「は〜。
こんなにのんびり出来るのは久しぶりだなあー。」
アレンは目の前に差し出された豪華な料理に上機嫌だった。
アレンだけでなく、ここにいる面々は皆久々の休息にくつろぎの表情を見せていた。
このほど、かつて温泉街として有名だったマイラに再び温泉が湧いたという事で、
アレンたちは招待されたのだった。そのニュース自体最近の出来事のはずだが、
思いのほか立派な宿が出来ており、アレンたちは貴重な休息の時を楽しんでいた。
「ええ、本当に嬉しいわね。
マイラにこんな素敵な温泉宿が出来ていたなんて。」
マリアはお風呂上りのつやつやの肌をなでながら、そう言った。
「きっと、これでアレフガルドも一層にぎわうだろうね。」
「それにしても、これおいしーー!」
カインの言葉が終わるか終わらないかのうちに、
マイは料理の味に思わず感嘆の声をあげた。
実は今回の旅行にはアレン、カイン、マリアだけではなく、
クレハやマイも帯同していた。
クレハはアレンに半ば強制的に連れられてきて、
マイは逆に半ば強制的に勝手に着いて来た。
本人曰く、兄ばっかりずるい!だそうで、
危険がある訳でもない旅なので、別に断る理由もなく
結局マイも一緒についてきたのだ。
遠慮がちだったクレハも3人だけではなく、
マイもいると言う事で、逆に気兼ねなく参加できたようだ。
そのため、今回は珍しい5人旅と言うことになった。
「さて、食べ終わったら、寝るとするか。
ところで部屋割りってどうなってるんだ?」
アレンは宿の見取り図を覗き込んだ。
「別に決まってないよ。
どうしよっか。」
もぐもぐと料理を食べながら、カインも図を覗き込んだ。
その横顔を見て、アレンがカインの手を引いた。
「じゃあ、俺カインと!」
「えぇ!?」
思わず声をあげたのが、今までずっと静かに沈黙して座していたクレハだ。
「ちょっとお待ち下さい、アレンさま!」
「何を待つって?」
「あの、えっと、・・・そうするとマリア様がきっとお寂しいですよ??」
「ああ、マリアとカインにした方がいいってか?」
クレハの言葉にアレンが少し考えるように腕を組んだ。
「えーーー、ちょっと待って下さい!
そしたら、お兄さまとお姉さまが一緒の部屋で、
そしてアレン様とクレハさんが一緒に部屋で、
私だけ1人部屋ですか!?
そんなのつまんないですーーー!ぶーー!」
クレハの提案に床をバンバン叩いて、唇を尖らせているのはマイだ。
せっかく大人数の旅行なのに、1人部屋は嫌らしい。
「男女に分かれたら良いじゃないですかー。
3人と2人で。うんうん二部屋で節約、経済的!」
この面子の旅で節約を心がける事はないと思われたが、
確かにそれが無難に思われた。
「男女って事は、・・・・私はじょ、女子の方でしょうか?」
「クレハさん、何ですか?その質問は・・・?
さっき一緒に女湯入ったじゃないですか。」
マイはクレハの言葉に、意図が分からず思わず怪訝な顔をした。
だがマリアはやや抵抗しているクレハの意図を理解して笑った。
クレハはあまり、アレンとカインを2人きりにしたくないのだろう。
まぁ、その気持ちはマリアも分かる。
で、それを阻止するために、久々に男装をしてでも!って気概なのだろうが、
まぁ、昔の旅のことを思えば、アレンとカインが同室なのはいつもの事だ。
旅の仲間としては、さほど騒ぐ事もない。
と言う余裕を、マリアは見せたかった。
「良いじゃない。クレハさん、今日は女同士、仲良くしましょう。
アレン変なことしちゃ駄目よ。」
と余裕の笑みを見せた。
「変なことって何だよ。」
とりあえず部屋割りも決まったところで、
アレンは日課の素振りでもしようと席を立った。
「なあカイン、俺に付き合えよ。剣の稽古。」
「うん、良いよ。」
面々の思惑も我知らず、カインはニコリと頷いた。
早速どこかに行こうとする2人に、
クレハは気が気でなかった。
確かに、正直剣の稽古と言われるとマリアも出る幕がない。
これも昔からの事だ。
だが、そんな2人の空気を、良い意味で読まずに
手をあげるものが1人いた。
「アレン様と剣の稽古!??
