デルコンダルを出航した一行は
王の助言に従い、ベラヌールへの海路を進んでいた。
既にデルコンダルを経ってから幾日も経過していた。
海の旅は緩やかに続いていた。
「精が出るわね、アレン。」
甲板で鍛錬を行っているアレンに
マリアが声をかけた。
「おーー。マリア。
じっとしててもしょうがないからなあ。」
「それって・・。」
「ああ、ドラゴンキラーだ。
まだ使い慣れてないんでな。」
アレンが身に付けているのは、
デルコンダルで入手したドラゴンキラーだ。
色々使ってみて、感触を確かめてるらしい。
「良い武器を頂いたわね。」
「ああ・・って、最初はひどかったけどな!」
当初法外な額を吹っかけられたアレンであったが、
結局、紆余曲折を経て、
カインが払ったらしいお金も返してもらったのであった。
「良いじゃない。ありがたい話よ。
行く先々で良くしてもらって。」
「まぁな〜。金もあんまり無いし。正直助かるよな。」
そうぼやいたアレンのお腹がぐ〜っとなった。
それを聞いたマリアがくすっと笑った。
「アレンの腹時計は正確ね。」
「うるせ。動いたら腹が減るのは当たり前だろ。
あー、でもカインはどうせ寝てるよなあ。」
あまり体調良くなさそうなカインに
じっとしてろと言ってのはアレンだ。
「良いわよ。たまには私が何か作るわよ。」
「お、マリアが?珍しいね。」
そう言いながら厨房の方へと二人が向かうと
そこからカインが出てきた。
「あ、二人とも。探しに行こうと思ってたんだ。」
カインはこちらの姿を認めると、にこっと笑った。
「探しに?どうかしたの?カイン。」
「そろそろお腹すくころだろうと思って、
魚焼いただけだけど、軽くご飯作ったんで食べない?」
そんな様子はいつも通りのカインだ。
そんなカインにアレンがデコピンした。
「痛い!それ、止めてって僕言ったよね。」
「俺はお前にじっとしてろって言ったよな!?」
言われて嫌そうにむっとカインが唇を尖らせた。
「なんで、じっとしてなきゃいけないんだよ。」
「カイン。アレンは心配してるだけよ。
ご飯作るくらいなら、私たちだって出来るわ。
交代にしましょうよ。無理をしないで休んでいて。」
マリアからもそう言われて、
カインは二人から目をそらして下を見た。
「・・・・君たちが、何もするなって言うなら何もしないけど。
僕は別に病人って訳じゃないよ?」
「カイン・・。」
「動かないままでいたら・・、
本当に動けなくなったらどうしようって思う。」
そう言いながら、カインは二人を素通りしてどこかへ行こうとした。
「どこ行くんだよ。」
「・・・ミゲルも探してくる・・・。
せっかく作ったんだから、嫌じゃなかったら食べててよ。
ね?」
再び寂しそうに笑うと、
それだけ言ってカインは甲板の方へと歩いていった。
時折壁に手をつきながら歩く様子はやっぱり調子が悪そうだ。
「んがーーー。もう!!」
アレンは髪の毛をぐしゃぐしゃに掻き毟った。
「アレン、放っておいて良いの?」
「とりあえず・・・、飯を食う!」
どかっと椅子に座って、アレンは用意されてた食事を
平らげ始めた。
「ねえ・・アレン。」
マリアもとりあえずその向かいに座って
アレンに倣って食べ始めた。
「あんだよ。」
がつがつとむしゃぶりつきながらアレンはこっちを見た。
「大変なことも多いけど、私3人で旅をするのが
とっても楽しいの。
だから、これから先も3人で進んで行きたい。」
「はぁ?あったりまえだろ。
何お前、ふざけてんの?」
アレンは若干いらいらしてるようだ。
どうすれば良いのか分からず、少し不安になっているんだろう。
マリアは至極落ち着いた声でいった。
「アレンもそう思ってるのなら、聞いてね。
これから何が起きてもあなたには
いつも通りでいてほしいから。」
「ん・・・・?」
マリアが何を言い出そうとするのかアレンは分からなかった。
「全部を思い出した訳じゃないの。
だから、間違ってるかもしれない。
でも、もし私の考えてることが正しかったら、
もしかしたら・・・。」
妙に前置きと仮定の多い話し方だ。
怪訝な顔をしてアレンが尋ねた。
「何の話をしてるんだよ。」
「ハーゴンの呪いの話よ。」
「・・・・・え・・・・?」
食べながら話半分に聞いていたアレンの動きが止まった。
「だってお前が受けた呪いって
犬にされる呪いだろ?」
「そこがね、大きな勘違いだったの。」
「は?・・・はぁーー!?それ、どういうことだよ。
勘違いったって俺は犬を見てるんだぞ。」
がたっと椅子からアレンが立ち上がった。
「ええ、そうね。それはそれで真実なんだけど。
犬になる呪いを受けたわけじゃないの。」
「・・・・・。」
「あなたたちがデルコンダルのお城で話してた
カインの夢の話を聞いてたら、私思い出したの。」
「ん?あれ?お前寝てなかったっけ?」
寝てるからカインがマリアをベッドに寝かせようと奮闘していたはず。
「ごめんね、途中から聞こえてたわ。」
申し訳なさそうに、マリアがそう言った。
いや、まぁ聞かれて困る話ではないが・・・。
それよりマリアが何を言おうとしてるのかが気になった。
「言ってみれば、犬になったのは
私がその後、自分に課した自分への呪のようなもの。
よく考えるとね、本当の悪夢はそっちじゃなくて・・・。」
「そっちじゃなくて?なんだよ?」
「アレン、覚えてるわよね?
