76−1.罠

「そこは、魔法が使えない砦なんです・・!!」


初っ端からアレンが怪訝な顔になっていた。

「魔法が使えない砦・・・?
 なんだよ、それ。」

長く旅を続けてきて、多くの洞窟やら塔やら
ダンジョンと言うダンジョンに挑戦してきたが、
魔法が使えないなんていうのは聞いたことが無い。

「詳しくは分かりません。
 以前この砦に入ったものが言っていたのです。
 魔法は使ってはならないと・・。」

アレンの前に座っている街の男はそう言った。
嘘を言っているような表情ではない。

僕達はこの街で何人かの住人が連れ去られたと言う
誘拐事件を追っていた。

いや、場所ははっきりしているから誘拐とは言わないだろうか。

とにかくある特殊な砦?に住人達が連れ去られたと言う。
場所が分かっているなら、すぐにでも救出に向かおうとして
言われた言葉が冒頭の言葉だ。

僕はマリアの顔をチラッと見た。
疑わしそうな顔をしている。
が、嘘だと言える材料もなく、押し黙っている。

「魔法無しか。まぁ、俺は全くといって問題ないがな。」

アレンはそう言ってる。
まぁ確かに彼は魔法なんて使えないんだから、そうかもしれないが。
だが、ダンジョンに入るにあたって魔法無しと言うのはきつい。

特にマリアは魔法無しでは戦う手段がほとんど無いと言える。

「・・・・・魔法が使えないと言うのは・・・
 マホトーンか何か砦にほどこされているのかしら・・?」

マリアがそう言った。
一定の範囲内に魔法の効果が施されると言うケースは
今までも経験している。そのマホトーンだとすると
魔法が使えないと言うのは、有り得ない話ではない。

「それは・・危険だね・・。」

魔法が使えないと言う事は、攻撃だけではなく、回復手段も
奪われるのだから。

「単純な話だぜ。魔法なしで行けば良い。」

アレンは明快で単純な答えを出した。
アレンらしい・・と言うか・・。

「アレン・・・そうは言うけどさ・・。」

反論しようとする僕を遮って言った。

「だから、マリアは行かない方が良い。
 カイン、二人で行こうぜ。」

「えっ。」

アレンは単純にそう言った。
マリアを置いていこうとするのは初めてだ。
だけど、その話が本当だとするならその方が良いかもしれない。
魔法が使わないのであれば危険なだけだ。

「え、じゃねえよ。マリアを連れて行っても危険なだけじゃないか。
 お前なら多少剣も使えるから、いないよりはマシだろ。」

「魔法は使わないって事だね。
 わ、分かったよ。アレンの足を引っ張らないように気をつけるよ。」

僕は少し緊張した面持ちで頷いた。
いつもはアレンとは魔法込みでの連携をしているから、
魔法無しだとどうなるか分からないが、
それでも見知らぬ戦士を誘っていくよりは
僕の方がマシと選んでもらえたのは、少し嬉しい。

「アレン、カイン、本当に大丈夫?
 気をつけて。」

「戻った後はマリアのベホマを頼んだぜ。」

「え、ええ・・・。
 ホイミの代わりに薬草を持って行ってね。」

マリアは力になれないのが残念そうだったが、
僕達を励ましてくれた。




****

「砦と言うよりは、ちょっとした要塞のようだね。
 小さい城というか・・・。」

説明を受けたとおり進むと、風が抜けて、
崖の下に小さな建物が見つかった。
その特徴から言っても、聞いていた砦に間違いないだろう。

「おい!俺より前に出るなよ。」

身を乗り出して、砦を覗いていると
アレンに釘を刺された。

「あっ・・うん。」

言われて思わず一歩身を引いた。

魔法を使えないんだとすれば、
いつもより慎重に進んだ方がいいだろうと思った。

緊張した面持ちで僕達はその砦に入った。

「・・・・・?」

魔法が使えない特殊な砦。
そう聞いていたから、身構えていたのだが

いたって普通な・・・

「カイン、モンスターいるぞ!!」

「わ!」

前言撤回だ。
モンスターがいるなら普通の砦ではない。
やはり洞窟などと同じダンジョンだ。

なら、村人達を捕らえたのもモンスターと言う事だ。
無差別に連れて行かれたわけではないらしいのだが・・

その理由は何なんだろう?

