ベラヌール7

世界樹の葉によって、カインが一命を取り留めてから
一夜が明けた。

「カイン、起きてる?」

マリアはカインの部屋に朝食を持ってきた。

目を覚ました直後はぼんやりとして状況を把握してなかったようだが、
朝になると、自分の手で半身を起こせるようになっていた。

「起きてるよ。なんだか・・すごくいっぱい寝てた気分。」

「実際すごくいっぱい寝てたのよ、あなたは。」

「あはは。そうだねーって・・・笑い事じゃないね、ごめん。」

真剣な表情をしているマリアを見て、
カインはぺこりと頭を下げた。

「謝ることじゃないわ。無事で良かった。
 アレンもきっと喜ぶわ。」

「アレンは?」

そう言えばさっきから全然アレンの姿を見ない。

不審そうにしているカインに、
マリアは世界樹を持って帰ってくるまでの経緯を話した。
世界樹の葉を見つけたのはアレンだと言う事。
少しでも早く帰ってくるために自分だけキメラの翼を使った事。
アレンは今もミゲルと船でベラヌールに向かっていると言う事を。

「そ・・っか・・。大変だったんだね。そりゃそうだよね。
 本当ごめん。アレン一人で大丈夫かな。心配だな。」

「さっきからあなた謝ってばかりよ。
 私たち謝ってほしくて、こんなに急いだ訳じゃないし、
 アレンならきっと大丈夫よ。あのアレンだもの。」

マリアの強い言葉にカインも頷くしかなかった。

「そうだね。じゃあ、言う言葉は『ありがとう』だ。
 ありがとう、マリア。」

「どういたしまして。」

マリアもその様子に安堵して笑った。
が、カインの次の言葉に言葉を失った。

「アレンにも言わなきゃね。
 僕は二人に助けてもらったんだから、
 これからは、二人のためにこの命使わなきゃいけないなあ。」

「ど、どういう意味?」

相変わらず笑っているカインだが、
その言葉の真意が一瞬分からなかった。

マリアは問いにカインは、ん?と考えて答えた。

「早く強くなって、
 二人を助けられるくらいにならなきゃってことかな。」

「あ・・・ええ・・・。」

「そう言えばさ・・強くなるとかその前に、
 なんだかうっすらロトの剣が折れたような気がするんだけど、
 これって夢かな。」

カインは話題を変えた。

どうもアレンと争ってたあたりの記憶が曖昧になっているらしい。
どこまで覚えてるんだろうかと思いつつ、マリアは壁に立てかけられた
ロトの剣を指差した。

「それは、本当よ。アレンも置いていってるみたいで、
 そこにあるわ。」

カインはロトの剣を鞘から抜いてみた。
刀身が無くなってしまっている。
その有様に絶句して、残念そうに呟いた。

「これはーー・・・・・・使えないね・・・。
 うーん、勇者ロトにきっと怒られるね・・。どうしようか・・。」

「武器をまた探さないといけないわね。
 この街にも武器屋があったわ。見てこようかしら?」

武器屋も道具屋も確か宿の東にあった。
中々立派そうな店だったはず。
今まであんまりゆっくりお店などは見る時間が無かったが、
アレンが戻ってくるまで、少しくらい時間がありそうだ。

