ベラヌール3

アレンたちはベラヌールの街にやってきていた。
ベラヌールは噂に違わぬ湖に囲まれた美しい街であった。

だが、今アレンたちには、
そんな美しい情景を楽しむ時間も余裕もなかった。

慌しく時間だけが過ぎていく。

既に教会での解呪も試みていた。
医者にも見せた。

だが、結局匙を投げられた。

「くそっ!」

アレンは足元の石を乱暴に蹴った。

「アレン、ちょっと止めなさいよ・・・・。」

マリアも焦る気持ちが隠せなかった。

「二人とも、落ち着いてよ。
 ねえ、綺麗な噴水だよ。ちょっと休憩しようよ。」

カインはそんな二人を落ち着けるように声をかけた。
確かに綺麗な噴水だ。
ここは、ちょっとした公園のようだ。
腰を掛けるところ椅子もある。

歩き通しだったアレンたちは、
一旦足を止めることにした。

「は〜〜・・・。」

沈黙した空気が重い。

のんきなように見せているが、
カインの体は限界に来ている。
今もアレンにもたれ掛かるように座っている。

ここで解呪が成功しないのであれば
もう手はないかもしれないのだ。

それが何を意味するのか・・・
誰も口には出さないが、
そういう思いが心の奥で燻っていた。

沈黙の中、カインが口を開いた。

「そう言えばアレン、お腹空かないの?」

朝に軽く食べてから何も食べずに歩き回って
もう夕方である。

「そんなの・・・忘れてたよ。」

「はは、アレンらしくない。珍しいね〜。」

カインが笑うものの、
アレンが何ともいえない顔でカインを睨んだ。

「お前・・・あのなぁ・・。」

笑ってる場合じゃないだろ、と言いたいのだが、
だからと言って深刻な顔もしてほしくない。
じゃあ、どうしてくれと言うんだろう。

何だかもうよく分からない。

「アレン、どうしたの?」

「・・んでもねえ・・。」

カインの問いかけに、アレンはぷいっと横を向いてしまった。

「カイン、ちょっと・・・良いかしら?」

「何?」

今度はマリアがカインに話しかけてきた。
マリアの表情は真剣で、どこか視線は別のところに向いている。

「ここの街はとても綺麗で素敵な街並みだけど、
 確かデルコンダル王は言ってたわね・・・。
 魔界に一番近い街だって。」

「街なら、大体歩き通したけど、
 俺は、さっぱり意味分からないな。
 魔物でもいるのかと思ったけど、いねーし。」

「アレンに聞いてなくて、カインに聞いてるのよ。」

むー、と不満げな顔をしたアレンであったが、
そう言うのは魔力のあるカインの方が
何か分かるところがあるのだろう。

「そう・・・だね・・・。
 よく分からないけど、
 あながち間違ってない・・かもしれないね。」

「どういう事だよ!?」

「カインも感じた?
 街の中に異常は無いわ。そう、中には。
 それなのに、ほんの一部分だけ、気になる部分があった。」

「?」

アレンは良く分からないと思いつつ、
この二人の仲間の言う事は全て信じていた。

「あっち・・・の方・・・・のことかな?」

カインは緩慢な動きで一方を指さした。
それは先ほどまで自分たちが滞在していた教会などがある北の方角だ。

「何かあるのか?そこに。」

アレンはごくりとマリアに尋ねた。
必要があれば、トンボ帰りでも何でもするつもりだ。
だが、マリアは唐突にこの会話を止めた。

「・・・・・・・いえ・・・。
 とりあえず、私たち宿へ向かわない?」

「あん?」

「暗くなってきたし、寒いわ。
 お腹も空いてきたの。」

「なんて?おい、話途中だろ。」

マリアはふざけてるのかと思ったが、
急に荷物をまとめて立ち上がった。

「探索は明日にしましょう。」

そう言って、スカートの裾についた泥を払っていた。

カインはそんなマリアをじーっと見ながら、
アレンの腕を掴んだ。

「じゃあ、いこっか。僕も疲れたし。」

「え?ええ??あ、疲れた?
 じゃあ、休むか?って、そうなん?」

話が置いておきぼりになってる気がするが、
カインが疲れたというのなら休ませたほうが良いのは良いだろう。

「ほれ。じゃあ、行くぞ。」

アレンはカインに肩を貸して、
立ち上がった。

宿なら、街の入り口から教会に行くまでの途中で
見かけていた。

足をそちらへ向けたとき、
背後から、アレンに話しかける声がした。

「アレン様ではないですか?」





****


アレンは宿に着くと
カインを寝台に休ませた。

一日連れまわされて、本当に疲れていたのか
カインはすぐに寝入ってしまった。

アレンはそこまで見届けると、
ここまでつれてきた男の方に振り向いた。

「悪いな、こっちもちょっと訳ありでな。」

「いいえ、なんらご気遣いは無用です。
 ご立派になられましたな、王子は。」

改めて、男はアレンに向かって、
膝をついて敬礼の意を表した。

どうやら、元ローレシアの人らしい。
屈強な体格からして、兵士だろうか?

