「だーーー!!」
アレンの雄たけびが響き渡る。
空飛ぶ魔物パピルスに船上から襲い掛かった音だ。
「ぷはぁっ」
無事に魔物を真っ二つにすると
アレンは海から顔を出した。
そして、慣れた様子で船へと泳いで戻ってくる。
これで何度目だろうか。
アレンが勢い余って海に飛び込んで敵を倒すと言うのは・・。
「ちょっとアレン。いちいち飛び込まないでよ。」
マリアがタオルを差し出しつつ、
これも何度目かの忠告をする。
「だって、俺の今の武器ドラゴンキラーだぞ。
敵を倒すには接近戦が早いんだよ。」
「だからっていちいち海に飛び込んで行ってたら
効率が悪いじゃない。」
「じゃあ、どうしろってんだよ。」
「海の魔物は私が魔法で倒すわよ。」
「お前がそんな戦いしてたら、魔法力すぐ無くなるだろうが!」
アレンとマリアがカインを残して船旅に出て2日が過ぎようとしていた。
その間、容赦なく海の魔物は船に襲い掛かってきた。
戦い慣れたはずの二人だったが、
その戦略には二人の間に行き違いが生じていた。
アレンは、言われるまでもなく自分が非効率な戦いをしているのを感じていた。
カインがいるときは、そうそう海に飛び込むような事態にはなっていなかった。
それでも最前列にアレンはいたため、それが普通の事だと思っていた。
だが今後ろにマリアしかいないと思うと、
マリアに魔物と肉弾戦をさせるわけにも行かず、
自然距離を空けさせるためにも、
いつもより前方で戦う羽目になる。
しかも自分の持ってる武器が超接近戦向けの武器だ。
魔物と接近しないと戦えないときた。
「カインがいないっていうのは、こう言う事なんだな・・。」
すぐ後ろにフォローしてくれるカインがいるため、
自分は自由な戦いを出来ていたのだ。
アレンはため息をついて、
がしがしと濡れた体を拭いていた。
そんなアレンをよそにマリアが声をあげた。
「あ、アレン!危ない!次の魔物よ!!」
アレンが顔をあげると、
そこには白くて長い何かが見えた。
「な・・・っ!?」
何事か分からないままアレンは甲板に叩きつけられた。
「ぐはっ。」
背中に激痛を覚えつつ見上げるとそこには
見覚えのある巨大な魔物がいた。
「いってえなあ・・。」
ドラゴンキラーを手に装備しなおすと
アレンはゆっくり立ち上がった。
「お前、大王イカって言ったか?
こんなときにやってくるとは良い度胸だな。」
いつかも苦戦を強いられらた海の難敵だ。
だが自分もあの時から比べるとレベルアップしている。
まずは小手調べとばかりに、自分を吹き飛ばした触手を
斬り捨てた。
すると大王イカは痛みに暴れ始めた。
「わっ!」
滅多やたらに攻撃してくる触手から逃げようと
アレンは素早く飛び回った。
「マリア!下がってろ!あぶねえぞ!」
自分のようには動き回れないマリアに忠告することも忘れない。
ここまで来ても、まだアレンは一人で戦おうとしている。
このままだと海中の大王イカ本体に向かって
海へと飛び込んでいくのは時間の問題だろう。
マリアは逃げようとは思わなかった。
マリアも少し苛立っていたのかもしれない。
いかづちの杖を天高く掲げた。
「アレン!あなたこそ下がっていなさい!」
「!?」
今にも飛び出そうとしていたアレンは、あわてて足を止めた。
「イオナズン!!!」
「!!おま・・・!!」
マリアの魔法は文字通り周辺に大爆発を起こした。
大王イカにも勿論炸裂したが、
海中まで大爆発は及び、大きく船が揺れた。
「うわわ!!なんだ、何事だ!!?」
船室からあわててミゲルが飛び出してきた。
甲板は水浸しになり、大王イカの触手が何本か転がっている有様だった。
「こりゃ・・・・ひでえな・・・・。」
だが、以前苦戦した敵を一気に撃退する姿に
二人の気迫を感じずにはいられなかった。
「急にやるなよ!あぶねえな。
船が損傷したらどうするんだ。」
「そんな馬鹿なことしないわよ!