私がムーンブルクの城で言ったこと。」
「え・・?え・・・あ。まあ、そりゃあ。」
ムーンブルク城でのマリアの叫び。
あれは悲痛なものであった。
マリアが、自らの魔法で父を殺してしまったと言う・・・悲劇。
あれが、もしも仕組まれた事だったとしたら・・・・?
「え・・・・・・・・。って、それって・・・。
ちょっと待てよ。つまり。」
まだ考えがまとまらないが、
アレンがデルコンダルで見た呪いの一端や
カインの夢の内容が一つなぎになりそうな気がした。
「でも、それってなんだか変じゃないか?
カインは動けなくなって行ってるんだぜ。」
「私の場合は思考の麻痺が瞬間的にあったけど、
もしかしたら・・これは仮定だけど、
カインの場合はそれが身体的に進んでるってことかも。」
「んーーー??ちょっと待てよ。
俺馬鹿だから、ちょっと冷静になれよ。
つまり・・・それって・・・・体の自由を奪って、そんで・・・・。」
核心に迫ろうとしたが、二人にはゆっくりと考察を深める時間は
与えられなかった。
甲板の方から激しい衝撃が聞こえてきたのだ。
「?なんだ、モンスターか?」
「だとしたら、戦ってるのはカイン?ミゲルもいるはずね。」
「ちっ。おい、話は後だ!!行くぞマリア。」
「ええ!」
アレンたちは話をやめて、
甲板へと向かうことにした。
向かった先にはやはり魔物がやってきていた。
空飛ぶモンスターのホークマンだ。
ミゲルが角材を振り回しながら敵を牽制していた。
「おおおーー!!兄ちゃん姉ちゃん!!待ってたぜ!
緑の兄ちゃん調子悪いみたいなんだ。」
見るとカインは鉄のやりに身体を預けるように
肩でぜいぜいと息をしていた。
「おう、大丈夫か。」
カインの肩に手を置いてアレンが話しかけた。
「選手交代だ。下がってろ、カイン。」
「ア、アレン・・・。」
カインの武器を持つ手も震えている。
戦える状態ではないと判断した。
「行くわよ。アレン。」
「おう。」
武器を装備した二人が敵に向かっていく。
カインはそれを見ながら一人取り残される感覚を覚えた。
置いていかれる。
また、置いていかれる。あの夢のように。
「・・・ちょっと待って、アレン・・マリア・・待って。
まだ戦えるから・・!」
カインはその手から武器の槍を手放した。
その音にマリアが気づいて振り返った。
「カイン!!やめて!」
カインは姿勢を正すと、両手を組んで魔法力をこめた。
そこに込めたのは生奪の魔法。
「ザラキ・・・!!」
ザラキの闇が魔物たちを包み込む。
アレンが今まさに斬りかかろうとしていた敵もがくりと息絶えた。
魔物たちが倒れていく。
ザラキが効いたようだ。
カインがその効果にほっと一息つこうとした次の一瞬、
その黒い闇が世界中を覆ったように見えた。
その闇はただ一律に、平等に世界中を包み込んでいく。
闇が止まらない。
真っ暗闇に包まれてゆく世界の中で、
カインは焦燥感と絶望感に打ちひしがれる。
闇はいずれ、二人を包み込むだろう。
「ち・・・ちが・・違う・・違う・・・!!」
止めようとしても、止められない。
そんな悪夢から逃れようとカインは目を覆って膝をついた。
だが、カインのそんな悪夢から
呼び覚まそうと言う声が聞こえてきた。
「カイン!しっかりして、何も起きてないわ!
大丈夫だから!!」
「マリア・・・?」
仲間の声に恐る恐る目を開けると、
その眼前には悪夢は広がっていなかった。
マリアの心配そうな瞳があり、
アレンはちらちらとこちらを見ながらも
残った魔物に向かっていっていた。
「・・・・・・・・・・。」
何と言えば良いのか分からない。
無事で良かった、といえば良いのか?
いや違う。
じゃあ、一体自分が見たものは何なのだ?