「アレン、この方は?」

マリアがこっそり尋ねた。

「ああ・・・元ローレシアの兵隊長・・・・。
 俺の剣の先生みたいな・・もんか?」

「まぁ、アレンの先生・・。」

マリアは驚いて男に会釈をした。

「いや、とんでもないです。
 アレン様の強さは幼き頃から群を抜いていました。
 私はそれを見守っていただけの事。」

「よく言うぜー。」

少し懐かしそうにアレンは笑った。

「それより、なんだ?俺を探していたのか?」

「ええ。アレン様が旅に出られたこと、
 風の噂で私の耳にも届いておりました。
 そしてお会いするなら、お伝えしたいことが・・。」

「なんだ?」

アレンとマリアは耳を澄ました。
今は少しの情報でも欲しいときだった。

「精霊ルビスのご加護に繋がる
 太陽に形どられた紋章と言うものが
 ほのおの祠にあると言うものです。」

アレンとマリアは顔を見合わせた。
紋章ならデルコンダルでも手に入れたばかりだ。
次の紋章の情報が入るのはありがたいことだった。

だが、今それが自分たちの求めているものだろうか?

ありがたいのはありがたいのだが・・・。

少し困惑した様子のアレンに、元兵隊長が尋ねた。

「アレン様、いかがなされましたか?」

「いや、いかがって言うか・・。」

話していいものか・・・少し悩んだが、
今は少しでも助けが欲しいと思い打ち明けた。

アレンは後ろで休んでいるカインを少し指差して
今の状況を説明した。

「な、なんと・・・今の話は本当ですか!
 サマルトリアのカイン様が、そんな恐ろしい呪いに!?
 教会には行かれたのですか!?」

兵隊長は思わぬ話に目を見開いて驚いていた。
やはりサマルトリアの王子が倒れたとなっては
大きな衝撃があるのだろう。
アレンはその重みを肌で感じた。

「行ったよ。立ち寄った街や国の教会にな。
 高位な神父にも見てもらったが、
 駄目だったんだ・・・。」

アレンは肩を落とした。

「何と言う悲劇・・・。
 サマルトリアには伝えているのですか?」

「いや・・・。そうだな、伝える手段は無くはないけど・・。」

アレンは以前カインに教えられた伝書鳩の通信方法を
思い出した。
いざと言うときは、連絡が取れるってことだ。

って、ちょっと待て。

いざって言うときってなんだ。縁起でもない!

