・・ぱち・・・ぱちぱち・・・・・
マリアはほのかな暖かさを感じた。
目を開けてみると、やはりそこには火が灯されている。
それでも体も衣服も濡れていて、気温も低くて
どちらかというと寒い。
「っくしゅん。」
小さなくしゃみが聞こえて、
マリアは閉じていた目を開けた。
「あ・・・れ、ここはどこ?」
体を起こすと、そこはどこかの林の中であった。
確か自分たちは海で遭難したはず・・。
ここはどこだろうか?
「おはよ・・・。」
顔を上げると、そこには木にもたれかかるように
座っているカインがいた。
おはようと言うが、どう見ても夕方だった。
「良かった・・目が覚めて・・。
ごめんね。本当だったら、街で休んだほうが良いんだと
思うんだけど、こんなとこで・・・・・」
言いながらカインが謝る。
「あなたが助けてくれたんでしょう?ありがとう。」
マリアが元気そうにしている姿を見て、
少しカインは笑った。
「街がね・・結構近いんだ。」
カインがそう言って指差した先には街の灯かりが見えた。
反対側には塔が見える。
「ここ・・・ルプガナのあたり?」
「うん。無我夢中でルーラしたら、こんなとこに来た。
船に乗る前に来てたからだろうね。」
「そう・・・。」
深く意識しなければ、ルーラは以前立ち寄ったところへ
飛んでいくようだ。
「あの・・・ごめんね。」
カインがはぁ・・とため息をつきながら謝ってきた。
「何が?」
「本当なら、すぐトンボ帰りすればいい話なんだけど。
今ちょっとルーラ出来そうになくって・・。
そんで、ルプガナにも行かず・・・こんな場所で。」
「良いわよ、そんなの!」
「マリアが無事で良かったよ。」
そう言ってカインは、蒼白な顔でずるずると崩れ落ちてしまった。
「どうしたの!?」
マリアがあわてて駆け寄った。
カインに触れるとその手が驚くほど熱かった。
「ちょっと・・・疲れただけ。」
「本当?本当のことを言ってね。
私を助けて怪我でもしているんじゃない!?
お医者様が必要なら、私ルプガナまで
走ってくるから!」
そう言うとカインは少し目を丸くして笑った。
「いや、いいよ。いいよ。行かないで。
きっと例のやつだよ。頭が痛いんだ。
身体も重くって。でも休めば大丈夫なんだ。
いつもそうだから。」
カインのその言葉にマリアは息を呑んで頷いた。
「・・・・分かったわ。」
そう応えるとカインはすーっと寝入ってしまった。
分かったも何もこんな状態のカインを動かせないし、
放っても置けない。
マリアはいても立ってもいられなくなり駄目で元々で
回復魔法を試してみることにした。
「ベホマ!」
淡い赤い光がカインの身体を覆った。
顔や腕の傷は治っていくが、顔色は変わらなかった。
本当に呪いには魔法が効かないんだとマリアは唇を噛んだ。
足元で苦しげに眉を顰めて眠るカインを見守りながら、
なんて無茶なことをする仲間なんだろうと思った。
自分が今普通じゃないことは分かっているはずなのに
あんな荒れ狂う海に飛び込んだりして。
今もこんなすぐに寝入ったところを見ると、
本当に疲れて起きているのも辛い状態だったんだろう。
それなのに、自分が目を覚ますまで
火を灯して、起きていてくれたのだ。
「馬鹿・・よ・・。」
マリアは込み上げる思いから顔を両手で覆った。
そもそも海に落とされてしまった自分の落ち度から
こんなことになってしまったのだ。
マリアは魔法で小さな氷を作り出すと、
手持ちのスカーフでそれを包んで、
カインの額に優しくそれを乗せた。
少しでも苦痛が和らげば・・と思いつつ。
+++
目を覚ましたカインは手渡された物体を
不思議そうに眺めた。
「これ、どうしたの?」
目を擦りながら、見たことも無い物体を手にして
くるくる回しながら不思議そうにカインは呟いた。
大きさはカップ程度のものだが、元は竹のようだ。
中に水が入っている。
本来ならスープでも作ってあげたいところだが、
材料も無ければ鍋も無ければカップも何も無い。
そこでマリアが即席で近くにあった竹をバギで切り裂いたのだ。
そして氷の魔法で作った氷を溶かしてそこに入れた。
要は即席で作った飲み水だった。
「へ、変・・かしら。本当なら暖まるようにお粥とか
スープとか作るべきよね。
ただの水なんだけど・・。」
「これ、わざわざ作ってくれたの?」
「い、いくらなんでも手で水をすくって飲むなんて
飲みづらいかなあって思って・・・。」
「すごいねー!マリア、こんなの作ってくれたんだ!!」
作ったというほどのものではない。不恰好で何の工夫も無い。
「水美味しかった。ありがとう。」
それでもカインはすごく喜んでいて礼を言ってくれた。
「ごめんなさい、こんな事くらいしか出来なくて。
逆の立場だとしたら、あなたならもっと上手に作ってくれると思う。
私を背負って街まで連れてってくれるかもしれない。
でも私は何もできなくて。」
「なんで?僕のほうこそ、一緒に遭難したはずの君が
こんなに色々してくれてるのに・・動けなくなるなんて
なっさけない・・。」
乾いた声でカインは笑った。
「そんな事言わないでよ。何のために今私がいると思ってるの?」
「ああ、いや、違うんだ。そういうことを言いたいんじゃなくて、
あのね、えーっと、それでもね・・」
「?」
カインは何て話そうかと考えながら
ゆっくり座りなおして胡坐をかいた。
「本当はこんな調子で海に飛び込んだりしたら
やばいだろうなあって分かってたんだ。
ほら、やっぱりさ、本当に力が入らないんだ。」
笑いながらもカインは何を言うのだろうかと
心配で目を離せなかった。
「飛び込んだのは良いけど、何も出来ないかもって。」
「・・・・・・・。」
「無我夢中で・・どうにか海では助かったっぽいけど、
君は目を覚まさなかったし。
外はどんどん暗くなるし・・。」
「ごめんなさい。」
そんな状況の彼に心配をかけたことを謝罪したが
カインは首を横に大きく振った。
「あ、違う。そうじゃなくって。謝らないでよ。
結局もう駄目じゃないかなあって思ったけど・・・
さっき水をもらって実感したんだ。
僕ら、助かったんだ!って。」
「カイン。」
そうだ、もう危険は脱したんだ。
あの災難に自分たちは打ち勝ったんだ。
マリアがそう頷いたとき、
カインが顔をあげてふわりと笑ってみせた。
「マリア、君がいてくれて良かった。」
「・・・・・・・」
その笑顔があんまり切なくてマリアは見ていられなくなった。
そしてカインの手を取った。その手はほのかに暖かかった。
「そんなの、・・・そんなの、私の台詞よ!