私も!私も!!一緒に行きたいーー!!」
マイは嬉しそうに2人の後をついていった。
「では!わ、私も!!ご一緒させてください!」
クレハはこの機会を逃さず、一緒に付いて行くことにした。
正直、マイが一緒ならついていきやすい。
そして、マリアもこのどさくさに紛れて付いていく事にした。
「なんだよ?全員でぞろぞろと。
そんなに剣の稽古皆したいのか?」
思わず笑ったアレンだったが、
無邪気に頷くマイと、やや必死の形相で頷くクレハは対照的だった。
「1人だけ残ってもつまらないものね。
アレンが変なことをしないか、見張る義務が私にはあるわ。」
剣の稽古に参加する気はないマリアはそんな風に言った。
「確かに〜。
アレンは油断したら宿ごとぶっ潰しそうだもんね!」
一番空気を読んでいないカインがそんな風に言って笑った。
***
「もーーー!アレン様ずるいーーーー!卑怯だあ〜!」
ぜいぜいと息を乱しながら、マイがまた唇を尖らせた。
「なんだよ?俺のどこが卑怯なんだよ。」
余裕の笑みのアレンは剣を肩に背負いながら、マイに尋ねた。
「だって、いっくら素早く丁寧に攻撃しても、
アレン様の一撃で全部ひっくり返されちゃうもん!
ずるすぎるーーー!」
カインは、マイのその言葉を聞いて
中々的を射ていると思った。
アレンはすばやさや防御力も優れているが、
それより何より攻撃力が群を抜いているという特徴がある。
実際魔物と戦っていた時も、どんな苦戦をしても、
最終的にアレンが手を出しさえ出来れば、
戦況を全部ひっくり返す事が出来る期待感があった。
つまり、味方の時はとても頼りになるが、
敵に回すと大変やっかいな存在なのだ。
「でも戦い方としては、それで間違っては無いと思うよ。」
「お兄さま?本当ですか?でも、それでアレン様に勝てるかなあ。」
「アレンを倒すんだったら、そりゃ一撃で倒すのがベストだけど
そんな攻撃出来ないし、だったら攻撃をかわして、
少しずつ体力を削っていくしかないと思う。
まぁ、アレンも止まってないから、それが一番難しいと思うけど。」
「ほらほら、無理じゃない。
アレンさまやばいです、強すぎです。」
カインのアドバイスを聞いてみても、結局勝てる気がしない。
「でも、何か俺を倒す方法があるんだったら、
あたってるかどうか、やってみれば良いじゃん。」
アレンはやや挑発めいた声色でそう言った。
マイはその言葉を聞いて、思わず兄の手を引いた。
「お兄さま!じゃあ一緒にやってみましょうよ!
前に、サマルトリアで戦ったみたいに!!
今日はお兄さま、サマルトリアチームだよ!
私達でアレン様をぶっつぶーす!」
「ちょっと・・・本気で!?」
カインはそう言われて、無理やり立ち上がらせられた。
マイは、タッグを組んででもアレンを倒したい気らしい。
「へー、面白いじゃん。
やってみるか?」
アレンもニヤニヤして乗り気のようだ。
だが、ここで待ったを掛けた人物がいた。
「お待ち下さい!
それだったら、是非私にカイン様と模擬試合をさせて下さい!」
「え・・・ええっ!?」
カインが驚いた顔をしたのも無理はない。
それはアレンの背後に控えていたクレハだった。
クレハはアレンに近しい存在であるだけに、
度胸もあるし、多少なら剣や魔法の心得もある。
が、実戦経験はこの5人の中で一番少ない。
「クレハ、お前がカインと戦うってのか?」
アレンも思わず驚いてクレハに問い重ねた。
思いもがけない言葉だったからだ。
「そんな大それた事は出来ませんが・・・・
でも、私にも意地がありますので、
カイン様を・・・倒して見せます!!」
「へ〜〜〜。」
大それた事は出来ないとか自分で言いつつ、
結構大それた挑発のような事を言っている。
そして、それを聞いても、別にアレンは止めもしない。
面白そうにしているだけだ。
「・・・・・えーっと・・・。」
戸惑っているのはカインのほうだ。
どうしよう?と言う風に後ろを振り返った。
「お兄さま、挑戦を受けて逃げるのは
男らしくない!男なら戦ってきなさい!」
マイからはそんな風に言われた。
マリアは、カインの戸惑いを理解してくれているようだが、
それでも稽古と言う名義なら断る理由もない。
「カイン、武器はどうするの?」
冷静に武器を確認した。
