案内されるがままについて行くと
城内は薄暗く長い廊下が続いていた。
外からは立派な城のように見えたが、内装が華美ということもなく
むしろ寂しいほどに殺風景な廊下だった。
しかし、そんな事はどうでも良い。
気になることがあった。
「そういえば先ほどの魔物は、一体何だったんですか?
兵の方達は慣れた様子で死体を片付けていたようですが。」
「すぐに分かりますよ。」
マリアが尋ねると案内の兵は、言葉短く答えた。
魔物に襲われて慌てふためくと言う様子ではない。
良くあることなのか、それとも他に意図があるのか。
「・・・・・・。」
そんなやり取りを横目に見ながら
アレンは沈黙に耐えかねて
何気なく山彦の笛を吹いた。
ピー ピィー
「お。明らかにさっきより反射が近いな。」
「確かに、そうだね・・ってアレン、
城内でいきなり笛吹くなんてやめなよ。
王様に聞こえてたら失礼だよ。」
急に笛を吹いたアレンに驚いてカインが釘をさしたが、
そんな心配は無用だっただろう。
なぜなら、行く先では大歓声が鳴り響いていたからだ。
「なんだかどんどん賑やかになってきたな。」
「どこへ連れて行かれるのかしら?」
かなり長い廊下を連れまわされた気がする。
大きな扉の前まで連れてこられた。
そして扉の前では、がやがやとした歓声が聞こえる。
どうも大勢の人がいるらしい。
「この先に王がおります。」
そう言われて、3人に少し緊張が走る。
「あの・・・何故王様にお会いするのでしょうか?」
そもそもの疑問をぶつけた。
国を襲う魔物を倒したら、大歓声の鳴り響くところへ
連れて行かれて王様と謁見するらしい。
魔物が出たのは、隠さねばならない秘め事と
いうことでもないと言うわけだ。
この国の事情が分からない。
「緊張しているのですね。ご安心ください。
王は強い力をもったものを愛でる気さくなご性格です。
きっとあなたなら王も気に入るでしょう。」
「は・・はあ。」
兵の視線がアレンに向けられた。
アレンがとどめを刺したからだろう。
「では、どうぞ、扉の奥の闘技場へ。」
ぎぃぃ・・・と大きな扉が開かれていった。
薄暗い廊下にいたアレンたちは、
扉の先が眩しい屋外であることに気づいた。
そこは巨大な闘技場であった。
大勢の人たちが、いまや遅しと
アレンたちが現れるのを待っていたらしい。
大歓声でアレンたちを迎えた。
「待っていたぞ!!つわものよ!」
よく状況が飲み込めない3人に
少し高い位置から声がかかった。
見上げると、立派な椅子に腰掛けて
がっしりした体格と、豊かな髭を蓄えた人物が
興味深そうにアレンたちを見回していた。
この人物がデルコンダルの王であろう。
あわてて礼の姿勢を取る3人であったが、
王は無用とばかりに笑った。
「堅苦しい礼などは無用だ。旅人よ。
話は聞いた。サーベルウルフを倒したと。」
「はい。」
王の問いにアレンが答えた。
「私は強いものが大好きだ。
どうだ、この闘技場でその勇姿をこの私に見せてくれんか。
褒美は望みのままだ。」
・・・・
やはり、闘技場に連れて行くといわれた時点で
どことなく覚悟していたが、戦うことになるようだ。
しかし、アレンはそれに怯むことなく我が意を得たりと
語りかけた。
「では是非頂戴したいものがあります。」
「なんだ。」
「小さな・・おそらくこれくらいの紋章がこの国にありませんか?