あれは嘘じゃない。
ずきんと頭痛がした。
カインはふいに体中の血の気が引いて、
胸の奥から胃液の逆流するような感覚を覚えた。
衝動的な胸苦しさと吐き気に、口を押さえた。
「・・・・・あ・・・っ・・・。ぐ・・・げほっ・・・・げほっ・・」
吐き気が止まらないようだった。
「うー・・・・。」
「カイン!?」
あわててマリアはカインの背中を擦った。
しばらくするとカインは少し落ち着いてきたようだ。
「マリア・・・・ごめん・・ごめん。」
「ううん。私は大丈夫よ。アレンも何ともない。
皆無事よ。落ち着いて。」
カインを落ち着かせるようにマリアはそう言った。
しばらくすると、魔物を倒したアレンが
どこからか水を持ってきてくれた。
「ほら。口の中気持ち悪いだろう。」
「アレ・・ン?」
アレンはカインにコップを渡すと
明るく話しかけた。
「あのさ、カイン。さっきのお前の作った飯旨かったよ。」
「・・・・?」
わざとアレンはそんな話をした。
「ミゲルは食ってないのか?」
「え?ああ。まだだ。」
「そっか。じゃあ食ってこいよ。さっき俺たち先に食ったんだ。」
ミゲルは急にそんな事を言われてもどうしたものかと戸惑った。
何だか普通の様子じゃないカインの様子を詳しく聞きたくもあったが、
どうもそう言う雰囲気でもない。
魔物も全滅したし、自分がここで呆然としていても
邪魔なだけだろうと思った。
そそくさとミゲルはアレンの言うとおり去ることにした。
「そしたら、戻りついでに、
悪いんだけどそこのカインも連れてってやってくれよ。」
「え?大丈夫・・だよ・・?」
「あ・・・そうかい?」
ミゲルもカインもえ?という顔でこっちを見た。
アレンはカインの方を向いた。
アレンが渡した水は最初に口をつけただけで、少しも減っていない。
「お前、それより吐き気はおさまったのか?」
「うん、大丈夫。アレン、マリアごめん。」
蒼い顔だがようやくカインが笑った。
カインが笑ったので、アレンも笑って明るく言った。
「じゃあ休めよ。俺たちも飯食ったし、
片づけくらいはしておくから!
あ、ミゲルが嫌なんだったら、
仕方ねえな、俺がまた背負っていってやろうか?」
アレンがいたずら小僧のように、にやっと笑った。
「え?いいよ、そんなの。一人で行くから。」
「兄ちゃん。戻りついでだ。一緒に行こうぜ。」
「・・・・・・はあ・・。」
まだ断ろうとするカインに無理やり立たせると、
特にミゲルに手を借りるでもなく、戻っていった。
それを見送りながらアレンはマリアに問い詰めた。
「よぉマリア。さっきの話が本当だとすると・・・・」
「え、ええ・・・。」
マリアの呪いに対する考えの確認だ。
その考え自体は、マリアは
今の戦闘を経て、さらに確信を帯びていた。
すなわちそれはカインの不安も
あながち間違ってはいないという事だった・・。
「ベラヌールってあとどれくらいで着く?」
「もう明日には着くはずよ。」
「そっか・・・。吉と出るか凶と出るか・・・。
とにかく早く着いてほしいな。」
こんな淀んだ空気を早く払ってしまいたい。
だが、マリアの言葉はアレンと少し違うものだった。
「そうね・・・。カインの体力も持たないわ。」
「ん?」
「カインどうやら全然食事を取ってないようよ。
さっきの嘔吐も胃液を吐いてるだけだったし。」
「え・・・だって、さっきの料理だって、
あとミゲルの分しかなかったぞ。
あいつ先に食ったんだと思ってたんだが・・。」
「食べてないようね。この分だと、しばらく・・・。」
「はー。マジかよ。」
それはそれで別の問題だ。
いつからどれくらい食べてないのだ?
最近ばらばらで食べることが多くて・・・
確かにカインが食べてるところを見ていない気がする。
「話は分かった。
お前の仮定が正しいかどうかは、わからねえ。
でも、俺はあいつから目を離さないようにする。
お前も何か気が付いたことがあったら教えてくれ。
呪いを解く方法については、俺さっぱりわかんねーし。」
アレンはマリアにそう言った。
「そうね。それからこの事カインには・・・。」
「言わねえ。お前も言わないようにしてくれ。」
「アレン・・・・?」
「白昼夢で見るだけで吐くくらいショックなんだろ?
大丈夫だ、あいつが何しようが俺が抑えるから。」
「アレン、でも危険かもしれないわよ。」
「問題ない。
俺の方があいつより強いから、だから俺が抑える。」
「・・・・・・・。」
アレンはそれ以上何も言わなかった。
ただ、自分に出来ることが出来たとちょっとだけ嬉しそうだった。
マリアもそれに従った。
もう、何かが起こる前に、呪いを解くしかなかった。
- 続く-
2012/02/19
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