に重みを感じた。

『?』

恐る恐る目を開けると、キラータイガーが自分に
覆いかぶさっていた。

『??』

退けようとしても体が動かない。
そんなカインを頭上から大歓声が覆った。

「キラータイガーが負けた!!
 あの旅人が勝ったぞ!」

観衆がざわめいていた。

「え?え・・?」

襲い掛かられてるのは自分なのに、何が何なのだ?と
思っていると、急に身体の重しが軽くなった。

「やったな!お前の勝ちだって!カイン!!」

駆け寄ってきてくれたアレンが魔物を退けたのだ。
そしてカインに手を差し伸べた。

「アレン・・・?」

手を貸してもらってよいのだろうか?と思って
何とか上半身だけ起こしてみると、
キラータイガーは黒焦げになって息絶えていた。

「これで認めるだろう!?デルコンダル王!!
 カインの勝ちだろ!」

アレンがデルコンダル王にそう掛け合った。
デルコンダル王は一瞬呆然としていたが、
次第に目も口も大きく見開きながら、頷いた。

「うむ・・・認めよう。この勝負旅人の勝ちだ。」

デルコンダル王が諦めたように右手を振った。
それを聞いてアレンも歓声を上げてカインに抱きついた。

「やったな!カイン!」

「え・・?え??そうなの?ただのギラなのに?」

ラッキーにも急所に当たって一撃で倒れてくれたのだろうか?と思った。

「お前なんだよ、せっかくの勝利にその反応は。」

「ただのギラには見えなかったわよ。」

いつの間にかマリアもそばにやってきていた。
アレンがカインから身を離すと、回復魔法をかけた。

「あなたの必死な攻撃が魔法と剣の相乗効果を生んだのよ
 きっと。」

「そう・・・・なの?」

なんかよく分からないが、勝ったらしい。
ガッツポーズをしようにも、まだ微妙に力が入れられなくて
それもできない。
でも皆の祝福が嬉しかった。

「良かった・・・。」

カインがポツリと嬉しそうにそう呟いたときだった。



嫌な悲鳴と共に、
牢獄の扉が開け放たれて多くのキラータイガーが
解き放たれたのだ。

「なんじゃ!?なにをしておる!?」

まさかまだ戦わせるつもりかと思ったが、
どうも当のデルコンダル王も驚いているようだ。
何かのハプニングだろうか・・・・。

「また・・敵が!・・つ・・・っ・・」

カインはまだ立ち上がることも出来ない状態だった。

「マリア、カインのこと頼んだぜ。」

「アレン?!」

アレンはマリアにそう言うと、二人を守るように前に立った。

「ちょっと、アレンどうする気・・!?」

カインの問いかけにアレンがにやっと笑った。


「へっ。あんな戦い見せられたら滾らねえほうがおかしいだろ。」

なんだか分からないが、せっかくの勝利に水を差された。

アレンはキラータイガーの一匹や二匹に倒される気など毛頭無かった。
武器の大かなづちを持つと叫んだ。


「さぁ、来いよ。今度は俺が相手だ!!」







- 続く-

2011/12/10
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  剣と魔法のサマルトリアの王子ってことで、頑張りました。何か新たに開発した様子。
  で、次はアレン・・?

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