アレンはぶんぶんと首を振った。

「ど、どうしましたか?」

「なんでもねー。
 それより、悲劇だなんて終わったことみたいに言うな!
 俺たち誰も諦めてないんだから。」

「し、失礼いたしました・・・!」

兵隊長は慌てて頭を下げた。
しかし、国で一匹狼だったあの王子に
大事な仲間が出来たことに少し驚き、嬉しく思った。

「私に出来ることがあれば、
 何なりとおっしゃって下さい。」

「え?ああ。助かるよ。」

アレンは申し出を受け入れた。

マリアは、アレンたちのそのやり取りを横目で
見つめていた。

素直に今人手が増えることは助かるだろう。

男の腕前はよく分からないが、
少なからずローレシアの兵隊長で、
アレンに剣を教えたと言う人材に出会えたのは
何かの縁だろうかと思った。

カインからは目を離せない状況だが、
この二人が付いていてくれるならば
大丈夫だろうと思った。

マリアは席を立った。

「マリアどうした?」

アレンが聞くと、
マリアは兵隊長の方を向いた。

「はじめまして。ムーンブルクのマリアです。」

「こ、これは!!ご挨拶が遅れて申し訳ありません!
 マリア姫様!」

どうやら兵隊長はアレンが誰と旅をしているのかと言う
情報は持ってなかったようだ。
ムーンブルクのマリアと言われて初めて姫だと気づいたようだ。

改めて最敬礼の意を表した。

「いいえ、私は今は姫でも何でもありませんわ。
 ただ、ムーンブルクのマリアである・・・それだけです。」

マリアは淡々とそう言った。

「顔を上げてください。
 私たちは今かつてない苦境に面しているところなのです。
 お力添えをいただけるのなら、これほど力強いことはありません。」

「お、恐れながら、私に出来ることなら命に代えましても。」

「ありがとう。」

その言葉にマリアも頷いて礼を述べた。
そしてアレンのほうを向いた。

「アレン、積もる話もあるでしょう。
 私は少しでも、街で聞き込みをしてくるわ。
 時間が勿体無いしね。」

「え?そうか・・?分かった。
 早めに戻れよ。」

「ええ。」

それだけ話すとマリアは一人宿を出た。

兵隊長は改めて言葉にならない思いを感じていた。

アレンはロトの血を引く王子として
昔からローレシアでも他の子供とは別格の強さだった。

だが、魔法を使えないことから
裏では大人たちの黒い噂が小さなアレンを
傷つけたことも少なくない。
ロトの血など引いていないのではないか、
広い子ではないか?とも言われたこともある。

そんな小さかったあの王子が
兄弟国を襲った悲劇から立ち上がり、
世界を救うために旅に出たとは聞いていた。

さらに、共にロトの血族である
サマルトリアの王子とムーンブルクの姫とが
あのアレンに力を貸して、ここまで来たと言う事。

紛れも無く、並みの事ではない。

アレンがロトの血を引く勇者であったことの証明であろう。

しかし、今彼らは苦難のときを迎えていた。

兵隊長がぐっと拳を握ったとき、
アレンの腹がぐーっと鳴った。

「あ、悪いな。
 いい加減、俺腹減ったなー。」

アレンのそんな様子に少し緊張がほぐれた。

「お待ちください。すぐにご用意致しますので。」

兵隊長は小さかったアレンの面影を見た気がして
目を細めてそう言った。



***


一方マリアはベラヌールの街を北の方角へと向かっていた。

先ほど3人で来ていた教会に戻ってきていた。

そして、教会の扉を見上げた。

「・・・やはり、ここね。」

先ほどカインと話した「気になる点」。
自分だけだとしたら勘違いだと見逃すくらいの小さい地点。
だけど、カインもしっかりその気配を感じ取っていたので
マリアは確信することが出来た。