どうやら、逃げられないらしい。
それなら、武器は・・・・・。
「おお、珍しいな。鉄の槍かよ。」
カインが手にしたのは得意の隼の剣ではなくて、鉄の槍だった。
「じゃ、よろしくお願いします。」
カインがぺこりと頭をさげたので、クレハも慌てて頭を下げた。
「よろしくお願いします。
・・・・では!いきますよ!!」
と言って、まず最初に攻撃をしかけたのはクレハだ。
持ち慣れた聖なるナイフを短めに持って仕掛けてきた。
どうやら、力に劣るクレハが、悪漢と戦う時は
今のように思い切った先制によって相手をしとめるようだ。
だが、その奇襲をカインは槍で一つずつさばいていく。
動揺する事もなく、落ち着いた様子だ。
「なーなー、どっちが勝つと思う?」
アレンがこっそりと観戦しているマリアとマイに尋ねてきた。
マリアとマイは顔を見合わせて、しかし声を合わせて言った。
「カインでしょ。」
「お兄さまです。」
自信を持ってそう言う二人を見て、アレンは笑った。
「悪いけど、クレハさんが勝てる相手じゃないわよ。」
「うん、クレハさんは私も手あわせしたことがありますけど、
弱くはないけど、さすがに・・・無理がありますよ。
アレン様はクレハさんが勝てると思いますか?」
口々に言われて、アレンは少し頬をかきながら、
首を傾げた。
「いやー。さすがに思わないけど、あんな事を言ったって事は
本人としては勝算がなんかあるんだろ?
それが俺は楽しみだぜ。」
楽しみと言いつつ戦況を見守るアレンであった。
状況はやはりクレハには少し荷が重いのか、攻撃があたらない。
カインのすばやさはアレンより上回るくらいなので、
中々動きを捕まえられない。
「ごめんね、あんまり長引いて怪我でもさせたら
僕がアレンに殺されちゃうから、終わらせるね。」
カインはそう言うと、くるくると器用に槍を回して、
クレハの持つ聖なるナイフを弾き飛ばした。
「あっ・・・!」
そして槍を持ち替えて、短く持つと一気に勝負を決めに来た。
万事休すかと思いきや、
何故かクレハは一歩もひかずに叫んだ。
「ア、アレン様の、好きな食べ物は!?」
「・・・は・・・?」
予想外の言葉にカインの動きが一瞬止まった隙に、
クレハは手放した武器を拾い上げた。
そして続けざまに言い放った。
「暇な時にアレン様がすることは!?」
「え、何・・・?何て・・・?」
戸惑うカインを好機と見て、
クレハは攻撃を仕掛けてきた。
「わっ・・・!?」
その聖なるナイフの攻撃はカインの頬を掠めた。
「おおお〜!?やりやがった!
しかし、あいつさっきから何を言ってるんだ!?」
クレハを応援している様子のアレンも
何とも言えない微妙な顔をしている。
どうやらクレハはアレン問題の質問攻めと言う、
前代未聞の新しい攻撃をしてるらしい。
「クレハさん・・・・本気ね。」
マリアは思わず笑いそうになったが、
どうやら本人は真面目らしい。
どうやら、アレンに関する知識では負けないと言うアピールも
兼ねているのだろうか。
「ちょっとーー!お兄さま!
ぼけーっとしてないで!これは真剣勝負だよ!!」
いつの間にか、真剣勝負になったと言うマイの言葉が聞こえたのか
後退していたカインが踏みとどまった。
今度は槍を長く持って、少し考えながら、クレハの攻撃を受けた。
「えっと、えっと・・・アレンが暇な時にやるのは
素振りや稽古でしょ?
あ、でも、本人はでっかい魚を捕まえるのも得意で、釣りとかー・・・」
なにやら考えながら、カインは一応答えているらしい。
「くっ・・・さすが、カイン様・・・。
なら、これならどうですか!?」
クレハは苦し紛れにギラを唱えた。
そして、炎に紛れて、ナイフで追撃!
そう思ったのだが、何故だか目の前にいるはずのカインが
見当たらない。
炎のせいで一瞬視界が悪くなってしまったのは自分らしい。
「どこ・・・?
・・・きゃあ・・・!!」
振り返った瞬間、クレハは思いっきり尻餅をついてしまった。
カインが投げたのであろう槍が、クレハの身につけていたマントを貫き
地面に突き刺さっていた。
その衝撃で座り込んでしまったのだ。
「えーっと、それとアレンの大好物はお肉でしょう。
少し焦げてるくらいの奴。
あとは少し焦げてる焼きおにぎりも好きだった〜」
「・・・・っ・・!