あなたこそ馬鹿の一つ覚えみたいに、あんな化け物相手に
飛び込まないでよ!」
「誰が馬鹿だ。悪かったな馬鹿の一つ覚えで!
どーせ、俺はこれしか脳がねえよ!」
二人の激しい言い争いに、
ミゲルが割って入った。
「まぁまぁ、お二人さん。
そうは言ってもここまでいつもと比べてすげえ早く来れてるぜ。」
すると今度は矛先がミゲルに向いた。
「どこが早いんだ。もう2日も経ってるんだぞ!」
「遅いくらいよ!?」
「はは、そう言うところはお二人息が合うんだな。」
ミゲルはそんな二人に苦笑した。
だがどう海図を読むと往復で6日はかかるだろうと推測していた。
いくら焦ったところで、船が飛ぶわけでもないし
船は風任せ、仕方が無いのだ。
「6日ってそんな・・・一週間もかかるか?」
「往復だとそれくらいだな〜」
「とにかく、ちょっとでも早くだ!」
「分かってるさ。」
「分かってるなら、こんなところに出てきてないで
舵でも取ってろよ!本当に最短のルートで行ってるのか!?」
アレンのそんな言葉にミゲルもさすがにカチンと来た。
だが、彼らの気持ちは分からないでもない。
「分かったよ。魔物の方は二人に任せたからな。」
「ああ。分かってるよ。」
二人がベラヌールの街から船へと戻ってきたとき、
その必死な形相にミゲルは驚かされた。
いつも彼らは3人一緒にいるはずだったのに、そこにカインはいなかった。
何事かと詳しく話を聞く前に、とにかく船を出してくれと言われた。
大至急で世界樹の葉のある小島へ行ってくれと言うのだ。
正直何事かと思ったが、
話を聞けば、それさえあればカインを助けられると言う。
ここしばらくの3人の気持ちを考えれば、
自分とて最短ですぐに船を小島へと向かわせたい。
もちろん出来るならばすぐにだ。
そうは言っても、船を走らせれば
天候の乱れもあるし、魔物だって出る。
あまり順調な船旅だとはいえなかった。
「こんなんで大丈夫だろうか・・・。」
若干不安が残るものの、
とにかく自分の使命は最短で船を走らせることだった。
ミゲルがいなくなった甲板で
大王イカの死骸を片付けながらアレンは再度タオルで体を拭いていた。
「ちょっとアレン、それもうびしょ濡れじゃない。
ほら、新しいの。」
マリアがどこからか新しいタオルを差し出してくれた。
確かにさっき水浸しになったおかげで、タオルはびしょ濡れ。
体を拭いてるんだが、濡らしてるんだか分からない有様だ。
「あ、ああ。ありがとう。」
どうやら、大王イカが周辺の魔物を引き連れていたらしく、
海は魔物も出ず、穏やかになっていた。
「アレン、貸してそれ。
片付けてくるから。」
マリアは濡れたままで放置されてる上着を手に取っていた。
使い終わったタオルを渡すと、少し冷静さを取り戻したアレンが
マリアに謝った。
「悪かったな。さっきから怒鳴ってばっかで。
なんだか落ち着かなくて。」
「え?私もごめんなさい。
急にイオナズンなんてしてびっくりさせてしまったわね。」
「いや、しびれくらげが相手ならともかく、
あんなでっかい奴が相手だったら、あれが効果的だよ。」
「そうね・・・。でもあんな戦いは何度も出来ないわ。
あなたの言うとおり、魔法力が持たないもの。」
お互い、落ち着いてみれば相手の言う事を受け止められた。
「俺だって何度も何度も海に落ちるのは嫌だからな。
あーあ、カインがいてくれればなあ。」
この船旅の間、
その名前を口には出していなかった。
「私も、なんだか・・・落ち着かないわ。
本当変な感じ。」
二人とも改めて実感していた。
気が付くと日も暮れてきていた。
もう2日目も終わろうとしている。