私、今頃海の藻屑になってるか、運よく漂流しても
凍え死んでる頃よ!?
というか、私が遭難したせいで、こんな!」
「そんなの言いっこなし。
きっと落ちたのが僕だったとしても、
アレンとマリアは助けてくれると思う。」
そう言って、カインは笑った。
マリアはカインから目をそらした。
「・・そ、それよりあなたまだ熱があるんじゃない?」
「そう?」
カインは首を傾げると自分の頭を、
マリアの額に触れるか触れないかの距離まで身体を起こした。
「え、なになに!?おでこ近い・・わ・・よ・・・!??」
若干パニックになりながらマリアは後ろに一歩たじろいだ。
「あ?ごめん。あの・・・熱は、下がってると思うよ。
さっきの水もらってすっきりした感じ。」
カインはマリアの手を自分の額を当てた。
ああ、熱を計れという意味だ。
「ほら。」
「そ、そうね。ほんとう・・ね。良かったわ・・ええ。」
確かに熱は下がっているようだった。
どうも急接近にびっくりしてマリアはぎくしゃくしてしまった。
「それより、どう!?カイン動けそう?
ルプガナにでも移動する?アレンにも連絡を取らなくちゃ。
そうそうそれより食事にしましょうか?」
急に饒舌になってしまったマリア。
カインは両手をうーんと伸ばして、伸びをした。
「あー。うん。大丈夫そう。
お腹もすいてきたけど・・・アレンが心配してるよ、帰ろうっか。」
お尻をパンパンと叩いて、ゆっくりとカインは立ち上がった。
「ルーラ・・大丈夫そう?
ごめんなさい、私魔法しか取り得が無いのに、
こういう時に役に立たなくて。」
マリアは大きな魔法は得意なのに、
ルーラはどうしても苦手意識があった。
ルーラは巨大な魔法力を放出するというよりは、
目的に向かってその座標から1mmもずれないように意識する必要がある。
少しでもずれては意味を持たない。どこに行くかは分からなくなる。
そういう微妙な調整が難しい魔法だ。
マリアも使えなくは無いだろうが、狙った場所に行くことが難しい。
まして、行き先が船上とあっては、
失敗したらまた大海原のど真ん中に落ちてしまうだろう。
またこんな状態のカインに頼ることになってしまった。
「・・失敗したらごめんね。
じゃ、済まないよねー。」
カインはマリアの言葉を聞いてそう答えた。
『失敗したらごめん』とはカインがよく言う言葉だ。
だけど、別に失敗することなんてマリアは見たことが無い。
「体調的には・・うん、多分・・大丈夫だと思うよ。」
「良かった。カインのルーラなら絶対大丈夫よ。」
そう言われて少しカインは困った。
「別に・・自信なんていつも無いんだけど。」
「え?」
「皆がいるから、がんばろうって思うんだ。
いつもね。」
「・・・・・・・・。」
「あ、ごめん。不安なこと言って。
大丈夫だよきっと。うん。
今僕たちツイてるみたいだし。
だってさ、あんな嵐の海から生存したんだし!」
頷いて笑ってみせるカインを見て、マリアは思った。
ああ、この人はいつもこうやって自分を奮い立たせているんだ。
マリアはカインの手をぎゅっと握った。
「え・・?え???」
その強い力に今度はカインが驚いた。
「あなたも不安だったんでしょう。
だったら私も、一緒にやるわ。」
「一緒に?ルーラを??」
そんな話聞いたことも無い。
「下手くそだから、ルーラは出来ないかもしれないけど、
あなたを支えるくらいならできる。
魔法力だっていくらでもあげる。
だからきっと帰れるわ。」
マリアの力強い宣言にカインは嬉しそうに笑った。
「じゃあ・・・・、絶対大丈夫だ。」
マリアは力強く頷いた。
そしてカインは魔法の詠唱に入った。
「目をつぶって、船を思い浮かべて・・
えっと、アレンを思い浮かべて。」
「心配してそうな顔が見えるわ。」
「うん、一睡もしてなさそうなアレンが見える。」
二人の脳裏に同じイメージが浮かんだ。
きっと、今頃アレンたちは心配してることだろう。
でも、どこかきっと無事でいると信じているだろう。
そのイメージを固めてカインは唱えた。
さぁ、帰ろう。
「ルーラ!!」
- 終 -
2011/11/22
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