私の・・・完敗です・・・。」
槍で身動きの取れないクレハは、負けを認め降参した。
結局いくら奇襲をかけても勝てなかった・・とクレハは肩を落とした。
「おい、カイン。
お前クレハに傷でもつけたらゆるさねえぞ。」
「わあ〜〜怖いよ、アレン!終わってから言わないでよ!
分かってるよ!!」
試合後のアレンの言葉に、カインはヒヤッとした。
元から傷を付けるつもりはなく、
だから非接近戦用に槍を選んだのだ。
だが、クレハはそれを聞いてなお落胆した。
どうやらよっぽど手は抜かれていたらしい。
これで勝負事は終わりかと思っていたら、
次はマイが食って掛かってきた。
「お兄さま、何か弱っちい!危なっかしい!
クレハさんなんかに掠られてるし!
今度は私と勝負よ!」
「え・・・、マイ・・・!?」
うんとも否とも答える暇もなく、
今度はマイが隼の剣を使って襲い掛かってきた。
「わっ・・と!」
その素早い2連撃を、カインはすれすれでかわした。
まだどうしたものかと遠慮気味のカインに、
マイは遠慮なく攻撃仕掛けた。
「あははっ。次は兄妹喧嘩かー!
よーし、やれやれ〜。」
アレンは楽しそうにその戦いを見て笑った。
と言うかずっとアレンは上機嫌に事の成り行きを見守っている。
どうやら、本当に楽しんでいるらしい。
「なー。今度はどっちが勝つと思う?」
そして、またマリアにそんな事を聞いてきた。
「あなたねえ・・・。」
マリアは思わずは〜っとため息をついた。
別にカインは戦いたいとも思っていないだろう。
それをやたらめったら奇襲まがいに戦いを挑まれるのは
多分カインの本意ではないだろうと思った。
「えーっとえーっと、私の好きな食べ物はなーんだ!?
私の好きな遊びはなーんだ!?」
「はぁ!?そんなの知らないよ!
もう!!」
さっきのクレハを真似て、質問攻めしてくるマイを
今度はカインも無視した。
どうやら質問攻めも隼の素早い攻撃も効果がないと悟ったマイは
一瞬攻撃に詰まった。
「・・・・・えー・・・っと・・・。」
武器での攻撃が効果薄なら、普通なら魔法なのだが、
この兄には、自分の得意の火炎魔法を唱えても多分効果はない。
それどころか跳ね返すくらいの事はされかねない。
どうしようかと攻撃の手が止まったのを見て、
カインは武器を持ってるマイの右手を押さえて、
そして足を払って、地面に倒された。
「わあっ!」
思い切りその場に倒れこむと、
マイは眼前に奪い取られた隼の剣を突きつけられた。
「終わりだよ。僕の勝ちだね!」
少しだけ嬉しそうに笑う兄に、
マイは悔しそうにき〜〜〜!と唇を噛んだ。
「あーもう!悔しい〜〜!
さっきのクレハさんの時は、隙が出来たのに、
なんで私のときは全然容赦ないの!?」
「あんなの、お前クレハさんの真似しただけじゃない。
魔法も一つも使ってこないし、
マイが抜けてるんじゃない?」
「だってだってーー!!」
唇を尖らせたマイだったが、とりあえず負けは負けだ。
だが、次はもっとすごい奇襲作戦を組もうと、心に誓ったのだった。
そして、今度こそ終わりだと、しゃがんだまま息を吐いたカインに、
自分こそ真打とばかりにアレンが一歩前に出てきた。
「ふふ、カイン2連勝だな。
よし、いよいよ次は俺とだな。待ち飽きたぜ!!」
「げええーー・・ちょっと、待ってよ。」
アレンはボキボキと拳を鳴らしている。
今か今かと自分の出番を待ちわびていたようだ。
だが、そのアレンの前に立ちはだかった人物がいた。
今まで見守るのみに徹していたマリアだ。
「マリア?
なんだよマリア、お前がやるってのか?」
「そうね、それも悪くないわね。
あなたね、そう簡単にカインと戦えると思われたら大間違いよ。」
「・・・・ほう?」
「カインと戦いたいなら、私を倒してからにしなさい!!」
マリアのそのあまりに気風の良い台詞に、思わず吹き出したのはカインだ。
「あの?マリア??マリアまで、どうしたの・・・?」
カインは思わずマリアの服の袖をひいて、
その真意を確認したくなった。
なんで皆こんなに熱くなってるのかと思ったのだ。
「カイン、あなた座っていなさい。
大丈夫よ、すぐ終わらせるから。」
「すぐって・・・でも!」
相手はあのアレンだ。
正直、いくらマリアでも無事ではすまない。
むしろアレンを本気にさせたら、大怪我する可能性だってある。
それを思うと、とてもマリアを戦う事なんてさせられない。
「マリア、やっぱり僕が!」
「良いから、私の力がそんなに信じられない?