私たちはそれを探して旅をしています。」
アレンは両手で大体の大きさを示した。
「精霊ルビスのご加護のある紋章です。
この国にあるのは間違いないと思います。」
「なるほど・・・お前が欲するものは月の紋章か。」
何の種類の紋章かはアレンたちも知らない。
だが、デルコンダル王は「月の紋章」という単語を発した。
「月の・・・・紋章・・・・。」
「ああ、確かにこの国にあるとも。
この国の守り神とも言える国宝石だ。
旅人よ、何故それを知っているのだ?」
アレンは山彦の笛を取り出した。
「この山彦の反射の返るところに紋章があると言われています。」
「何故、それを欲する?」
聞かれてアレンは一瞬どう答えるべきか、答えに窮した。
ちらっと後ろに控えるカインとマリアを見た。
マリアはアレンの目を見てうん、と頷いた。
正直に話してみよう。
「紋章をすべて集めると精霊ルビスのご加護が得られると言います。
私たちはそれを集めて、既に滅びたムーンブルクをはじめ
世界中の危機の元凶を打ち倒すことが目的で旅をしています。」
初めて来た国で初めて出会った王に物怖じすることなく
アレンは話した。
デルコンダル王は思わぬ答えがきたので目を丸くした。
「それを成すためにお前たちはどれだけの兵力を持っているのだ?」
「兵力?私たち3人です。」
アレンは後ろの二人を手で指し示した。
「3人?お前たちまだ子供ではないか。それに娘までいるぞ。」
「はい。私たちはこの3人で戦っています。」
目を丸くしたままのデルコンダル王はとうとう笑い出してしまった。
「見るとお前は力に自慢の戦士と言ったところか。
後ろの娘は剣を持って戦えるとは思えぬな。
魔法を使えると言うのか?謀ってはおらぬな?」
娘呼ばわりされることに怒る様子もなく、
マリアは涼しい顔で手をかざした。
ひゅうっと3人と王の間に竜巻が巻き起こった。
マリアが起こした小さなかまいたちだ。
「恐れながら、魔法には少々覚えがあります。」
実際に目の前で魔法を見て、王は嬉しそうに納得した。
「ふむ、面白い。
それでは隣の金髪の者は剣を携えているが
お主もこやつのように剣を使って戦うと言うだな?」
今度はカインにそう尋ねてきた。
「・・・・・はい。彼には及びませんが・・。」
一頻り聞き終わるとデルコンダル王が立ち上がった。
「面白い旅人たちだ。
世界中の魔物と戦う力を得るために、
この国宝石がほしいと言うわけだな。」
「はい。恐れながら。」
恐らく力試しなどを求められるものかと感じながら
再度そう答えた。力試しなら受けるつもりだ。
「私は強いものが好きだ。
お前たちの言うことが本当ならば譲ってやらなくも無い。」
「ありがとうございます。」
「お前がサーベルウルフを倒したことは聞いている。
そして今後ろの娘の魔法も見させてもらった。」
拳を何故かボキボキと鳴らせている。
「あとは、そこの細身の剣士。
お前が戦うところを倒すところを見せてもらおうか。」
「え・・・わ、私ですか!?」
思わぬ指名にカインだけでなく、アレンも驚いた。
「こ、この者ですか?
この者もそれは、まぁ・・腕に多少の覚えはありますが、
それよりは私が戦ったほうが、王にも、えっと
すっきりと楽しんでもらえるかと・・!」
カインではなく自分を戦わせようと
何とか説得を試みてみる。
「いや、駄目だな。先ほどの様子からお前がこの3人組で
一番強いのは目に見えている。それは詰まらん。
私の決定は覆らない。」
人差し指でデルコンダル王はアレンたちを見定めるように
動かした。そしてカインを指差して手を止めた。
「それで一番弱そうな私が戦って勝てれば
王様はご満足いただけるという訳ですね?」
デルコンダル王はニヤニヤと笑っている。
「それで月の紋章がいただけるのであれば、喜んで。」
カインもこくりと頷いて答えた。
アレンが、おい・・・と言う表情で、片手で顔を覆った。
デルコンダル王は満足げに笑うと
手をあげて闘技場の観客を鼓舞した。
「我が国民よ!待たせたな!次なる挑戦者は、ここの旅人だ!」
「おおおおーーー」
成り行きを見守っていた観客達もようやくの展開に
興奮気味に歓声をあげた。
「王様、しかしお聞かせください。
ここでは何をしているのですか?」
「月に一度の決闘の日だ。腕に自信のある人は国を問わず
勝者のみに与えられる褒美を目当てにやってくる。
お前たちのように国宝石に目をつける輩は初めてだがな。」
がははと豪放に笑う王。
全く知らなかったが、どうも月に一度の日にやってきたと言うのは、
幸運だったと思うことにしよう。
「あの魔物はこの国で手なづけているのですか?」
「そうだな。」
今度の質問への回答は言葉少なであった。
王は質問を打ち切るように言った。
「準備があるだろう。1時間後にやってくるがいい。」
そう言うと、3人に下がるように促した。
一旦先ほどの薄暗い廊下に下げられた3人。
カインは1時間後に魔物と戦わなければならない。
別に、カインがそれに対して慌ててる様子はいない。
案じげな表情をしているのは他の二人だ。
「カイン、大丈夫なの?」
「まぁ、何とかなると思うよ。」
マリアも心配そうだ。
カインとて今まで数々の魔物と戦ってきていて
本来なら並みの魔物に遅れを取るような実力ではないのだが
それでも不安は消えない。
今のカインの体調は普通ではない。
「お前、そもそも動けんのか。」
アレンの問いに両手をぐるぐると回してみせる。
「ほら。大丈夫でしょ。」
「・・・・・・。ちょっと来い。」
アレンはカインの手を引いて少しその場を離れた。
「アレン引っ張らないで。痛いよ。」
少し力を入れすぎたようで、アレンは手を離して
そして尋ねた。
「勝算は?」
「こう見えて、勝算のない戦いはしないんだよ。僕。
魔法を使うの禁止とは言われてないし、
回復呪文も使えるから、死にはしないでしょう。」
カインはそう答えた。焦っている様子は無い。
むしろ少し嬉しそうだ。
「なんか余裕だな。なんでそんな嬉しそうなんだ。」
「余裕は無いけど、これに勝てば紋章がもらえるんでしょう?