この街は本当に魔界に通じている。

この教会の奥の一点から、
禍々しい空気が漏れ出ているのだ。

マリアはごくりと息を呑んで、
教会に忍び込んだ。

中には、先ほど解呪を依頼した神父がいた。
こっそり行こうとしたが、見つかってしまった。

「おや、これは先ほどのお嬢さん。
 どうしましたか?」

「先ほどはお世話になりました。」

形ばかりにマリアは会釈をする。

「お仲間の具合はいかがですか?」

「変わりないですわ。」

「それは結構。」

「結構・・ですって?あなた方は呪いを解くのが
 仕事ではなくて?それが出来なくて、
 そんな事を仰るのはおかしいのでは?」

マリアの言葉が知らず棘のあるものになる。

「これは異な事を。
 申しにくいことですが、あのお仲間には
 解呪など出来ませんよ。」

「なんですって!?」

「お仲間には死相が出ております。」

「!?」

「不吉な話・・・。」

神父は口に手をあてて、くすりと笑いながら言った。
マリアはその瞬間カッとなり、我を忘れていた。

マリアの体の回りをかまいたちのような風が覆い、
その風が神父をも覆っていった。

神父はその衝撃に、尻餅をついた。

「な・・何を!」

その様子に、我に返ったマリアは
無意識の魔法が人間を傷つけてしまったことに気づいた。

「あ・・・。」

慌てて、ベホイミで傷を癒したが、
神父はどこかへ立ち去ってしまった。

あんな神父がどこへ行こうとも
どうでも良かったが、
自分の自制のたがが外れたことが
マリアはショックだった。

しっかりしなきゃ・・。

顔を何度か叩くと、
禍々しい空気が漏れ出ている一点を目指して、
マリアはさらに奥へと進んでいった。

そこは行く手を遮るバリア床が敷き詰められていた。

「・・・これ、いかにもこの奥に怪しいものがあるって
 感じね・・。」

恐る恐る足を踏み出してみた。
足を床につけた直後、脳天まで突き抜けるような
激しい衝撃が襲ってきた。

「−−−っ!!」

だが、進めない訳ではない。
マリアは回復魔法を唱えつつ、一歩ずつ足を進めた。

カインがいれば、トラマナを使ってくれるだろう。
何のダメージも無く進めることだろう・・・。

きっと自分のこのスマートではないやり方に呆れるだろう。

思えば自分の魔法は大味の魔法ばかりなのだ。
それと比べて、カインの魔法は繊細なのだ。

カインはいつも自分の事をすごいと、天才だとも言うが、
そうではないのだ。

魔法の質が違う。
マリアがいくら練習しても、憧れたって、
カインのような魔法は使えない・・・・。

そんな事を思いつつ、
ふと、なんでこんなにカインの事ばっかり
考えているのだろうかと思った。

さっきも神父が不吉な言葉を吐いたせいで
頭に血が上ってしまった。

カインを心配するあまり、
少し気持ちが高ぶっているんだろうか・・と思った。

気が付くと、バリア床も終わりが見えてきた。
その先には旅の扉があった。

この先は・・・・何があるのだろうか・・・。

何度か回復魔法を唱えて魔法力は消費したが
まだ十分戦える程度にはある。

ここまで来たのだ。


マリアはさらに先へと一歩足を進めた。






****



「・・マ・・・リア・・?」

カインはふと目を開けた。
横を見るとアレンと先ほどであった男とが
親しげに歓談をしている。

「アレン・・・。マリアは?」

カインの声掛けにアレンはこっちを見た。

「あ、目が覚めたか。
 マリアは街に聞き込みに行くって。
 そろそろ戻ってくると思うけど。遅いなあ。」

「え・・・。マリア一人で行っちゃったの?
 アレン・・、アレン、マリアを探してきてよ!」

「ちょっと待てよ。
 どうしたんだ?」

カインの慌てた様子に、アレンは驚いていた。

「マリア一人で行ったんだとしたら、危ないよ!
 言ってたじゃないか。ここは魔界に近い街だって!」

「どういうことだよ。」

「カイン様、落ち着いてください。
 そんな噂が立ったこともありますが、まやかしですよ。
 私は何年も住んでいますが、そのようなことはない
 安全な街です。」

助け舟を出すように兵隊長も口を挟んできた。

「嘘でも・・本当でも、何でも良いよ・・。
 アレンが行かないんだったら、僕が探してくるっ・・」

カインは手をついて、寝台から降りようとしたが、
支える足に思うように力が入れられず
がくっと崩れ落ちた。

「おい、馬鹿!行ける訳無いだろ!」

アレンがあわててそれを支えた。
カインは驚くほど蒼白な顔をしていた。

「い・・・かなきゃ・・・。いかなきゃ・・・。」

虚ろな視線でそう呟いたが、
アレンにもたれ掛かったまま、ふっと気を失った。

「カイン!?」

マリアの事は確かに気になる。
一人にしたくないのは山々なんだが、
カインだって一人に出来ないのだ。
大体カインを見張っておくって言うのは
マリアとの約束だった。

「大丈夫だよ、マリアは絶対帰ってくるって。」

目をつぶったままのカインを安心させるように
アレンはそう言った。

そしたとりあえず、もう一度寝かせようとアレンが
カインを抱き上げようとしたときだった。

カインの手がぴくっと動いた。

「?」

アレンは最初気のせいかと思った。
確かめようとしたとき、今度はカインの腕がバッと
大きく動いた。

「!?」

思わず仰け反ったアレンであったが、
支えを失ったカインはバランスを崩すかと思ったが、
驚くことに、ゆっくりと立ち上がった。

「え・・・?カイン・・・?」

何かの間違いかと思ったが、
間違いなくカインは立ち上がって、そして歩き出していた。

「カイン様、ご無理はなさらず、どうかお休みください。」

兵隊長が手を指し伸ばそうとすると、
カインはその手首を取って、何と体格の良いその体を投げたのだ。

「ぐはっ!」

「カイン!?何してる・・!?」

いや、カインじゃない。カインの訳が無い。
全くアレンの言葉に反応を示さない。

カインは自制を失っている。
そして、自分の思いとは異なる攻撃性を示している。

これは船上でマリアと話していた仮定と合致する。

アレンは息を呑んだ。

「これがそれって訳か?マリア・・・。」

カインは慣れた手つきで
立てかけられていたロトの剣を手にした。

そして倒れたままの兵隊長に向けて、
振りかぶった剣を下ろそうとした。

しかし、それを横からアレンは阻止した。

アレンは手を伸ばすと、
ロトの剣を持つ、カインの手首を捻りあげた。

「くっ・・・。」

カインの口から苦痛の声が漏れる。
アレンは握る手に一気に力を込めて言った。

「上等だぜっ・・・!
 このために俺は残ってたんだからな。」







- 続く-

2012/03/18

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     話大分進んだかな・・・。
     ようやく本題に来ました。どことなく原作と似つつ、大分非なる世界です。

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