無事に世界樹の葉が見つけられるんだろうか、
そしてカインを助けるのに間に合うのであろうか・・。
徐々に暗闇に包まれつつある空を見上げながら
ぼんやりと座っていると、
ミゲルが船室から飛んできた。
「おーい!兄ちゃん姉ちゃん!」
「どうしたんだ?なんか異常か!?」
ミゲルの気色ばむ様子に思わず近くの武器を手近に寄せた。
「着いたんだ、例の小島に。」
「本当か!?」
思わず船から身を乗り出して、
目を凝らした。
はっきりとは分からないが、
確かに空高く聳え立つ何かが見える。
「よく見えないけど、あれか?」
「出来るだけ船を飛ばしたんだけど、
すっかり夜になっちまったな。
探索は明日の方が良いだろう。」
「1日早く着いたじゃないか!さすがだよ、ミゲル!」
アレンはミゲルの肩をぽんっと叩いた。
その嬉しそうな顔が印象的だった。
「暗くっても行くよな?マリア!!」
「ええ、問題ないわ。行きましょう!」
二人とも下船するという意見で一致した。
「なら、止めませんや。
お気をつけて。」
「ああ!」
アレンとマリアは船から降りて小島へと降り立った。
カインが言ってたとおり、一本の木がそびえ立っているだけで、
他には何も目立ったものは無い小さな島だった。
目標の木はすぐ見つかったが、
しかしこんな暗くて一枚の葉っぱを探せるだろうか?
「は〜、高い木だなあ。
葉っぱなんて見えるか?」
はるか上を見上げて
「アレン、ちょっと待って。」
マリアは杖を手にすると魔法力を篭め始めた。
杖の先がぱあっと光った。
「お、明るくなった。」
「あんまり使われて無い魔法だけどね。
レミーラって言う昔の魔法よ。
攻撃力はなくって、ほんのり明るくなるだけだけど。」
申し訳なさそうに言うマリアだったが
暗闇には与えられた光は、砂漠で水を見つけたかのようだった。
「ああ、十分だ!」
アレンは世界樹の太い幹に手をかけた。
上まで登って行くつもりだった。
「だ、大丈夫かしら。」
「大丈夫さ。どっかの誰かが『木登りならアレンでしょ』とか
言ってたしな。」
はは、とアレンは笑った。
思えば、それもこの時のためだったんじゃないかと思う。
腕捲りをしたアレンは、「じゃ、言って来る」と
身軽に木に登って行った。
天まで届くとはうまく言ったものだなあと思う。
登れど登れど目的の葉っぱなどちっとも見えない。
「一枚で・・良いんだろ?
一枚くらいどっかにあるだろ・・・。」
ぼやきつつも、少しずつ上を目指す。
ありがたい事に、いくら登ってもマリアの魔法の光は途切れない。
おかげで枝の先まで見通すことが出来て助かっている。
だが、肝心の葉が見つからない。
『枯れちゃってるんだ』
カインはそう言っていた。
だが絶対あるとアレンは確信的に信じていた。
どこまで登ってきただろうか。
それでも上を見たらまだまだ先が見えない。
どこまでも登ってやるさ、そう思ったアレンが
ふと下を見下ろした。
マリアがいかづちの杖に願いをこめるように
こちらを見つめている。
心配そうな顔をしている。
そりゃあそうだよな。
これが最後の希望と言えるんだもんな。
横を見ると、遥か彼方まで水平線が見える。
暗くてよくは見えないが、船ではミゲルが待っているだろう。
そしてここからは見えないが、
はるか遠くベラヌールの街ではカインが待っているはずだ。
弱い声で助けてくれと言っていたカイン。
結局自分は何もしてやれなかったが、
せめてこの世界樹の葉を見つけて
早く帰ってやらないとな・・と思った。
そうだ、早く帰るには、あれを使えば良い・・
アレンがぼんやりそんな考え事をしていると、
下からマリアの声が聞こえた。
「アレーン!!どうしたの!?