「あ、それなら僕も行く!」

マリアの提案にカインも右手を挙げて賛同した。
そしておもむろにベッドから降りようとした。

「・・っと・・。」

しかし足元がおぼつかず、
思わずふらついたところをマリアに支えられた。

「ちょっと!何してるの!?」

「あれー・・。体動くようになったのに、
 なんだかふらふらする・・。」

「当たり前でしょ!」

マリアはカインをもう一度座らせると
当初この部屋にやってきた目的を思い出した。

「あなた何日食べてないと思ってるのよ。
 呪いが解けたって、そんなすぐ体力は戻ってないでしょ。
 とりあえず、まずはこれを全部食べること!」

そう言ってカインの手に皿を手渡した。
考えてみればそれはそうだ。
この2日のみならず、しばらくずっとまともに食事をとっていない。
これでは力が出るわけも無い。

確かに本調子ではないのだが、
それでも今までとはやっぱり違うようだ。

手渡された食事がとても美味しそうに見えた。

そう思うとお腹がぐ〜っとなった。

カインはあわててお腹を押さえて、
恥ずかしそうに笑った。

「そりゃそうだね。その通りだよ。
 ご飯、すっごく美味しそう!いただきまーす!!」



********


結局カインはその日一日は体力の回復に努め、
マリアも甲斐甲斐しくその手助けをした。

食事が取れるようになると
回復は早かった。

翌日にはゆっくりと歩けるようになったので、
カインは街を散歩したいと言い出した。

「まだ、早くない?休めるだけ休んでたら良いのに。
 一人で出歩いて、また変な魔物でも出てきたら大変だわ。」

マリアとしてはアレンが帰ってくるまで
そんなに焦らずともゆっくり休めばいいと思っていた。
武器だってアレンが帰ってきてから見に行ってもいいのだ。
ここまで自分たちは駆け足で来ていたので、
しばらく一休みしても良いと思っていた。

だが、カインはちょっと違うようだった。
マリアに手を差し伸べながら行った。

「ん〜〜、そしたら一人で心配だったら、マリア一緒に行こうよ。」

「ええ?」

どうにも止まらない様子のカインに連れられて、
結局マリアも一緒に街へと出た。

「どうしたの?そんなに焦らなくても良いじゃない。」

そう言われるとおかしそうに首を横に振った。

「焦る?そう言う訳じゃないんだよ。ただ・・・。」

「ただ?」

カインは空を見上げた。

「なんかさ僕、変な夢にまで見てたんだよ?
 こうやって自由に街を、世界を歩けるの・・。
 もう二度と出来ないと思った。」

そういうと、もう一度マリアの手を取った。

「マリアと一緒にこうやって街を歩けるなんて、
 夢みたいなんだよ。
 本当に嬉しいんだ。」

ああ・・・

マリアは、カインがこれまでずっと苦しんできたこと、
そして重みと覚悟を、その言葉から悟った。
今の表情はとても晴れやかだ。

見ていてマリアも嬉しくなる。

「ほんとに、ありがとうマリア。ああ、なんか僕しつこいね。
 アレンにも早く会いたいなあ。」

感謝の言葉を呟きながら、二人はベラヌールの街を歩いた。

確かに、こうやって歩いてみると
今までは気づかなかったことに沢山気づく。

道が狭くて迷路のようだと思った街並みは
湖に囲まれいて水の都という呼び名に相応しい美しさだ。
晴天の今日のような日は、
太陽の光が水面に反射してきらきらしている。