こんな単純明快な話は無いよ。頑張るからね。」
そう言ってカインはアレンに拳を差し出した。
確かに、今まで行方も分からなかった紋章を、
この条件をクリアすれば手に入るのだと思うと
目的に近づいた気がして嬉しい。
が、それは無事に勝てたらの話。
「じゃあ、魔法は良い。
剣はロトの剣を使えば良いけど、お前持てるのか?」
「・・・・・・うん。」
カインはさっとロトの剣を鞘から抜いた。
落とさず持てている・・・と言う感じだ。
アレンが自分の武器でそれを払うと、
カインの手から剣は弾き飛ばされた。
「ちょっと!何するのさ。」
「何するじゃねえよ。俺大して力入れてないぞ。
こんなんで剣落としてたら、あのモンスターと力勝負なんか
できないぞ。」
そう言われてカインは少し唇を噛んだ。
「別に、力勝負で勝とうなんて思ってないよ。」
アレンは呆れてため息を吐いた。
「お前って結構、あー言えばこう言うよな。
お前が何勝負で勝つつもりかしらねえけど、
俺が言いたいのは、力が落ちてるのは間違いないんだから、
ちゃんと対策しろって言ってんだよ。」
「対策って?」
カインは分からないと言う顔でアレンに問うた。
アレンは剣を拾ってやると、ぶんぶんと振りながら言った。
「うちの国にも握力が弱い奴がいてさ。
そう言う奴がやってたんだ。ちょっと面倒だけど・・。」
アレンは布切れを取り出した。
たまに汗などを拭いたりしている何の変哲もない布切れだ。
「手を出せ。右手がいい。」
「???」
言われるままに右の手のひらを差し出す。
「違う。反対。」
手のひらではなくて、手の甲らしい。
そこにアレンはこの布を巻きつけた。
カインにはその意味が分からない。
「何のおまじない?必勝のおまじない?」
「おまじないー??ちっげーよ!
めちゃくちゃ実用的なんだよ。」
そう言いながら、アレンは拾ったロトの剣を
カインのその右手に握らせた。
そして剣の柄ごとぐるっと巻いた。
「あ・・・。これって。」
「ほれ。落ちないだろう。
これだけのことで剣戟の力は増大するんだぜ。
どうだ?」
カインが何度か素振りした。
その感触に驚いたようだ。
「すごい!ホントだ!
アレン、さすが武器に関しては百戦錬磨だねー!!」
その様子にアレンも満足げだ。
「だろ。ローレシアでは実戦以外では卑怯だからって
普段はやらないんだけどな。いざって言うときの小技だよ。
しいて弱点と言えば、その手間だけど、今回の場合は敵が
出てくる時間も決まってる。
抜き身のまま行けば良いんじゃねえか?」
アレンはそうアドバイスした。
確かに普通の街を抜き身
- 鞘から剣を抜き放った状態 -
で
歩いてたら危険人物だが、今回は闘技場に出ればすぐ戦闘だ。
「そうしてみる。ありがとうー、アレン。」
カインはアレンに嬉しそうに礼を言った。
「礼なんていらねえよ。何でもいいから死ぬなよ。」
「うん。勝って紋章もらってくる。」
なんでこいつはこんなに自然体なんだろう。
この苦難を一人で乗り切るつもりだろうか。
「ちぇ〜・・俺、やる気満々だったのにさ。
あの王は絶対なんか仕掛けてくると思ったから、
腕鳴らしてたんだぜ。」
「はは・・。たまには僕にもやらせてよ。
アレンさっきも戦ってたじゃない。」
そう言って、カインはアレンと拳を合わせた。
そして2人は心配しているマリアの元へと戻った。
「何を話してたの?」
待たされたマリアはカインに尋ねた。
「うーんと、必勝のおまじない。」
「だーから、おまじないじゃねえっての。」
アレンがカインの頭をはたく。
何だか元気そうなので、マリアはひとまず安心した。
もう間もなく闘技場の扉が開く・・。
しかし、その戦いは予想もしなかった展開への幕開けであった。
- 続く-
2011/12/03
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