何があったの!?」
結構離れてるだろうに、鮮明に聞こえる。
かなり大きな声で叫んでいるのだろう。
じっと止まっているから、何事かと心配かけてしまったか。
「わりーー!!なんでもねーーー!」
さぁ、もう一度仕切りなおしで上に登って行こう、
アレンがそう思い視線を自分の手元に戻したとき・・・
「うわあっ!!!」
思わず、アレンはその場で叫んでしまった。
「アレン!?どうしたの!?」
下から見ているマリアには
アレンに何が起きているのかさっぱり分からない。
最初すごい勢いで登って行ったかと思ったら
じっと止まって、こっちを見たりあっちを見たり。
そして急に叫んだのだ。
魔物でも出たのかと心配するではないか。
「アレン!?」
心配は的中したのかもしれない。
手を滑らせたのか、魔物に襲われたのか、
なんとアレンがまっさかさまに落ちてきたのだ。
「えっ!!!うそ、アレン!!」
あんなに自信満々で登っていったのに
まさか木から落ちるなんて思っていなかった。
だが、どうやらアレンは木登りに失敗したわけではないらしい。
くるくるっと体を前転させると何度か
木の枝を掴んで勢いを殺して、そのままうまく着地した。
「ア・・レン・・・!?ちょっとびっくりするじゃない!
危ないわよ。大丈夫!?」
「へっへ!
一気に飛び降りた方が良いと思ってな。
ちみちみ降りてたら時間が勿体無い!」
顔を上げたアレンの表情は満面の笑みだった。
「み、見つかったの!?」
「おう!多分・・・これだろ!!!」
アレンの手のひらには、枯れた木々には似つかわしくない
妙に水々しい葉っぱが一枚あった。
「これが・・・世界樹の葉・・・!?」
「多分・・そうだろ?上ばっかり見て、
みつからねーって思ってたらさ、すぐ手元にあったんだ。」
「そう・・そうなんだ!アレン!ありがとう!!
見つけてくれて・・・!」
マリアは思わず礼を言った。
それを見てアレンはおかしそうに笑った。
「何言ってんだ。お前の光のおかげだよ。
ところでさ、お前に頼みがあるんだが。」
「頼み?何かしら?私にできることなら何でも。」
アレンはその場にしゃがみこんだ。
着地の際に足でも痛めただろうかと思った。
「あ、あったあった。
これ。渡すからさ。」
「何?」
マリアに手渡されたのはキメラの翼だった。
「先に帰っててくれ。
カインを助けてやってくれ。な。」
一瞬アレンが何を言ったのか分からなかった。
だって、ここまで一緒に来ていて、
どうして自分だけ先に帰ろうと思うだろうか。
「え・・え?何これ??」
「何ってキメラの翼だ。
カインの遺言を送り損ねた曰くつきのキメラの翼だな。
いやー。『ごめんね byカイン』って送らなくて良かったな〜。」
ケラケラとアレンが笑っている。
「な、何の話・・・?ってそうじゃなくて!
戻るんなら、一緒に戻れば良いじゃない!?」
そう言うと、一瞬アレンが真顔に戻った。
「分かるだろ?往復で6日って言ってたじゃないか。
1日早く着いたとは言え、普通に帰ってたらあと2日はかかる。
そんな時間は無駄だろ。」
「それは分かるけど・・、だからこれを使って一緒に帰れば良いじゃない!」
アレンは困ったように手を組んだ。
「船ごとは飛べないだろ。
ミゲルを置いてあの海を一人で戻らせるのは無茶だしなあ。」
「そう言うことなら・・・だったら私が残っても。」
「いや、それも何か不安だし。
お前も暴走する性質だからなあ。イオナズン連発して
船を壊したら大変だろ?」
そんな事を言ってアレンはまた笑った。
「アレンにそんな事言われるとは思わなかったわ。」
そう文句を言いつつもマリアは首を傾げた。
「ねえ、どうして笑ってるの?」
「え?だって世界樹の葉は見つかったんだから、
これでカインは助かるんだろ?」
そう言うアレンは本当に嬉しそうだった。
「お前に任せたから。」
アレンのその言葉にマリアは頷くしかなかった。
「分かったわ。必ず。
だから、アレンも無事に戻ってきてね。」
「ああ。」
意を決してキメラの翼は空に投げられた。
*****
気が付くと、マリアは見覚えのある宿の客室の
扉の前に立っていた。
「戻ってきたんだわ。」
マリアの呟きが静まり返っていた廊下に響いた。
既に時間は深夜になっていた。
ゆっくり扉を開けると、
深夜にも関わらず起きていたのか
警備に残ってくれていた元兵隊長が驚いてこちらを見た。
「マリア様!」
「ごめんなさい、夜遅くに。」
ゆっくりと部屋に入っていった。
カインは・・・・出て行ったときと同じように眠っていた。
「世界樹の葉が見つかったのですか!?」
「ええ・・。ここに。」
頷き答えつつもマリアの視線はカインの方を向いていた。
「ねえ、カインの様子はどうだった?