カインはまだそんなに早くは歩けないので、
ゆっくりと街並みの美しさを楽しみながら二人は歩いた。

街中走り回っていたときは広い街だと感じていたが、
それでも、風景を見ながら歩いているとあっという間に
街の果てまで歩きついた。

「武器屋ってこのお店の中?
 道具屋さんもここだっけ??」

「そうね。」

二人はベラヌールの武器屋道具屋へと立ち入った。

「いらっしゃい。」

入ってみると中は今まで見たことも無いような
広々とした店舗であった。

「ひろーい。預かり所?あ、ふくびきも出来るんだねー。
 へ〜〜。」

複数の店舗が集まった施設のようだ。
中には沢山客も来ていて、賑わっている。

「面白いお店だなあ。」

カインは興味深そうに各店舗を覗いていった。
道具屋ではキメラの翼を一つ補充しておいた。

そして問題の武器屋であるが、
覗いてみたが、見覚えのある武器ばかりで、
しかもカインが新しく装備できる武器はなかった。

「大かなづち・・・アレンが持ってるわね、これ。」

「それは重くて装備できそうに無いなあ。
 装備できそうなのは、魔導師の杖くらい?」

「それなら、まだあるわよ。」

マリアがいかづちの杖を使うようになってから
魔導師の杖は使わず眠っている状態だ。

「じゃあ、それで良いか。」

「良いかって、やっぱり剣とかのが良いんじゃない?」

そうは言ってもこの街では武器はそのくらいしかなかった。

「他の街でも探してみようか。」

「防具を買うにも・・・お金が足りないわね。」

力の盾という防具が装備できそうだったが、
少し高価すぎて買えなかった。

「お金集め、もうちょっと頑張らないと駄目かもね。」

結局武器屋では何も買うことなく、店を出た。

「そろそろ宿に戻りましょうよ。
 アレンが着くころだと思うの。」

「そっか。アレンが迷っちゃうね。」

久々の外出に少しばかり疲れも感じたので、宿に戻った。

しかし、アレンはその日も、
そしてそのまた次の日も戻ってくることは無かった。



*******


行きが早すぎただけで、普通はもう1日くらいかかるのかもしれない。

最初は、そう思ったマリアであったが、
さすがに心配になってきた。

「アレン・・・どうしたんだろう・・・。」

カインも窓の向こうの港をずっと見つめている。
帰ってきたらすぐに見つけられるようにだ。

だが、結局この日もアレンも船も帰っては来なかった。

「アレン様心配ですね、アレン様に限って万一と言う事は
 無いと思いますが・・。」

カインの病中に世話になった兵隊長も
いまだアレンが戻らないことに心を砕いていた。

「そうね・・・・。」

マリアもまさかこんな事態になるとは思わず
時間が経つにつれて不安は隠せなくなってきた。

カインはそんな様子を見て、立ち上がった。

「ちょっと出てくるね。すぐに戻るから。」

「え?どこに行くの?」

「大丈夫だよ、マリアは港を見ていて。」

そう言うとカインは軽装で街へと出て行った。

何をする気かと分からなかったが、
しばらくするとカインはちゃんと帰ってきた。
手には、大きな荷物を持って。

「ただいまー。」

「カイン、どこに行ってたの?」

カインはマリアに自分の持ってきた荷物を見せた。
中には沢山の食材が入っていた。

「うん、旅の食材買ってきた。
 マリア、今すぐアレンを探しに行こうよ。」

「え?」

「僕の体調もゆっくり休んだおかげで
 もうほとんど元通りだよ。」

カインは軽く手をぎゅっと握って見せた。

「兵隊長さん、あなたにも本当にお世話になりました。」

そう言ってカインは深々と兵隊長に頭を下げた。
思えば出会いからかっこ悪いところも見せたし、
とんでもないほど心配もかけたし、
マリアたちが船旅の間もずっと面倒を見てくれていた。

急に旅立つというので驚いたが、
あの絶望の中、カインが元気になったのは本当に僥倖であった。

「いいえ、お元気になられて良かったです。
 アレン様をよろしくお願いします。」

「うん。いつかお礼、させて下さいね。
 サマルトリアにも遊びに来てください。
 心より歓迎します。アレンの話ももっと聞かせてください。」

「喜んで。」

兵隊長は会釈して応えた。

「さぁ、マリア。宿代も払ってきたんだ。
 一緒に行こう。」

カインはマリアに手を伸ばした。

「え、え??もしかしてルーラで行く・・とか?」

「うん。それが手っ取り早いと思うんだ。
 船にいるなら、船に飛べると思うし。」

「・・・・・・・・。大丈夫なの?」

「え?何が?」

きょとんとしたカインにマリアは呆れたように言った。

「いきなりそんな魔法とか使って大丈夫なの?
 それにルーラで行くって結構リスクが高いと思うんだけど。」

「うん、大丈夫だよ。」

マリアの問いに少し考えたカインだったが、はっきりと答えた。
そしてさらに付け足した。

「アレンが困ってるかもしれない。
 そうだとしたら、僕は・・絶対助けに行きたい。」

アレンは自分を助けてくれた恩人の一人だ。
何に代えても助けなきゃいけないと思っていた。

それは勿論、マリアも同意する。
自分たちは3人で一つだ。
仲間が困っているならば、いつだって助けに行かないといけない。

そう思い、差し出されたままのカインの手を取った。

「そうね・・・じゃあ、カイン。
 行きましょう。」

少しばかり浮かれた気分だったのが、
真面目なカインの表情を見て引き締まる思いだった。



「じゃあ、行くよ・・・・ルーーーラ!!」

その叫びと共に二人は一瞬で見えなくなってしまった。
兵隊長は彼ら3人の無事の生還を祈らずにはいられなかった。




一瞬の後、
カインとマリアが辿り着いた先は
船上でもなければ、野外でもなく、
見慣れない薄暗く湿気た空間であった。






- 続く-

2012/05/13

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     お疲れ様でした。
     ベラヌール編これにて完結です。
     ちょっとしたサマムンデートも書けたので、満足ですw
     次は・・・・アレンとも再会です〜
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