大丈夫よ。」
ニコリと笑うマリアは余裕の表情だった。
だが、そのやり取りがアレンの気に触ったらしい。
「マリア、お前と戦うのは初めてだな。
面白い、やってみようぜ。」
「ええ。」
武器を構えて剣気を放ったアレンは凄みすらある。
正直面と向かって立つ事すら恐ろしいとカインでも思う。
だが、対峙しているマリアはいまだ笑みを浮かべている。
「なんかその笑みがむかつくな・・いくぜ、マリアーー!!」
アレンが武器を持ってマリアに襲い掛かった。
相手が女性だとか、仲間だとかそんな遠慮はアレンにはない。
正直カインは気が気でなかった。
だが、アレンの一撃はマリアの手前で大きく空を切った。
「え・・・!?」
誰もがその目を疑った。
どうやら、既にアレンはマリアの術中にハマっていたらしい。
何度剣を振るっても、面白いように剣が空を切る。
その間にマリアは魔法力を集中させている。
おそらくイオナズンで早々と勝負を決めるつもりだろう。
だが、何度か空振りを繰り返すうちにアレンも、そのからくりを理解した。
「マヌーサだな!」
アレンが切りつけているのはマリアの幻だ。
これはマヌーサの魔法。
そして、その破り方は・・・・。
「イオナズンなんてさせねえ!
先に、実体に触れちまえば良いんだ!」
剣ではなく、腕をぐいっと伸ばして、アレンはマリアの手を掴んだ。
「きゃあ!!」
「悪いな、マリア、あとでホイミしてもらえよーー!」
「マリア!!」
思わずカインが声をあげたほどの必殺の間合いでのアレンの一撃だったが、
しかしマリアに届く事はなかった。
「パルプンテ!」
マリアが一息に魔法を唱えると、
直後アレンは、何故かマリアの背後を見て、
あんぐりと口を開け、信じられないようなものを見たような顔をしている。
その表情には恐怖すら浮かんでいた。
「アレン、ごめんね。
ラリホー!」
アレンはそのラリホーが効いたようでガクッと倒れてしまった。
そして気持ち良さそうにいびきをかき始めた。
「わ、眠っちゃったの!?アレン様」
「うわあ〜〜!!
マリアが、アレンに勝った!!」
見守っていた面々が口々に驚きの声をあげた。
「ア、アレン様!!!?アレン様!
ご無事ですか!?」
あわててクレハがアレンに駆け寄った。
が、眠っているだけで、怪我などもしていなさそうだ。
それにしてもアレンが一撃も与えられずにマリアが勝ったのだ。
これは驚きの結果だった。
「マリア、すごいね!
びっくりした!!」
「ふふ、さっきアレンあくびしてたのよ。
もう夜だものね。眠気には逆らえないだろうって読んだけど、
あたったわ!」
マリアも少し興奮気味に自分の魔法に手ごたえを感じているようだ。
「それにパルプンテもうまく決まったし。」
「パ、パルプンテ!?イオナズンじゃなくて、パルプンテ?」
「ええ。そうよ。」
マリアは嬉しそうに頷いた。
だが、パルプンテは一撃必殺の魔法でもないし、
何が起こるか分からない魔法だ。
実戦で使うべきではないとカインは何度も言っている。
「ふふ、いいのよ。何が起きても。
さっきのクレハさんの質問攻めじゃないけど、
一瞬アレンの気さえ引ければ良かったの。
そしたら何だかうまく決まったわね。」
「なんか、アレンすごい形相だったけど、
何が起きたの?」
「さぁね。何かとんでもない恐ろしいものでも
呼び出しちゃったかしら。
でももう消えちゃったしね。」
ケロリと答えるマリアと
気持ち良さそうに眠るアレンを交互に見ながら、
カインはマリアに逆らうのは絶対止めようと思った。
「さぁ、そろそろ休みましょうよ。」
時刻は既に夜の刻限。
温泉宿の旅はそうして騒々しくも1日を終えたのであった。
- 終 -
2014/04/06
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