何事もなかった?」
「何事も・・・どころか、
一度も目を開けてもいらっしゃいません。」
「え?」
2日目の夜が更けようとしている。
その間一度も目を開けていないというのか。
体力を温存させるために眠るとは言っていたが
本当に大丈夫なのか?
マリアは世界樹の葉を煎じるとカインに声をかけた。
「カイン!カイン!
起きて。遅くなってごめんなさい。
世界樹の葉が手に入ったの、ねえカイン!」
いくら声をかけてもカインは微動だにしなかった。
少し嫌な汗が額を流れた。
声は届かないのか。まさか間に合わなかったのだろうか。
「カイン、起きてよ!」
カインの肩を揺さぶって起こそうとするマリアに兵隊長が声をかけた。
「マリア様、お待ちください。
私は覚醒の魔法が使えます。」
「覚醒の魔法?ザメハ・・ね?あなたが出来るの?」
「お任せください。」
ザメハも古い魔法である。
だが、試しに唱えた魔法も効果は無かった。
それが何を意味するのか、口にしたくもなかった。
目を覚ます力も残ってないと言う事だ。
「カイン聞いて。これを飲んだら元気になれるわ。
ねえ、一口で良いから飲んでみて!」
悲痛な思いでマリアは葉を煎じた緑の汁を
匙ですくって、カインの口元にあてがった。
しかし、無常にも汁は口元から零れ落ちるばかりであった。
「カイン様!もう・・」
背後から兵隊長が何かを言っているが、
マリアの耳には届かなかった。
マリアはカインの腕に触れた。
腕はあたたかい。
ほら、まだカインは生きている。
必ず助けるとアレンとも約束した。
何でもすると言った。
「心配いらないわ。必ず、助けるから。」
誰かに話しかけるようにそう言うと
顔にかかる邪魔な髪を後ろに掻きあげた。
そして再度匙で世界樹の葉の汁をすくうと
マリアは自分の口にそれを含んだ。
そして、次の瞬間、
深く眠ったままのカインの口に口移しで与えた。
「マリア様!?」
飲んでほしい。
一口で良いから、飲み込んでほしい。
マリアの願いが通じたのか、
ピクリとも動かなかったカインの喉が少し上下に動いた。
「カイン!!」
飲んでくれた。良かった。飲んでくれた。
あとは見守ることしか出来ない。
固唾を呑んで見守るマリアはどれくらいそうしていただろう。
恐らく飲み込んだ世界樹の葉の雫が体中に広まるには
少しの時間がかかったのだろう。
だが、それが恐ろしく長い、果てしない時間に感じられた。
「どうか・・・どうか・・・・。」
マリアは触れていたカインの手を、祈りを込めてぎゅっと握り締めた。
すると動かなかったはずの手がゆるく握り返してきたのを感じた。
はっとマリアは顔を上げた。
ゆっくりと、少しずつ、だけど確実にカインの重く閉ざされていた
瞳が開かれていった。
「カイ・・ン・・?」
その瞳は最初とろんとしていて何も映していないようだった。
「カイン?分かる・・・?私よ・・マリアよ。」
その声を聞いてカインはようやく目だけを動かして
マリアの姿を捕らえる事ができたようだった。
「・・・リ・・ア・・・だ・・」
カインは掠れた声でそれだけ言うと笑って見せた。
「ああ・・・・。カイン・・良かった・・良・・かった・・・。」
なんだかほんの数日しか経ってないのに
カインの笑顔を見るのも、声を聞くのもとても久しぶりな気がした。
心から安堵したマリアの瞳からは大粒の涙がこぼれていた。
- 続く-
2012/05/03
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