僕は剣を振るいながら考えをめぐらせた。

「カイン!集中しろよ!」

「え。うわっ!!」

アレンの一言に顔をあげると目の前にモンスターがいた。
本当に目と鼻の先といった距離だ。

思わず剣で敵の接近を防ごうとしたが、
突進してきているモンスターの勢いは消せずに
壁に叩きつけられた。

「くっ!」

一瞬、炎で牽制させようとして・・・止めた。

ここは魔法が使えないんだから。

だけど、そう考えてから、やはりその事が疑問に思われた。
魔法を抑えられているような感じはしないのだ。

「とりゃあ!!」

ごちゃごちゃと考えているうちにアレンが
モンスターを斬り捨てて助けてくれた。

「あ、ありがとう。」

礼を言ったのだが、アレンは憮然とした表情だ。

「お前な、もっと集中しろよ。」

どうやら怒っているらしい。
確かに僕は集中力が散漫になっていたようだった。

魔法を使った牽制も回復も出来ないのだ。

アレンと共に先に進んでいくと
先ほどのような状況が何度も発生した。

牽制ができないと、当然モンスターとの距離は詰まる。
単純に言うと、斬るか、斬られるかなのだ。

アレンは?と見るとそんな接近戦を物ともせずに
モンスターの攻撃をかいくぐって攻撃を加えている。

それはそうだ、アレンにとってはいつもの事なのだ。

僕は剣を持つ手に力をこめた。

アレンと同じようには出来ないが、
彼をサポートできるように動かなければ
僕を連れて行ってくれた意味が無い。
助けられてばかりでは、意味が無いのだ。

僕はいつもより一歩、いや三歩前に出て
直接モンスターに斬りかかった。

一撃で倒せないモンスターは
アレンが畳み掛けるように止めを刺してくれた。

「よし、調子出てきたな。」

「う・・うん。」

アレンはそう言ってくれたが、
しかし・・・これは疲れる。

いつもだって全力で戦っているが、
このモンスターとの距離では・・・いつもより・・
そう120%くらいの集中力じゃないと
逆にやられるのはこっちだ。

距離をおいた魔法との戦いとは違うんだなあと実感した。

肩で息をしながら、
僕はアレンについていくのがやっとだった。

それでもアレンについていけることが少し嬉しかった。

「また来た、魔物の群れ。」

何度目かのモンスターの襲撃があった。
相手は地獄のつかいだった。

ここは魔法が使えない。
いつの間にかすっかり、それが大前提のようになっていた。

だから、僕らは勘違いしていた。
相手も魔法を使わないと思ったのだ。

先ほどと同じように、
僕は一気にモンスターとの距離を詰めようとした。

すると地獄の使いの周りから
激しい風が巻き起きた。

「何だこれ?」

一瞬、自然の風かと思ってしまったのが間違いだった。
続いて見慣れた大きな炎が襲い掛かってきた。

それはベギラマの炎だった。

「わ・・・!!」

事ここにいたって、どこかでベギラマが来る訳がないと思っていた。
その一瞬の判断ミスであっという間に炎は避けられないところまで
迫ってきた。

だがその炎の熱さを感じることは無かった。

「バッカ!!!!」

アレンが僕に覆いかぶさってきたのだ。

「アレン!?」

「くっ!!」

アレンにとって、ベギラマ程度の魔法攻撃は
ちゃんと盾で防御すればさほどのダメージにはならないのだ。

だけど、今回は僕を庇うように背中でその炎を受けてしまった。

「アレン!アレン!!大丈夫!?」

「馬鹿野郎、お前・・あの・・その、あれだぞ・・・」

アレンは何をか僕に伝えようとして
頭の中を整理しているようだ。

「うん、分かった。」

「って、分かったのかよ。」

アレンが驚いた顔をしている。
僕は思わず笑った。

いや、言いたい事は分かったつもりだ。

僕らは何も、武器のみで戦うと言うゲームをしている訳じゃない。
相手もその条件な訳ではない。

アレンの火傷にいくつかの薬草を貼り付けた。

幾分回復したアレンは立ち上がってグルグルと肩とまわした。

「おい・・いけんのかよ?」

「アレンこそ。大丈夫なの?」

アレンは心配げにこっちを見てきた。
それはこっちの台詞だ。
まだアレンの背中は痛々しい。

「俺の心配するなんて3年くらい早い。」

「そっか。ちょっと早かったね。」

僕はもう一度笑った。
アレンはやっぱり頼りになる。

僕がアレンと同じよう戦える訳ではない。

一撃の攻撃力が違う。
僕は敵をかく乱して、アレンがとどめ。
魔法を使えようが使えまいが、僕らの戦い方はそれだ。

僕はアレンと離れて地獄の使いの反対に回って
剣をチラつかせた。

地獄の使いの注意がこっちに向く。
それで大成功だ。

アレンが背後から一撃の元に地獄の使いを斬り捨てた。

「よっしゃ!」

「やった!」

僕はアレンと手をあわせた。
この調子でいこうと思ったときだった。

絶命したはずの地獄の使いがゆらりと起き上がった。

「な、なんだ・・!?」

死を確信したはずのアレンはそのゾンビのような動きに驚いた。
見ると、今まで倒したはずのモンスターまで起き上がっていた。

「・・・・・?な、なに??どう言う事?」

モンスターが生き返る・・・。
信じがたいことだが、有り得ないことではない。
誰かが蘇生の魔法を使ったと言うことだ。

だけど、こんなに大量に?
そして魔法の使い手はどこにいるんだ?

そんな事をゆっくり考える時間は与えられなかった。

モンスターは一気に襲い掛かってきた。

「なんだよ、こいつら一回負けてるくせに!
 くっそ、上等だよ!!!」

アレンは強い。
力だけの話ではない、心もだ。
アレンは士気を落とすことなく、再度その戦いを受けてたった。

だけど、僕は考えてしまった。

僕が取るべき最善はなんだ?
さっき分かったはずだ。

これはゲームではない。

失敗すれば死ぬ。
そして・・・あのモンスターたちのように僕らは蘇生することはないだろう。

この砦に入ったときに感じた至って普通という感覚。

罠かもしれない。
けど、魔法が使えない訳ではないと感じた。

ならば、あえて、魔法を使う。

「アレン、一度伏せてっ!!!」

「なんだ?」

言われたとおりアレンはしゃがんでくれた。

よし、一気に行こう。

「ベギラマーー!!!」

僕は思いっきりベギラマを周辺一体に放った。
ベギラマはちゃんと、使えた。

「カイン!」

アレンも見てくれていた。

だけど・・・・・

ああ、やっぱり罠だ。
急に全身から血を抜き取られるような虚脱感が起きた。
だけど、きっと後はアレンがうまくやってくれる・・・。

そして僕は意識を手放した。


 


- 続く -

2012/08/27
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 2周年リクエスト小説です。
 「アレンとカインの絆が感じられる何か」「アレンカインマリアでピンチっぽい小説」です。
 さぁどうだろうか?

 続きますー。こっち
 次は一人称も変わりますよん。

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